TSONが、2023年12月の上場廃止に向けて手続きを進めていることを公表しました。そのきっかけには、会計監査人の意見不表明がありましたが、背景にはTSONの特殊な経営事情も垣間見えます。
この記事では、TSONの上場廃止の理由や原因を探り、意見不表明の監査報告について解説します。
目次
- 株式会社TSONとは
- 株式会社TSONの2023年12月の上場廃止に向けた動向
- TSONの上場廃止と意見不表明監査報告
3-1.上場廃止基準と意見不表明
3-2.TSONの意見不表明監査報告
3-3.TSONの経営方針と東京プロマーケットの上場基準 - まとめ
1.株式会社TSONとは
株式会社TSONは愛知県名古屋市に本社を構え、住宅事業、広告企画事業、不動産マネジメント事業を基軸に成長した不動産会社です。2015年の東京証券取引所上場後、不動産AIシステムを自社開発し、戸建住宅の分譲にAIを導入して話題を呼んでいます。
さらに、不動産特定共同事業の許可を取得後は、AIを活用した不動産ファンド事業を展開し、2021年には「NIKKEI BtoBマーケティングアワード2021」においてファイナリストを受賞し期待が高まっていました。
また、「TSON FUNDING」という不動産クラウドファンディングサービスも提供しています。最低投資額5万円・オンライン完結で手軽に不動産投資が出来るサービスとして人気があり、地方の不動産や森林再生ファンドなど、同業他社と比較してもユニークなファンド組成を行っています。
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また、まだ新しい投資商品である不動産クラウドファンディングにおいて上場企業が運営しているという点は高く評価されるポイントとなっていました。しかし、今回の上場廃止によってどのような影響があるのか、注目されています。
2.株式会社TSONの2023年12月の上場廃止に向けた動向
2023年9月4日、TSONは、2023年6月期の計算書類等に関し、会計監査人から監査意見を表明しない旨の監査報告書を受領したことを公表しました。なお、監査法人コスモスは、8月28日に同社の会計監査人を辞任する旨を同社に通知したとしています。
そして9月26日には、監査法人コスモスとの折衝において、関連当事者取引に関する会計処理の一部修正を求められ、監査が10月下旬まで長引くことになったため、2023年6月期の発行者情報について上場規程の定める期限までに提出できないことになり、11月に上場廃止申請をし、12月に上場廃止を目指すことになったと発表しています。
なお、同日付けの発表によると、上場廃止の理由として、スピード感のある経営判断や経営の自由度に即応し、関東圏への拡大を迅速に推進するため、そして、グループ会社とのシナジー効果を発揮するため、ということも挙げています。
※出典:株式会社TSON「TOKYOPROMarketにおける当社株式の上場廃止申請に関するお知らせ」
3.TSONの上場廃止と意見不表明監査報告
上場廃止基準と会計監査人の意見不表明との関係を解説したうえで、今般、TSONが上場廃止を選択するきっかけとなった意見不表明監査報告の内容についてみていきます。そして、TSONが抱える独自の背景についても言及します。
3-1.上場廃止基準と意見不表明
日本取引所グループの「上場廃止基準の概要」によれば、上場廃止基準として、上場維持基準への不適合、有価証券報告書等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、特設注意市場銘柄等、上場契約違反等が挙げられています。
TSONは、2023年6月期について、会計監査人による意見不表明と、上場規程に定める発行者情報を期限までに提出できない見込みであることを公表しており、これらが、上場廃止基準に該当し、上場廃止の直接の理由になったものと考えられます。
3-2.TSONの意見不表明監査報告
2023年9月4日のTSONのリリース「2023年6月期計算書類及びその附属明細書に対する監査意見不表明に関するお知らせ」によれば、同社の会計監査人である監査法人コスモスは、意見不表明の根拠として下記のように述べています。
意見不表明の根拠当監査法人は、会社の関連当事者取引を、質的にも量的にも計算書類に与える影響が大きいと判断しており、関連当事者取引について会社から提供された監査証拠が、監査実施過程で入手した他の定性的な情報と不整合である点が散見された。また、それは他の監査手続によっても確認又は検証することができなかった。その結果、関連当事者取引の正確性、網羅性及び期間帰属について不十分な監査証拠のみの入手に留まり、関連当事者取引に係る計算書類を構成する数値に関して修正が必要となるか否かについて判断することが出来なかった。(※引用:2023年6月期計算書類及びその附属明細書に対する監査意見不表明に関するお知らせ)
上記のリリースを見ると、「TSONから提供された監査証拠が監査実施過程で入手した他の定性的な情報と不整合である」ということが大きく指摘されています。つまり、TSONからの提出書類と、実際の監査によって得た書類に多くの違いがあり、またこれについて修正が必要かどうか判断するまで調査・検証が困難であったため、監査意見を表明しないとしているのです。
3-3.TSONの経営方針と東京プロマーケットの上場基準
関連当事者取引について十分な監査証拠を示すことができず、会計監査人の意見不表明という結果を招いたことは、TSONの独自の経営方針によるものであるともいえます。
9月26日付けのTSONの発表では、上場廃止の理由として、スピード感のある経営判断や経営の自由度に即応し、関東圏への拡大を迅速に推進するため、そして、グループ会社とのシナジー効果を発揮するため、ということも挙げていました。
そもそも、TSONが上場していた東京プロマーケットは、株主数と流通株式比率に制限がなく、オーナーシップを維持したまま上場することができる、経営に関してオーナーの意見を反映することにつき自由度の高い市場です。
オーナーの意見が強く経営に反映される会社という特殊事情を背景とし、今般、オーナーの経営方針が上場基準に適合せず、上場廃止に至ったという見方をすることもできるでしょう。
一方で上場廃止となってしまったことは今後の経営に大きな影響を与える可能性があります。例えば、TSON FUNDINGのような新しい投資商品(不動産クラウドファンディング)において、上場企業が運営しているかどうかという点は商品のブランディングにも大きく影響があります。また、今回のTSON上場廃止は会計監査が要因となっており、その詳細も不透明であるため、今後のファンド運用においても会計上のリスクが懸念されることとなるでしょう。
TSONが上場廃止になってしまうのは残念ではありますが、AIを駆使した不動産特定事業法に基づく不動産ファンド事業という、他の企業に類を見ない分野を開拓している企業です。上場廃止後の事業展開についても注視していきたいと言えます。
まとめ
TSONの上場廃止のきっかけは、会計監査人の意見不表明があり、それに伴い、所定の開示書類を期限までに提出できなくなったことです。
ただし、TSONは、元々オーナーシップを維持したまま上場した特殊な企業です。グループ会社との提携というオーナーの経営判断が、上場基準に適合せず、上場廃止に至ってしまったとみることもできます。
一方、不動産クラウドファンディング事業の「TSON FUNDING」では、上場企業が運営する投資サービスという観点が商品力の一つの要素となっていました。今般の上場廃止がどのような影響を与えるのか、注視していきたいポイントです。
佐藤 永一郎
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