故人が収益不動産を所有していて、相続人が複数いる場合、その収益不動産から生じる家賃や地代は、誰がどれくらい受け取ることになるのでしょうか。
相続人同士でのトラブルを避けるためにも、法的に受け取る権利のある部分については、しっかり受け取りたいといえます。
この記事では、相続人が収益不動産の家賃や地代を受け取ることができる権利と、スムーズに相続するための手順について解説します。
目次
- 収益不動産の家賃や地代は誰のもの?
1-1.相続開始から遺産分割協議まで
1-2.遺産分割協議成立後 - 収益不動産の相続手順
2-1.暫定的な管理者の決定・賃借人への連絡
2-2.収益不動産の残債等を確認
2-3.遺産分割協議で所有者を決定
2-4.登記名義の変更・賃貸借契約の引継ぎ - まとめ
1.収益不動産の家賃や地代の権利
収益不動産を所有していた故人の相続人が複数いると、遺産分割をしなければならず、その協議がまとまるまでに時間がかかることがあります。その間、収益不動産は複数の相続人のうち、誰のものか確定的でないことになります。
しかし、収益不動産からの家賃や地代は、その間にも発生し続けます。遺産分割協議成立までの家賃や地代が誰のものになるのでしょうか、また、管理や修繕にかかる費用は誰が負担すべきなのでしょうか。
以下では、相続開始から遺産分割協議までの権利について整理していきます。
1-1.相続開始から遺産分割協議まで
民法898条によると、相続開始から遺産分割協議が成立するまでは収益不動産は相続人全員の共有という扱いが原則になります。したがって、収益不動産から生じた法定果実である家賃や地代も共有ということになり、共有者は持分に応じた家賃や地代を取得する権利があるといえます。
また、その管理や修繕にかかる費用も共同で負担すべきということになります。ただし、遺産分割は相続開始のときにさかのぼって効力が生じる(民法909条)とされており、遺産分割協議が成立する前に共有財産から生じた家賃や地代などの利益も、分割確定後の持分に応じてさかのぼって分配するのか、という疑問が生じ得ます。
この問題については最高裁平成17年9月8日判決において、「相続開始から遺産分割決定までの間の賃料債権は遺産とは別個の財産であって、遺産分割の影響は受けず、共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得すると解される」としました。
つまり、遺産分割前の家賃や地代は、遺産分割の結果にかかわらず、共有の状態を前提に持分が決まるということになります。原則として、「各相続人が法定相続分の持分を受け取ることになる」といえます。
ただし、相続人全員の同意があれば、遺産分割の対象にすることも可能です。管理・修繕費用についても、原則通り、共同相続人が法定相続分の持分に応じて負担することになります。所得税の確定申告も、各相続人が法定相続分の不動産所得についてそれぞれ確定申告を行う必要があります。
1-2.遺産分割協議成立後
遺産分割協議が成立した後は、その遺産分割によって収益不動産の所有権を取得した相続人が、収益不動産から生じる家賃や地代の所有権も取得します。管理・修繕費用も収益不動産の所有者となった相続人が負担することになります。
収益不動産を複数の相続人同士で共有にした場合は、生じる家賃や地代も共有持分に応じて分割して受け取ることになります。また、収益不動産にかかる不動産所得の所得税確定申告も、所有者となった相続人が行うことになります。
2.収益不動産の相続手順
故人の所有していた収益不動産の家賃や地代は誰が受け取るのか、という点について、相続開始後遺産分割までと、遺産分割後で、法的な取扱いが異なることが分かりました。
それでは、このようなことを踏まえたうえで、収益不動産の相続手順について、ポイントを確認してみたいと思います。
2-1.暫定的な管理者の決定・賃借人への連絡
不動産賃貸業を運営している以上、暫定的な運営者が必要になります。収益不動産を所有している人が死亡した場合、遺産分割が決定していなくてもまずは暫定的な管理者を決めましょう。
管理・修繕についての相談窓口、家賃や地代の支払先が変更になる場合には、賃借人にもその旨を伝える必要があります。
管理会社が管理や修繕をおこなっている場合でも、家賃や地代の受取りや管理・修繕についての判断の窓口を決めておくことも検討しておきましょう。
2-2.収益不動産の残債等を確認
収益不動産は、金融機関の融資を利用して購入されるケースが多く、相続時に残債が残っていることも少なくありません。
金融機関との金銭消費貸借契約を確認し、残債がどれぐらいあるのか、月々の返済がいくらぐらいであるのか、を確認しましょう。登記簿謄本も確認し、収益不動産に抵当権がついているのかも確認しておくとよいでしょう。
併せて、収益不動産の評価を慎重におこなうことが重要です。収益不動産の評価額が残債の額よりも低い場合、実質的に債務を相続することになる可能性があるためです。そのようなケースでは相続放棄も視野にいれつつ、慎重に比較検討することが重要です。
また、債務を相続すると、債権者に対しては、法定相続分を各相続人が負担するのが原則となるため、遺産分割協議では相続人全員が慎重に話し合う必要があるでしょう。
すでに収益不動産を管理している特定の相続人がいる場合、他の相続人は自らの相続分について不利になることのないよう収支に関する情報を共有し、できる限り収益不動産の公正な評価を行えるようにしましょう。
収益不動産の査定には不動産一括査定サイトを活用することで、複数の不動産会社へ効率的な不動産査定の依頼が可能です。複数の査定結果を比較検討することで、他の相続人へも納得感のある査定価格を把握することにつながります。
不動産一括査定サイトには、収益不動産査定の実績が多く、マンション・アパート・戸建・土地や事務所や店舗ビルなどの物件も査定可能な「リガイド(RE-Guide)」、NTTデータグループが提供する国内最大級の不動産査定サイトの「HOME4U」、不動産仲介業を営む大手6社によって共同運営されている「すまいValue」などがあります。
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2-3.遺産分割協議で所有者を決定
民法では、遺産の分割について、相続人同士での話し合いによって、誰が・何を・どのくらい相続するのか、決定することを認めています(民法907条)。このような相続財産の分配方法について話し合うことを遺産分割協議と言います。
相続人調査をおこなって、法定相続人全員で遺産分割協議を行います。個人の相続財産すべてを洗い出し、評価をおこなって、どのように分割するのかを決めていきます。
不動産などの現物を特定の相続人が取得する場合は、取得者が他の相続人に相続分に応じた金銭を支払うこともあります。
特に収益不動産については、財産評価が難しいという側面があるので、慎重に分割の合意をとりまとめ、後々トラブルにならないよう、遺産分割協議書を作成しておいた方がよいでしょう。遺産分割協議終了後、収益不動産の所有者が決定することになります。
2-4.登記名義の変更・賃貸借契約等の引継ぎ
故人から相続人に収益不動産の名義を変更することを相続登記と呼んでいます。相続登記は義務付けられてはいませんが、登記名義が故人のままになっていると売却ができず、将来、他の相続人との間で新たな法的問題が起きる可能性もあります。
また、収益不動産の場合は相続登記をしないと賃貸人としての地位を賃借人に主張できないため、賃借人との関係で様々な不都合が生じる可能性があります。このような観点からも、登記名義を変更することが大切です。
登記名義を変更したら、賃貸借契約等の引継ぎをおこないます。民法により賃貸人の地位は相続人に承継される(民法896条)ため、法的には賃貸借契約を賃借人と結び直す必要はありません。
しかし、賃借人には賃貸人と賃料の支払先変更の通知を行う必要がある場合があります。不動産管理を管理会社に委託している場合は、どのように通知を行うのか、支払先変更の必要があるのか確認・相談をしましょう。
故人が賃貸物件にかけていた火災保険や地震保険なども保険会社の手続き上、名義変更が必要であることが多いので確認するようにしましょう。
まとめ
収益不動産の相続をするとき、家賃や地代は、遺産分割協議前後で取扱いが変わることになります。特に遺産分割協議前は、法定相続分の家賃や地代を受け取る権利がすべての相続人にあるので注意しましょう。
また、相続人の間で取り分が一方的に不利になることのないよう、相続人同士で情報を共有しながら相続手続きを進めて行くことも大切です。相続人同士のトラブルを回避するためにも、細かに話し合いを行い、慎重に手続きを進めて行きましょう。
佐藤 永一郎
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