不動産相続、配偶者の死亡時の相続手順は?配偶者居住権も解説

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配偶者が亡くなった時、不動産を所有している場合はどのように相続を行ったら良いのでしょうか?

不動産は分割や評価が難しく相続時に悩まれる方も少なくありません。あらかじめ手順や必要書類をおさえておくことで、手続きがスムーズになる可能性が高くなります。

また、2020年4月に施行された「配偶者居住権」制度により、不動産の分与割合が変わってきますので、同時に確認しておきましょう。

目次

  1. 配偶者が亡くなった時の不動産相続の手順
    1-1.遺言書の有無を確認、財産の調査を行う
    1-2.不動産の相続で必要となる書類
    1-3.法定相続人・法定相続分を確認
    1-4.遺産分割の協議・協議書の作成
    1-5.相続による所有権移転の登記
    1-6.相続税の申告・納付
  2. 配偶者居住権とは
  3. まとめ

1.配偶者が亡くなった時の不動産相続の手順

相続の際はまず、遺言書の有無を確認し、遺された財産の調査を行います。遺産の中に不動産がある時は手続きの際に必要となる書類を揃えておきましょう。

遺言書がある場合は遺言書の内容通りに相続を行い、遺言書が無い場合は法定相続人が話し合い分与方法や割合を決めていきます。

話し合った内容を公証役場で遺産分割協議書として作成し、法務局で相続として所有権移転登記の手続きを行います。この時、遺産の評価額が基礎控除を上回る場合は相続税を支払う必要があります。

1-1.遺言書の有無を確認、財産の調査を行う

まずは亡くなられた配偶者(被相続人)が遺言書を残していたかを確認しましょう。

遺言書の確認

遺言書がある場合は、基本的に遺言書通りに遺産を分割します。遺言書には被相続人が自筆で記した「自筆証書遺言」と公証役場で作成した「公正証書遺言」が存在します。

自筆証書遺言は要件を満たさず無効になってしまう可能性や変造・偽造の可能性がありますので、相続の開始と共に家庭裁判所の検認が必要となります。自筆証書遺言が見つかった時は、家庭裁判所で検認の手続きを行いましょう。

財産の調査

続いて被相続人が所有していた財産の調査を行います。

財産には不動産や預貯金、生命保険等、様々な種類があり、場合によっては負債が見つかるケースもあります。

不動産は権利書や登記簿(登記識別情報)、固定資産税評価証明書等で土地や建物を特定・把握しておく必要があります。正確な評価額を知りたい方は不動産鑑定士に評価を依頼しましょう。

被相続人の財産をすべて把握していない時は、取引のあった金融機関・不動産会社に問い合わせてみましょう。「あらかじめ聞いている」というケースでも、被相続人が伝え忘れている可能性があります。念のため、問い合わせてみると良いでしょう。

1-2.不動産の相続で必要となる書類

不動産の相続で必要となる書類は下記の通りとなります。

  • 相続人全員の戸籍謄本(被相続人の死亡日以降)
  • 被相続人の戸籍謄本(出生~死亡まで全ての事項が記載されているもの)
  • 不動産を相続する方の住民票の写し(又は所有権に関する被相続人名義の登記済証)
  • 遺産分割協議書
  • 不動産の登記事項証明書
  • 不動産の固定資産評価証明書

法定通りに相続する場合や協議による遺産分割の際は相続人の印鑑証明書が必要となり、遺言書がある場合は遺言書の原本、検認調書の提出が求められます。

戸籍謄本や住民票は管轄の役所、不動産の登記事項証明書は不動産の所在地を管轄する法務局で書類請求の手続きを行いましょう。

遺産分割協議書は相続人全員が遺産の分割について話し合った後、公証役場で作成します。

1-3.法定相続人・法定相続分を確認

遺産を相続できる権利を持つ法定相続人を確認しておきましょう。法定相続人の範囲と相続順位は以下の通りになります。

  1. 配偶者:常に相続人となる
  2. 子供や孫:被相続人の相続開始以前に子供が死亡している時は孫
  3. 父母や祖父母:被相続人に子供や孫がいないとき(相続開始以前に父母が死亡している時は祖父母)
  4. 兄弟・姉妹:被相続人に子供や孫、父母や祖父母がいないとき(相続開始以前に兄弟・姉妹が死亡している時は甥・姪 )

法定相続分の規定は以下の通りです。下記の法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分となり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありません。

相続人 法定相続分
配偶者と子供 配偶者:1/2
子供(2人以上のときは全員で):1/2
配偶者と直系尊属(父母・祖父母) 配偶者:2/3
直系尊属(2人以上のときは全員で):1/3
配偶者と兄弟姉妹 配偶者3/4
兄弟・姉妹(2人以上のときは全員で):1/4 

※国税庁「相続人の範囲と法定相続分」を参照

子供・父母や祖父母・兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは原則均等に配分することになります。ただし、後に述べる「配偶者居住権」により、被相続人所有の建物に配偶者が同居している場合、配偶者の分与方法や割合が変わりますのでご注意ください、

1-4.遺産分割の協議・協議書の作成

遺言書が無い場合は、遺産分割の協議を行います。相続人全員で被相続人の財産をどのように引き継ぐかを話し合います。

相続人に未成年者とその親がいる場合は、父母が子供との間で「お互いに利益が相反する行為」を行うことになりますので、「特別代理人」を選定する必要があります。家庭裁判所に代理人の申し立てを行います。(裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」を参照)

不動産の分割

不動産の場合は分割方法が「現物・代償・換価・共有」の4つとなります。

「現物」は不動産を複数に分割して現物で分割・所有する方法、代償は相続人の一人が不動産を相続し他の相続人には現金や有価証券等、不動産の評価額相当の財産を分与する方法です。

また、不動産を売却した後現金化して分割する「換価」、相続人が共同名義で不動産を所有する「共有」という分割方法となります。遺言がある場合は遺言通りに配分しますが、遺言が無い場合、不動産の分割や配分を均等に行うのは非常に困難です。

不動産を分割する方法としての難易度は、換価が一番分割しやすく、次いで代償となります。

一方、現物と共有は、不動産相続において登記が煩雑になり、後の活用や売却が難しくなるケースがあります。難易度が高く、トラブルに発展するケースもありますので慎重に協議しましょう。

【関連記事】不動産の相続、相続人が複数いる場合の分割方法は?4つの方法を紹介

被相続人名義の不動産に配偶者が住んでいる場合

被相続人名義の不動産に配偶者が住んでいる場合、配偶者居住権を含めて話し合いましょう。

配偶者居住権に関しては、次の項で詳細をお伝えしますが、不動産を「配偶者居住権」と「負担付きの所有権」に分けることで、被相続人の配偶者の遺産の分与割合が多くなる制度です。

相続人同士で話がまとまらない場合は家庭裁判所に遺産分割の申し立てを行う事になります。

遺産分割の協議が終わったら、協議の内容・結果を「遺産分割協議書」として作成しておきます。遺産分割協議書は相続税の申告や不動産の登記において必要となり、相続人全員が署名・押印を行い提出します。

1-5.相続による所有権移転の登記

相続人が不動産を引き継ぐ手続きを行います。不動産は管轄の法務局で所有権の移転登記を行いますが、遺言書の有無や遺産の分割方法により提出する書類の様式が異なりますので注意しましょう。

それぞれの申請書は法務局「不動産登記の申請書様式について」からダウンロードする事が可能です。印刷した後必要事項を記入しましょう。

不動産の所在地を管轄する法務局の窓口、または申請書を郵送する事で申請の手続きが可能です。作成した申請書に上記で挙げた必要書類を添付して手続きを行いましょう。

なお、所有権の移転登記は司法書士に委託することが可能です。登記費用とは別途の報酬を支払う必要がありますが、自身での対応が難しい場合には依頼を検討してみましょう。

1-6.相続税の申告・納付

相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告・納付を行います。相続税は以下の基礎控除額を超える時に発生します。

基礎控除額:3000万円+(600万円×法定相続人の数)

基礎控除以外の控除としては配偶者控除、未成年者控除、障害者控除等があり、配偶者に関しては下記のいずれか多い方まで税金が控除となります。

  • 1億6千万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

相続税の申告が必要か不要かで悩む際は、国税庁「相続税の申告要否判定コーナー」を参考にしながら行政書士・税理士等の専門家に相談しましょう。

2.配偶者居住権とは

「配偶者居住権」は、2020年4月に新設された制度で、配偶者が相続を開始した時に被相続人(亡くなられた方)が所有する建物に住んでいた場合、住居を無償で使用することができる権利です。被相続人の配偶者が生活の安定を図るための制度となります。(※法務省「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策(配偶者居住権)」を参照)

従来の制度では配偶者が居住していた建物を取得する場合、相続する財産の中に住居も含まれ、その分他の財産を受け取れなくなってしまうという問題がありました。

しかし、配偶者居住権の創設により、建物の権利を「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分け、配偶者が「配偶者居住権」の分を取得し、配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得することができるようになりました。

残された配偶者が相続協議によって配偶者居住権を取得する場合には、自身の相続分(遺産分割の際の取り分)の中から取得することになります。配偶者居住権は、評価額を低く抑えることが可能であるため、配偶者は自宅に住み続けながら、預貯金といった他の財産もより多く取得できるようになります。

なお、遺産の分割がされるまでの一定期間、建物に無償で住み続けることができる「配偶者短期居住権」という制度もあります。

配偶者居住権では、相続により自宅を誰が相続するかが確定した日(その日が相続開始時から6か月を経過する日より前に到来するときには、相続開始時から6ヶ月を経過する日)まで、配偶者は現在の住居に住むことができます。

配偶者居住権の登記を行いたい場合には、建物の所在地を管轄する法務局で登記申請を行います。

3.まとめ

今回は、配偶者の死亡時の相続手順について解説しました。

不動産の相続では遺言書が無い場合、遺産分割の協議で意見がまとまらないケースがあります。「現物・代償・換価・共有」といった分割方法を始め、分割割合でも意見が食い違うと精神的な負担が生じることもあります。不動産は均等な分割が難しい資産であるため、慎重に相続方法を検討することが大切です。

また、2020年4月に新設された配偶者居住権を利用することで、被相続人の配偶者が生活するうえで必要な財産の確保に役立てることができます。それぞれの手順と対策を確認し、相続を行っていきましょう。

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田中 あさみ

経済学部在学中に2級FP技能士(AFP)の資格を取得。ライターとして不動産投資を含む投資や年金・保険・税金等の記事を執筆しています。医療系の勤務経験がありますので、医療×金融・投資も強みです。HEDGE GUIDEでは不動産投資を始め、投資分野等を分かりやすくお伝えできるよう日々努めてまいります。