東京オリンピック開催が決まった2013年から、東京のマンション価格は上昇してきました。東京オリンピックを一つの区切りとして売り時だと考える人もいますが、売却する人が増えると価格相場は下がる可能性があります。東京オリンピック後のマンション投資事情はどのように動くのでしょうか。
この記事では東京オリンピック前後のマンション価格動向を確認しながら、東京オリンピックから20年後の2040年まで、東京都心のマンション投資事情がどのように変化していくのかを予測してみたいと思います。
目次
- 2013年から2019年までの東京都心のマンション価格
- 東京都心に転入する人が増えている
- 物件価格が上昇した今は売り時?
- 2040年の東京の人口と家族構成
4-1.東京区部の人口は2030年位までは増加する
4-2.2040年の家族構成内訳 - 住宅新規着工数予測
- 2040年までに懸念されるマンション投資に影響しそうな問題
6-1.大阪万博開催は東京の不動産に影響がある?
6-2.2022年問題で不動産価値が下落する可能性
6-3.2025年問題は若い年齢層の投資機会を奪う?
6-4.2035年問題でさらに若い年齢層の負担増 - まとめ
1.2013年から2019年までの東京都心のマンション価格
2013年に東京オリンピックの開催が決まり、東京のマンション価格は上昇してきました。この間にマンション価格がどれくらい上昇したかを確認してみましょう。
不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)が作成した、「収益物件市場動向四半期レポート2019年4月~6月期」で区分マンションの価格推移表を見てみましょう。
こちらのレポートから、東京23区の区分マンション価格は2012年時点では1,200万円前後で推移していますが、2015年には1,800万円まで上昇、2018年には2,000万円を超え2019年4月~6月の価格推移では2,242万円まで上がったことが確認できます。2013年から2019年にかけて約2倍近くまで価格が上昇しています。
2.東京都心に転入する人が増えている
東京都心のマンション価格が上昇した要因は、東京オリンピック開催だけではありません。東京都は都心回帰で人口が集中している傾向にあります。資料で確認してみましょう。
以下のグラフは総務省が作成した「基本台帳人口移動報告平成30年」から引用したものです。こちらのグラフでは2017年と2018年の各都道府県の転入超過数が確認できます。
*総務省「基本台帳人口移動報告平成30年」から引用
こちらのグラフから、東京都の転入超過数が他道府県と比較して突出していることが確認できます。転入者数が増えるとマンションニーズは高まります。このような動きも東京都心のマンション価格を引き上げている要因の一つだと言えます。
3.物件価格が上昇した今は売り時?
このように東京オリンピックに向けて不動産価格は上昇してきましたので、以前からマンションを保有しているオーナーは十分に利益を確保できる状態になっていることが考えられます。そうしたオーナーは利益を確保するためにマンションを売却する可能性があります。
仮に彼らがオリンピック前に一斉に売却へと動くようであれば、2020年を区切りに一気にマンション価格が下落する可能性もあります。この状況を、現在投資用不動産を所有するオーナーはどのように考えているのでしょうか。
以下のグラフは健美家が調査した「不動産投資に関する意識調査」の資料から引用したものです。現在投資マンションを所有しているオーナーが、現状の売買に関してどのような意識を持っているかを確認することができます。
*健美家作成「第11回不動産投資に関する意識調査(2019年4月24日~5月8日)」から引用
こちらのグラフでは、2014年5月から2017年4月までは売り時だと思っている層の人が5割以上まで増加していたものの、2018年4月から2019年4月にかけてその割合が一気に減少したことが確認できます。この状況から、売り時だと判断した層は2017年中には売却してしまった可能性も考えられます。
逆に買い時だと考えている層が、2019年ではここ5年間で最高の割合に達しています。また、2019年4月現在では売り時だと判断している層の割合が3割を切り、どちらとも言えないという層の割合が49.8%に増加したことから、売り時だと思っている層の人はかなり少ないことが確認できます。
このことから、現段階では一気に売りが出て価格が大きく下落するような状況になる可能性は低いと言えるでしょう。
4.2040年の東京の人口と家族構成
日本は少子高齢化で人口は毎年減少し続けていますが、東京の人口はどのように変化しているのでしょうか。日本全体と東京の人口について見てみましょう。
4-1.東京区部の人口は2030年位までは増加する
東京は先に触れたように転入者超過の状態ですので、日本全体の動向とは少し違った人口の変動が見られます。以下は東京都政策計画局が作成した「2060年までの東京の人口推計」から引用したグラフです。こちらのグラフでは2005年から2040年までの、日本全体と東京都の人口推移を確認することができます。
*東京都政策計画局作成「2060年までの東京の人口推計」から引用
こちらの資料では、日本の人口は2010年くらいをピークに減少し始めていることが確認できます。しかし東京都では、2025年から2030年くらいまでは減少が始まらないと予測されています。さらに、東京区部では2030年くらいが人口のピークになっていることが確認できます。
2040年時点での東京都区部の人口予測は952万人です。2015年時点で927万人でしたので、2015年より2040年の方が人口は多いことが確認できます。そのことから東京都区部では、2040年時点では今から大きな人口の減少はないということが言えます。
このグラフは予測ですので、この通りになるとは限りませんが、このような傾向が考えられるということを頭に入れてマンション投資を検討することが大切です。
4-2.2040年における世帯の家族構成
2040年の家族構成はどのような形態になっているのでしょうか。マンション投資での物件は単身者を対象としたものが多くなりますので、単身世帯の割合が多ければそれだけ対象となる世帯が多いということになり、不動産投資が成功する確率が高くなります。
以下は上記と同じ資料から引用したグラフです。こちらのグラフでは1995年から2060年までの、東京都における世帯の家族構成を確認することができます。(2020年以降は予測)
*東京都政策計画局作成「2060年までの東京の人口推計」から引用
こちらのグラフから、東京都は以前から単独世帯が全体で最も大きな割合を占めていることが確認できます。2015年時点で単独世帯は全体の47.3%を占めていますが、2040年時点ではその層の割合はさらに延びて、全体の48.4%と5割に近づいていることが確認できます。
このことから、家族構成だけを見る限りは、単独世帯を対象としたマンション投資をするのには有利な状況になっていると言えるでしょう。
5.住宅新規着工数予測
東京都の区部人口は、2040年時点では2015年より多いという予測が立てられています。このことからマンションに対する需要は現在とあまり変わらないことが予測できます。では、マンションの供給数はどのような予測が立てられているのでしょうか。
以下は野村総合研究所が2018年に発表した「2030年の住宅市場の課題」から貸家の新規着工数を抜粋した表です。
年度 | 新規着工数および予測数 |
---|---|
2017年 | 42万戸 |
2018年 | 35万戸 |
2020年 | 31万戸 |
2025年 | 28万戸 |
2030年 | 26万戸 |
*野村総合研究所「2030年の住宅市場の課題」の貸家着工予測数をもとに筆者作成
こちらの表では、2017年から2030年にかけて、貸家の新規着工数は緩やかに減少していくことが予測されています。この傾向から2040年時点での貸家の新規着工数は、さらに減少している可能性が高いことが考えられます。
東京都では2040年時点では現在と人口があまり変わっていませんので、このまま新規着工数が減少すれば、住宅の供給数がだぶついて家賃や物件価格が大きく下落するという可能性は低いことが予想されます。
しかし、新築の着工数が減ったとはいえ、現在でも中古物件のストックもあり、今後は空き家率の増加も懸念されていますので、マンション投資をする場合は、空室が長引かないように立地の選択を慎重に行うことが求められるでしょう。
6.2040年までに懸念されるマンション投資に影響しそうな問題
東京オリンピックの開催が決定してマンション価格が上昇したように、何か大きなイベントや都市での再開発が行われると、その周辺の不動産価格が変動する傾向があります。
イベントや再開発が行われるとその地域にはお金や物、人が集中します。人が増えると不動産の需要が高まりますので、家賃が上がったり、物件価格が高くなったりするのです。
では、2040年までにマンション価格に影響しそうなイベント等にはどのようなものがあるのかを見てみましょう。
6-1.大阪万博開催は東京の不動産に影響がある?
2025年に大阪万博が行われることが決定しています。大阪のことですので、一見東京都心のマンションとは関係がないように思われますが、実際はどうなのでしょうか?東京オリンピック開催が決定した後の東京以外のエリアの不動産価格の動向を参考に見てみましょう。
健美家調査の資料で、東京オリンピック開催決定後の東京以外のエリアの区分マンション価格の動向を確認します。
大阪市の投資用区分マンションの価格は、2013年1月~3月期時点では800万円を切っていますが、2013年7月~9月になると1,000万円を超えています。結果的に2019年4月~6月時点で1,382万円の値をつけ、2013年から500万円以上も上昇したことが確認できます。
こちらの資料から、東京オリンピックの開催決定後は、東京や大阪だけでなく名古屋市や京都市、福岡市などの国内の主要都市でもマンション価格が上昇していることが確認できます。
このことから、東京オリンピックのように国を挙げてのイベントの場合は、広いエリアの不動産価格にも影響を及ぼす可能性があることが伺えます。同じように、大阪万博の場合も日本中が注目しているイベントになりますので、大阪近隣だけでなく、東京の不動産価格にも影響がある可能性があります。
ただし、不動産価格の上昇は、2012年からの大規模な金融緩和政策によるところが大きい点は留意する必要があります。大阪万博の開催前だからと言って、景気が後退局面に入っていれば不動産価格の上昇効果は限定的になるとも考えられます。大きなイベントの開催というミクロの要素だけでなく、マクロの経済状況も見たうえで投資判断をする必要があるでしょう。
6-2.2022年問題で不動産価値が下落する可能性
東京オリンピックが開催された2年後には、2022年問題が懸念されています。2022年問題とは、生産緑地という制度が関係しているものです。1992年に、多くの土地を住宅地に変えずに緑地として営農するという条件で、営農者の土地の固定資産税を大きく減税している制度が生産緑地制度です。
その制度が2022年に期限切れとなり、営農者が指定継続を希望しない限りは指定が解除されて固定資産税が大きく引き上げられるため、多くの土地が売りに出されるのではないか、というものです。
多くの土地が売りに出されると土地の価格が下落する上に、仮にその土地にマンションなどが建てられると住宅供給数が増え、マンション価格まで下がることが懸念されています。ただし、生産緑地指定を継続する意向を持つ営農者もいるため、悪影響は限定的になる可能性もあります。
6-3.2025年問題は若い年齢層の投資機会を奪う?
2025年には、団塊世代と呼ばれる日本で最も人口が多い年代が75歳を超え後期高齢者になるため、社会保障費や年金、医療費が急増しうることを2025年問題と言います。
社会保障費や年金、医療費などが増えることで国や国民の負担が増え、また医療介護業界が人手不足になることも心配されています。2025年問題では、不動産投資を始める年代の社会保障費の負担が増えることで、自分のために使える資金が不足し、そのような年代の投資機会を奪うのではないかということが懸念されています。
6-4.2035年問題でさらに若い年齢層の負担増
2025年からさらに10年後には、日本の人口で団塊の世代の次に層が厚い団塊ジュニア層が65歳になり、やはり社会保障費や年金が急増することが心配されています。不動産業界でも2025年問題と同じような状況が懸念されています。
このように、東京オリンピックが開催された後、2040年までの間にいくつかの社会的な問題が心配されています。これらの影響次第で不動産価格が変動し、2040年のマンション投資事情も変わってきますので、動向を慎重に見て判断することが大切です。
まとめ
東京オリンピックから20年後の2040年までのマンション投資事情について予測してみました。東京都心の人口は、日本全体の人口の減少傾向と比較すると、減少し始める時期が遅いことが予測されています。マンションの着工数も緩やかに減少していくため、需要と供給のバランスだけを見た場合は、2040年の東京都心のマンション投資においては条件は悪くないことが予想されます。
しかし、2040年までには、2022年問題や2025年問題のように不動産業界全体に影響を与えるようないくつかの問題が懸念されています。そのような問題が起こることで、マンション投資事情も変わってくることが考えられます。そのため、今後起こりうる問題がマンション投資にどのように影響してくるかを常に注目して取り組むことが大切です。
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