収益物件をすでに所有していたり、これから不動産投資を始めようとしたりしている方の中には、少子高齢化の影響を不安視されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。人口が減っていくわけですから、入居率は下がり空室率が上がります。
そのような時代の中で、不動産投資を失敗しないためにはどのような点に注意すれば良いのでしょうか。今回は区分マンション投資に絞り、不動産投資を始める前に知っておくべき10のことについて解説していきたいと思います。
目次
- 少子高齢化で想定できるリスクとは
- 空室リスクは軽減できる
- 立地を慎重に検討する
- 職住近接の施策で都心回帰現象がすすんでいる
- 広さのニーズは時代によって変わる
- 2022年問題で住宅の供給数が増加する
- 東京都の23区内に絞って検討する
- 出口戦略を早めにたてる
- 売却のタイミングは買主のことも考える
- 不動産会社と連携を取る
- まとめ
1.少子高齢化で想定できるリスクとは
少子高齢化が進行すると考えられるリスクはどのようなものでしょうか。人口が減っていくわけですから空室リスクもありますし、需要と供給のバランスから、不動産の資産価値が落ちる、というリスクもあります。まずは空室リスクから考えてみたいと思います。
以下のグラフを確認しましょう。このグラフは国土交通省が発表した「人口の将来推計」です。このグラフでは2000年から2065年までの人口の推移を予測しています。
*国土交通省が発表した「人口の将来推計」から引用
このグラフから日本の総人口は2010年あたりをピークに減少に転じ、2065年には8,800万人まで減少することが予測されています。次に不動産の供給数を見てみましょう。以下のグラフは国土交通省が発表している「分譲マンションストック戸数」です。
*国土交通省「分譲マンションストック戸数」から引用
単年度では供給数は以前より減っていますが、平成29年だけでも200万戸くらいは増加しているため、ストック数も合わせて増加しています。少子高齢化が進行している中で、このようにマンションのストック数が増えていけば、空室率が高くなるのは避けられないでしょう。では、自分が所有するマンションが空室にならないようにするには、どのようなことに注意して不動産投資を行えば良いのでしょうか。
2.空室リスクは軽減できる
空室リスクは人口が減少していなくても不動産投資をしていれば起こりうるリスクの一つです。たいていの場合、空室リスクはシミュレーションを作成する際に想定し、対策をします。
空室になってまずしわ寄せがくるのは、ローンの返済です。入居者がいる場合は、家賃収入からローンの返済をしますが、空室になって家賃収入が入らない場合は、ストックした資金から補填します。仮に資金内で補填できない場合は、毎月入ってくる給料から補填しなければいけません。区分マンション1室であれば、月々7万円~10万円程度の返済額になりますので、その額を給与収入や貯蓄から支払うことになります。
物件が大きかったり、複数の不動産を所有していたりすると、その分補填する金額が増えますので、一時的には補填できても長期間給料から補填するのは難しくなります。そのため、なるべく長期間空室にならないと思われる立地で物件を探したり、ニーズのある間取りや広さの物件を探したりすることが大切です。また、資金面でも、最初に返済金の数ヵ月分を準備したり、毎月のキャッシュフロー黒字(家賃収入からローン返済や管理費用などを差し引いたもの)を貯蓄しておくなどでリスクを軽減させることが可能です。
空室リスクは事前に資金を準備することで軽減することができます。しかし、先に触れたように少子高齢化が進行し、マンションのストック数が増えていく中では、物件選びの段階でも対策を練っておくべきでしょう。そのポイントを以下で詳しく見ていきたいと思います。
3.立地を慎重に検討する
空室率を極力抑えるために、まずは立地の良い場所を選ぶことが大切です。以下の表を確認しましょう。これは国立社会保障・人口問題研究所が発表した2015年から2045年の都道府県別人口予測から関東と東海、関西、九州から主要県のデータを抜粋したグラフです。
*国立社会保障・人口問題研究所作成「日本の地域別将来推計人口」から引用し作成
このグラフから分かることは関東、東海、関西、九州の主要県においては2015年から2045年にかけて緩やかに人口が減少していますが、東京都だけは2030年までは増え続けることがわかります。さらに、東京都の人口は2045年でも2015年より多いことがわかります。日本全体では人口は右肩下がりで減少していますが、東京では2019時点から数十年は人口が減少しないことになります。その点で、東京には他県と違った要素があるということが言えるでしょう。
4.職住近接の施策で都心回帰現象がすすんでいる
国土交通省が近年「職住近接」という施策を進めています。職場と住居を近接させる、ということですが、職場と自宅の距離が近くなるだけではありません。住居や会社の周りには緑の木々などを植えたり、スーパーや病院、金融機関を併設したりして、遠方まで移動しなくても生活するには事足りる環境を作ることが施策の中核になっています。そこに住むことで快適で豊かな生活ができる、という点で人が集まる要素がそろっています。以下を確認しましょう。以下は総務省が発表している都道府県別の転入超過数の調査結果です。
*総務省「住民基本台帳人口移動報告」から引用
先に人口数の増加予測のところで、東京だけが人口が減少しない統計資料を見ましたが、このように他の地域から転入していることが要因だということがわかります。職住近接の施策が都心回帰の現象につながっているということが予測できるのではないでしょうか。
5.広さのニーズは時代によって変わる
少子化に向けて区分マンションではどのようなタイプがメリットはあるのでしょうか。広さについては、ワンルームやファミリータイプまでいくつかタイプがあります。どのタイプが今後ニーズはあるのでしょうか。以下のグラフを見てみましょう。このグラフは東京都政策企画局が作成した東京都の年齢階級別人口の推移です。2020年から2060年までの年齢別の人口を予測しているものです。
*東京都政策企画局作成「東京都の年齢階級別人口の推移」より引用
このグラフでも、東京都の人口が減少傾向に転じるのは2030年を過ぎたあたりからだということがわかります。年齢の内訳をみると15歳から64歳の層は2035年までは増加しています。さらに65歳以上の人の人数は2060年まで増え続けています。世帯主の年代では東京都は2035年までは増加します。
最も増加している65歳以上の家庭の家族構成はどうなっているかを見てみましょう。以下は同じく東京都政策企画局が作成した65歳以上の単身者および夫婦2人暮らしの層の2015年と2060年の人口比較です。
*東京都政策企画局作成「東京都の年齢階級別人口の推移」より引用
このグラフから人口が増え続ける65歳以上の層では単独世帯と夫婦のみの世帯が著しく増えていることがわかります。このことから、少子高齢化社会に向けて不動産投資をするなら、単身者向けと二人暮らし用の不動産が狙い目だということがわかります。
6.2022年問題で住宅の供給数が増加する
2022年問題とは、今まで農地として使われていた土地が一斉に住宅地として使われるようになり、住宅の供給が加速し供給過多になるのではないかと懸念されている問題です。2022年は1974年に公布された生産緑地法が30年の期限を迎え解除される年です。
生産緑地法が解除されると、農地のままでは固定資産税額が一気に上がるということから、多くの地主が節税のために住宅を建てたり、土地自体を不動産会社に売却したりすることが住宅の供給過多につながると考えられるのです。
住宅の供給数がさらに増えると、不動産の価値が下がりますので、地主や所有者にとっては査定の際のマイナス材料になります。このような問題があることを知っておきましょう。
7.東京都の23区内に絞って検討する
東京都に人口が集中することから、都心部で不動産の購入を考えた方が良いということはわかりましたが、東京都のどこでもいいというわけではありません。更に掘り下げて見てみましょう。以下の表は東京都が発表している平成28年中の東京都内の区部、市部、郡部、島部の人口の増減を表したものです。
総数 | 114704 |
区部 | 97250 |
市部 | 18266 |
郡部 | △362 |
島部 | △450 |
*東京都統計局資料から引用
この調査から区部と市部は増加していますが、郡部と東部は減少していることがわかります。さらに23区に絞り込んで見てみましょう。以下が23区の増減数になります。
区総数 | 97250 |
千代田区 | 1212 |
中央区 | 6645 |
港区 | 5265 |
新宿区 | 4295 |
文京区 | 3657 |
台東区 | 2073 |
墨田区 | 3515 |
江東区 | 5010 |
品川区 | 4638 |
目黒区 | 2239 |
大田区 | 5238 |
世田谷区 | 9246 |
渋谷区 | 2380 |
中野区 | 3726 |
杉並区 | 5662 |
豊島区 | 3668 |
北区 | 3897 |
荒川区 | 1842 |
板橋区 | 6551 |
練馬区 | 4602 |
足立区 | 2658 |
葛飾区 | 4104 |
江戸川区 | 5127 |
*東京都統計局資料から引用
この調査結果から23区内であればどの区も転入者が転出者を上回ったことがわかります。この状態がずっと続くとは限りませんが、23区内の方が入居率は下がりにくいことが考えられます。
8.出口戦略を早めにたてる
東京都心で単身者向けか二人暮らし向けの収益不動産を選択することが、少子高齢化に向けての対策になることがわかりました。不動産投資では、ずっと持ち続けるのか、あるいはある程度所有したら売却するのかといった出口戦略をたてることが重要になります。
これまでの価格の動きを見ると、不動産の価格はおおよそ15年~20年前後のサイクルで上下している傾向があります。30年や35年のローンを組んだ場合は、一度か二度は、高値で売却できるチャンスが来るわけです。老後のインカムゲイン(=毎月の家賃収入)を狙って、ローン完済まで持ち続けるというのも一つの戦略ですが、キャピタルゲイン(売却益)+インカムゲイン(家賃収益)の総額が当初の投資額を大きく上回るのであれば、返済期間中の売却も出口戦略の一つとして念頭に置いておくと、より良いリスクヘッジとなるでしょう。
不動産投資が「投資」である以上は、株式投資などと同じく、「いつ売るか」「いくらで利益を確定するか」という見通しを持って始めることが大切です。
9.売却のタイミングは買主のことも考える
出口戦略を立てる際に、売却の方向で検討する場合は売却のタイミングに注意しましょう。自分にとって都合が良くても、次の買主がローンを組めないことがあるからです。当然のことですが、売却をする物件は中古不動産です。
中古不動産のローンの返済期間は物件の耐用年数から築年数を引いた年数しか組めません。スポット的に長期で組める金融機関もあったりしますが、期間限定のケースが多く、一般的には耐用年数から築年数を引いた期間で組むと理解しておいた方が良いでしょう。
鉄筋コンクリート造りの建物は耐用年数が47年ですので、もし売却の際に築35年だった場合は12年しか組めないことになります。
もし売却の際に1,400万円の査定価格だったとして、ローンを組むとどれくらいの支払額になるのか試算してみましょう。金利を1.75%で試算してみます。
物件価格 | 金利 | 返済期間 | 月々の支払額 |
---|---|---|---|
1,400万円 | 1.75% | 12年 | 10万7,858円 |
この場合、次の買主は毎月10万7,858円の支払いをすることになります。築35年のマンションでそれ以上の家賃収入があれば問題ありませんが、数万円しか家賃収入が入らない場合は赤字になります。
次の購入者がローンを組むことも想定して、売却のタイミングを考えるようにしましょう。
10.購入した不動産会社や管理会社と連携を取る
困った時に頼りになるのは何と言っても不動産会社です。購入の相談、入居者募集、管理、売却など親身になって相談に乗ってくれる不動産会社があれば、ちょっとした問題でも乗り越えられるでしょう。
特に社歴のある大手の不動産会社の中にはワンストップで相談に乗ってくれる会社もあります。良い関係を作っておいて、いざというときには重要な情報が素早く手元に入る、あるいはすぐに相談できる体制を準備しておくと良いでしょう。
まとめ
今回は、これから不動産投資を検討されている方に向けて、少子高齢化へと向かう流れの中で知っておきたい10のことについて解説しました。人口が減少している日本でも当分の間は減少しないエリアはありますので、そういった場所を選んだりニーズのある物件を選んだりすることで、リスクを軽減させることが可能です。
また、自分一人で考えるだけではなく、現場の情報や最新情報を持っている各分野の専門家にもアドバイスを仰ぎながら、十分にリスクヘッジ策や今後の見通しを固めた上で投資に臨むと良いでしょう。
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