福岡圏のロジスティクスマーケットでは、大型の開発計画が増えている。CBREグループの日本法人であるシービーアールイー株式会社(CBRE)が4月6日発表した特別レポート「拡大する福岡圏ロジスティクスマーケット」では、大型マルチテナント型物流施設(LMT)のストック増加率は、2015年から20年までの年平均7%に対し、21年から23年は同18%に上昇した。大手企業の大規模ニーズが需要をけん引しており、LMT空室率は19年第2四半期以降0%が続き、実質賃料は急上昇。デベロッパーが投資しやすい環境が整ってきたと見られる。
福岡圏のロジスティクスマーケットでは大型の開発計画が増えている。LMTを対象とした集計では、ストックの増加率は15年から20年までの年平均7%に対して、21年から23年のストック増加率は年平均18%と倍以上に高まっており、同社は「17年に竣工した物件の空室消化に時間がかかったこともあって開発意欲はここ数年限定的だったが、今後は拡大ペースが加速する」と見る。
福岡圏のマーケットに注目が集まるのには、いくつか理由が考えられる。まず、旺盛な需要を背景とした空室の極端な減少だ。17年第三四半期に15.2%まで上昇したLMTの空室率は、その後急速に低下、19年第2四半期以降20年第4四半期まで0%が続いている。 20年第3四半期に竣工した1棟も満室稼働だった。21年に竣工する予定の物件3棟はいずれ も満床となる見込みで、中小型の既存施設でも、まとまった空室はほとんどない状態という。
2つ目としては、全国に拠点を持つ大手企業からの需要が、福岡を含む地方都市において増えていることが挙げられる。こうした企業は、全国で在庫管理や物流網の再構築を図っており、その施策が福岡圏でも形になって表れてきている。自然災害の頻発によるサプライチェーンの寸断やドライバー不足による輸送費の高騰も、こうした動きを促している。また、荷主企業から直接の引き合いが増加していることも需要増の一因と見られる。大手の荷主企業は、長期的な生産・販売戦略に沿って、これからの成長市場と見極めた場所に拠点を設けていく。また、設備の自動化など効率的な配送センター運営のモデルを持っているため、大規模な面積を賃借するケースも多い。
同社は「こうした荷主企業の動きは他の業界にも波及する可能性があるため、物流会社にとっても新たな営業床を確保するための先行投資を進めやすくなる。この流れは20年竣工物件(約1万2000坪)の一括借りが契機になったと考えられる。実際、それ以降の需要は大型化しており、1社あたりの契約面積は14年から19年竣工物件の 平均3800坪に対し、20年から21年竣工物件の内定状況では1万坪を上回る見込み。
3つ目の理由としては、先の2つの理由の結果として、賃料が上昇していることが挙げられる。福岡のLMTの実質賃料は、近畿圏や中部圏の賃料水準を2割程度下回っていたが、空室率が0%と なった19年第2四半期を基点に急上昇。20年第4四半期時点の賃料は3150円/坪で、19年第2四半期時点の賃料を10%近く上回った。賃料が上昇して一定の利回りが期待できるようになったことで、デ ベロッパーが投資しやすい環境となった。足元ではテナントの内定ペースも早まっており、数年先の開発計画も検討されるようになっている。
福岡圏のLMT市場には未だ拡大余地があると同社は考えている。まず、福岡県は人口501万人(20年)、県内総生産は20兆円で、主な指標で上位10県内にランキングする経済規模を持つ。 これらの経済指標とLMTストックを大都市圏間で比較すると、福岡圏のLMT面積は、人口1000人当たりでは首都圏の3分の1、県内総生産10億円当たりでは同2分の1、製造品出荷額 100万円当たりでは同4分の1の面積に過ぎず、近畿圏と比べても半分程度のLMT面積しかない。従って、テナントの要望に適合するような新しいタイプの物流施設は、福岡圏では不足しており、物流マーケットにはまだまだ拡大余地があると各デベロッパーに認知されてきた。首都圏、近畿圏などでの開発投資が増加し、参入プレーヤーが増えて用地を取得しにくくなったことも、デベロッパーが目を向ける要因だ。
同社は、福岡圏LMTの空室率は22年第4四半期に3.7%と、20年同期(0%)に比べてわずかながら上昇するものの、依然として低い水準にとどまると予測する。実質賃料指数は同期間に3150円 /坪から3380円/坪に上昇(+7.3%)を見込む。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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