実家の相続、住むか売るかの判断ポイントは?メリット・デメリットを比較

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実家の相続は、親世代が築いた資産を受け継ぐこととなり、その後の資産形成の大きな転機になりえます。

しかし、不動産は現金資産や有価証券とは異なり、維持のためにメンテナンスが必要な現物資産です。住むか売るか迷った時に、資産運用面、税金面のポイントにおいてどのような判断をするかで、資産形成に大きな差が出てくる可能性があります。

本記事では、相続した実家に住むメリット・デメリットと売るメリット・デメリットを比較し、迷った時の判断ポイントについて解説します。

目次

  1. 相続した実家に住むメリットとデメリット
    1-1.相続した実家に住むメリット
    1-2.相続した実家に住むデメリット
  2. 相続した実家を売るメリットとデメリット
    2-1.相続した実家を売るメリット
    2-2.相続した実家を売るデメリット
  3. 実家の相続、住むか売るかの判断ポイント
  4. まとめ

1.相続した実家に住むメリットとデメリット

相続した実家に住む場合、メリットとデメリットの双方を確認することが大切です。

金銭面における主なメリット・デメリットとして、メリットはローン残債の無い物件であれば家賃がかからないという点、デメリットは資産運用における機会損失と資産価値の下落リスクがあるという点が挙げられます。

ただし、一定の条件をみたす場合、相続税の観点からメリットがあるケースもあります。以下で、詳しく解説します。

1-1.相続した実家に住むメリット

相続した実家に住むメリットとして、金銭面、税金面、感情面から、次のような点が挙げられます。

  • 家賃・ローンがかからない
  • 小規模宅地等の特例が使えるケースがある
  • 思い入れのある実家に住むことができる

家賃・ローンがかからない

相続した実家が住宅ローンを完済していれば、住むことで家賃や住宅ローンがかからないというメリットがあります。

特に職場から近いなど生活にとっても有益ならば、諸費用や手間をかけて住居を探すよりも有益である可能性があります。ただし、金銭面からは資産運用面のデメリットと比較し、総合的に判断することが大切です。

小規模宅地等の特例が使えるケースがある

小規模宅地等の特例を利用すると、相続税の計算の下になる実家の評価額が80%減額されるため、実家の資産価値が高い場合は大きな控除を受けられることになります。

小規模宅地等の特例を満たす条件は、亡くなった人が一定条件を満たす土地建物(実家)に住んでいたこと、亡くなった人と同居していた相続人が、相続税の申告期限までその土地建物に住み続けること、となっています。

また、亡くなった人と同居していなかったとしても、下記の条件を満たすことで小規模宅地等の特例を受けることが可能です。

(1) 居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと。
(2) 被相続人に配偶者がいないこと。
(3) 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。
(4) 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族又は取得者と特別の関係がある一定の法人(注6)が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと。
(5) 相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。
(6) その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること。

(※国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」より引用)

思い入れのある実家に住むことができる

思い入れのある実家に住むことができるのは、金銭では代えがたいメリットとなり得ます。金銭面・資産運用面で余裕があれば、多少のデメリットがあっても慎重に検討したいポイントと言えるでしょう。

1-2.相続した実家に住むデメリット

相続した実家に住むとすると、金銭面からのデメリットも少なくありません。その他、相続手続き面、所得税面からもデメリットがあります。以下のような点が挙げられます。

  • 資産価値下落リスクがある
  • 相続手続き面からリスクがある

資産価値下落リスクがある

資産運用の観点からみたデメリットとして、実家の資産価値が下落するリスクがあります。

マンションの場合は建物価値が占める割合が大きく、経年劣化によって全体の価値が半分以下に下落する可能性もあります。

一戸建ての場合は、建物が全体の価値に占める割合は小さいものの、建物評価額(※法定耐用年数による再調達評価額)は築22年以上でほぼゼロになります。土地の価値も人口減少などにより下落リスクがあります。

このように、現物資産である不動産は年数が経過することで状態が悪化し、資産価値の低下傾向にあります。人口や賃貸需要の増加期待ができるエリアであれば地価上昇の可能性もありますが、人口減少傾向にある日本において地価上昇を期待できる立地は多くありません。

相続手続き面からリスクがある

亡くなった人の相続について相続税を支払わなければならない場合、実家を売却すればその代金を納税資金に充てることができますが、住み続ける場合は、他の相続財産などから納税資金を別途用意しなければなりません。

また、相続人が複数いる場合、実家を相続しなかった他の相続人に代償分の財産を渡さなければならないことがあり、資金の用意や相続人どうしのトラブルなどのリスクがあります。

2.相続した実家を売るメリットとデメリット

相続した実家を売る場合、金銭面から大きなメリットがありますが、売るタイミングや相続のケースによって、税金面や相続手続き面でデメリットもあるので注意が必要です。

2-1.相続した実家を売るメリット

相続した実家を売る場合、資産運用面から大きなメリットがあります。その他、税金面、相続手続き面からも次のようなメリットが挙げられます。

  • 不動産の資金を活用できる
  • 空き家の譲渡所得税の特例を受けられることがある
  • 相続手続きがスムーズになる

以下で、詳細を説明します。

不動産の資金を活用できる

相続した実家を売ることで、その不動産価値分の資金を得て資産運用などに活用することができます。別途住居費用がかかったとしても、実家の資産価値が高ければ、住居費用よりも運用益の方が高いケースもあるでしょう。

空き家の譲渡所得税の特例を受けられることがある

一定の条件に該当すると、相続した実家を売ることで利益が生じたとしても、譲渡所得税の課税所得から3,000万円の控除を受けることができます。

主な適用条件は、亡くなった人が一人で居住していたこと、昭和56年5月31日以前築の一戸建てであること、亡くなった人の相続人がその土地建物を耐震リフォームかあるいは取り壊して3年以内に売却すること、相続時から売却時まで空き家であること、となっています。(※国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を参照

譲渡所得税の税率は、5年超の保有で20.315%、5年以下の保有で39.63%であることから、売却利益が出る場合の節税メリットは大きいといえるでしょう。

相続手続きがスムーズになる

相続不動産を売却した場合、相続手続きがスムーズになります。また、多額の相続税が発生したとしても売却した資金を納税資金に充てることができるメリットがあります。

相続人どうしの分割協議においても、不動産を現金化することで公平に分けることができるので、トラブルになるリスクも減るでしょう。

2-2.相続した実家を売るデメリット

相続した実家を売るデメリットは、住む場合のメリットの裏返しと言えます。次のような点が挙げられます。

  • 小規模宅地等の特例を受けられないことがある
  • 相続のケースによっては、売却がうまくいかないことがある

以下、詳細を確認します。

小規模宅地等の特例を受けられないことがある

住む場合の大きなメリットである小規模宅地等の特例ですが、売ると適用を受けられないことがあります。ただし、この特例は、相続税の申告期限(相続後10カ月)まで住み続ければ適用を受けられるので、それ以降に売る場合には問題になりません。

相続のケースによっては、売却がうまくいかないことがある

売却資金を相続税の納付に充当する場合、相続開始後10カ月というのが期限になります。売り急ぐ形になり、売却額が相場よりも安くなってしまう可能性があります。

また、相続人が複数いる場合、売却に反対する相続人が出てくる可能性もあり、他の相続人の意向を予め確認して売却活動を進める必要があります。

3.実家の相続、住むか売るかの判断ポイント

相続した実家に住むかどうか迷った際は、特に大きな差額が生まれやすい「小規模宅地等の特例を利用できるかどうか」という点に着目し判断してみましょう。特例を利用できる条件に当てはまっていて、相続税を大きく控除できる場合は、住む金銭的メリットがあるといえます。

同特例を利用できない場合や、相続税がそれほどかからない場合は、住んでしまうと資産運用面や資産価値下落リスクなどから金銭的なデメリットが多いといえるでしょう。

一方、相続した実家を売る場合でも、相続開始後10カ月を経過してから売る分には、小規模宅地等の特例が適用できる可能性があります。

ただし、売却してもまとまった資金にならない場合は、住居費用と比較して割に合わなくなってしまうことがあります。また、相続税納税資金目的を兼ねた売却や、相続人が複数いる場合は、売却がスムーズに進まないこともあるので注意が必要です。

住む・売る、どちらの場合でも、まずは不動産の資産価値をできるだけ正確に査定し、それぞれの金銭的なメリット・デメリットについて把握しておくことが重要です。複数の不動産会社へ売却査定を依頼し、売却した場合の資産価値について調査しておきましょう。

下記、複数の不動産会社へ査定依頼ができる不動産一括査定サイトの一覧です。これらの不動産一括査定サイトは無料で活用でき、実際の売却は提示された査定額を把握してから判断ができるため、相続不動産の売却に迷った際は効果的に利用することが出来ます。

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まとめ

小規模宅地等の特例を利用できる場合、相続開始後10カ月までは、相続不動産に住み続けた方が相続税を大きく控除できる可能性があります。

相続税がそれほど発生しない場合や、相続開始後10カ月を経過している場合は売る方が金銭面のメリットが大きいでしょう。ただし、不動産の資産価値が低く、売却してもまとまった資金にならない場合は控除額も少なくなるため、慎重に検討したいポイントと言えます。

本記事では主に金銭的なメリット・デメリットについて言及していますが、実際の不動産相続の場では、将来のライフスタイルや不動産の資産価値、被相続人の遺志、相続人同士の主張などが大きく関わってきます。

金銭的な面も参考にしつつ、それぞれの状況に合わせて最適な不動産相続を進められるよう、検討していきましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。