不動産投資によって一定以上の家賃収入を得た方については確定申告を行う必要があります。一方で、確定申告を行った方について、年末調整をおこなう必要があるのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
年末調整は、給与収入に関する税額の確定納付手続きであり、確定申告は不動産所得を含めたすべての所得の税額の確定納付手続きとなります。つまり、別個に手続きをおこなう必要があるのが原則です。
本記事では、不動産投資をしている人の年末調整・確定申告手順と、注意したいポイントについて解説していきます。
※記事内の税金・税率などは2023年1月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 不動産投資をしている人の年末調整の手順
1-1.年末調整の必要性
1-2.申告書・控除書類を提出する
1-3.年末調整で注意したいポイント - 不動産投資をしている人の確定申告の手順
2-1.必要書類・環境を整える
2-2.不動産所得の帳簿を作成し決算をおこなう
2-3.所得税の確定申告書を作成・提出する
2-4.所得税・住民税を納税する
2-5.確定申告で注意したいポイント - まとめ
1.不動産投資をしている人の年末調整の手順
不動産投資をしている人は、基本的には確定申告をしなければならないため、年末調整をおこなうことの意味について疑問に思う方もいらっしゃると思います。
そこで、年末調整の必要性と、給与の支払いを受ける者が年末調整でおこなうべき手続き、注意したいポイントについてみていきます。
1-1.年末調整の必要性
年末調整は、給与の支払者が、給与の支払いを受けるサラリーマンの給与総額について納めなければならない所得税額を確定させる手続きです。
年末調整の手続きは、基本的に一つの勤務先から受ける給与所得についての手続きであり、それ以外の所得を想定していません。そのため、不動産投資で確定申告をする場合であっても、年末調整は必要になります。
ただし、例外的に、給与収入が2,000万円を超える人や、2か所以上から給与の支払いを受けていて他の給与支払者が年末調整をおこなう人などは、年末調整の対象となりません。
1-2.申告書・控除書類を提出する
年末調整は、給与支払者がおこなう手続きです。給与支払者は、給与の支払いを受ける者が提出した申告書や控除書類に基づき、給与総額にかかる年税額を計算し、源泉徴収税額を精算して納付します。
したがって、給与の支払いを受ける者側では、年末調整にかかる各種申告書と控除書類を、給与支払者に提出すればよいことになります。申告書には、下記4つがあります。
- 扶養控除等(異動)申告書
- 基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
- 保険料控除申告書
- 住宅借入金等特別控除申告書
「扶養控除等(異動)申告書」は、扶養者や配偶者等の情報を申告するものです。
「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」は、基礎控除や配偶者控除の金額が所得金額によって異なるため、本人および配偶者の所得金額の状況を申告するものです。
「保険料控除申告書」、「住宅借入金等特別控除申告書」は、それぞれ、生命保険料等の保険料控除を受ける場合、住宅借入金等特別控除を受ける場合に提出します。
1-3.年末調整で注意したいポイント
不動産投資をしている人は、年末調整で次の点に注意しましょう。
- 不動産所得の記載
- 賃貸事業用と家事用との按分計算
「基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」を記載する際には、本人所得や配偶者所得金額には、不動産所得を記載することを忘れないようにしましょう。
また、「保険料控除申告書」、「住宅借入金等特別控除申告書」では、賃貸併用住宅にかかる保険料、借入金については、賃貸事業用と家事用との按分計算が必要になることに注意しましょう。
2.不動産投資をしている人の確定申告の手順
投資用不動産から発生する家賃収入には、不動産所得として所得税と住民税がかかります。サラリーマンの場合、給与所得については勤務先の事業所が、源泉徴収した給与所得にかかる所得税を年末調整で精算して納付します。
しかし、不動産所得については、毎年、その金額を計算し、税務署に対して確定申告をおこなう必要があります。不動産所得は、「不動産収入―必要経費」によって算出されます。
確定申告では、給与所得などの他の所得と不動産所得を合算し、その合計額から所得控除を差し引いて、所得税のかかる所得を計算します。確定申告の手順は、まず書類をそろえて準備をして、次に不動産所得の計算をおこなってから、所得税の計算をし、最後に税金を納める、という流れになります。
- 必要書類・環境を整える
- 不動産所得の帳簿を作成し決算をおこなう
- 所得税の確定申告書を作成・提出する
- 所得税・住民税を納税する
2-1.必要書類・環境を整える
まず、確定申告に必要な書類を整えます。家賃収入があって確定申告をおこなう不動産投資家であれば、確定申告書(B様式)と収支内訳書もしくは青色申告決算書を提出することになります。これらの書類を作成するために必要な書類を整えます。
環境については、確定申告の手続きの一部を自分でおこなう場合に準備が必要になります。帳簿の作成を自分でおこなうのであれば、会計ソフトとパソコン、ネット環境が必須でしょう。会計ソフトで帳簿を作成すると、税務署に提出する申告書類まで一通り作成することが可能です。
収入に関する書類の収集
収入帳や預金出納帳などの収入に関する帳簿を作成するために、家賃の入金されている通帳や管理会社が発行する家賃明細などを収集する必要があります。
必要経費に関する書類の収集
現金出納帳、経費帳などの必要経費に関する帳簿を作成するために、管理費や修繕費の領収書などが必要になります。所有不動産の固定資産台帳を作成するために、所有不動産の購入時の売買契約書なども必要になります。
他の所得や所得税の控除に関する書類の収集
所得税の確定申告書(B様式)を作成するために、給与所得の源泉徴収票などの不動産所得以外の収入明細が必要です。また、所得控除に関する書類として、医療費の領収書や寄附金の領収書などが必要になります。
なお、社会保険料や生命保険料、地震保険料も控除対象になりますが、サラリーマンであれば年末調整で調整済なので、源泉徴収票を用意すれば充分です。
会計ソフト、ネット環境などの準備
上述した帳簿は、会計ソフトを利用することで作成可能です。会計ソフトにはPCにインストールするタイプと、ウェブブラウザで起動・操作するクラウドタイプがあります。
小規模の不動産所得であれば、ソフトを使わずにエクセルで帳簿を作成して集計することも可能でしょう。いずれにしても、帳簿作成を自分でおこなうのであれば、PCとネット環境が必要になり、会計ソフトもできれば用意した方がよいでしょう。
青色申告の65万円控除を受けるために、e-Taxで電子申告をおこなうというのであれば、マイナンバーカードとマイナンバーカード対応のスマートフォンが必要になります。
例えば、日々の記帳から複式簿記による帳簿作成をおこない、確定申告書の作成までを自動でおこなうことができるクラウド会計ソフトfreeeでは、金融機関の口座やクレジットカードと連携し、取引データを取り込むことができます。
スマートフォンから領収書を読み込むことができる機能や、スマートフォンから確定申告書を作成することもでき、スマートフォンからの操作利便性が高いことが特徴的です。不動産所得用にカスタマイズされたメニューが用意されており、不動産投資で記帳や確定申告をおこなうのに便利といえます。
2-2.不動産所得の帳簿を作成し決算をおこなう
必要書類・環境を整えたら、不動産所得の収支内訳書(白色申告)もしくは青色申告決算書を作成します。
そのために、不動産所得の収入帳や経費帳などの帳簿を作成、整理して一年分の収入と経費の集計をおこないます。この一年分の集計をおこなって収支内訳書もしくは青色申告決算書(損益計算書、貸借対照表)を作成する作業を決算と呼びます。
以下、簡易帳簿の作成と決算手続き、収支内訳書もしくは青色申告決算書の作成方法について説明します。
簡易帳簿の作成と決算
不動産所得の簡易帳簿を作成して決算をおこなう場合、青色申告の届出を提出することで、不動産所得から10万円を控除することができます。
簡易帳簿とは、一般に、現金出納帳、収入帳、経費帳、固定資産台帳をいいます。現金出納帳は、不動産貸付用の現金の出し入れの状況を取引順に記載する帳簿です。現金で支出した必要経費は、現金出納帳に記載します。
家賃収入が預金口座に入金される場合、預金出納帳を作成して記載していきます。収入帳には、家賃収入を取引ごとに記載します。入金ベースではなく、賃貸借契約ベースで未収家賃も記載していきます。
経費帳は、不動産の貸付けに関する必要経費を、必要経費の科目ごとに分けて記載、集計する帳簿になります。固定資産台帳は、不動産貸付用の建物や附属設備などの取得費用を、減価償却費として各期間の必要経費に配分していく計算をする帳簿になります。
決算では、未収家賃や未払経費、減価償却費の計上をおこなってから、一年分の簡易帳簿を集計して、収支内訳書や青色申告決算書に転記していくことになります。簡易帳簿による場合、損益計算書の作成のみとなり、貸借対照表は作成しません。
複式簿記による帳簿の作成と決算
不動産所得の帳簿を複式簿記によって作成して決算をおこなう場合、青色申告の届出を提出することで、不動産所得から55万円を控除することができます。
複式簿記とは、取引を、現金と資産の増減という二つの側面(貸方と借方)から記録することで、網羅性・検証可能性・秩序性を備えた帳簿を作成する方法です。正規の簿記の原則を満たす条件でもあります。
作成する帳簿としては、上記の簡易帳簿に加えて、仕訳帳と総勘定元帳になります。仕訳帳とは、すべての取引を日付順に、二つの側面から記録した帳簿です。総勘定元帳とは、すべての取引を科目ごとに並べて集計した帳簿です。収入、必要経費、資産、負債などのすべての項目ごとに作成することになります。決算でおこなう集計の調整は、簡易帳簿の場合と基本的には同様です。
手間を考えると、複式簿記による帳簿を作成するには、会計ソフトを利用して作成するのが良いでしょう。複式簿記による決算では、貸借対照表と損益計算書という2種類の決算書を作成します。
会計ソフトでは、帳簿の作成と同時に、決算をおこなった集計結果が、所得税の確定申告で提出する青色申告決算書の様式に出力することが可能です。複式簿記による決算をおこなうには、簿記の専門知識が必要になるため、まったくの初心者であれば税理士などの専門家への相談も検討してみましょう。
不動産投資の税務に強い税理士を探すには、税理士紹介エージェントのような、税理士紹介サービスが便利です。提携している税理士の中から、特定の領域に強い税理士を無料で探してもらうことが可能です。
また、税理士紹介エージェントでは、全ての提携税理士と面談によって、経験・知識・人柄について厳しい審査をしており、この3つの要素が揃った質の高い税理士を紹介してもらうことができるというメリットがあります。
2-3.所得税の確定申告書を作成・提出する
不動産所得の決算書の作成が終了したら、所得税の確定申告書(B様式)を作成します。
確定申告書は、決算で集計した不動産所得の金額や給与所得の金額を集計し、社会保険料控除、医療費控除などの各種控除の金額を控除して、所得税のかかる所得を算定し、実際の所得税額の計算をおこなう書類です。
通常は、会計ソフトや税務ソフトに情報を入力して書類作成をおこなうことがほとんどです。所得税の知識が必要になります。
すべての書類を作成したら、管轄の税務署に提出します。提出方法は、直接持参するか、郵送、あるいは電子申告であればインターネットで送信することによって提出します。所得税の確定申告書等の提出期限は、翌年の2月16日から3月15日までとなります。
2-4.所得税・住民税を納税する
書類の提出と納税は別々におこないます。所得税は、納税の期限が3月15日になっており、確定申告書等の提出期限と同じです。現金で支払う場合は、納付書を用いて金融機関等で納めます。口座振替の手続きをすれば、口座振替も可能です。そのほか、クレジットカード納付やコンビニ納付などもできます。
住民税は、確定申告の情報を下に、それぞれの市区町村が税額を計算し、6月以降に納付書を送ってきます。サラリーマンであれば、勤務先事業所に納付書が送られ、12回に分割して給与所得から天引きして事業所が納める(特別徴収)に設定されているケースが大半となるでしょう。
なお、特別徴収ではなく自分で納める(普通徴収)に変更することも可能です。普通徴収であれば、通常は4回の分割払いになります。
2-5.確定申告で注意したいポイント
確定申告の前提となる不動産所得の帳簿作成や決算は、簿記や税法の知識が必要となる複雑で手間のかかる手続きです。
初心者の方や自信のない方は、帳簿作成や手続きが簡単な白色申告から始めることを検討してみましょう。白色申告の場合、不動産所得の帳簿は、一年間の収入金額や必要経費の明細内容が、取引ごとに整然かつ明瞭に記録されているものであれば、特に法定の形式はありません。
そのため、エクセル等で作成することも可能であり、簿記の知識がなくても比較的容易に作成することができます。
また、青色申告をおこなう際は、事前に青色申告承認申請書を提出することが条件になります。青色申告承認申請書の提出期限は、確定申告の期限より1年前の3月15日となっているため、早い段階から準備するようにしましょう。
まとめ
不動産投資をしている人であっても、給与の支払いを受けている場合、年末調整が必要です。給与支払者に忘れずに各種申告書および控除書類などを提出するようにしましょう。
不動産投資の確定申告は、収入・必要経費などの必要書類を集め、不動産所得の帳簿作成・決算をおこなった上で、所得税の確定申告書を作成・提出し、最後に納税、という流れになります。
確定申告で特典の多い青色申告ですが、複式簿記による帳簿作成が必要になり、事前に届出が必要になるので注意が必要です。難しく感じられる場合は、簡便な作業で済む白色申告から始めてみるのも良いでしょう。
詳細な判断に迷ったときや、実際に確定申告をおこなうときは、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。
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佐藤 永一郎
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