不動産投資を始めて、開業届を出すべきかどうか、悩んでいる方もいらっしゃるかと思います。
しかし、開業届は、所得税制上、一定の条件を満たす場合に提出しなければならないものであり、納税者が提出の要不要を選ぶ性質のものではありません。開業届を提出する必要があるかどうか、まずは条件に合致しているか確認することが大切です。
本記事では、開業届を提出すべき基準となる事業的規模と、個人事業主となるメリットについて解説します。
※記事内の税金についての説明などは2022年4月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 開業届と不動産投資の事業的規模との関係
1-1.開業届とは
1-2.不動産投資の業務的規模と事業的規模 - 不動産投資の開業届を提出するメリット・デメリット
2-1.不動産投資の開業届を提出して個人事業主となるメリット
2-2.不動産投資の開業届を提出するデメリット - まとめ
1.開業届と不動産投資の事業的規模との関係
開業届は、所得税制上、不動産の貸付けが事業的規模とそうでない場合では取扱いが異なることと関連しています。不動産賃貸業の開業届が事業的規模とどのように関連するのかについて、みていきましょう。
1-1.開業届とは
開業届とは、不動産賃貸業の開業を管轄税務署に届け出ることをいいます。
「個人事業の開業・廃業等届出書」という書類に、不動産賃貸業を開始した旨を記載して、事業開始から1カ月以内に管轄税務署に届出ます。提出期限は1カ月以内となっていますが、提出しなかったり提出が遅れた場合であっても特に罰則はありません。
開業届を提出するには、事業的規模の不動産の貸付けを開始したことが条件になります。
1-2.不動産投資の業務的規模と事業的規模
開業届の提出条件となる事業的規模とは、どのような内容で、何のために区分されているのかをみて行きましょう。
事業的規模とは、不動産の貸付けが事業として行われているかどうかが焦点となります。国税庁によると、「社会通念上事業といえる規模かどうかによって実質的に判断する」とされていますが、おおむね、5棟10室以上の規模であることが目安となっています。(※参照:国税庁「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」)
社会通念上事業といえる規模かどうか、というのは、自己の計算と危険における遂行性、営利性、継続性などを総合的に考慮して判断するとされています。
そもそも、不動産の貸付けを業務的規模と事業的規模に区分したのは、資産損失について、原則は必要経費不算入であるものの、事業用のものは必要経費に算入することとしたことが背景にあります。
なお、事業的規模に満たない程度の業務用資産の損失については、家事上の出費とみなされ、以前は一切を必要経費に算入できないものとされていました。(※参照:国税庁「所得税法及び法人税法の整備に関する答伸(昭和38年12月)」)
不動産の貸付けは、不動産の運用によって生ずるものです。資産損失に代表されるように、事業的規模に満たない不動産の貸付けにかかる経費は、家事上の出費という性質を併せ持つ傾向があることから、区分するようにしているといえるでしょう。
2.不動産投資の開業届を提出するメリット・デメリット
開業届を提出して、不動産賃貸業をおこなう個人事業主になるメリットはどのような点があるのでしょうか。デメリットはあるのでしょうか。主に所得税制上の取り扱いに焦点を当ててみていきましょう。
2-1.不動産投資の開業届を提出して個人事業主となるメリット
開業届を提出して個人事業主となるメリットとして、次のような点が挙げられます。主に、事業的規模の不動産の貸付けとなった場合の、所得税制上のメリットになります。
- 事業専従者控除および青色専従者給与を必要経費に算入できる
- 青色申告特別控除額が55万円(一定の場合65万円)になる
- 期間対応の必要経費について算入の幅が広がる
- 不動産投資ローンを受ける際に評価されやすくなる
事業専従者控除および青色専従者給与を必要経費に算入できる
不動産の貸付けが事業的規模になると、事業専従者控除および青色専従者給与を必要経費に算入することができます。
納税者と生計が同一の配偶者等の親族に対して支払う給与は、原則として必要経費にならないものの、一定の条件を満たす場合には、例外的に必要経費に算入することが可能です。
事業専従者控除は定額を必要経費に算入し、青色専従者給与は、予め届け出た金額・業務内容の範囲内で支給されたものを算入する制度となります。
青色申告特別控除額が55万円(一定の場合65万円)になる
青色申告特別控除は、青色申告の申請をおこなって、所定の帳簿を備え付けている納税者の不動産所得または事業所得から最高55万円を控除する制度です。
正規の簿記の原則に基づいた帳簿を作成している場合は55万円(一定の場合65万円)、簡易帳簿による場合は10万円となります。不動産の貸付けが事業的規模になることが、55万円控除の条件の一つとなっています。
期間対応の必要経費について算入の幅が広がる
所得税法上必要経費として認められる経費には、収入を得るために直接要した費用と、その年に生じた業務上の費用の2種類があります。
不動産所得の収入は、不動産を運用して生じる収入であり、収入を得るために直接要した費用は多くありません。特に、事業的規模に満たない場合、上述したように、経費に家事費が混入することが多く、必要経費に算入することはかなり制限されるといえるでしょう。
事業的規模となれば、収入の発生した年の生じた業務上の費用が認められる傾向が大きくなり、必要経費算入の幅が広がります。
不動産投資ローンを受ける際に評価されやすくなる
「開業届」を提出して、不動産賃貸業を個人事業主としておこなっているということは、不動産投資の実績があるということです。
不動産投資の実績は、不動産投資ローンを受ける際の審査においてプラスに評価されやすくなるでしょう。ただし、不動産の資産価値をローンの残債が大幅に上回るような状態になっておらず、不動産賃貸業で黒字が発生している必要があります。
2-2.不動産投資の開業届を提出するデメリット
不動産投資の開業届を提出する主なデメリットは、不動産が事業的規模となり、会計・税制上の義務や手間が増えてしまうということが挙げられます。本業のある方が副業として不動産投資を行っているのであれば、煩雑に感じられるポイントと言えるでしょう。
しかしながら、上述してきたように不動産投資が事業的規模になると、所得税制上は「開業届」を提出すべきものとして扱われます。すなわち、「開業届」は当然に提出すべきであり、「開業届」提出の問題は、本質的には不動産投資が事業的規模であるかどうかということになります。
そのため、開業届を出さない、特に青色申告をしたくない、ということであれば不動産投資を事業的規模まで拡大しないようにする必要があります。こちらの方法を取った場合、開業届を出す必要はなくなりますが、税制上のメリットは少ないという点に注意しましょう。
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なお、不動産投資の会計上の手間は会計ソフトを活用してしっかりと記帳を行ったり、不動産投資の税制に詳しい税理士へ相談することで、税務リスクや確定申告作成の手間を省略することができます。これらの費用も経費として計上可能なため、活用を検討されてみると良いでしょう。
まとめ
不動産投資が事業的規模になったら、所得税制上、不動産賃貸業をおこなっているとみなされます。管轄税務署に「開業届」を提出するようにしましょう。
事業的規模になると、所得税制上、専従者給与を必要経費に算入できるなどの様々なメリットがあります。事業的規模まで拡大すると様々な手間がかかる面もありますが、専門家への相談も検討しながら、効率よく運用できるよう工夫をされてみると良いでしょう。
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佐藤 永一郎
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