不動産投資においては、物件価格の推移には様々な要素が影響してくる点に要注意です。物価推移に影響するインフレ率のほか、ローン金利に関連する長期金利も住宅需要を左右します。
この記事では、アメリカのインフレ率と住宅価格指数推移との比較によって関連性を読み解くほか、アメリカと日本とでその状況を比較します。
目次
- アメリカのインフレ率と住宅価格の関連性
1-1.アメリカのインフレ率推移
1-2.アメリカの住宅価格指数推移
1-3.アメリカの長期金利推移 - 日本のインフレ率と住宅価格の関連性
2-1.日本のインフレ率推移
2-2.日本の住宅価格指数推移 - まとめ
1.アメリカのインフレ率と住宅価格の関連性
アメリカのインフレ率と住宅価格上昇率の推移を比較することで、それぞれの関連性を読み解きます。
1-1.アメリカのインフレ率推移
アメリカの連邦準備制度理事会によると、アメリカのインフレ率は以下グラフのように推移しています。
※参照:Federal Reserve Bank Philadelphia「Short-Term and Long-Term Inflation Forecasts」
2010年以降の長期スパンで見ると、アメリカのインフレ率がマイナスになった期はありません。グラフはジグザグ状に推移しており、10年という期間における縮尺上、短期的には安定感がないようにも見えますが、約1.7%~2.3%の間を上下動している状況です。
住宅価格指数などと推移を比較するときに抑えておくべきポイントは、2010年から2011年にかけて平均値が上昇したことと、2017年から2019年にかけて最高値を記録していることなどです。また、2020年には下半期にインフレ率が大幅低下しました。
アメリカでインフレ率が上下動している時期には、その前後において経済に影響する大きな出来事が起きています。
2010年~2011年の時期は、2008年秋に発生したリーマンショックから経済が回復傾向にありました。また、2017年~2019年の時期には、トランプ大統領の就任に伴う経済拡大の期待から株価が上昇しています。
コロナウイルス感染症拡大によって経済が大きな打撃を受けた2020年は、インフレ率が2010年末と同水準まで落ち込みましたが、2021年に入ってからは2.1%を超えるまでに回復しています。
1-2.アメリカの住宅価格指数推移
つづいて、アメリカの住宅価格指数について、前年同期比の変動率推移は以下グラフの通りです。
※参照:Federal Housing Finance Agency「HOUSE PRICE INDEX DATASETS」
2012年の上半期までは前年同期比で住宅価格が下がっていたものの、下半期以降はプラスで推移している様子がうかがえます。
住宅価格指数の変化率推移とインフレ率の推移とを比較すると、2011年以降にインフレ率の水準が上がって以降、少し間をおいて住宅価格指数も追従していると言えます。リーマンショックが発生してから、住宅価格が上昇基調に入るまでは少しタイムラグがありました。
そのほか、2017年~2018年の時期にもインフレ率の上昇とともに住宅価格指数が少しだけ上昇しています。
しかし、それまでの推移と違う動きを見せているのは、コロナウイルス感染症拡大の影響が出た2020年の下半期以降です。インフレ率が長期的な下落傾向にある一方で、住宅価格指数は急上昇しています。
1-3.アメリカの長期金利推移
コロナウイルス感染症拡大以降の住宅価格指数推移について、背景を紐解くため、アメリカの長期金利推移も検証します。FRBによると、アメリカの長期金利推移は以下グラフの通りです。
※参照:FRB「Selected Interest Rates」
アメリカの長期金利推移をみると、2010年以降2013年にかけて下落が続きました。インフレ率や住宅価格指数推移と照合すると、同時期にインフレ率と住宅価格指数は上昇しています。金利の低下が投資や消費を促しているとも考えられます。
また、コロナウイルス感染症拡大以降の推移をみると、長期金利は2019年の下半期以降下落傾向にあり、2020年以降はマイナスです。同時期にインフレ率が下落傾向にある一方で住宅価格指数は上昇しているところを鑑みると、2020年下半期以降に住宅価格が上昇したのは、低金利も影響していると考えられます。
長期金利の低下に伴って住宅ローンの金利が低下した結果、住宅需要を喚起したことが、住宅価格指数上昇の一因です。アメリカ不動産投資において、住宅価格の変動傾向を探るためには、インフレ率とともに長期金利の推移も考慮する必要があると言えます。
2.日本のインフレ率と住宅価格の関連性
つづいて、公的統計から日本のインフレ率と住宅価格の関連性について分析します。日本とアメリカとでは、インフレ率と住宅価格変動率との関連性は異なると考えられます。
2-1.日本のインフレ率推移
日本銀行の統計によると、日本のインフレ率(前年比刈り込み平均値:2015年基準)推移は以下グラフの通りです。
※参照:日本銀行「分析データ>基調的なインフレ率を捕捉するための指標」
2017年下半期~2019年初頭にかけては高い水準を維持していたものの、2019年秋以降は下落している様子がうかがえます。特に、2020年夏以降は0%を下回っており、2021年春の段階ではまだプラス推移まで回復していません。
2017年以降にインフレ率が上がったのは、アメリカでトランプ大統領が就任したことによってアメリカの株価が上がった結果、世界的な好景気の期待が集まったものと考えられます。
その一方で、2020年にインフレ率がマイナスまで落ち込んだのは、日本国内でもコロナウイルス感染症が拡大したことが原因です。景気が落ち込んだことによって、インフレ率も下がったものと考えられます。
2-2.日本の住宅価格指数推移
国土交通省の統計によると、日本の住宅価格指数推移は以下グラフの通りです。
※参照:国土交通省「不動産価格指数」
日本の住宅価格指数は、2016年以降の推移において2019年秋まで上昇率が上下しているものの、上昇を続けてきた様子が伺えます。しかし、2020年は上昇率がマイナスに転じる月も出てきており、長期的に続いてきた住宅価格の上昇が止まった状況です。
なお、2021年初頭には再び上昇に転じており、これはコロナウイルス感染症の拡大によって一時期落ち込んだ動きに反発した動きと考えられます。
インフレ率の推移と住宅価格指数の上昇率推移とを照合すると、インフレ率は2017年下半期~2019年上半期にかけて上昇しましたが、住宅価格指数の変動率にはそれほど大きな変化がありません。
その一方で、2020年以降の推移については、インフレ率も住宅価格の変動率も落ち込んでいる様子が伺えます。
日本の長期金利は、2016年1月にマイナス金利政策が導入されて以降、2021年に入っても0%前後で推移しています。長期金利に連動して住宅ローンや不動産投資ローンの金利が下がっており、金利の低下とともに不動産価格も長期的な値上がりが続きました。
量的緩和政策が継続されている日本では、アメリカと比較すると不動産価格に対するインフレ率の影響が小さく、長期金利のほうが影響すると考えられます。
ただし、日本国内においても不動産価格は金利水準と完全な相関関係にあるわけではなく、アセットタイプやエリアによって影響度は大きく異なります。マクロの傾向を掴みながらも、実際に物件購入を検討する場合にはミクロの視点で慎重に検討することが大切です。
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まとめ
日米間の比較では、アメリカのほうがインフレ率と住宅価格上昇率との関連性が強い様子が伺えます。しかし、アメリカでも、インフレ率と同時に長期金利の推移が住宅価格変動に影響を与えていることは否定できません。
日本では2016年以降低金利政策が長期間継続されている背景から、インフレ率が住宅価格に与えている影響は小さいと考えられます。ただし、景気回復によりインフレ率が上昇することで金利が引き上げられ、住宅価格の下落につながる可能性もあります。
このようにアメリカと日本において、インフレ率や金利推移の持つ影響度は異なりますが、どちらにとっても重要な指標となります。不動産投資を検討しているのであれば、それぞれ定期的に確認し、投資タイミングを推し測るのも重要なポイントと言えるでしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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