親が介護施設に入ったら空き家は売却するべき?タイミングや注意点も

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親の住む実家を相続予定としていない場合、空き家をどのように対処していくかが問題となってきます。このような悩みを持つ方は少なくなく、全国的に高齢者が主体となっている世帯は年々増加しており、空き家は社会問題となっています。

親が介護施設に入ったタイミングは家をどのように管理していくのか、それとも売却をするのか、相続を見越した検討が必要になってくる一つのタイミングと言えるでしょう。

今回のコラムでは、親が介護施設に入るタイミングで空き家を売却すべきかどうか、検証していきます。

目次

  1. 高齢化と空き家問題
  2. 空き家になった家の対処方法
  3. 親が介護施設に入る際に空き家を売却するメリット
    3-1.売却代金を介護施設の費用に充てられる
    3-2.空き家の維持管理費用を払う必要がなくなる
    3-3.「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」が利用できる
    3-4.名義人の意思を確認して売却できる
  4. 親の家を売却する際の注意点・デメリット
    4-1.委任状が必要になる
    4-2.認知症を発症している場合は成年後見制度を活用する必要がある
    4-3.不動産相続で適用できる税制度が使えなくなる
    4-4.売却代金の管理や用途について決めておく
  5. 空き家売却に強い不動産会社を選ぶ
  6. まとめ

1 高齢化と空き家問題

内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、2021年10月1日時点の日本の総人口は1億2550万人で、そのうち65歳以上の人口は3,621万人となっています。割合で言うと28.9%を占めています。

また65歳以上の人が住む世帯は2,558万4,000世帯となっており、全世帯(5,178万5,000世帯)の49.4%です。このうち、単独世帯が7,369世帯で28.8%、夫婦のみの世帯が8,270世帯でその割合は32.3%となっています。つまり、65歳以上が住む世帯のうち、夫婦ふたり暮らしかひとり暮らしは61.1%を占めているという状況なのです。

このように高齢者が主体となっている世帯は年々増加しています。下記の表は65歳以上の人が住む世帯数の変化を、2005年からまとめたものです。

調査年 単独世帯の割合 夫婦のみ世帯の割合 単独世帯と夫婦のみ世帯の割合
2005年 22.0% 29.2% 51.2%
2010年 24.2% 29.9% 54.1%
2015年 26.3% 31.5% 57.8%
2017年 26.4% 32.5% 58.9%
2018年 27.4% 32.3% 59.7%
2019年 28.8% 32.3% 61.1%

※参照:内閣府「令和4年版高齢社会白書」より抜粋

このように高齢化が進むにつれて、空き家問題も顕在化しています。総務省の資料「空き家対策について」によると、空き家数と空き家率は下記のように上昇しています。

調査年 空き家の総戸数 空き家率
1988年 394万戸 9.4%
1993年 448万戸 9.8%
1998年 576万戸 11.5%
2003年 659万戸 12.2%
2008年 757万戸 13.1%
2013年 820万戸 13.5%
2018年 846万戸 13.6%

※参照:総務省「空き家対策について」より抜粋

このように高齢世帯が増加するのに合わせて空き家も増加している状況を、身近な問題と捉えている方も多いでしょう。そこで次の項目から、親が介護施設に入る際に空き家となった場合、どう対処するのがいいのか、詳しく見ていきましょう。

2 空き家になった家の対処方法

住んでいた家を親が離れて空き家になった場合、どのように対応するかはそれぞれの事情によって異なり、適切な対処方法も違ってくるでしょう。そこで代表的な対処法を挙げていきます。具体的には次の4つが考えられます。

  • 売却する
  • 賃貸に出す
  • 子どもや親族が住む
  • 空き家のまま維持する

それぞれのメリットとデメリットをまとめたのが次の表です。

方法 メリット デメリット
売却する 売却代金を介護施設の費用に充てられる
維持管理の手間や費用がかからない
同意してもらえないケースがある
現金化によって不動産相続の税制特例を活用できない
賃貸に出す 収入が得られる 空室になると収入が得られない
税金や維持管理費がかかる
子どもや親族が住む 家を維持することができる 所有権問題が発生する
入居を希望しない場合がある
空き家のまま維持する 財産を維持することができる 管理の義務がある
劣化が進む可能性がある

空き家の対処方法には、それぞれメリットとデメリットがあります。将来的な相続も見越して相続人同士で話し合いを行うなどして、適切に判断するようにしましょう。

3 親が介護施設に入る際に空き家を売却するメリット

4つの対処方法について紹介しましたが、空き家を売却する場合に注目して、売却時のメリットを詳しく解説していきます。

3-1 売却代金を介護施設の費用に充てられる

介護施設に親が入所する場合、費用がかかります。各施設によって異なりますが、入居一時金といった入居時の費用に加えて、毎月の家賃や食事代、管理費用などもかかります。

下記が、親が介護施設に入所することでかかる代表的な費用です。

  • 居住費
  • 食費
  • 管理費
  • 日常生活費
  • 施設介護サービス費用
  • 介護費
  • 医療費、など

家を売却することで、こうした費用に充てることができます。

3-2 空き家の維持管理費用を払う必要がなくなる

空き家をそのままにしておいた場合でも、維持するためには費用がかかります。固定資産税に加えて、自然発火や放火などに備えて火災保険をかけているケースもあり、日々の清掃にも費用や労力が必要です。

また、建物は空き家になると痛むスピードが速くなるため、メンテナンスや修繕工事が必要なケースもあります。

このように空き家を維持・管理するための費用は、期間が長くなるほど増えていきます。そのため空き家になった時点で売却することで、空き家の維持管理費用を抑えることができるのです。

3-3 「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」が利用できる

住宅を売却した際に売却益が出た場合、税金がかかります。売却益のことは譲渡所得、かかる税金は譲渡所得税と言います。譲渡所得を求めるには、下記の計算式を用います。

譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除

取得費とは、不動産を購入したときにかかった登録免許税、不動産取得税、印紙税などの税金や仲介手数料、司法書士報酬などの費用を指します。この計算式で譲渡所得を求めた際にプラスとなった場合、譲渡所得税が課せられるのです。

親が介護施設に入り空き家になった不動産売却のケースで考えてみましょう。この場合、マイホームを売却した場合、売却益が3,000万円以内であれば譲渡所得税がかからない「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」という特例の適用が検討できます。

しかしこの特例は、空き家になってから3年目の12月31日までに売却しないと適用になりません。つまり、親が介護施設に入居した後で3年以上放置してしまうと、この特例が利用できなくなるのです。そのため、親が介護施設に入所したタイミングなど早めに売却した方が良い、ということも考えられます。

なお、一定使用の範囲としては、「被相続人が家屋の一時滞在で使用していた」「家財道具等の保管場所として使用していた」などの場合も一定使用に該当します。

この「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」が適用されるのは、本来2019年12月31日まででしたが、2023年12月31日までに延長されています。

3-4 名義人の意思を確認して売却できる

不動産の所有者が親である場合、売却や賃貸などの契約は所有者である親にしかすることができません。不動産売却で重要なのが名義人(所有者)が売却の意思を持って、手続きを進めることです。

ただし、介護施設に入っているということは認知症を発症している可能性もあり、意思能力が無い状況となると不動産売買などの法的な契約行為が無効となる可能性があります。

また、認知症ではなくとも自分の意思を示すことができない病気を患ったり、障がいを持ってしまうこともあります。その場合も法的に判断能力がないとされ、売買契約を結ぶことができません。つまり、いずれ売却する予定であれば、親が元気で意思表示ができるうちに売却することも財産管理上ではポイントとなってきます。

【関連記事】不動産相続、親が認知症になる前に準備・確認しておきたい3つのこと

なお、すでに認知症などにより意思能力を喪失している場合には、成年後見制度を使った売却を行う必要があります。こちらについては下記の記事をご参考ください。

【関連記事】認知症になった親の不動産の売却手順は?成年後見制度を使った売却の流れや注意点

4 親の家を売却する際の注意点・デメリット

不動産は高額になるため、所有者を持つ親が売却する意思を持っていないと売却できません。そのほか、親の家を売却する際の注意点をまとめましたので、参考にしてください。

4-1 委任状が必要になる

介護施設に入所していても、意思能力を喪失していないのであれば不動産を売却することができます。不動産会社とやりとりをし、不動産売買契約の締結も直接行うことができれば問題ありません。

しかし、足腰が弱いなどで行動範囲が限られている場合などに、子どもが親に代わって売買の手続きを行うこともあります。その場合に必要になるのが委任状です。

委任状は法的なフォーマットがあるわけではありませんが、本人の署名捺印が不可欠です。また委任した人の住民票と印鑑証明書を添付することになります。

ただし委任状があっても、スムーズに売却が進むとは限りません。親が空き家の売却に納得していないケースもあり、委任状自体に効力がない場合もあるためです。親の同意を得るためには、弁護士や司法書士、不動産会社からのアドバイスを受けながら、慎重に話を進めることが大切です。

4-2 認知症を発症している場合は成年後見制度を活用する必要がある

親が認知症や、意思を示すことができないような病気にかかってしまった場合には、意思能力がないとみなされ、家の売却はできなくなります。このときに活用できるのが成年後見制度です。成年後見制度とは、法律的な支援・援助をする成年後見人が財産管理などをすることです。判断ができない親に代わって、不動産売買契約の締結なども行います。

成年後見人は、重い責任を負うため親族だけではなく、弁護士などに任されることもあります。ただし弁護士に依頼する場合は、原則として月額費用が継続してかかることになります。この点も注意が必要です。

4-3 不動産相続で適用できる税制度が使えなくなる

不動産売却によって現金化してしまうことにより、相続税の財産評価額が最大80%減額される「小規模宅地等の特例」など、不動産の相続時に使える税制度の利用が出来なくなるという点はデメリットとなります。

また、不動産の相続税評価額は時価(売却した時の価格)よりも低く設定されていることが多く、売却によって現金化した場合と比較して相続税を抑えられる可能性があります。予定されている相続財産が多額である場合は、注意しておきたいポイントと言えるでしょう。

ただし、相続税が発生するのは課税対象となる遺産総額から債務などを差し引いた正味遺産総額が基礎控除額を超える場合であり、これを超えないのであれば「現金」か「不動産」のどちらで相続しても相続税は課税されない、ということが言えます。

基礎控除額は以下の算式によって求められます。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

4-4 売却代金の管理や用途について決めておく

空き家になった親の家を売却した場合、その後のお金の管理について決めておくことも重要です。

家の所有者が親である場合、その売却代金についても親のものとなります。しかし、いずれの相続を考慮して財産管理をしていくのであれば、すべて親に任せてしまうのではなく、相続人同士の意思をまとめて親と一緒に管理していくことも検討されてみると良いでしょう。

また、介護施設費に充てる場合は売却代金でどれくらいの期間が補填できるのか、遺産分で足りなくなった場合はどのようにして資金を捻出するのか、それぞれの意見をすり合わせておくことも大切です。

5 空き家売却に強い不動産会社を選ぶ

前述したように、空き家の売却はタイミングによって特例が適用にならないケースもあります。また、全国的に空き家が増加していることからも、空き家の条件によっては長期間売れにくいこともあります。

そのため、空き家売却について知識が豊富で、なおかつ実績がある不動産会社を選ぶことが大切です。住居として売却するだけではなく、他の方法での提案をしてくれることもあります。

また、特例が適用になるためには売却の期日があるため、買取での売却も検討し、仲介と買取の両方を取り扱っている不動産会社を選ぶのもいいでしょう。

仲介と買取には下記のような特徴があります。

買主 売却価格 売却活動の期間
仲介 個人もしくは法人 不動産市場の相場価格で売り出す 買主を探すところから始めるため、予測しづらい
買取 不動産会社 不動産会社が買取価格を決める(相場より2~3割程度安くなる) 買取する不動産会社が決まるとスムーズに進められる

不動産会社を選ぶ際は、複数の不動産会社に査定をしてもらうといいでしょう。相場価格が分かり、より適正な価格で売却できる可能性があります。

複数の不動産会社へ査定を依頼する際は、不動産一括査定サイトが便利です。一度の入力で複数の不動産会社を見つけることができるため、効率的に不動産会社を比較することができます。

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【関連記事】不動産査定会社・不動産売却サービスのまとめ・一覧

まとめ

親が介護施設に入ることになると、家をどのように管理していくのか、それとも売却をするのか、ということも検討する必要が出てきます。不動産や資金面だけでなく生活面でのフォローもある中、どのような判断をするべきか悩む方も多いでしょう。

今回のコラムでは、親が介護施設に入るタイミングで空き家を売却すべきかどうかについて解説しました。介護施設で必要となる費用や、現段階での親の認知能力など、それぞれの状況に合わせて適した方法で対処していくことが大切です。

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倉岡 明広

経済学部経済学科卒業後、出版社や編集プロダクション勤務などを経てフリーライターとして独立。雑誌や新聞、インターネットを中心に記事を執筆しています。初心者が抱く不動産投資の疑問や質問を解決できるよう丁寧な記事を執筆していきます。