米EPA、低所得層向け太陽光助成金プログラム「Solar for All」撤回 制度リスクが浮き彫りに

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米国環境保護庁(EPA)は8月8日、低所得世帯向けの太陽光発電導入を支援する70億ドル規模の助成金プログラム「Solar for All」の打ち切りを発表した。インドの有力経済紙 Business Standardが8月8日付で報じた。

バイデン政権下で2024年に開始されたこの制度は、再エネ普及とエネルギーコスト削減の両立を目指す政策の中核と位置づけられていた。同プログラムは、米国内の州政府、先住民部族、地域団体など60の受給者に資金を配分し、屋上太陽光パネルの設置やコミュニティソーラーガーデン(地域共同発電所)の構築に充てられる予定だった。再エネの恩恵を受けづらい低所得コミュニティへの環境正義の観点からのアクセス拡大が狙いであり、温室効果ガス削減基金(GHG Reduction Fund)の一部として設立されていた。

EPAによる撤回の発表は、トランプ政権によるクリーンエネルギー政策の見直しの一環とされる。就任以降、前政権が策定した気候変動対策の再評価と制度見直しが相次いでおり、今回の決定もその流れの中にある。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、米国の太陽光発電容量は2023年時点で約180GWと世界第2位に位置するが、住宅用の普及率は4%程度にとどまっており、特に所得の低い家庭では導入が進んでいない。Solar for Allの中止により、この格差是正の動きにも大きな影響が及ぶと見られる。

また、太陽光発電産業への影響も懸念されている。全米太陽エネルギー産業協会(SEIA)の報告では、同産業は約26万人の雇用を支えており、同プログラムによってさらに20万人の新規雇用創出が見込まれていた。加えて、2030年までに年間3,000万トンのCO2削減も期待されていた。

ESG投資の観点からは、本件は「Just Transition(公正な移行)」の実現可能性に直結する制度リスクの顕在化を意味する。特に、社会的弱者への再エネアクセスを担保する政策の不安定性は、インパクト指向の投資家にとって中長期的なモニタリング対象となるだろう。

今後は、カリフォルニア州やニューヨーク州をはじめとする再エネ政策に積極的な州の取り組みが鍵となる一方、州ごとの温度差が米国のエネルギー政策の分断を加速させる懸念もある。

【参照記事】EPA cancels $7 billion Biden-era grant programme to boost solar energy

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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