空き家を売却するタイミングは?費用や税金、売却の方法や戦略も解説

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空き家の増加が全国的に問題となっている中、国や自治体が空き家対策に乗り出しています。

両親が残した実家が空き家となったものの、管理まで手が回らず、売却を先送りにしてしまっている方も多いのではないでしょうか。

しかし、空き家を放置すると様々なトラブルや支出が生じるほか、国が早期売却を推奨する政策を採っているため、売却しないと税制上不利になるタイミングがあります。

この記事では、税制や維持管理の費用面から、空き家を売却するベストなタイミングと、空き家を売却する際に注意したいポイントを解説します。

目次

  1. 空き家を放置した場合に生じる問題とは
    1-1.空き家の管理費、維持費がかかる
    1-2.放置した空き家は資産価値が低下する
    1-3.事件や事故を招きかねない
  2. 空き家を売却するベストなタイミングはいつか
    2-1.居住用財産の売却特例を使えるタイミング
    2-2.所有者が死亡しておらず、健康上の問題がないタイミング
  3. 空き家の売却にあたって必要な準備
    3-1.所有者本人が売却する場合
    3-2.相続後に売却する場合
  4. 空き家売却の方法と押さえておきたいポイント
    4-1.空き家の売却では、できるだけ事前支出を避ける
    4-2.不動産会社の選び方と売却戦略
  5. まとめ

1.空き家を放置した場合に生じる問題とは

空き家を放置しておくと、様々な問題が生じる可能性があります。2015年には「空き家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、「空き家対策法」)が施行され、特定空き家等に指定されると最悪の場合、取り壊しの対象となることもあります。

実家などの思い入れのある空き家の売却を決断するには、まず、放置しておいた場合のデメリットを知る必要があります。そのうえで、現在の所有者や相続人の間で話し合って、計画的に売却を進めていくべきでしょう。

1-1.空き家の管理費、維持費がかかる

空き家でも所有している以上、管理の手間や費用が発生します。マンションであれば管理費がかかり、戸建ての場合には定期的に換気・清掃し、庭木や外構を手入れするなどの手間がかかります。

またマンションと比較して、戸建ての空き家では維持費が大きな問題になります。地震などで躯体の強度に問題が生じたり、台風などで雨漏りが生じたりした場合、その修繕費は数百万単位になる可能性があります。

また、不動産を維持するためにかかる税金も看過できません。空き家のままでも固定資産税が課税標準額の1.4%、都市計画税は0.3%が課税されます。

また、空き家対策法によって特定空き家に指定されてしまうと、固定資産税が6倍になり、維持費がさらにかさむことになります。(*国土交通省「空家の除却等を促進するための土地に係る固定資産税等に関する所要の措置(固定資産税等)」を参照)

1-2.放置した空き家は資産価値が低下する

空き家を放置すると、経年劣化によって資産価値が低下することは避けられません。特に木造戸建てでは、人が住んで手入れを続けていないと建物の全体が大きく劣化したり、ホコリや虫などの汚れが目立ったりしやすくなります。

古くなり手入れが疎かになった空き家は、それだけで買い手の購買意欲を削いでしまい、売却時の資産価値の低下へとつながってしまいます。

1-3.事件や事故を招きかねない

人の住んでいない空き家では、空き巣や放火など、防犯上のリスクも注意しなければなりません。また、空き家の住所を勝手に使われるなどの犯罪に巻き込まれる可能性もあります。

戸建ての場合、空き家の敷地内に不法投棄されるトラブルが発生することがあります。不法投棄が重なると、処分費用がかかるだけでなく、近隣の景観や住環境にも悪影響を及ぼしかねません。

さらに、大きなリスクとなるのは放火です。火災保険を掛けておらず、万一近隣に延焼した場合には、損害賠償の負担が重くのしかかる可能性もあります。

2.空き家を売却するベストなタイミングはいつか

空き家の売却を検討するにあたり、税制や費用の面から、売却するタイミングが非常に重要になります。

特に税制については、居住用財産の売却特例を使える時期かどうかでかかってくる税金の額が大きく異なります。その他、所有者が健在かどうかで売却にかかる手間が変わることがあるでしょう。

これらを踏まえ、税制と所有者の状況という二つの面から、空き家を売却するベストなタイミングについて解説します。

2-1.居住用財産の売却特例を使えるタイミング

空き家を売却するタイミングは、「居住用財産の売却特例」を使えるかどうかが大きなポイントになります。居住用財産の売却特例には、通常の特例と被相続人の空き家特例の2つがあります。

通常の特例の解説をする前に、不動産を売却した場合の課税の仕組みについて見て行きましょう。

不動産を売却すると、譲渡所得に対して短期の場合30%、長期の場合15%の所得税と、短期9%、長期5%の住民税が課されます。(*国税庁「譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」を参照)

この譲渡所得は、下記の算式をもとに計算されます。

 譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除

大まかには、「売却利益に対して税金がかかってくる」と考えるといいでしょう。5年以上の保有している空き家であれば、譲渡所得税率は20.315%となります(5年以下であれば、譲渡所得税率39.63%)。

しかし、居住用財産の売却の特例を利用すれば、譲渡所得の算式において、特別控除として3,000万円を引くことが可能になります。(*国税庁「マイホームを売ったときの特例」を参照)

居住用財産の売却の特例

居住用財産の売却の特例における主な適用条件は下記の2つです。

  • 居住していた財産であること
  • 住まなくなったときから3年以内に売却すること(賃貸用などの利用履歴がないこと)

被相続人の居住用財産の特例

また、相続財産であれば、被相続人の居住用財産の特例を利用できる可能性があります。こちらも3,000万円の特別控除です。(*国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を参照)

2020年6月時点では、令和5年12月31日までの期間限定の特例となります。主な要件は下記の5つです。

  • 昭和56年3月31日以前に建築された一戸建てであること
  • 相続開始直前まで被相続人が1人で居住していたこと
  • 相続してから空き家であること(賃貸用などの利用履歴がないこと)
  • 耐震用リフォームあるいは解体して更地にすること
  • 相続を開始した日から3年以内の売却であること

また、相続財産の場合には売却の際の取得費用に相続税を加算することができる取得費加算制度という制度もあります。この制度の適用は相続税の申告期限から3年以内の売却が条件となっています。

3,000万円の特別控除を受けられるかどうか、取得費加算制度の適用を受けられるかで、支払う税額を大きく変わります。これらの特例の適用条件に該当するようであれば、3年以内という適用期限内に売却する税制上のメリットが大きいと言えるでしょう。

2-2.所有者が死亡しておらず、健康上の問題がないタイミング

税金面以外でも、売却にかかる手間や費用面から、空き家はできる限り所有者が健在のうちに売却することを検討しましょう。

また、所有者が認知症などで意思能力が疑わしい場合、売却するためには成年後見制度を利用するなど、手続きが非常に厄介になります。たとえば、成年後見人が被成年後見人の居住用財産を処分するには、一定の要件の下、裁判所の許可が必要となります。

また、所有者が残念ながら他界してしまい相続後に売却する場合、相続人全員の同意が必要になります。これは空き家が相続人の共同名義の場合だけでなく、登記名義が被相続人のままになっている場合も同様です。

登記名義者が死亡していては所有権が誰にあるのか確認できないため、所有権の移転登記ができません。つまり、相続後の売却では、相続人間の分割協議を経て相続登記を済ませる必要があるのです。

このように所有者が認知症になってしまったり死亡してしまった場合には、不動産売却に大きな手間がかかることになります。遺産相続の場合、相続人が多い場合はさらに大きな手間と費用がかかると言えます。

3.空き家の売却にあたって必要な準備

空き家の売却にあたって必要な準備は、所有者本人が売却する場合と相続後に売却する場合とで手間が異なります。それぞれ詳しく見て行きましょう。

3-1.所有者本人が売却する場合

所有者本人が空き家を売却する場合、不動産会社に依頼する前に購入時の契約書等の資料を探しておきましょう。購入時の契約書や重要事項説明書、販売図面などの資料は、基本的には売却の時にも必要になる資料です。

これらの資料の中でも特に、購入時の価格や購入時の諸費用が分かる領収書は重要です。売り出し価格の決定にも役立つうえ、売却できた時の譲渡所得の取得費の計算根拠となります。

また戸建ての場合は、境界確認書があるかどうかも重要です。戸建ての売却の際は、売り手は買い手に対して境界確認書に基づいて境界を明示することが原則となっています。

境界確認書がない場合は、測量をして隣地所有者に境界確認を求めることが売却前の準備として必要になります。

3-2.相続後に売却する場合

相続後に売却する場合は前述のように相続登記をすることが前提になります。相続登記をするには、「現物分割」か「換価分割」による相続財産の分割協議を行う必要があります。

現物分割とは、売却したい空き家を相続人の誰か一人の単独所有とする方法です。この方法では売却時にその所有者一人の意思で売却できるため売りやすくなりますが、相続においては相続人間に不平等が生じる可能性が高くなります。

したがって、現物分割では遺産分割協議が難航する可能性があるでしょう。

換価分割とは、遺産である空き家を売却して現金化してから、その現金を相続人間で分割する方法です。換価分割は不平等感もなく遺産分割協議はまとまりやすいと言えますが、窓口の担当者を1人に決めるなどしておかないと、売却活動時に買い手との価格交渉などの場面で手間取ることになります。

分割の方法が決まったら、空き家の分割の方法にしたがって名義変更登記を行います。名義変更登記では主に次の書類が必要になります。

  • 被相続人の10歳前後から死亡に至るまでの継続した戸籍謄本
  • 被相続人の除住民票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票
  • 固定資産税評価証明書

また、遺産分割協議を行った場合は「遺産分割協議書」、遺言による場合は「遺言証書」と「受遺者の戸籍謄本」が必要になります。なお、登記には評価額の0.4%の登録免許税と、司法書士に依頼する場合には司法書士手数料がかかります。

4.空き家の売却のやり方と押さえておきたいポイント

空き家を売却する準備ができたら、いよいよ売却活動となります。戸建ての場合、売却のやり方には、いくつかポイントがあります。売却活動の進め方と不動産会社の選び方、売却戦略を含めて解説します。

4-1.空き家の売却では、できるだけ事前支出を避ける

古くなった空き家の売却では、できるだけ事前支出を避けることが基本になります。

古い空き家は建物としての価値が無くなっていることも多いでしょう。そのため、建物に費用をかけて修繕やリフォームを行っても、不動産の売却価格にその費用分を上乗せできない可能性が高くなります。

また大がかりな修繕やリフォームだけでなく、解体もできればしない方が良いでしょう。建物を解体すると、それだけで数百万円の費用が発生する可能性があるうえ、更地になることで所有期間の固定資産税が最高で6倍になってしまいます。

事前支出を避けるため、建物は解体せず、家具の片付けや清掃など、現状維持にとどめましょう。家具については、種類の異なる瓦礫が増えると解体費用の増加につながります。

傷や痛みの少ない家具はSNSやフリマアプリなどを介して個人同士で売買できるケースもあるので、できるだけ分別して処分しましょう。

建物を解体せずに古家付き土地として売却すると、買い手は古家をリフォームしてそのまま居住するか、解体するか選べることになります。選択肢が増えるので、その分買い手の間口が広がり、成約の可能性を上げることが出来ます。

4-2.不動産会社の選び方と売却戦略

不動産会社の選び方は、希望する売却価格や売却に必要な期間、物件の状態によって大きく変わってくると言えます。

空き家を「3カ月~6カ月など、長期間時間をかけずに相場通りの金額で通常通りの時間をかけて売りたい」という場合は、大手や中小企業にこだわらず、販売力のある不動産会社へ幅広く売却査定を依頼することが大切です。

一方で時間に余裕があり、「1年~2年近くかけてもなるべく高く売りたい」という場合は、大手や中小企業の不動産会社に加えて、地元の地域密着型の不動産会社を探してみると良いでしょう。

地元に根付いている不動産会社であれば、地元の資産家や業者に独自のコネクションを持っていることも多く、大手不動産会社のネットワークにはない買い手を見つけられる可能性があります。

いずれの戦略をとるにせよ、売り出し価格は目標価格よりも高めに設定し、時期を決めて段階的に下げていくことになります。ある程度の期間売り出して、一般の買い手が見つからない場合は、相場よりも安くなりますが、業者買取も選択肢の一つに入れてみましょう。

【関連記事】空き家を高く売るには?売却前に知っておきたいポイントと注意点

まとめ

空き家を放置すると、管理費・維持費がかさみ、資産価値も低下し、さらには火災や犯罪に巻き込まれるリスクもあります。特定空き家等に指定された場合には、強制的な取り壊し命令を受けることもあります。

手入れの行き届かなくなった空き家は、人が住まなくなってから、または相続をしてから3年以内の売却であれば、一定の要件を満たすことで3,000万円の譲渡所得の特別控除を受けることができます。

また、できるだけ所有者が健在のうちに売却することも検討しておきましょう。相続後に売却する場合は遺産分割をして相続登記をする必要があり、想定外の大きな手間がかかってしまう可能性があります。

空き家の売却のポイントは、できる限り事前支出を避け、売却戦略に合った不動産会社選びをすることです。売却期限、価格設定を計画的に行い、売主が主体となって売却を進めて行きましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。