不動産売却益の計算方法は?適用したい税控除と特例も7つ紹介

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不動産の売却益が発生した場合、譲渡所得税及び住民税を申告納付する必要があります。売却益と譲渡所得税の計算および申告は、自分で行わなくてはいけません。

税額は多額になることも多いため、売却益と税金の計算は正確におこないたいところです。また、譲渡所得税の計算手続きでは特別控除などの特例があり、それを利用することで納める税金が大きく軽減される場合があります。売却益や譲渡所得税の計算の仕組み、特例についての正しい知識を備えておくことが大切であるといえるでしょう。

この記事では、不動産売却益にかかる譲渡所得税・住民税について説明したうえで、不動産売却益や譲渡所得税の計算手順、特別控除などの特例について解説します。

※記事内の税金・税率などは2021年12月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. 譲渡所得税・住民税が課税される不動産売却益
  2. 不動産売却益の計算方法
    2-1.取得費の計算方法
    2-2.取得費が不明な場合
    2-3.売却費用の計算方法
  3. 不動産売却に関する譲渡所得税の特別控除と特例
    3-1.マイホームの特別控除と買い換え特例
    3-2.売却損が生じた場合の損益通算と繰越控除の特例
  4. 相続した不動産の売却と利用できる特例
    4-1.相続税の取得費加算
    4-2.空き家の特別控除
  5. まとめ

1.譲渡所得税・住民税が課税される不動産売却益

不動産を売却して売却益が生じた場合、翌年以降、その売却益に対して譲渡所得税と住民税が課されます。

不動産の売却益は、納税者が計算をして売却した年の翌年2月16日から3月15日までに確定申告をおこなう必要があります。不動産の譲渡所得税は分離課税という方式を採用しており、総合課税の所得(給与所得、事業所得、不動産所得など)とは、分離して所得や税額を計算するという特徴があります。

住民税は、譲渡所得税の確定申告の計算に基づいて、各市区町村が翌年6月頃に決定し、賦課してきます。それぞれの税率は、売却した不動産の保有期間に応じて下表のようになっています。

  • 長期譲渡所得:所得税15%・住民税5%
  • 短期譲渡所得:所得税30%・住民税9%

建物の所有期間が5年以下の場合には短期譲渡所得、5年超の場合には長期譲渡所得が適用されます。2037年までは上記所得税に復興特別所得税が加算されるため、短期譲渡所得は所得税と住民税を足して39.63%、長期譲渡所得は20.315%の税金が課されます。

2.不動産売却益の計算方法

譲渡所得税のかかる不動産売却益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。

譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除

譲渡価格は売却価格です。取得費は不動産を入手するのにかかった費用、売却費用は売却するときにかかった費用、と考えることができますが、それぞれ、含めることができる費用が限定されています。また、建物を売却したときは、減価償却費を取得費から差し引かなければなりません。

以下では、取得費と売却費用の計算方法について解説します。

2-1.取得費の計算方法

譲渡所得における取得費は、次のように計算します。

取得価格+取得の際要した費用+取得後の改良費-減価償却費(建物の場合のみ)

取得価格とは、購入時の価格や建物であれば建築費用になります。

取得費の際要した費用

取得の際要した費用は、取得の際に支出したもののうち、主に次のような費用に限定されます。

  • 仲介手数料・登記費用
  • 登録免許税・不動産取得税・印紙税
  • 立退料
  • 土地の造成費用
  • 測量費用
  • 所有権確保のための訴訟費用
  • 建物付き土地の建物取り壊し費用
  • 土地・建物利用開始前の借入利子
  • 購入契約時の違約金

取得後の改良費と減価償却費

取得後の改良費とは、物件の価値を高めるような費用になります。原状回復ではない大規模な修繕支出などが該当します。修繕費として不動産所得の経費に計上した金額を除きます。

建物を売却した場合は、取得費から減価償却費を差し引きます。減価償却費というのは、経年劣化によって目減りした価値部分です。減価償却費は、目的や構造によって償却率が決まっており、次のように計算します。

減価償却費=建物の取得費×0.9×償却率×経過年数

居住用建物の償却率は次のようになっています。ただし、賃貸などの事業用に供していなかった場合、法定耐用年数の1.5倍を用いるものとされています。

構造 耐用年数(法定の1.5倍) 償却率(法定の1.5倍) 
木造 22(33) 0.046(0.031)
軽量鉄骨 27(40) 0.038(0.025)
鉄筋コンクリート 47(70) 0.022(0.015)

2-2.取得費が不明な場合

購入時の売買契約書を紛失してしまったり、相続によって取得した先祖伝来の不動産であったりして、購入時の取得費が不明な場合もあります。その場合、売却価格の5%を取得費とできる概算取得費の制度があります。

しかし、これでは譲渡所得がかなり大きくなってしまい、実態にそぐわないということも考えられます。そのため、合理的な計算方法によって推計された取得費であれば、認められる可能性もあります。

たとえば、国税不服審判所の判断では、土地取得価格については市街地価格指数、建物取得価格については着工建築物構造別単価を用いることを認めたケースもあります。(※参照:国税不服審判所「(平12.11.16裁決、裁決事例集No.60 208頁)」)

ただし、これは一事例であり税務慣行とまでは言えません。取得費が不明な場合は、税理士に相談するなどして慎重に計算するようにしましょう。

2-3.売却費用の計算方法

売却する際に要した費用として、譲渡所得の計算に含めることができるのは、税務慣行上、次のようなものに限定されています。

  • 仲介手数料
  • 立退料
  • 土地の上にある建物の取り壊し費用
  • 売却に伴って生じた違約金

不動産の売却のために直接要した費用であり、維持または管理のための費用は含まれないので注意が必要です。

3.不動産売却に関する譲渡所得税の特別控除と特例

譲渡所得の計算において控除できる特別控除には、マイホームの3,000万円特別控除があります。特例には、買い換え特例と売却損が生じた場合の損益通算・繰越控除の特例があります。

3-1.マイホームの特別控除と買い換え特例

自分が居住していたマイホームを、住まなくなってから3年以内に売却した場合には、譲渡所得から3,000万円までの特別控除を受けることができます。

売却した年の前々年から、その年まで、マイホームの特別控除等の適用を受けていないことが条件となり、実質、3年に1度しか利用できません。なお、家屋を取り壊した場合であっても、取り壊してから1年以内に売買契約を締結した場合には適用できます。

マイホームの所有期間が10年を超えている場合、譲渡所得のうち6,000万円までは税率が次のように軽減されます。6,000万円をこえた部分については、長期譲渡所得の通常税率が適用されます。なお、この特例はマイホームの3,000万円特別控除と併用できます。

税目 軽減税率
所得税(復興所得税を含む) 10.21%
住民税 4%

この特別控除を受けた場合、3年以内に新たにマイホームをローンによって取得するときは、住宅ローン控除の適用が受けられないので注意しましょう。

マイホームの買い換え特例

マイホームを売却して、その売却価格よりも高い価格のマイホームに買い換えた場合、譲渡所得課税を繰り延べることができる特例があります。主な適用条件は次のようになっています。

  • 売却した人が10年以上住んでおり、所有期間が10年を超えていること
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 買い換える建物の床面積が50平米以上であり、土地の面積が500平米以下であること
  • 元のマイホームを、住まなくなってから3年以内に売却すること
  • 元のマイホームを売った前年から翌年までの3年以内に買い換えること
  • 買い換えたマイホームが築25年以内であること
  • 3年以内にマイホームの特別控除等の適用を受けていないこと

また、元のマイホームの売却額よりも新しいマイホームの取得額の方が安い場合、その差額のうち次の算式によって計算した部分が、譲渡所得として課税されます。

(旧マイホーム売却額[イ]-新マイホーム取得額[ロ])-(旧マイホーム取得費+譲渡費用)×[イ]-[ロ]/[イ]

※出典:国税庁「マイホームを売ったときの特例

事業用資産の買い換え特例

事業用資産を売却して、一定の事業用資産に買い換えた場合、売却利益の80%は譲渡所得課税を繰り延べることができます。賃貸用の土地建物もこの特例の対象となります。主な適用条件は、次のようになっています。

  • 元の事業用資産を10年超所有していること
  • 買い換え資産の面積が、元の資産の面積の5倍以内であること
  • 元の資産を売った前年から翌年までの3年以内に買い換えること
  • 買い換え資産を購入してから1年以内に事業用に利用すること

※出典:国税庁「事業用の資産を買い換えたときの特例

3-2.売却損が生じた場合の損益通算と繰越控除の特例

不動産売却によって損失が生じた場合であっても、不動産の譲渡所得は分離課税であり、原則として、総合所得課税の給与所得や事業所得、不動産所得などとは損益通算はできません。
しかし、一定のマイホーム売却によって生じた損失については、損益通算と繰越控除が認められる特例があります。

マイホームの買い換えの譲渡損失の損益通算と繰越控除

マイホームを売却して、新たなマイホームに買い換えた場合で、元のマイホームの売却によって損失が生じたときは、その譲渡損失を給与所得や事業所得などと損益通算できる特例があります。その年に控除しきれなかった部分の損失は、売却後3年間繰越控除ができます。主な適用条件は次のようになっています。

  • 売却した人が元のマイホームを5年超所有していること
  • 買い換える建物の床面積が50平米以上であること
  • 元のマイホームを、住まなくなってから3年以内に売却すること
  • 元のマイホームを売った前年から翌年までの3年以内に買い換えること
  • 新しいマイホームを購入してから1年以内に住むこと
  • 返済期間10年以上の住宅ローンを借りていること

※出典:国税庁「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

特定のマイホームの譲渡損失の損益通算と繰越控除

住宅ローンのあるマイホームを、住宅ローンを下回る価格で売却して損失が生じたとき、一定条件をみたす場合は、その譲渡損失を給与所得や事業所得などと損益通算できます。

その年に控除しきれなかった部分の損失は、売却後3年間繰越控除ができます。主な適用条件は、買い換えの譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例と同様ですが、売却時に売却価格が住宅ローン残高を下回っていることが条件になります。

※出典:国税庁「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

4.相続した不動産の売却と利用できる特例

相続した不動産の売却では、譲渡所得の計算上、取得費や所有期間について、被相続人が行った行為が引き継がれることになります。取得費は、被相続人が取得した価格を下に計算します。譲渡所得税の税率や特例の適用の基礎となる所有期間は、被相続人が所有していた期間が含んで算定します。

さらに、相続した不動産を売却した場合の譲渡所得税では、利用できる特例が2つあります。以下で詳細を説明します。

4-1.相続税の取得費加算

相続した不動産を売却した場合、その売却にかかる譲渡所得税の計算では、その不動産の相続で納付した相続税分を、取得費に加算できる制度があります。

ただし、この特例の適用を受けるには、その相続した財産を、相続日から3年以内に譲渡する必要があります。取得費に加算できる相続税額は、次のように計算します。

その者の相続税額×売却した財産の価額/(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)

※出典:国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

4-2.空き家に係る譲渡所得の特別控除

一定の条件に該当すると、相続した空き家を売却して利益が生じた場合、譲渡所得税の課税所得から3,000万円の控除を受けることができます。主な適用条件は、以下のようになっています。

  • 被相続人が一人で居住していたこと
  • 昭和56年5月31日以前築の一戸建てであること
  • 相続によって取得した人が、その土地建物を耐震リフォームするか、あるいは取り壊して相続日から3年以内に売却すること
  • 相続時から売却時まで空き家であること

なお、相続で取得した不動産に自分が居住した後売却した場合は、譲渡所得税のマイホーム特別控除の適用を受けることができます。

※出典:国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

まとめ

不動産の売却益には、譲渡所得税と住民税がかかります。譲渡所得税は、自分で計算して税務署に申告する必要があります。

譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。取得費の計算では、購入時の取得価格が不明であると多額の納税になるおそれがあります。可能な限り、購入時の契約書などを用意しておきましょう。

譲渡所得から差し引くことのできる特別控除も、該当する場合には利用を検討しましょう。損失が生じた場合にも、損益通算や繰越控除により税金を減額できる特例があるので確定申告をしておくとよいでしょう。

譲渡所得税の計算において判断に迷うときや、自分で申告することが難しい場合は、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。