アパート経営で長期優良住宅の認定を受けるメリットは?認定条件や事例も

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これまでの木造アパート経営のデメリットとして、RC・SRCマンションと比較して構造的に弱く、50年などの長期的なスパンで投資を行うことが難しいという点が挙げられました。

しかし、建築技術の向上に加えて、環境負荷の観点からも長い使用に耐えられる住宅の需要が増してきています。このような背景の中、国土交通省が推奨する住宅の認定制度の一つとして、「長期優良住宅」という認定制度があります。

長期優良住宅はアパートのような共同住宅においても申請することができ、長期運用を検討している方から注目されることも増えてきています。

そこで今回のコラムでは、アパート経営で長期優良住宅を受けるメリットを解説します。また認定基準や、アパート建設会社の事例も紹介します。

目次

  1. 長期優良住宅とは
  2. 長期優良住宅(新築)の認定を受けるメリット
    2-1.住宅ローンの金利が低くなる
    2-2.補助金が受けられる
    2-3.税金が優遇される
    2-4.地震保険料の割引がある
    2-5.アパートの場合は空室対策にもなる
  3. 長期優良住宅の認定を受けるデメリット
    3-1.着工までの時間がかかる
    3-2.建築コストが上がる
    3-3.申請のための費用がかかる
    3-4.継続的に定期点検を行う
  4. 長期優良住宅の認定基準とは
  5. 長期優良住宅に対応したアパート
    5-1.大東建託の「シエルパティオ」
  6. まとめ

1 長期優良住宅とは

日本では古くなった住宅を壊して新しく建て替えることが繰り返されてきました。しかし、現在では建築技術の向上により、従来よりも長期的に使用可能な住宅も増えてきています。

長期優良住宅とは、住生活の向上と環境への負荷の低減を図るという目的で、国土交通省が推進している認定制度を受けた住宅のことです。

建物の性能などに関する基準を満たすことで認定が受けられる仕組みで、「一戸建て住宅」「共同住宅」「増築・改築」を対象に認定基準を設けています。国土交通省の発表によると、2021年度までに認定を受けた新築住宅は累計で1,356,319戸となっています。下記の表がその内訳です。

項目 2019年度(割合) 2020年度(割合) 2021年度(割合) 累計
一戸建て住宅 107,389戸(24.9%) 100,503戸(25.5%) 118,289戸(27.7%) 1,330,333戸
共同住宅等 1,047戸(0.2%) 889戸(0.2%) 3,213戸(0.7%) 25,986戸
総戸数 108,436戸(24.9%) 101,392戸(12.5%) 121,502戸(14.0%) 1,356,319戸

※参照:国土交通省「長期優良住宅の認定状況について(令和4年3月末時点)

新築一戸建ての場合、約4軒に1軒が長期優良住宅として認定され、年度ごとに割合が上昇しています。それは長期優良住宅の認定を受けることで、メリットがあると広く知られるようになっていることも要因の一つです。次の項目で見ていきましょう。

2 長期優良住宅(新築)の認定を受けるメリット

長期優良住宅は長く使用できるという本質的なメリットの他に、制度上受けられるさまざまなメリットがあります。代表的な4つと、アパートで認定を受けた場合のメリットを紹介していきます。

2-1 住宅ローンの金利が低くなる

住宅金融支援機能が提供する住宅ローン商品の【フラット35】Sは、省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性、耐久性・可変性が一定以上の評価を受けている場合、金利が優遇される仕組みになっています。

例えば【フラット35】S(金利Aプラン)および維持保全型の場合、長期優良住宅の認定を受けた住宅であれば当初5年間は年0.5%、6年目から10年目までは年0.25%が引き下げられます。

このほか民間の金融機関から融資を受ける場合でも、住宅ローンや、アパート・マンション投資などに適用される不動産投資ローンの金利や返済期間が優遇される可能性があります。

2-2 補助金が受けられる

長期優良住宅の認定を取得する場合、「地域型住宅グリーン化事業」の補助金を受けることができます。長期優良住宅は「長寿命型」と呼ばれる住宅タイプに分類され、建築費の10分の1以内の額で、かつ住宅 1戸当たり最大140万円の補助金が交付されます。

ただし「地域型住宅グリーン化事業」の補助金が適用されるのは、採択を受けた中小工務店が施工する長期優良住宅となっています。

2-3 税金が優遇される

長期優良住宅には税制優遇措置が設けられており、認定を取得すると合わせて4つの税金が軽減されます。期間ごとに対象となる税金は異なっており、2023年12月31日までに入居した場合は下記の税金が優遇されます。

  • 所得税(住宅ローン減税):一般住宅は3,000万円となっている控除対象限度額が5,000万円に引き上げ
  • 所得税(投資型減税):その年の所得税額から、標準的な性能強化費用相当額(上限:650万円)の10%を控除

また、2024年3月31日までに新築された住宅の場合は、下記の税金に対して優遇措置が設けられています。

  • 登録免許税:一般住宅は0.15%となっている所有権保存登記の税率が0.1%に引き下げ
  • 不動産取得税:一般住宅は1,200万円となっている課税標準からの控除額が1,300万円に増額
  • 固定資産税:減税措置(1/2に減額)の適用期間を延長。通常1〜3年間の戸建ては1〜5年間、通常1〜5年間のマンションは1〜7年間に延長

※出典:国土交通省「認定長期優良住宅に関する特例措置

2-4 地震保険料の割引がある

火災保険などに特約として付随できる地震保険は、住宅の耐震性に応じて割引を受けられる仕組みになっています。長期優良住宅の認定を受けている場合、割引率は耐震等級2が30%、耐震等級3が50%となっています。また、免震装置を使用して建築された免震建築物も50%の割引が適用になります。

2-5 アパートの場合は入居者へのアピールポイントとして

長期優良住宅の認定を受けるためにはさまざまな基準をクリアする必要があり、その中には耐震性能や省エネルギー性、維持保全管理などに関する項目があります。

それらの基準をクリアしているアパートであれば、耐震性能の高さをメリットに感じる方や、環境負荷について考慮される入居希望者の方から選ばれる可能性があります。このような施策は、アパート経営を行ううえで一つのアピールポイントとして検討することもできるでしょう。

3 長期優良住宅の認定を受ける注意点

一方、長期優良住宅の認定を受ける場合には注意点もあります。それぞれみて行きましょう。

3-1 着工までの時間がかかる

長期優良住宅は、建築確認申請を行う所管行政庁から長期優良住宅の認定を受けて着工する流れになります。そのため通常の住宅よりも、着工時期が1週間~1カ月程度遅れる可能性があります。

アパートの場合、引越しシーズン前の2月〜3月の竣工を目標にするケースがあります。入居開始を遅らせないためにも、長期優良住宅の建築経験が豊富で、申請手続きなどのノウハウを持っているアパートメーカーに相談することも検討しましょう。

3-2 建築コストが上がる

長期優良住宅の基準を満たすためには、耐震性や居住の快適性などに配慮した構造や設備・仕様が必要になり、建築コストは高くなります。また高度な施工技術が必要になるほか、工期が長くなることも予想されるため、人件費が増えることも懸念材料となります。

3-3 申請のための費用がかかる

長期優良住宅の認定を受けるには、所管行政庁に対して申請を行います。この際の費用は地域によって異なりますが、概ね5~6万円程度となっています。また、申請手続きを建設会社や工務店などに代行してもらう場合は申請手数料が必要になることもあり、この場合の費用は合計20~30万円程度が目安となります。

3-4 継続的に定期点検を行う

長期優良住宅の認定基準には「維持保全計画」という項目も含まれており、建物が完成した後も定期的に点検を行う必要があります。

申請時に提出した「維持保全計画」に従って点検し、必要があれば修繕や補修をして建物の維持管理を行います。こうした維持保全をおろそかにした場合、認定が取り消される可能性もあります。

4 長期優良住宅の認定基準とは

長期優良住宅の認定を受けるためには、認定基準を満たす必要があります。新築住宅の場合は8つ、アパートなどの共同住宅の場合は10の認定基準があります。詳しく見ていきましょう。

劣化対策

数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できることが認定基準です。具体的には劣化対策等級(構造躯体等)等級3が必要となります。木造の場合では、床下空間有効高さの確保や、床下および小屋裏に点検口を設けることなどが要件になっています。

耐震性

大規模な地震が発生しても継続的に利用できるよう、損傷のレベルを低減できるように強度を高めることが認定基準となります。具体的には、耐震等級(倒壊等防止)等級2や、免震建築物であることなどが要件となっています。

【関連記事】アパート経営で物件の耐震性を見極めるポイントは?築年数・構造から検証

省エネルギー性

認定基準は、必要な断熱性能等の省エネルギー性能が確保されていることとなっています。具体的には、断熱等性能等級5かつ一次エネルギ消費量等級6の基準をクリアしていることが要件です。

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維持管理・更新の容易性

構造躯体に比べて耐用年数が短い設備配管について、点検や清掃、補修、更新といった維持管理を容易に行うための措置が講じられていることが認定基準となっています。新築住宅の場合、維持管理対策等級(専用配管)等級3が要件となっており、共同住宅の場合はさらに維持管理対策等級(共用配管)等級3、更新対策(共用排水管)等級3も満たす必要があります。

可変性

居住者のライフスタイルの変化に合わせて、間取りの変更ができるような措置が講じられていることが基準となっています。共同住宅と長屋にのみ課せられている認定基準で、具体的には躯体天井高さが2,600㎜以上となっています。

バリアフリー性

「可変性」と同様に、ライフスタイルの変化に合わせられるように、バリアフリー改修に対応できるようなスペースが確保できていることが認定基準となっています。具体的には、高齢者等配慮耐久等級(共用部分)等級3をクリアしていることが要件となります。適用になるのは共同住宅のみです。

居住環境

良好な景観の形成や、その他の地域における居住環境の維持・向上に配慮されたものであることが認定基準となっています。地区計画、景観計画、建築協定、景観協定などの区域内にある場合は、これらの内容に即した建物が要件となります。

住戸面積

良好な居住水準を確保することを目的に、必要な規模の確保のために設けられた認定基準です。基準は戸建て住宅が75㎡以上、共同住宅が40㎡以上となっています。2022年9月以前に建てられた共同住宅の基準は55㎡以上となっており、条件が緩和され認定が受けやすくなっています。

維持保全計画

将来を見据えて、定期的な点検・補修等に関する計画が策定されていることが認定基準となっています。対象となるのは、構造耐力上の主要な部分や、雨水の侵入を防止する部分、給排水設備などです。また計画を策定するだけではなく、建築時に定めた時期と内容に則って点検を実施することも必要です。

災害配慮

自然災害が発生するリスクのある地域の場合、そのリスクの高さに応じて、発生の防止または被害の軽減に配慮した措置を講じることが認定基準となっています。

2022年10月には認定基準の見直しが行われ、見直し以降に住宅を建てる場合は耐震等級が引き上げられるなど要件が厳しくなっています。ただし共同住宅の場合、住戸面積が「55㎡以上」から「40㎡以上」に緩和されており、認定が受けやすくなっています。

5 長期優良住宅に対応したアパート

アパートにおいても長期優良住宅の認定を受けると、長期間の運用ができるなどのメリットがありますが、建築コストなどが高くなりやすいため利回りが低くなるなどのデメリットがあります。

2023年2月時点、戸建と比較してアパートでは普及が進んでいない状況ですが、大東建託株式会社では長期優良住宅認定制度の基準を満たす新商品の販売を2022年11月1日に開始しています。詳しく見てみましょう。

5-1 大東建託の「シエルパティオ」

「シエルパティオ」は、高付加価値賃貸住宅「シエル」シリーズの新商品です。大きな特徴は、長期優良住宅の認定基準をクリアできるように「耐震等級3」「劣化等対策等級3」といった最高等級の性能を標準仕様にしていることです。

例えば、外壁はサイディングや構造用面材、通気層、グラスウールなどで構成する多層構造で、高気密性・高断熱性を実現しています。また複層ガラスの内側にLow-E膜をコーティングしたLow-E複層ガラスを採用しており、賃貸住宅では希少な断熱性能を備えています。一方、維持管理の認定基準に適合させるため、基礎上部から屋根裏まで通気口を設置し、壁内結露を防止しています。このほか、防腐・防蟻剤を浸透させた高耐久木材を採用しており、耐久性能は約75〜90年としています。

主要ターゲットは単身者よりも長期間の入居が見込めるカップルやファミリーで、1階のカップル向け住戸にはプライベートテラス、2階のファミリー向け住戸には小屋根収納を設置しているのも特徴です。そのほか、長期間の入居につながるよう快適な住空間を創出しています。

※出典:大東建託「ニュースリリース 2022年10月24日

まとめ

長期優良住宅は、住生活の向上と環境への負荷の低減を図るという目的で、国土交通省が推進している認定制度を受けた住宅のことです。建築時のコストが高額になりやすい点は注意点と言えますが、長期間使用できるという観点から、長期投資を検討している方からの注目度も高まってきています。

アパートの場合は利回りなどにも影響がおよぶため、2023年2月時点で、戸建と比較してまだ普及の割合が低い状態です。しかし、2022年10月に基準が見直され、アパートでも導入しやすくなっています。また、大東建託の「シエルパティオ」のように、長期優良住宅に対応したアパートシリーズも発売されるようになっています。

長期優良住宅は、耐震性や省エネ性などにも優れているため、長期的なアパート経営を行ううえでの魅力の一つとして、訴求されていくのも良いでしょう。

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倉岡 明広

経済学部経済学科卒業後、出版社や編集プロダクション勤務などを経てフリーライターとして独立。雑誌や新聞、インターネットを中心に記事を執筆しています。初心者が抱く不動産投資の疑問や質問を解決できるよう丁寧な記事を執筆していきます。