不動産投資で家賃収入がある場合、毎年、2月16日から3月15日までに所得税の確定申告をおこなう必要があります。
税制上のメリットの多い青色申告で確定申告を検討しているものの、手順・必要書類が分からずに先送りになっている、という方は多いのではないでしょうか。また、青色申告にはデメリットや税制上のリスクもあるため、注意しながら進めて行くことが大切です。
本記事では、不動産所得の確定申告で青色申告をする手順と必要書類、青色申告のメリット・デメリットについて解説していきます。
※記事内の税制内容は2022年4月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 不動産投資の青色申告の手順と必要書類
1-1.青色申告の要件を確認し、青色申告承認申請書を提出する
1-2.不動産所得の帳簿を作成し決算をおこなう
1-3.所得税の確定申告書の必要書類を準備する
1-4.所得税の確定申告書を作成・提出する
1-5.所得税・住民税を納税する - 不動産投資で青色申告をするメリット
2-1.青色申告特別控除の適用を受けることができる
2-2.青色事業専従者給与を必要経費に算入できる
2-3.純損失の3年分繰越しと前年分繰戻しができる - 不動産投資で青色申告をするデメリット
3-1.青色申告承認申請書の事前提出が必要
3-2.青色申告を継続するためには帳簿作成の手間がかかる - まとめ
1.不動産投資の青色申告の手順と必要書類
不動産投資で発生する家賃収入は、不動産所得として税務署に確定申告をおこない、所得税及び住民税を納める必要があります。
青色申告による確定申告の手順は、まず青色申告の申請をおこない、不動産所得の帳簿作成をして年末に決算をおこないます。決算後は必要な書類をそろえ、他の所得と合算して所得税を計算し、確定申告をした後に税金を納める、という流れになります。
以下、詳しい手順・必要書類をそれぞれ解説します。
1-1.青色申告の要件を確認し、青色申告承認申請書を提出する
不動産所得について所得税の青色申告をおこなうには、正規の簿記の原則に基づいた帳簿(複式簿記)作成をすることが原則になります。
55万円の青色申告特別控除の適用を受けるには、不動産所得が事業的規模(5棟10室以上が目安)であることも必要になります。(※参照:国税庁「青色申告特別控除」)
ただし、単式簿記による帳簿(現金出納帳、収入帳、経費帳、固定資産台帳)作成も簡易的なものとして認められています。少なくとも、青色申告の条件となる簡易帳簿を作成できるように準備しましょう。
その上で、青色申告の適用を受けるには、「青色申告承認申請書」を提出して承認を得ることが必要になります。提出期限は、青色申告によって確定申告をしようとする年の3月15日となっています。新規開業の場合は、事業開始の日から2カ月以内が期限となります。
※出典:国税庁「青色申告制度」
1-2.不動産所得の帳簿を作成し決算をおこなう
青色申告の適用を受けるには、最低限、簡易帳簿(現金出納帳、収入帳、経費帳、固定資産台帳)の作成をおこない、日常的に取引を記録する必要があります。
青色申告55万円控除の適用を受ける場合には、複式簿記による帳簿作成をおこなう必要があります。上述の帳簿に加えて、仕訳帳と総勘定元帳の作成をおこなっていきましょう。日常的におこなう帳簿作成を、一年間の取引を集計する決算によって完成させ、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表を作成します。
簡易帳簿の作成と決算
不動産所得の簡易帳簿を作成して決算をおこなう場合、青色申告の届出を提出することで、不動産所得から10万円を控除することができます。簡易帳簿の種類については業態によって異なりますが、標準的な簡易帳簿は下記4種類のことを指します。
- 現金出納帳
- 収入帳
- 経費帳
- 固定資産台帳
現金出納帳は不動産貸付用の現金の出し入れの状況を取引順に記載する帳簿です。現金で支出した必要経費を、領収書等から現金出納帳に記録していきます。家賃収入が預金口座に入金される場合、預金出納帳を作成して記録していきます。口座引落となっている必要経費は、預金出納帳に記録します。
収入帳には、家賃収入を取引ごとに記載します。入金ベースではなく、賃貸借契約ベースで未収家賃も記載していきます。
経費帳は、不動産の貸付けに関する必要経費を、必要経費の科目ごとに分けて記載、集計する帳簿になります。
固定資産台帳は、不動産貸付用の建物や附属設備などの取得費用を、減価償却費として各期間の必要経費に配分していく計算をする帳簿になります。
決算では、未収家賃や未払経費、減価償却費の計上をおこなってから、一年分の簡易帳簿を集計して、収支内訳書や青色申告決算書に転記していくことになります。簡易帳簿による場合は損益計算書の作成のみとなり、貸借対照表は作成しません。
複式簿記による帳簿の作成と決算
不動産所得の帳簿を複式簿記によって作成して決算をおこなう場合、青色申告の届出を提出することで、不動産所得から55万円を控除することができます。
複式簿記とは、取引を、現金と資産の増減という二つの側面(貸方と借方)から記録することで、網羅性・検証可能性・秩序性を備えた帳簿を作成する方法です。正規の簿記の原則を満たす条件でもあります。
作成する帳簿としては、上記の簡易帳簿に加えて、仕訳帳と総勘定元帳になります。仕訳帳とは、すべての取引を日付順に、二つの側面から記録した帳簿です。
総勘定元帳とは、すべての取引を科目ごとに並べて集計した帳簿です。収入、必要経費、資産、負債などのすべての項目ごとに作成することになります。決算でおこなう集計の調整は、簡易帳簿の場合と基本的には同様です。
これらの手間を考えると、複式簿記による帳簿を作成するには会計ソフトを利用することを検討してみましょう。
会計ソフトには、、日々の記帳から複式簿記による帳簿作成をおこない、確定申告書の作成までを自動でおこなうことができる「freee」や、従来からデスクトップ型の会計ソフトを開発、販売して来た実績がある「やよいの青色申告」などがあります。
複式簿記による決算では、貸借対照表と損益計算書という2種類の決算書を作成しますが、これらの会計ソフトを利用すると、帳簿の作成と同時に決算をおこなった集計結果について、所得税の確定申告で提出する青色申告決算書の様式に返還して出力することが可能です。
ただし、複式簿記による決算をおこなうには、経費の仕分けについて簿記の専門知識が必要になります。税務についての知識が全くない状態であれば、税理士などの専門家に任せることも検討されてみると良いでしょう。
【関連記事】不動産投資に役立つおすすめの会計ソフト・税務サービスは?5つ紹介
1-3.所得税の確定申告書の必要書類を準備する
青色申告で所得税の確定申告をおこなうには、確定申告書(B様式)と収支内訳書もしくは青色申告決算書を提出することになります。これらの書類を作成するために必要な書類を整えます。(※参照:国税庁「帳簿の記帳のしかた−不動産所得者用−」)
環境については、確定申告の手続きの一部を自分でおこなう場合に準備が必要になります。帳簿の作成を自分でおこなうのであれば、会計ソフトとパソコン、ネット環境が必須でしょう。会計ソフトで帳簿を作成すると、税務署に提出する書類まで一通り作成することが可能です。
収支内訳書もしくは青色申告決算書に転記するための財務諸表
単式簿記あるいは複式簿記による帳簿を下に作成された財務諸表から、所得税の確定申告書の収支内訳書もしくは青色決算書を作成して準備します。
会計ソフトで帳簿を作成した場合、収支内訳書もしくは青色決算書も自動作成できるケースが多いでしょう。
他の所得や所得税の控除に関する書類の収集
所得税の確定申告書(B様式)を作成するために、給与所得の源泉徴収票などの不動産所得以外の収入明細が必要です。
また、所得控除に関する書類として、医療費の領収書や寄附金の領収書などが必要になります。なお、社会保険料や生命保険料、地震保険料も控除対象になりますが、1か所の給与所得しかないサラリーマンであれば年末調整で調整済なので、源泉徴収票を用意すれば充分です。
会計ソフト、ネット環境などの準備
上述した帳簿は、会計ソフトを利用することで作成可能です。会計ソフトにはPCにインストールするタイプと、ウェブブラウザで起動・操作するクラウドタイプがあります。
小規模の不動産所得であれば、ソフトを使わずにエクセルで帳簿を作成して集計することも可能でしょう。いずれにしても、帳簿作成を自分でおこなうのであればPCとネット環境が必要になり、会計ソフトも可能であれば利用したいと言えます。
なお、e-Taxで電子申告を行うと青色申告の65万円控除を受けることが可能です。この場合、マイナンバーカードとカードリーダーも必要になります。
1-4.所得税の確定申告書を作成・提出する
不動産所得の決算書の作成が終了したら、所得税の確定申告書(B様式)を作成します。
確定申告書は、決算で集計した不動産所得の金額や給与所得の金額を集計し、社会保険料控除、医療費控除などの各種控除の金額を控除して、所得税のかかる所得を算定し、実際の所得税額の計算をおこなう書類です。ここで適用できる控除については、後述します。
通常は、会計ソフトや税務ソフトに情報を入力して書類作成を行われますが、自身で書類を作成する場合には所得税の知識が必要になります。
すべての書類を作成したら、管轄の税務署に提出します。提出方法は、直接持参するか、郵送、あるいは電子申告であればインターネットで送信することによって提出します。所得税の確定申告書等の提出期限は、翌年の3月15日となります。
1-5.所得税・住民税を納税する
書類の提出と納税は別々におこないます。所得税は、納税の期限が3月15日になっており、確定申告書等の提出期限と同じです。現金で支払う場合は、納付書を用いて金融機関等で納めます。口座振替の手続きをすれば、口座振替も可能です。そのほか、クレジットカード納付やコンビニ納付などもできます。
住民税は確定申告の情報を下にそれぞれの市区町村が税額を計算し、6月以降に納付書が送られてきます。
サラリーマンであれば、特別徴収といって、勤務先企業に納付書を送ってもらい、12回に分割して給与所得から天引きして企業に納めてもらっている方が多いでしょう。なお、普通徴収といって住所に納付書を送ってもらい自分で納めることも可能です。普通徴収であれば、通常は4回の分割払いになります。
2.不動産投資で青色申告をするメリット
不動産投資で青色申告をするメリットとしては、次の3点が挙げられます。
- 青色申告特別控除の適用を受けることができる
- 青色事業専従者給与を必要経費に算入できる
- 純損失の3年分繰越しと前年分繰戻しができる
不動産所得は、「不動産収入―必要経費」によって算出されます。税金は収入総額から必要経費を控除した後の所得に対してかかりますが、青色申告をおこなうことで所得から青色申告特別控除を差し引いて税額計算をすることができます。
その他、青色申告には、青色申告特別控除以外にも税制上のメリットがあります。これらのメリットについて、それぞれ詳しい内容や適用条件について見て行きましょう。
2-1.青色申告特別控除の適用を受けることができる
青色申告特別控除は、青色申告者の所得金額から55万円を控除することができる特典です。55万円の控除を受けるには、正規の簿記の原則(複式簿記)により帳簿を作成していることが原則となります。また、不動産の貸付けが事業的規模(5棟10室以上が目安)である必要があります。(※参照:国税庁「青色申告特別控除」)
55万円控除の条件を満たしている青色申告者は、電子帳簿保存をおこなうか、電子申告をおこなうことで、所得金額から65万円の控除をすることが可能になります。
簡易帳簿の作成により青色申告をおこなっている場合や、不動産の貸付けが事業的規模に満たない場合などは、青色申告特別控除は10万円となります。なお、所得金額がこれらの控除額に満たない場合には、控除額はその所得金額が限度となります。
2-2.青色事業専従者給与を必要経費に算入できる
青色事業専従者給与は、生計を一にしている配偶者その他の親族に支払った給与の額を、必要経費に算入できる特典です。
一定の条件を満たす青色事業専従者に対し、その給与を支払う年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出し、その届出書の記載内容に基づいて給与を支払った場合、必要経費に算入することができます。
青色事業専従者となるには、青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であり、年齢が15歳以上であること、その年を通じて6月超その青色申告者の事業に従事していることが条件となります。
なお、不動産の貸付けが事業的規模に満たない場合、青色事業専従者給与の適用を受けることはできません。
2-3.純損失の3年分繰越しと前年分繰戻しができる
その年に純損失(損益通算後の損失額)が生じている場合、青色申告者はその純損失の金額を、翌年以後3年間繰越して総所得金額から控除することができます。ただし、純損失の生じた年から、それ以降連続して確定申告書を提出していることが条件となります。
青色申告の適用を受けていない場合は、純損失の一部しか繰り越すことができません。また、前年分についても青色申告書を提出している場合、純損失を前年分に繰戻して控除し、還付請求をすることも可能です。
※出典:国税庁「所得税法(令和4年度版)」
3.不動産投資で青色申告をするデメリット
不動産投資で青色申告をするデメリットとしては、「青色申告承認申請書」を提出するにはかなり前から事前準備が必要であること、青色申告を継続するには帳簿作成の手間がかかること、が挙げられます。
3-1.青色申告承認申請書の事前提出が必要
青色申告の適用を受けるには、適用を受けようとする年の確定申告期限の前年3月15日までに「青色申告承認申請書」を提出しなければなりません。
青色申告の適用を受けるための準備を始める時期によっては、青色申告の適用が翌年以降となってしまうという点はデメリットといえます。
3-2.青色申告を継続するためには帳簿作成の手間がかかる
青色申告の適用を受けるには、正規の簿記の原則に基づく帳簿やこれに代わる簡易帳簿を作成する必要があります。特に、55万円控除の青色申告特別控除の適用を受けるには、複式簿記による帳簿作成が必須となるため、帳簿作成にかかる手間は大きいといえるでしょう。
また、国税庁では、税務調査などで帳簿書類を提示しなかった場合や、帳簿書類の備え付け、記録・保存について税務署長の指示に従わなかった場合、青色申告を取り消すことがあるとする運営指針を公表しています。
このように、青色申告の適用を継続するためには、帳簿書類の作成や備え付けについて、税務職員から指示があった場合は対応しなければならず、それに伴う手間が発生する可能性がある点はデメリットといえるでしょう。
まとめ
不動産投資で青色申告の適用を受ける手続きは、「青色申告承認申請書」から始まります。提出期限を確認し、事前準備をおこなうようにしましょう。
青色申告の適用を受けるには、一定の帳簿作成をおこなう必要があります。特に、青色申告特別控除の55万円控除の適用を受けるには、複式簿記による帳簿作成が必須となり、簿記の専門知識がないと難しいことも考えられます。
青色申告による確定申告の際には、これらの帳簿に基づき、不動産所得の決算をおこないます。他の所得や所得控除の資料を収集し、課税所得を計算し税額を確定、納付します。
税法の取り扱いは、たとえば一つの領収書の経費計上をとってもその可否の判断が分かれることもあり、複雑であるといえます。税制改正も毎年おこなわれるため、前年と同様に手続きをしたものが今年は通用しない、ということもありえます。
詳細な判断に迷ったときや、実際に確定申告をおこなうときは、税理士などの専門家に相談することを検討されてみると良いでしょう。
佐藤 永一郎
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