不動産投資を資産運用の選択肢の一つとしてチャレンジしたいと考えていても、これまで不動産投資に触れたことがなければ、どのように検討を進めていけばよいのかわからないという人も少なくないでしょう。
今回の記事では、これから不動産投資に向けて準備を進めていこうと考えている人向けに、不動産投資の準備プロセスや、物件選び、自己資金の目安などの基礎知識を紹介していきます。不動産投資を検討するうえでの参考にしてください。
目次
- 初めての不動産投資の準備プロセス
- 不動産投資に関する勉強
2-1.不動産投資の基礎知識
2-2.不動産投資の知識をえる方法 - 不動産投資の情報収集
3-1.物件タイプと価格帯を把握
3-2.不動産会社や金融機関を知る - 不動産投資の目標設定と物件探し
4-1.目標設定のポイント
4-2.目標に近づくための物件探し - 不動産会社・金融機関・管理会社との調整
5-1.不動産会社との調整
5-2.金融機関との調整
5-3.管理会社との調整 - 不動産売買契約締結・引き渡しの手順・流れ
6-1 不動産売買契約
6-2 金銭消費貸借契約(金消契約)
6-3 買契約の決済・登記手続き
6-4 物件の引き渡し
6-5 賃貸管理契約 - まとめ
1 初めての不動産投資の準備プロセス
不動産投資では物件選びや、資金調達、さまざまな契約の締結と、普段あまりおこなわない対応が多数必要になります。
不動産投資の知識がまだない前提で、不動産投資の準備プロセスを大まかにまとめると、次のようになります。
- 不動産投資に関する勉強
- 不動産投資の情報収集
- 不動産投資の目標設定と物件探し
- 各関係者との調整
- 契約締結・引き渡し
前提知識なしにいきなり始めようとしてしまうのは、結局物件の購入が叶わなかったり、思うような成果が出なかったりと失敗の元になります。家賃収入(インカムゲイン)を主な目的とした不動産投資は長期の運用になるため、焦らずに魅力的な物件の購入に向けて準備を進めましょう。
2 不動産投資に関する勉強
不動産投資の検討に入る前に、まずは不動産投資について基礎的なところを押さえることが大切です。ここでは不動産投資の基礎知識と、さらに知識を深めるための勉強方法について紹介します。
2-1 不動産投資の基礎知識
準備を始めるにしても、物件を選ぶにしても、最低限の知識がなければ、誤った判断をして失敗するリスクが大きくなります。不動産投資について知見がない人は、まず検討を進める前に不動産投資の基本的な部分を勉強しておくとよいでしょう。
ここでは特に基本的な、次の4つのポイントについて紹介します。
- 不動産投資の収益の仕組み
- 不動産投資の利回り
- 不動産投資のリスク
- 不動産経営における対応事項
不動産投資の収益は不動産の買値と売値の差額で発生するキャピタルゲインと毎月の家賃収入によるインカムゲインから構成されます。
しかし、不動産の価格変動を個人が精緻に予測するのは容易ではありません。そのため多くの個人投資家は、短期的なキャピタルゲイン(売却益)ではなく、インカムゲインである賃料収入の積み上げで程度収支の見通しが立つように工夫して投資します。
不動産の収益の指標として「利回り」という言葉があります。いくつか算出方法はありますが、最も基本的な計算方法は、年間の家賃収入の合計を購入価格で割った「表面利回り」というものです。
表面利回りが高いと一見して収益性が高く見える反面、利回りの高い不動産物件は収益に対して物件価格が下落しているということであり、リスクも高い傾向にあります。
不動産投資で代表的なリスクは空室リスクです。これは部屋が空室になると家賃が入らなくなるため、当初の想定より収益性が下がってしまうことを意味します。そのほか不動産価格の下落リスクや災害による損害リスクなども不動産投資におけるリスクといえます。
不動産投資は長期でおこなうものなので、購入後の対応についても押さえておく必要があります。例えば税金対応です。不動産投資をおこなうと固定資産税や賃料収入に対する所得税などが発生し、これらは確定申告をしたうえで所定の金額を納めなければなりません。
また、保有期間が数十年にわたると、大規模な建物の修繕が必要になってきます。資金面で大きな負担となりがちな大規模修繕に向けた準備は不動産経営と並行して進めていく必要があります。
2-2 不動産投資の知識を習得する方法
不動産投資で知っておくべきことは多岐にわたり、その時々の経済情勢によっても変化していきます。不動産投資に関連する情報収集を行いながら、時世に適した運用方法を検討していくことが重要になります。
そこで、ここでは不動産投資についてさらに勉強する方法について紹介します。大きく分けると、次の4つの方法を組み合わせるとよいでしょう。
- 不動産投資に関するメディア記事
- 不動産投資関連の専門書
- 不動産投資セミナー
- 不動産会社の資料や営業員とのコミュニケーション
当記事をはじめ、メディア上に不動産投資に関するブログや記事が無数に存在します。これらは無料で読むことができるので、まず基本的な知識を培ううえでは有効です。
もう少し深い知識を習得したい、実際に投資をおこなった人の経験をふまえた知見を吸収したいという場合には、専門書を購入するのも一案です。基本知識にフォーカスしたものはもちろん、収支管理や物件選びなど特定の領域に深入りしたものもあります。自分が知りたいポイントにあった書籍を選びましょう。
また、IFAや不動産会社などが主催するセミナーに参加するのも有効です。セミナーであれば専門性高い不動産投資の知識について、特に重要なエッセンスを吸収できます。また多くの場合、その場で質疑が可能なので、わからなかったポイントやさらに知りたいポイントを確認することができます。
最後に、不動産会社の資料や営業員のコミュニケーションも有効な勉強手段の一つです。実際に購入を検討するうえで役立つ情報が得られるでしょう。
ただし、不動産投資会社は自社の提供物件を販売する目的を持っているため、資料や営業トークは不動産投資に対してポジティブになっていたり、自社が提供していない物件タイプに対して優位性があるような表現をしていることがあります。
また、不動産投資会社のセミナーや資料を参考にする場合は、1社だけでなく複数社の案内を受けてみることも検討されてみると良いでしょう。複数の案内を比較することで、それぞれの強みや弱みを比較することができ、より自身に適した運用方法を考える際に役立ちます。
3 不動産投資の情報収集
基本的な知識を習得したら、いよいよ不動産投資の検討を進めていきます。まずは、不動産購入を考えるにあたって必要な情報を収集することが大切です。特定の情報にフォーカスして安易に購入物件を決めるのではなく、幅広い選択肢を確認したうえで比較検討しましょう。
3-1 物件タイプと価格帯のイメージを持つ
具体的な物件選びを進める前に、物件の選択肢と価格帯を大まかに掴んでおきましょう。
物件のタイプをおおまかに捉えると、次の2つの軸で選んでいくことになります。
- 物件の所在地域
- 建物のタイプ
所在地域については首都圏、大都市圏、それ以外の地方にまずは分けて考えるとよいでしょう。個々の物件によって事情は異なりますが、人口が密集し、経済活動が活発な地域ほどリスクは下がる一方で、物件価格が高騰しやすくなります。
物件の所在地域の傾向
- 価格の傾向:首都圏>大都市圏>それ以外の地方
- リスクの高さ:地方>大都市圏>首都圏
続いて物件のタイプですが、個人投資家の投資先としては、建物の作りや投資形態から次の5つが存在します。
不動産投資(賃貸経営)の物件タイプ
- 新築マンション区分投資
- 中古マンション区分投資
- 新築アパート一棟投資
- 中古アパート一棟投資
- 中古の戸建投資
いずれも購入した物件を賃貸に出し、入居者から賃料を得るのが基本的な投資手法です。
物件価格や個々の立地や特徴により千差万別ではありますが、それぞれのタイプの価格帯の下限のおおよその目安は以下の通りです。これより安い物件がないわけではありませんが、極端に価格の低い物件は初心者の投資物件としてはリスクが高い傾向にあります。
タイプ | 価格イメージ |
---|---|
新築マンション区分投資 | 2,000万円以上 |
中古マンション区分投資 | 1,000万円以上 |
新築アパート一棟投資* | 7,000万円以上 |
中古アパート一棟投資* | 5,000万円以上 |
中古戸建て投資 | 2,000万円以上 |
*アパートについては6戸以上を想定
どの価格帯に手が届くかによっても投資手法は変わってきますので、まずは大まかな価格の目安を押さえておきましょう。
3-2 不動産会社や金融機関を知る
不動産投資をはじめるためには、不動産会社とコミュニケーションをとって物件購入の契約を踏む必要があります。また、100%現金で購入するケースではない限り、不動産ローンの貸し手となる銀行やノンバンクなどとの調整も発生します。
まず不動産会社ですが、不動産検索のポータルサイトなどで個別物件を探してアクセスする場合は物件の申し込みをすると、その物件を取り扱う不動産会社とコンタクトすることになります。この手法の場合、中古物件の取引が主体です。
一方で、新築の場合は不動産会社にコンタクトを取ったあとに物件を定めることになります。また中古でも自分で物件を選ぶのが困難なときは、先に不動産会社にコンタクトを取ることも可能です。
その不動産会社が扱う物件群の中から、担当者が適切なものを案内してくれます。なお、不動産会社によって得意もしくは専門とする不動産のタイプが決まっているケースが多いので、自分が投資を考えている物件タイプにあった不動産会社に相談しましょう。
ローンを活用して投資をはじめる場合、本来は物件の候補が固まった段階で、ローンを借りたい金融機関に相談する必要があります。
一方で、大手不動産会社の場合は提携する金融機関があることも少なくありません。その場合は、不動産会社に相談すればあわせて金融機関も紹介してもらえます。金融機関の選択肢が絞られてしまう一方で、初めての不動産投資でもローン契約で戸惑うことなく、スムーズに手続きを進められるメリットがあります。
4 不動産投資の目標設定と物件探し
一通り情報収集を終えたら、いよいよ物件探しには入ります。しかし、闇雲に物件を探しても、初心者ではどうやって候補を絞り込めばよいかわからないと思います。そこでまずは自分なりの目標設定をして、そこから適した物件を考えていく、という手順で進めてみると良いでしょう。
4-1 目標設定のポイント
不動産投資の目標設定は、何らかの金額で設定することが大切です。月々の賃料収入や一定の年後が経過したあとの貯蓄額などにすると、物件を選別しやすくなります。
必要な自己資金や融資条件など、実現可能性については物件を選びながら明確にしていくとスムーズです。物件選びの第一段階として、まずは希望の収入や貯蓄額を考えてみましょう。
4-2 目標に近づくための物件探し
月々の手取り収入で目標を定めたときはシンプルで、それを達成できる物件を探していくことになります。数年後の貯蓄額で考える場合は、月々の賃料収入を貯蓄する方法と、物件売却によって目標到達を目指す方法があります。
ここで気をつけなければいけないのは、ほとんどの場合賃料がまるまる手元に入ってくることはない、ということです。管理費や物件によっては修繕に向けた積み立てが発生し、ローンを借りればローン支払いが発生します。
フルローンでの投資も不可能ではありませんが、効率性とローリスクの投資という観点からは、頭金を最低限20〜30%用意して、残りをローンで借りるのが一つの目安です。各物件タイプの物件価格イメージの目安も踏まえると、例えば頭金25%を用意するなら次のような自己資金が必要になります。
タイプ | 価格イメージ |
---|---|
新築マンション区分投資 | 500万円以上 |
中古マンション区分投資 | 250万円以上 |
新築アパート一棟投資* | 1,750万円以上 |
中古アパート一棟投資* | 1,250万円以上 |
中古戸建て投資 | 500万円以上 |
*アパートについては6戸以上を想定
自己資金の規模からチャレンジできる物件タイプをみたうえで、賃料収入から管理費などの付帯費用と借入額を引き算して目標に見合う物件を選ぶのがセオリーです。もし自己資金に余裕があって物件候補が多数ある場合は、より空室リスクが低い物件を優先するとよいでしょう。
また、将来の貯蓄額を目標とした人の場合は、目標時点までに物件を売却できれば月々の収入は少なくても目標達成の余地があります。都心の区分マンション投資では、マンション価格が堅調であることから、月々のローンと賃料がほとんど相殺される場合でも、物件売却によって目標に到達できるケースがあります。
ただし、このやり方の場合は、不動産物件の価格変動がリスクになります。そのため相対的に価格変動のリスクが低い都心部の区分マンションなどが対象となり、地価下落の傾向がある地方では検討することが難しい投資手法です。
それでも将来の価格変動には不確実性を伴うので、売却価格は保守的に見積もったうえで、余裕のある投資物件を選ぶようにしましょう。
物件について自力で絞れないと言う場合は、収集した不動産会社の情報をもとに、自分の目標達成に近づけそうな不動産会社にまず相談してみるのも一案です。適した不動産会社が所有している物件を紹介してもらえます。
5 不動産会社・金融機関・管理会社との調整
不動産投資においては、不動産会社、金融機関、物件を管理する管理会社の3者と調整して契約を結んでいくことになります。それぞれの役割は交渉のポイントについてみていきましょう。
5-1 不動産会社
不動産会社はその名の通り投資家に物件を販売する会社です。新築の場合は自社グループで建設した物件を販売しますし、中古では不動産の売り手との契約のもと、物件を販売しています。不動産会社によって扱う物件は限りがあるので、複数の会社とその会社が所有する物件を比較しながら検討を進めていくのがよいでしょう。
金融機関と管理会社は、通常物件が決まってから調整に入るので、不動産会社よりコンタクトするのは後になります。近年では不動産会社が間に入ったり、管理会社を兼ねていたりするケースも少なくありません。自分で金融機関や管理会社を選びづらくなるものの、各主体との交渉が不要になるため、初心者の場合は提携の金融機関や管理会社を持つ不動産会社を利用するのも有効な選択肢の一つです。
5-2 金融機関
もし自分で金融機関と契約を結ぶときは、ローン審査を受けるための申込書に記入し、物件情報や自身の収入、資産状況などを共有して審査を受けます。審査では借入可否のほかローンの限度額や金利も内定します。仮に審査はOKでも、借入限度額+自己資金の合計が物件価格に満たない場合は、購入に進むことはできません。
金融機関のローンの審査条件は金融機関によって大きく異なります。そのため、ある金融機関では満足な審査結果が出なかった人でも、別の金融機関ではニーズを満たすといったケースも少なくありません。従って、複数の金融機関とコンタクトをとって、最もよい条件の金融期間を選ぶとよいでしょう。
5-3 管理会社
ローン審査が通り、物件購入の目処が立ってきたところで、購入後の賃貸物件を管理してくれる会社の検討を始めましょう。特に一棟買いの物件の場合は、管理会社の質が空室率や物件の資産価値の保持に重要な役割を果たします。
物件の立地を踏まえて、その地域の物件管理を得意としていて、実績のある管理会社を選び、契約に向けてコミュニケーションをとっておきましょう。
管理費の安い管理会社を優先してしまうこともあるかと思いますが、仕事の範囲が限定されていて自分で対応しなければいけない作業が発生したり、管理の質が低いケースもあります。
管理費だけを単純に比較してしまうのではなく、管理体制やサービス内容を確認したうえで、条件の合う管理会社の手数料を比較しましょう。管理会社の選び方についてはこちらの記事でも紹介しています。合わせて参考にしてください。
【関連記事】アパート経営で重要な管理会社の選び方は?7つのポイント解説
6 不動産売買契約締結・引き渡しの手順・流れ
ケースバイケースで前後する場合もありますが、購入したい物件が確定したあとのプロセスは、概ね次のような順序になります。
- 不動産売買契約
- 金銭消費貸借契約(金消契約)
- 売買契約の決済・登記手続き
- 物件の引き渡し
- 賃貸管理契約
6-1 不動産売買契約
売買契約は、不動産会社と結ぶ契約で、物件購入を進めるための契約です。現金購入の場合は、そのまま決済や登記手続きに入っていきますが、ローンを借りる場合は、まず不動産側の売買契約を締結したうえで、金融機関の本審査を受ける流れになります。審査においては物件の資産価値も重要な評価項目になるため、購入物件が内定していないと審査を進められないからです。
なお、このときに「融資特約」がついていることを必ず確認して売買契約を結びましょう。融資特約とはローン審査がおりなかった際には違約金などなしで売買契約を破棄できるというものです。この特約がないと、想定外にローン審査が通らず物件購入ができなくなったときに、違約金などを請求されるリスクがあります。
6-2 金銭消費貸借契約(金消契約)
金融機関の審査が通ったあとに結ぶ契約が金銭消費貸借契約、通称「金消契約」というものです。これはいわばローン借入を確定させるための契約で、金融機関と結ぶものです。契約締結の場では、ローンの返済条件、延滞時のペナルティなどの説明がおこなわれるので、内容をしっかりと理解しておきましょう。
6-3 買契約の決済・登記手続き
ローンが締結されたら、あらかじめ結んだ売買契約に基づいて物件購入が契約上は完了し、また不動産登記の手続きに進みます。登記は司法書士が間に入って進められますが、ほとんどの場合不動産会社が調整してくれます。不動産会社の指示に従って印鑑や本人確認書類などの必要書類を準備しましょう。
6-4 物件の引き渡し
続いて物件の引き渡しが行われます。あらかじめ決められた日から正式に不動産物件の所有者が投資家に移転します。特段対応せずとも引き渡しは完了しますが、直前に内見をする場合もあります。
6-5 賃貸管理契約
引き渡し後はできるだけ早く稼働させる必要があるため、あらかじめ交渉しておいた管理会社と賃貸管理契約を結ぶか、中古不動産の場合はオーナーから引き継ぐ手順を踏みます。特に新築や引き渡し時点で空室の多い物件の場合は、速やかに入居者を募らないと、賃料収入が入らない期間が長期化してしまうので、早めに調整を済ませることが肝心です。
管理会社が投資家の期待通り入居者を集めたら、いよいよ賃貸経営が本格化し、晴れて月々の賃料収入が入るようになります。
まとめ
不動産投資ではさまざまな専門知識が要求され、また多くの手続きを踏まなければならないため、なかなか投資に踏み出せないという人も多いでしょう。しかし、一つ一つ準備を進めていくことで、自信を持った不動産運営に繋がっていきます。
不動産投資が軌道に乗れば、資産形成や日々の生活水準の向上に役立ちます。不動産投資のリスクにも注意しならがら、今回の記事を参考に、まずは不動産投資の情報収集から検討されてみると良いでしょう。
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伊藤 圭佑
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