昨今は、不動産投資においてESG性能やサステナビリティを評価する指標や制度が多数運営されています。その中の一つに、日本政策投資銀行が創設した「DBJ Green Building認証」があります。不動産経営における環境性能の改善や、投資家の投資判断などにさかんに活用されている指標です。
この記事ではDBJ Green Building認証について、認証を獲得した取り組み事例などとともに紹介します。
目次
- DBJ Green Building認証とは?
1-1.DBJ Green Building認証の目的
1-2.DBJ Green Building認証の範囲 - DBJ Green Building認証の評価システム
2-1.DBJ Green Building認証のプロセス
2-2.ヒアリングシートの概要
2-3.認証結果の仕組み - DBJ Green Building認証の事例
3-1.ヒューリック浅草橋ビル|ヒューリックリート投資法人
3-2.中日ビル|中部日本ビルディング
3-3.SILVERADO SHIBASAKI-CHO|相互物産グループ 東京中央都市開発株式会社 - まとめ
1 DBJ Green Building認証とは?
DBJ Green Building認証は、2011年に創設された不動産の環境・社会面での配慮の質の高さを評価する制度です。
日本発祥の認証制度として国内ではさかんに利用されている認証制度で、2023年8月27日時点では1,354件の認証状況が登録されています。公表前のもの(認証物件数)まで含めると、2023年3月時点で1,799件となっています。(※参照:DBJ GREENBUILING「数字で見るGB」)
創設者はDBJ、すなわち日本政策投資銀行です。2014年以降は、認証や評価を行う機関として一般財団法人日本不動産研究所が参画しています。この二つの組織を中心に、必要に応じて外部有識者を招聘して、公平・公正な評価や認証を行う仕組みです。
1-1 DBJ Green Building認証の目的
主催する日本政策投資銀行によると、DBJ Green Building認証の特徴として次の2点があります。
- 対象物件の環境性能のみならず、テナント利用者の快適性、防災・防犯等のリスクマネジメント、周辺環境・コミュニティへの配慮、ステークホルダーとの協業等を含めた総合的な評価に基づく認証であること
- 不動産事業者に加えて、投資家も含めた多様なステークホルダー間での実務的なコミュニケーションに利用できる簡便なツールであること
※引用:日本政策投資銀行「認証の流れ」
多くの不動産所有者や運営事業者が、DBJ Green Building認証による不動産の性能評価を、今後の性能改善を進めるうえでの参考にしています。不動産経営における、環境性能の指標やKPIとして活用することも可能です。
建築・設計の専門家だけでなく、不動産の幅広いステークホルダーが不動産のサステナビリティ性能の高さや、課題を把握するためのツールとして活用しています。
ステークホルダーの中には、不動産投資家も含まれます。投資家が、不動産を通じたサステナビリティ投資を実践するための参考指標として活用できます。同時に、不動産の事業者や所有者が投資家向けのESGの取り組み状況に関するIR活動を行ううえでも有効です。
1-2 DBJ Green Building認証の範囲
2023年時点では、DBJ Green Building認証は次の4つのプロパティについて評価しています。
- オフィスビル
- ロジスティクス
- リテール
- レジデンス
オフィスビルは文字通り、法人などが主に事業目的で入居する施設です。ロジスティクスは物流施設などが含まれるカテゴリで、リテールは小売商標施設などが中心となります。レジデンスは住居です。
このように、さまざまなタイプの物件について広範にサステナビリティ認証を提供しています。
2 DBJ Green Building認証の評価システム
DBJ Green Building認証の評価プロセスや仕組み、星の基準について詳しくみていきましょう。
2-1 DBJ Green Building認証のプロセス
DBJ Green Building認証のプロセスの大まかなプロセスは次の通りです。
- スコアリングシートの提出
- 物件実査・インタビュー
- 認証判定会議
- 認証付与
出所:日本政策投資銀行「認証の流れ」
最初に、サステナビリティ性能に関する情報を書き込むヒアリングシートを提出します。ヒアリングシートは全部で85項目ありますが、図面などの提出は基本的に不要です。全部で300点満点となっています。
続いて物件の実地調査やインタビューを行います。スコアリングシートの記載内容の確認や、シートだけでは判断できない内容についてヒアリングを行い、評価の補足情報とします。
ヒアリングは 不動産の専門機関である「日本不動産研究所」のスタッフが実施します。必要に応じて、今後の改善点などに関するディスカッションも可能です。
スコアリングシートとヒアリング内容をふまえて、認証に対する判定会議を行い、認証を付与します。認証は点数と5段階の星によって行われます。
2-2 ヒアリングシートの概要
ヒアリングシートには85の設問があり、回答内容を300点満点で評価します。ただし、プロパティによっては回答不要の設問もあります。
設問は次の5カテゴリに分かれています。
- Energy&Resources:建物の環境性能、省エネルギー・省資源など
- Well-Being:利用者の利便性や快適性*
- Resilience:危機時のリスク対応力や防犯、防災対策
- Community&Diversity:利用者の多様性や周辺環境との配慮
- Partnership:ステークホルダーとの協働、情報開示や啓発活動など
出所:日本政策投資銀行「DBJ Green Building認証」、日本政策投資銀行「DBJ Green Building認証 2023年版モデル スコアリングシート v1.0」
*従来はAmenity。2023年8月時点で入手できるヒアリングシートを基に書き換え
5つのカテゴリーにより、建物の環境性能だけでなく利用者や居住者にとっての快適性や社会との調和、ダイバーシティなど、サステナビリティに関わる情報を網羅的に評価しているのが特徴です。
2-3 認証結果の仕組み
認証結果はスコアリングシートとヒアリングに基づいて点数で公表されます。そのほか、性能の高さの目安として、5段階の星が付与されます。
- ★★★★★(5つ星)国内トップクラスの卓越した「環境・社会への配慮」がなされたビル
- ★★★★(4つ星)極めて優れた「環境・社会への配慮」がなされたビル
- ★★★(3つ星)非常に優れた「環境・社会への配慮」がなされたビル
- ★★(2つ星)優れた「環境・社会への配慮」がなされたビル
- ★(1つ星)国内トップクラスの卓越した「環境・社会への配慮」がなされたビル
※引用:日本政策投資銀行「DBJ Green Building認証制度のご紹介」
なお、★が少ない物件=質の低い物件という意味ではありません。日本政策投資銀行の資料によると、1つ星にも届かない物件も多数あると想定されます。★を一つでも獲得していれば、相対的にサステナビリティにおいて優れた物件であると考えられます。
星の付与は点数の高さを基準に行われていると思われますが、具体的な星の付与基準については明示されていません。
3 DBJ Green Building認証の事例
ここからは、実際にDBJ Green Building認証を受けた、次の3つの物件の事例について紹介します。
- ヒューリック浅草橋ビル|ヒューリックリート投資法人
- 中日ビル|中部日本ビルディング
- SILVERADO SHIBASAKI-CHO|相互物産グループ 東京中央都市開発株式会社
3-1 ヒューリック浅草橋ビル|ヒューリックリート投資法人
ヒューリック浅草橋ビルは、東京都心の東側にある浅草橋駅エリアに2013年に竣工したビルで、2022年に5つ星の評価を受けています。同ビルはもともと自治体が所有していたもので、官民協力して取り組む事業であるPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)の一環です。
次のようなポイントが高評価のポイントとなりました。
- 自然換気システムやLED照明の採用
- 太陽光パネルや遮光ルーバーの設置
- 地震などによるインフラ断絶に備えた備蓄倉庫を設置
- 防災における台東区と連携
- 地域イベントを開催できる多目的ホールや貸会議室の設置
参考:週刊ビル経営「ヒューリック「ヒューリック浅草橋ビル」DBJ Green Building認証」
こちらのビルはヒューリックリート投資法人のREITポートフォリオのなかで運用されています。ヒューリックリート投資法人の上場REITを購入すると、その投資資金の一部は間接的にヒューリック浅草橋ビルに投じられることになるのです。
3-2 中日ビル|中部日本ビルディング
中日ビルは名古屋中心地にある中部日本ビルディングが保有する物件です。すでに竣工済みで、2024年春のグランドオープンを目指して整備が続いてます。
同物件は将来竣工予定の物件を評価する「DBJ Green Building認証(プラン認証)」を受けており、最高評価の5つ星を獲得しています。オフィスを主体としつつ、ホテルやショップ・レストランや大規模カンファレンスルームを備えた複合型のビルです。
9つのSDGsゴールに貢献することを目指して、さまざまな工夫が施されています。また、たとえば次のような工夫が施されています。
- 人の交流や街の魅力を発信するゾーンの設定
- 充実した飲食店舗を構え周辺の社会人の飲食需要を下支え
- 学術系や文化系など多彩なニーズに対応したカンファレンスルーム
- 名古屋城まで見渡せるなど室内からの景観への配慮
- 自然災害に備える高い耐震性能
参考:三幸エステート「中日ビル|名古屋のランドマークがDNAを継承しながら生まれ変わる」
3-3 SILVERADO SHIBASAKI-CHO|相互物産グループ 東京中央都市開発株式会社
続いてはレジデンスカテゴリで2022年に4つ星を取得した「SILVERADO SHIBASAKI-CHO」の事例です。同物件は東京都西部に位置する立川市にある低層レジデンスです。2022年10月に竣工を迎えています。
同レジデンスの区画数は28戸と中規模です。国内の認証機関であることもあり、国際的な認証制度と比べて、相対的に規模の小さい物件の取得例も多数あります。
同社のプレスリリースによると、たとえば以下のようなポイントにおいて高評価を獲得しています。
- 施設内照明のLED化
- 節水型の水栓・便器の採用
- 雨水を再利用した植栽管理
- 共用部動線のバリアフリー化
- 入退館及び不在時のセキュリティ管理
- 居住者へ向けたゴミの発生抑制等の啓発
- 緊急時の対応・防災用マンホールトイレの備え
参考:相互物産「2023.01.20|NEWS「SILVERADO SHIBASAKI-CHO」DBJ Green Building認証を取得」
4 まとめ
DBJ Green Building認証は日本政策投資銀行が手がける不動産のサステナビリティ認証制度です。オフィス、物流施設、商業施設や住宅とさまざまなカテゴリの物件に対して評価を付与しているのが特徴です。
また、日本生まれの制度ということもあり国内の多くの物件に認証を付与しています。比較的小規模な物件の環境性能まで評価しています。
今回事例で紹介したヒューリックリートのように、上場REITの投資先で取得している事例も少なくありません。日本国内の不動産やREITに対して、サステナビリティに配慮した投資を検討する際には、DBJ Green Building認証を参考にしてみてください。
伊藤 圭佑
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