世界大手銀行36行の脱炭素移行、指標達成率は18%にとどまる

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英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のTPI グローバル気候移行センターは、世界の大手銀行36行を対象とした気候変動対応の評価レポート「State of the Banking Transition 2025」を公表した。同レポートによると、銀行の低炭素経済への移行は依然として初期段階にあり、評価フレームワーク「ネットゼロ銀行評価枠組み(NZBAF)」の77項目のサブ指標のうち、銀行が達成したのは平均でわずか18%にとどまった。前年からの改善はほぼ見られず、95%のスコアが変化しなかった。

今回の評価対象には、昨年の26行に加え、オーストラリアの銀行やブラジル・インドの大手金融機関など10行が新たに含まれた。評価結果では、情報開示やガバナンスの分野で3分の1以上のサブ指標を満たす一方、脱炭素戦略に関する分野では達成率がわずか5%にとどまった。特に懸念されるのは、気候政策へのロビー活動を1.5℃目標に整合させている銀行が一行も存在しない点である。一部の銀行はネットゼロ・コミットメントや化石燃料関連の方針について、従来の「コミットメント」や「目標」といった明確な表現から「野心」「志向」といった曖昧な文言に変更しており、気候変動対応の後退が見られる。米ウェルズ・ファーゴはネットゼロ・コミットメントとセクター別目標を撤回し、気候関連の情報開示を公開資料から削除した。

セクター別の脱炭素目標に関しては、評価対象36行のうち78%にあたる28行が少なくとも1つのセクター別目標を設定している。しかし、その大半は2030年までの短期目標に限定されており、2031年から2035年の中期目標を設定した銀行は存在しない。目標がカバーするセクターは平均7セクターで、電力、石油・ガス、自動車製造が中心である一方、食品セクターを対象とする銀行は4行、化学や多角的鉱業セクターは1行のみであった。また、銀行の2030年セクター別経路のうち、1.5℃または2℃未満の低炭素ベンチマークに整合しているのは全体の33%にとどまった。電力セクターでは96%が整合するものの、航空は44%、セメントは41%、アルミニウムは25%、鉄鋼は24%と、産業セクターでの整合率は低い。

新興国・途上国(EMDE)の銀行については、中国4行に加え、今年からブラジルとインドの各2行が評価対象に加わった。これら8行のNZBAF達成率は平均7%で、先進国の銀行(19%)を大きく下回る。ただし、ブラジルのイタウ銀行は19%を達成し、全体平均と同水準に達している。気候ソリューション向け融資目標を設定した銀行は36行中17行に上るが、対象となる活動の定義は銀行ごとに異なり、実体経済の脱炭素への貢献度を評価することは困難な状況である。EUタクソノミーが石炭・石油を除外する一方、中国の「グリーン・低炭素移行カタログ」はクリーンコール生産を含むなど、各国・地域のタクソノミーの差異が比較可能性を阻んでいる。

2021年に発足したネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)は、米国での政治的反発を受けて加盟行の離脱が相次ぎ、2025年10月に活動を停止した。一方、バーゼル委員会やEU銀行監督機構(EBA)は気候関連リスクの開示や管理に関する新たな枠組みを公表しており、規制強化の動きは継続している。金融セクターの脱炭素移行は、投資家や規制当局からの圧力と政治的反発の狭間で、複雑な局面を迎えている。

【参照URL】State of the Banking Transition 2025

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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