2023年のXR(AR/VR/MR)業界は、XRの用途拡大を背景に市場が成長する可能性が高いと思われます。リサーチ会社のIDCは、世界のAR/VR関連支出は2022年の約1.8兆円から2026年には約3.8倍の6.9兆円に増加すると予想しています(参照:IDC “Worldwide Augmented and Virtual Reality Spending Guide“)。
XRの技術は、ゲームをはじめ、既に工場や工事現場などでの遠隔指示に使われていますが、今後も教育、医療など用途拡大の余地がありそうです。そこで、今回はXR(AR/VR/MR)業界、2023年の展望と日米の注目銘柄について解説します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※2023年3月5日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
目次
- XR業界の2023年の展望
1-1.AR
1-2.VR
1-3.MR - 日米の注目銘柄
2-1.(米)アップル(APPLE)
2-2.(米)オートデスク(ADSK)
2-3.(日)グリー(3632)
2-4.(米)メタ・プラットフォームズ(META)
2-5.(日)サイバネットシステム(4312) - まとめ
1 XR業界の2023年の展望
XRは、仮想世界と現実世界を融合し新しい現実を生み出す技術のことで、AR、VR、MR、SRの総称です。このうち、AR、VR、MRについて、それぞれ見ていきましょう。
1-1 AR
AR(Augmented Reality)とは拡張現実のことで、スマートフォンやタブレットなどを通して実在する風景にバーチャルの視野情報を重ねて表示し、目の前の世界を仮想的に作り上げる技術です。
ARは、ゲームのポケモンGOや、カメラアプリのSNOWといったエンターテインメント業界を始め、農業や食品業界、建設業などでの作業支援の用途として、導入が進められています。
建設業界での例を挙げると、営業や施工管理に活用されています。コンピュータ画面上に、現実の風景や建物を再現し、完成イメージなどの情報を重ね視覚的に現実を拡張します。実際の現場を重ね合わせることで、進捗状況の確認やクライアントへの説明に利用されています。
建機メーカーのコマツでは、施工中の地形に対して完成設計計画の3DモデルをAR合成し、タブレットを通して施工が計画通り進捗しているかを確認しながら作業しています。このように、モノづくりの現場にAR技術を導入することで、生産性向上をはかることが可能なため、2023年以降も様々な業界でARが活用されることが予想されます。
1-2 VR
VR(Virtual Reality)とは仮想現実のことで、CGなどで仮想世界を作り、専用ゴーグルを通して現実世界と同じように見せ、体験を可能にする技術です。VRヘッドセットや周辺機器の開発・販売が相次いでおり、今後も各社から販売されることが予想されます。
2023年2月にソニーが販売したVR機種「PSVR2」は、評価が高く、同社の今後の展開も期待できそうです。また、2023年中にはアップルが初のヘッドセットを、メタも次世代ゴーグルを販売する可能性もあります。特に、アップルのヘッドセットは話題性が高く、販売されるとVR市場が活性化されると予想されます。
1-3 MR
MR(Mixed Reality)とは、複合現実のことで、仮想世界と現実世界を組み合わせる技術です。ARをさらに発展させた技術で、現実世界の中に、仮想映像が溶け込むかのように存在させる技術です。
MRは複数名で同時に体験することや、離れた場所にいる人を投影し、まるで一緒にいるかのように会議ができたり、レーザーを使って立体化した製品の図形を表示し、開発関係者が共有したりすることもできます。
MRの用途としては、教育現場、建設現場、営業現場、医療現場などです。NASAは宇宙飛行士の教育としてすでにMRを導入しています。
MRを用いて現実の作業手順や操作方法などを表示させることで、作業者が迷うことなくスムーズに作業を進めることができるため作業を効率化できます。また、MRはエンターテイメント領域においても活用されはじめています。
MRは実用性が高く、今後さらなる活用が期待されているため2023年も成長が期待できると思われます。
2 日米の注目銘柄
ここでは、日米のXR業界関連銘柄を見ていきましょう。
*株価は2023年3月3日時点
2-1 (米)アップル(APPLE)
アップルは、パソコン、タブレット、スマートフォン、ウエアラブル端末などの設計、製造、販売に従事しています。
2023年中には、同社初のAR/VRヘッドセットが発売されることが有力視されています。この市場は拡大傾向にあり、リサーチ会社IDCでは、2022年に138億ドル、2026年には509億ドルに増加すると推計しています。
2022年12月版のSteamハードウエア&ソフトウエア調査によると、VRヘッドセットの市場シェア1位はMeta Quest2で41.35%、2位はValue Index HMDの17.2%でした。
アップルがこの市場に参入すると、市場シェアが大きく変化する可能性がありそうです。パソコンやiPhoneなどとのシナジーが期待でき、ビジネス面での活用も期待できそうです。
株価*は151.03ドル、予想PERが25.0倍と若干割高感がありそうです。
2-2 (米)オートデスク(ADSK)
オートデスクは、PCソフトウエアとマルチメディアツールを提供するソフトウエアメーカーです。2D/3D設計ソフトウエアは、建物の設計、機械の組み立て、地理情報などの可視化に用いられています。
日本では建築設計大手の日建設計が、オートデスク社保有のソフトウエアとクラウドサービスをグローバルに利用可能な体制を構築することで同意しています。
また、エンターテインメント業界で高い評価を得ているオートデスク社の3Dアニメ―ション技術は、リアルな映像処理に加え、映画やアニメ制作のプロジェクト管理まで可能としており、こうした技術が他ビジネスに転用可能となれば、同社の収益増に貢献する可能性があると思われます。
2023年1月に終わる期の売上高は前年比14%増の50億ドル、純利益は前年比65%増の8.2億ドルと好調でした。
株価*は207.46ドル、予想PERは28.6倍と株価水準には割高感があります。
2-3 (日)グリー(3632)
グリーは、インターネット・エンタメ事業や投資・インキュベーション事業を営んでいます。スマートフォン向けメタバース事業「REALITY」を中心に配信し、累計ダウンロード数は1,000万を超えています。
さらに、メタバース事業強化に向けて、REALITY Studios 株式会社(VTuber事業)と、REALITY XR cloud(法人向け事業)の2社を100%出資子会社として立ち上げました。今回の子会社設立でグローバル事業を拡大する方針です。
2023年6月期第2四半期決算では、売上高は前年同期横ばいの331億円でしたが、純利益が9.3億円と同74.4%落ち込みました。減益の要因は、特別損失として投資有価証券評価損6.2億円を計上したこと、株式環境悪化に伴いベンチャーキャピタルやスタートアップへの投資における株式売却益が減少したことです。
株価*は721円、予想PERが16.3倍、2022年4月につけた高値1,285円の56%の水準で、割高感はなさそうです。
株式市場の環境が2022年比で改善していることに加え、メタバース事業の今後の収益拡大が期待できる可能性があります。
2-4 (米)メタ・プラットフォームズ(META)
メタ・プラットフォームズは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とメタバース事業などを手掛けています。
2022年10月にメタが開催した年次仮想現実(VR)の場で、Meta Quest Pro を発表。また、その場でマイクロソフトとの提携を合わせて発表しました。Meta Quest デバイスでマイクロソフト365アプリが操作できるようになるため、ビジネス分野における需要が期待できそうです。
株価:は185.25ドル、予想PERは18倍で、割高感はないと言えそうです。
2-5 (日)サイバネットシステム(4312)
サイバネットシステムは、ソフト開発・販売、CARソリューションなどを手掛けており、特にシミュレーションのリーディングカンパニーとされています。コンピュータ上で自動車の衝突シミュレーションを実施し、自動車開発を効率化したり、シミュレーションとVRを組み合わせることで製品開発を迅速化したりしています。
取引企業は2021年3月時点で2,600企業にのぼり、国内大手製造業の95%が同社と取引実績を有しています。
2022年12月期決算は、売上高が前年同期比12.2%減の199.3億円、純利益が同44%減の9.9億円でした。減収の要因は、Synopsys社との販売代理店契約終了によるものです。
株価*は943円、予想PERが27.7倍、配当利回りが3.08%、時価総額は302億円です。
まとめ
XR業界は拡大基調にあり、2023年も大きな伸びが期待できそうです。2023年はアップル社が同社初のAR/VRゴーグルを発表するとの観測が出ています。同社新機種が導入されるとAR/VR市場シェアに大きな変化が現れそうです。
ビジネス面においても拡大が期待できそうです。現在はゲームやエンターテインメントコンテンツとしてXR技術が普及していますが、作業工程指示、教育、シミュレーションなどビジネス分野への活用が広がっています。
今後ますます多くの企業が導入することが予想されます。
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藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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