物件を所有していると、入居者が死亡するといった事態が起きることがあります。このような物件は事故物件となり、心理的瑕疵を負うために告知義務が生じる物件となるケースがあります。
事故物件は売却するのが難しくなる要因の一つとなりますが、高く売却するポイントもいくつかあります。
そこで今回のコラムでは、事故物件を高く売却するポイントを紹介し、売却する際の流れや告知義務などの注意点についても解説します。
目次
- 事故物件の定義
- 不動産売却における瑕疵(かし)の告知義務
2-1.4種類の瑕疵
2-2.告知の方法 - 事故物件を高く売却するポイント
3-1.リノベーションを検討する
3-2.不動産会社への買取依頼を検討する
3-3.複数の不動産会社に査定を依頼する - 事故物件を売却する流れ
- まとめ
1 事故物件の定義
所有する不動産で事故が起きるのは不動産投資のリスクの一つです。このうち事故や事件によって入居者が死亡することもあり、該当する部屋あるいは物件は事故物件と呼ばれています。
ただしこれは通称であって、宅地建物取引業法に事故物件という定義はありません。
2021年10月には、国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しています。同ガイドラインでも事故物件という定義はありませんが、人の死についてどのように告知するべきかを示しています。
要約すると、「取引の相手が判断する際に重要な影響を及ぼすと考えられる場合に、人の死に関する事案を告げなければならない」ということが原則となっています。ただし以下の場合は、告げなくても構わないとしています。
事案(対象取引) | 内容 |
---|---|
事案①(賃貸借取引、売買取引) | 自然死や日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など) |
事案②(賃貸借取引) | 日常生活で使用する集合住宅の共用部分で①以外の死、特殊清掃が行われた①の死が発生した場合に、事案発生から3年が経過した後 |
事案③(賃貸借取引、売買取引) | 隣家住戸、日常生活で使用しない集合住宅の共用部分で発生した①以外の死、特殊清掃が行われた①の死 |
上記の表は原則となっており、社会に与えた影響が大きい場合や、買主候補から事案の有無について問われた場合などは告げる必要があるとしています。
2 不動産売却における瑕疵(かし)の告知義務
前述したように、不動産売買において入居者の死に関することは相手方の判断に影響するため、原則として告知する必要があります。これを専門用語で「告知義務」と言います。
告知義務は主に契約に関して用いられており、不動産取引の場合は死亡事案以外にも告知義務が生じるケースがあります。次からの項目で詳しく見ていきましょう。
2-1 4種類の瑕疵
不動産取引において告知義務が生じる代表的な例は、瑕疵(かし)がある場合です。瑕疵とは、不備や落ち度を指す法律用語で、不動産取引の場合は物件の欠陥などを指します。
売主には、契約するのに値している物件であることに責任を負う「契約不適合責任」があります。そのため、物件に瑕疵がある場合は、契約に至る前に告知する必要があるのです。
瑕疵には「心理的瑕疵」「物理的瑕疵」「法律的瑕疵」「環境的瑕疵」という4つの種類があるので、それぞれについて見てみましょう。
心理的瑕疵
「怖い」「気味が悪い」といった精神的に不快な思いをする可能性がある事案です。具体的には事故死や殺人事件、自殺などが起きた物件です。事故物件とは、この心理的瑕疵がある物件を指すことが通常です。
物理的瑕疵
物理的瑕疵とは、シロアリや雨漏りなどによる腐食、水漏れなどによって物件に欠陥がある状態のことです。売買契約を締結する際にこれらの事案が修繕工事などによって改善されていれば、告知義務はないと判断するケースもあります。
また、土壌汚染や地盤沈下など土地に関する瑕疵も物理的瑕疵に含まれており、告知する義務があります。
法律的瑕疵
不動産には法令上の規定があり、土地の使用方法や建物の建て方などは複数の法律に則って行う必要があります。具体的には「建築基準法」「都市計画法」「消防法」といった法律を遵守しなければいけません。しかしこれらの法律を守っていない場合は、法律的瑕疵に該当します。
下記が具体的な例です。
- 建ぺい率がオーバーしている
- 消防設備が古い
- 接道義務に違反している
- 構造上の安全が基準に達していない、など
このように法律を守っていない物件は法律的瑕疵物件と言われます。なお、特定の違反要因に則って、違反建築物件、違法物件、既存不適格建築物と言われることもあります。
環境的瑕疵
環境的瑕疵は、周辺の環境に起因している住環境としての欠陥を言います。法律的瑕疵のように具体的に定義されているものではありませんが、下記のような例は告知するのが通例です。
- 周辺に反社会勢力の事務所がある
- 周辺に産業廃棄物処理場がある、など
心理的瑕疵と見做されることもあり、環境的瑕疵は判断が難しいものです。そのため、これらの環境的瑕疵に該当する可能性がある場合は、売却を担当する不動産会社に相談することが大切です。
2-2 告知の方法
売却する物件に瑕疵がある場合、不動産売買契約書や重要事項説明に記載し、告知することになります。トラブルに発展するのを防ぐためには、できるだけ早いうちから告知することが重要となってきます。
不動産情報ポータルサイトなどに広告を掲載する段階で、「告知事項あり」と記しておくと良いでしょう。前向きに検討する段階で知るよりも、買主候補に余計な労力や時間を使わせなくて済みます。
3 事故物件を高く売却するポイント
事故物件は価格を下げて売却するのが通常ですが、できるだけ価格を下げない、あるいは高く売却する方法もあります。次から詳しく見ていきましょう。
3-1 リノベーションを検討する
物件の状態を目新しくすることで、事故が遭った状態よりも高く売却できる可能性があります。特に、特殊清掃が必要な事案では床の張替えなどが必要になるケースがあり、あわせてリノベーションを検討することで工事期間・費用の面でも効率的と言えます。
ただしリフォームやリノベーションをした場合も、告知義務があるということに注意しておきましょう。
3-2 不動産会社への買取依頼を検討する
不動産を売却するには、不動産市場で買主を見つける「仲介」のほかに、不動産会社に売却する「買取」という方法もあります。買取の場合、不動産会社の提示する価格で納得すれば、早期に売却できるのがメリットです。その一方、相場価格よりも2〜3割程度価格が低くなるのがデメリットです。
また不動産会社が買主になるため、売主の契約不適合責任は免除されることにも注目です。売却した後で契約不適合責任に則った賠償請求などをされることがないため、物件を引き渡したところで手から離れることになります。仲介による物件の売却と比べて、売却後のトラブルは少ないと考えられます。
事故物件をはじめとする、訳あり物件専門の買取業者もあります。購入した事故物件の資産価値を上げるノウハウを持っているため、仲介売却にこだわらないのであれば、このような業者への買取依頼も検討されてみると良いでしょう。
3-3 複数の不動産会社に査定を依頼する
不動産を売却する際は、仲介や買取を担当する不動産会社に査定を依頼します。このときに複数の不動産会社に査定を依頼し、査定価格や売却力の比較をすることで、高く売却できる可能性があります。
不動産会社やその担当者によって重視する点が異なり、また査定価格を付ける際に参考にする類似物件も異なるからです。事故物件の場合も同様で、複数の不動産会社に依頼することで、より専門性の高い不動産会社への依頼に繋がることがあります。
複数の不動産会社に査定を依頼するには時間と労力が必要ですが、一度の入力で複数の不動産会社に査定を依頼することができる「不動産一括査定サイト」が役立ちます。
下記の表は、全国エリアに対応している不動産一括査定サイトをまとめたものです。
主な不動産一括査定サイト
サイト名 | 運営会社 | 特徴 |
---|---|---|
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4 事故物件を売却する流れ
事故物件を売却する流れは、通常の不動産を売却するケースとほとんど変わりはありません。ただし告知義務をどのようにするのか不動産会社に相談したり、アドバイスをもらったりすることになります。
代表的な流れは下記のようになります。
- 不動産会社に査定を依頼する
- 依頼する不動産会社を決める
- 告知義務について取り決めをする
- 不動産市場で販売を開始する
- 買主が決まったら不動産売買契約を締結する
- 物件を引き渡す
重要なポイントは、事故物件であることを包み隠さず不動産会社に告げることです。不動産会社も買主に事故物件を売却するという難しい業務を行うことになります。そのため売主が不誠実な対応をしていると、契約に至らないことも考えられます。
また不動産会社を選ぶ際は、事故物件の売却に実績のある不動産会社を選ぶことも大切なポイントです。相場価格よりも低く価格をつけたり、買主候補とのやり取りなどで細かな事案やトラブル、交渉ごとなどが発生する可能性があるからです。
事故物件の売却では、物件価格が低く、販売期間も長くなりがちですが、ノウハウを持っている不動産会社や担当者であれば、スムーズな取引も期待できます。
まとめ
所有している賃貸用物件で入居者が亡くなってしまうと、告知義務の発生する事故物件になることがあります。
今回のコラムでは、事故物件を少しでも高く売却するためのポイントを中心に、売却する際の流れや重要な知識である告知義務についても解説しました。心理的瑕疵による告知義務の定義は難しい面もあるため、複数の不動産会社への相談や、専門業者への依頼を検討されてみると良いでしょう。
倉岡 明広
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