不動産を仲介で売却するときに販売価格の目安となるのが、不動産会社に依頼して提示してもらう不動産査定額です。しかしこの査定額がそのまま売買価格となる訳ではありません。
そこで今回のコラムでは、評価額より高く売却するためにはどういう方法があるか、解説していきます。また不動産を高く売却したいときの注意点についても紹介します。
目次
- 不動産会社が提示する査定価格とは
- 不動産を査定額より高く売却する3つのコツ
2-1.不動産の売出価格を高く設定する
2-2.不動産需要の多い時期に売り出す
2-3.競合物件が少ない時期に売り出す - 不動産の価格交渉で優位に進めるためのコツ
3-1.ハウスクリーニングをする
3-2.不用品を処分し、部屋を狭く感じさせない
3-3.インスペクションをする - 不動産を査定額より高く売却するための注意点
4-1.価格を相場より高くしすぎない
4-2.売りどきを逃さない
4-3.劣化や不具合を隠さない - まとめ
1 不動産会社が提示する査定価格とは
不動産を売却する際は、不動産会社に査定を依頼して査定価格を出してもらいます。この査定価格とは、物件の状態や条件などのほか、過去の類似物件の取引事例などを加味して算出した価格です。つまり不動産会社が「この価格なら売却できる可能性がある」と、想定する価格となります。
査定価格は、不動産会社の物件の見方や取引事例の抽出の仕方に違いがあるため、複数の不動産会社に依頼するとそれぞれ異なった査定額が提示されます。不動産会社によって査定額が異なるため、査定価格より高く売れる場合も、低く売れる場合もあるということになります。
ここで注意してきたいポイントは、不動産の価格には様々な種類があり、それぞれ意味する価格に違いがあることです。主には以下の3つの価格が挙げられます。不動産を売却する際にはこうした違いも理解しておきましょう。
- 査定価格:不動産会社が「この価格なら市場で売れる」と予想して提示する価格
- 売出価格:市場で売り出すときの販売価格
- 売買価格(成約価格):売買が成立した価格
査定価格はあくまでも不動産会社が提示した価格です。査定価格の通りに売り出し価格(販売価格)を決めないといけないわけではなく、売買価格も査定価格とは異なることがほとんどです。これらを踏まえて、査定額より高く売却するためのコツを見ていきましょう。
2 不動産を査定額より高く売却する3つのコツ
前項で紹介した通り、査定価格と実際に売却したときの売買価格は異なります。その際、売買価格が査定価格よりも高くなるためにはどのようなコツがあるか、紹介します。
2-1 不動産の売出価格を高く設定する
査定価格よりも高い価格で売却するためには、まず査定価格よりも高い価格で売り出す必要があります。なぜなら売買価格が販売価格より高くなることは非常に稀だからです。そのためまずは査定価格よりも高い価格で売り出しをはじめることが主な方法となります。
また多くの場合、不動産の売買では価格交渉が行われます。買主候補が「指し値」と呼ばれる希望の購入価格を提示し、それに応じる形で売主は売却するかどうか判断するのです。
例えば、販売価格を5,000万円にして市場で売り出していたとしても、買主候補が「4,800万円なら購入する」といったように価格交渉を行ってきます。これに応じるかどうかは売主次第ですが、査定価格が4,500万円だったとしたら査定価格よりも高く売れたということになります。
不動産業界ではこの価格交渉は日常的に行われていますので、価格交渉を見越して高い販売価格にすることで、査定価格よりも高く売却できる可能性があります。
2-2 不動産需要の多い時期に売り出す
不動産売却は相対取引という売主と買主による1対1の取引になります。そのため買主候補が多くなる、中古物件への需要が増加する時期に売り出せば、希望通りの販売価格で売却できる可能性が高くなります。
そこで知っておきたいのが、一年のうちで最も中古住宅市場が活発になる時期です。事例として、中古マンションの需要が増加するタイミングを見て行きましょう
中古マンションの年月別成約件数
年月 | 成約件数 |
---|---|
2019年4月 | 1,818 |
2019年5月 | 1,413 |
2019年6月 | 1,809 |
2019年7月 | 1,746 |
2019年8月 | 1,376 |
2019年9月 | 1,904 |
2019年10月 | 1,421 |
2019年11月 | 1,715 |
2019年12月 | 1,494 |
2020年1月 | 1,407 |
2020年2月 | 2,000 |
2020年3月 | 1,930 |
※参照:不動産流通機構レインズ月例速報2020年03月度「中古マンションの年月別成約件数(東京)」
上の表は不動産流通機構レインズが毎月発表している「月例速報」の2020年03月度版です。成約件数が一番多いのが3月、次に多いのが2月、そして9月が3番目に多くなっています。
4月から新年度や新学期が始まるため、2月から購入意欲の強い買主候補が多くなる、という背景があると予想できます。その他、4月のほかには10月も異動や移転が多いため、9月も中古住宅市場が活発になります。
2-3 競合物件が少ない時期に売り出す
一方、前項で紹介したのとは逆転の発想になりますが、中古住宅市場が活発な時期をあえて避ける戦略も有効な場合があります。
例えば、同じマンションで同じような間取りの物件が同じような価格で売り出されているとき、こうした状況では価格競争になりやすく、販売価格を下げないと売却できない可能性があります。そのため、急いで売却しなくてもいいのであれば、競合物件が売却されるのを待ってから売り出しをかけることで高値売却につなげられるケースもあります。
中古物件市場は2〜3月が最も成約が多い時期ですが、それ以外の時期に不動産売買の成立がまったくない訳ではありません。市場に多くの物件が売りに出されていないときの方が物件の希少性は高くなり、価格を下げずに売却できる可能性もあります。
不動産は個別性の高い資産であり、それぞれ適した売り方・売却時期というのはケースバイケースとなります。一つの手順にとらわれず、売却予定の不動産の特徴と市場とのバランスを見ながら、売却時期を検討することも大切なポイントです。
3 不動産の価格交渉で優位に進めるためのコツ
不動産の売却では、買主候補が現れても価格交渉が入ってしまうと希望の価格で売却できないことがあります。そこで、売買価格を下げないためのコツについて紹介します。
3-1 ハウスクリーニングをする
まずは部屋をきれいにしておくことです。部屋を汚いままにしておくと買主候補に指摘され、「壁紙の汚れを綺麗にするのに費用がかかる」などとの理由で指し値を入れられることもあるからです。
例えば、床がフローリングであれば、ワックスをかけておくことでも部屋の中はよりきれいに見えます。売主が愛着を持って住宅に手をかけていることを知ってもらうこともでき、買主候補にも好印象を持ってもらうことに繋がります。
これは不動産会社に査定をしてもらうときも同様です。部屋が汚いため買主候補が見つけにくいと判断され、査定価格が低くなることもあります。そのため査定時にも部屋の掃除を丁寧に行っておきましょう。ご自身で部屋を掃除するのに限界がある場合は、専門業者にお願いするのもひとつの手です。
3-2 不用品を処分し、部屋を狭く感じさせない
また荷物がたくさんあると、部屋の中が狭く見えてしまいます。物件資料で示した専有面積よりも狭く感じしまうことで、買主候補が販売価格に納得しないこともあるのです。
そのため売却を決めた時点で不用品の処分をはじめましょう。レンタル倉庫などを活用し、一時的に荷物を運び出しておくことも検討してみましょう。特に窓際に荷物があると、眺望が悪く、日当たりや室内の明るさの状況も悪く見られてしまうことがあります。
3-3 インスペクションをする
インスペションとは専門家による住宅の調査のことです。インスペクションの結果は報告書としてまとめられ、重要事項説明では報告書の中の「検査結果の概要」と同様のものになります。買主が詳細な説明を求めれば、インスペクションを実施した者(インスペクター)から連絡が入る場合もあります。
買主側にとって、中古物件は隠れた欠陥がないかどうか非常に気になるポイントです。インスペクションを行うことで販売価格にも説得力が増し、指値を避けることにもつながり、販売価格に納得してもらうことが期待できるのです。さらにインスペクションをしてもらった結果を元にリフォームや修繕をしておくのもいいでしょう。
4 不動産を査定額より高く売却するための注意点
これまで不動産を高く売却するためのコツ、あるいは売買価格を下げさせないコツを紹介してきました。しかし注意点もありますので、ここで紹介いたします。
4-1 価格を相場より高くしすぎない
高く売却したいからと言っても、相場よりも高すぎる価格設定をしてしまうと不動産は売れ残る可能性があります。
不動産の売却期間が長くなると売れ残り感が出てしまい、売れない物件の印象を与えることでより売れにくくなります。「物件に何か問題があるのではないだろうか」と他の不動産会社や買主候補に思われてしまうからです。
売出価格は売主の自由に設定することが可能ですが、売却をスムーズに進めるためには希望価格だけを優先するのではなく、相場にそった価格設定を行うことが大切です。
4-2 売りどきを逃さない
不動産の売却は、買主候補が買付証明書を提示することで売買交渉がスタートします。このとき、買付証明書には買主側の希望価格を記入されるため、販売価格と違うこともあります。
例えば、「販売価格5,000万円」に対して、「買付価格4,500万円」と、500万円の減額交渉込みで買付を提出されることがあります。この買主候補に売却するかどうか決めるのは売主となり、「4500万円で売ります」もしくは「4800万円なら売ります」といったように、売主と買主候補で価格交渉していくことになります。
ここで重要なのが、落としどころをいくらにするかという点です。希望の価格で売却するために別の買主候補が現れるのを待った方がいいのか、4500万円で売った方がいいのかは、市場での反応や買主候補の印象を不動産会社から聞きながら判断していきます。
市場の反応が熱い場合は他から買い付けが入るまで待つ、他に問い合わせが少ないのであれば最初に買い付けを申し出た買主候補に売却するといったように判断してみましょう。このように適切な判断をするには不動産会社のアドバイスも必要ですが、市場の動向や動きなどをご自身でも調べておくことも必要です。
4-3 劣化や不具合を隠さない
物件を高く売るために、眺望がいいといった有利な情報はオープンにする一方で、劣化している部分や不具合が起きているマイナス面は隠してしまいがちです。
しかし、不動産売買には売主に契約不適合責任があり、買主に不利な情報(欠陥など)を隠して契約を行うと。損害賠償請求をされたり契約が解消されたりなどのトラブルに発展することがあります。契約不適合責任があるために、劣化部分や不具合を隠して高く売却してもその意味がないだけでなく、後に大きなトラブルとなる可能性を高めることになります。
なお、契約不適合責任は契約書で契約期間を定めたり、責任自体を解消(免責)とすることが可能です。ただし、契約不適合責任を売主有利に設定していると売却価格の低下につながるため、買主の事情もふまえながら交渉を進めて行くことが重要になります。
まとめ
不動産の売買は相対取引となり、市販されている商品のように決まった価格はありません。つまり自分が思ったよりも、あるいは不動産会社がこれくらいで売れるとしたよりも高く売却することも可能です。
ただし、相場よりも高すぎる価格を設定すると売却期間が長期化し、売れない物件の印象を与えることで逆効果となることもあります。不動産仲介会社とも相談しながら、慎重に価格設定を行いましょう。
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倉岡 明広
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