日本の個人投資家が投資するREITのほとんどは、東証などに上場しているJ-REITです。上場しているということは、経営悪化などにより上場基準を満たせなくなると上場廃止になるリスクがあります。
特に経営悪化や深刻な不祥事などが原因で上場廃止になると、J-REITの価格が大幅に下落し、かつ売却も難しくなります。大きな損失を被る可能性が高いため、J-REITの上場廃止リスクを理解して投資先を選別することが大切です。
この記事ではJ-REITの上場廃止リスクを実際の事例とともに紹介します。また、後半では上場廃止リスクを踏まえた投資先の選び方も解説します。J-REITの投資先選びに役立ててください。
目次
- REITの上場廃止リスクとは?
1-1.J-REITには上場廃止リスクがある
1-2.J-REITの上場廃止基準
1-3.上場廃止したらどうなる? - J-REITの上場廃止事例
2-1.ニューシティ・レジデンス投資法人(8965)
2-2.森トラスト・ホテルリート投資法人(3478) - J-REITの上場廃止リスクを踏まえた銘柄選びのポイント
3-1.IR資料で投資先の特性を確認する
3-2.純資産総額を見る[PR]
3-3.分配金利回りの過信は禁物
3-4.分散投資を心がけることが大切に - まとめ
1 REITの上場廃止リスクとは?
J-REITには上場廃止基準があり、これに抵触した場合には上場廃止となる可能性があります。上場廃止となった場合、J-REITの価格が大幅に下落し、売却が困難になる恐れがあります。まずは、J-REITの上場廃止リスクについて正しく認識しておきましょう。
1-1 J-REITには上場廃止リスクがある
日本の証券取引所に上場しているREITのことをJ-REITと呼びますが、J-REITにおいては上場廃止リスクに注意が必要です。
REITには本来「上場REIT」と「非上場REIT」があります。しかし、個人投資家が直接非上場のREITを売買する機会は限られています。そのため、ほとんどの個人投資家はREITの個別銘柄へ投資する場合、東証に上場しているJ-REITを売買します。
株式が業績悪化や買収などの際に上場廃止になることがあるのと同様に、J-REITも上場廃止のリスクが存在します。投資銘柄が上場廃止に至ると、投資家には大きな影響があるので、上場廃止はREIT投資における重要なリスクの一つとして認識しておかなければいけません。
1-2 J-REITの上場廃止基準
東京証券取引所は、J-REITの上場廃止基準をまとめています。一部主要なものを抜粋すると次のとおりです。
- 破産若しくは再生手続に至った場合
- 金融商品取引業の登録失効や取り消しを受けた場合
- 合併等を行った場合
- 実質的に存続していないと東京証券取引所が認めるとき
- 運用資産総額に占める不動産等の比率が70%未満でかつ1年未満に70%以上にならないとき
- 運用資産総額に占める不動産+不動産関連資産+流動資産等の合計比率が95%未満となり、かつ1年以内に95%以上とならないとき
- 金銭分配を行わず、かつ1年以内に金銭の分配を行わないとき
- 上場投資口口数が4,000口未満
- 純資産総額が毎営業期間の末日にて5億円未満となり、1年以内に5億円以上とならないとき
- 資産総額が同25億円未満となった場合において、1か年以内に25億円以上とならないとき
- 毎年の12月末日以前1年間の売買高が20口未満である場合
- 有価証券報告書又は半期報告書の提出遅延
※参照:東京証券取引所「上場制度」、文意が変わらないように配慮しつつ一部文章の体裁を調整
以上でも上場廃止基準の一部に過ぎず、上場廃止になりうる要因は多岐にわたります。そのなかでも、上場廃止になりやすいと想定される要因として、次のようなものが考えられます。
- 投資成績悪化に伴う分配金の無配
- 純資産総額の極端な減少
- 流動性の低下
J-REITは収益の90%以上を分配金に回すと法人税が実質的にかからなくなる規定があるなど、分配の安定性を重視する資産です。そのようなJ-REITでは、一定期間分配が出せないほどに業績が悪化すると、上場廃止リスクが高まります。
また、業績の悪化や投資需要の減退などにより、ファンドの純資産総額が縮小した場合も、上場廃止となる可能性があります。最後に、極端に流動性が低下して売買高が減少した場合も同様です。
1-3 上場廃止したらどうなる?
上場廃止基準に該当したと判断されると、監理銘柄に指定されて審議などが行われます。正式に上場廃止の方針となると、1ヵ月間整理銘柄に指定されたのちに上場廃止となるのが基本的なプロセスです。
正式に上場廃止日を迎えるまでは、制度上は売買可能です。しかし、業績悪化や重大な違反などネガティブな事由による上場廃止の場合は、現実的には買い手が極端に減少し、価格も暴落する恐れがあります。経営悪化などに伴う株の上場廃止と同様で、個人投資家は大幅な損失を被るリスクがあるのです。
2 J-REITの上場廃止事例
サブプライムローン問題からリーマンショックにかけての金融不安では、複数のREITが破綻や経営悪化に伴う買収などを受けております。一方で近年ではそのようなケースは減っており、M&Aにともなう上場廃止が多くなっています。
2-1 ニューシティ・レジデンス投資法人(8965)
ニューシティ・レジデンス投資法人は、2008年10月に民事再生法の適用を申請したREITで、J-REITとしては初の破綻事例となりました。リーマン・ブラザーズの破綻が2008年9月15日なので、同投資法人の破綻はその直後に起きたことになります。
2007年末頃から顕在化していたサブプライムローン危機を背景に、当時はすでに不動産の投資のための借入が難しい状況にありました。さらに、金融市場が悪化する中で公募増資も困難な状況となり、取得予定の不動産の決済資金に行き詰まり、破綻に至っています。
ニューシティ・レジデンス投資法人は、その後2008年11月10日に上場廃止となっています。REITの価格にあたる「投資口価格」をみると、2008年9月末には148,000円だったものが、2008年10月15日には7,320円に暴落しています。その後も10,000円前後で推移したのち、上場廃止に至っています。
このように、経営悪化に端を発する上場廃止では、大幅な価格下落が発生し投資家は損失を被ることとなります。
2-2 森トラスト・ホテルリート投資法人(3478)
一方で、近年のJ-REITの上場廃止はREIT同士のM&Aに伴うものが多くなっています。M&Aの原因が経営悪化や実質的な破綻によるものでなければ、投資家が大きな損失を受けずに済む場合もあります。
たとえば、2023年2月27日に上場廃止した森トラスト・ホテルリート投資法人の廃止理由は、森トラスト総合リート投資法人との合併(森トラストリート投資法人を新設)です。オフィス・ホテルを中核資産とする総合型REITを形成し分配と成長を追求したもので、極端な経営悪化等が起こっていたわけではありませんでした。
こうしたケースにおいては必ずしも投資口価格が大幅に下落するわけではありません。森トラスト・ホテルリート投資法人の価格は2022年12月末に135,200円でしたが、取引最終日の2023年2月24日は133,800円とわずかな変化にとどまっています。
3 J-REITの上場廃止リスクを踏まえた銘柄選びのポイント
J-REITで上場廃止が起こると、大きな損失を被る恐れがあります。まずは、上場廃止リスクの低い銘柄を厳選することが大切です。また同時に、一部の銘柄が上場廃止になっても大きな損失にならないよう対策をしておくのも有効といえます。ここからは、J-REITの上場廃止リスクを念頭においた対策について紹介していきます。
3-1 IR資料で投資先の特性を確認する
まずは、IR資料に記載されている財務状況や経営状況、投資先のポートフォリオ特性などを確認しましょう。
経営悪化は分配金原資が枯渇する原因となるため、経営悪化リスクには特に注意する必要があります。また、財務状況が脆弱であれば、将来少しの環境変化で窮地に陥るリスクが高くなります。見るべきポイントは多数ありますが、例えば次のようなポイントが重要です。
営業収益・利益
REITの分配金の原資は、投資先の不動産から得られる賃料収入や不動産の売却益です。これらは営業収益に計上されます。また、不動産経営に伴う費用や売却損は営業費用となります。営業収益と費用の差が営業利益です。
営業収益・利益が高ければ、健全に不動産経営が実行できていることが確認できます。
稼働率
稼働率とは所有物件のうち、顧客が入居・使用していて賃料収入が発生している物件の割合です。稼働率が高いほど、順調に不動産経営ができていることを意味します。
自己資本比率・LTV
企業と同様で、自己資本が厚く借入の少ないREITの方が低リスクであるといえます。REITは、株以上に分配の確実性が重要なため、基本的に自己資本比率は高い方が望ましいためです。
REITでは財務の健全性をLTVという指標で表します。これはLoan to Valueの略で、総資産の資産価値に対する借入の割合です。すなわち概念的には自己資本比率の逆数と考えることができます。自己資本比率が高いもしくはLTVが低いREITの方が、投資先として低リスクであるととらえることができます。
内部留保の厚み
REITは、健全に収益が出ているうちは期中に実現した収益から分配を行います。しかし、経営が一時的に不調に陥って収益が出なかった場合には、保有する資産から分配を捻出することも可能です。内部留保が厚いJ-REITの方が、分配を継続しながら一時的な収益悪化を乗り越える余力があるといえます。
REITの内部留保は、純資産の部のうち出資総額を引いた部分で、財務諸表上の記載項目名はREITによって異なります。
3-2 純資産総額を見る
J-REITには純資産総額の上場廃止基準があるため、純資産総額が大きいファンドの方が相対的に上場廃止になりにくいと考えられます。
目先の運用成績だけを見ても、将来の動向変化まで予測するのは困難です。その点、純資産総額が大きいREITは、将来何らかの動向変化があっても純資産の縮小に伴う上場廃止リスクが低いと期待されます。
純資産総額の大きいJ-REIT上位5ファンド(2023年9月11時点)
- (8951)日本ビルファンド投資法人:1,034,203百万円
- (8952)ジャパンリアルエステイト投資法人:843,758百万円
- (8953)日本都市ファンド投資法人:680,737百万円
- (8954)オリックス不動産投資法人:498,732百万円
- (8955)日本プライムリアルティ投資法人:371,947百万円
出所:不動産投信情報ポータル「銘柄ランキング」
3-3 分配金利回りの過信は禁物
分配金利回りが高いということは足元過去1年程度は潤沢な分配金が出ているということになります。上場廃止基準に照らし合わせると、一見して安心材料に見えてしまいますが、過信は禁物です。
利回りの高さはリスクの高さと比例する傾向にあります。すなわち、高い利回りを出せるということは、それだけ何らかの高いリスクを負っている可能性があるのです。
特に、利回りの高いREITにおいて以下のような要素がある場合には、将来の環境変化に伴う運用成績の悪化リスクに留意が必要です。
- 景気変動リスクの高い投資先が多い
- 賃料の変動性が高い
- 地方物件・海外への投資比率が高い
- 借入依存度が高い
自身のリスク許容度や投資方針に照らし合わせて、適切な投資先かを考えたうえで投資を検討してください。
3-4 分散投資を心がけることが大切に
上場廃止リスクが一切ないREITは存在しないため、想定外の事態が起きた時の損失を限定する工夫も重要です。投資先の分散は、上場廃止リスクを抑制するうえでの有効な手立てとなります。
投資先が多岐にわたっていれば、万が一その中の一つが上場廃止に追い込まれたとしても、他のファンドが存続していることから、1つしか REITを持っていない状態と比べれば資産全体への損失インパクトは抑制できます。
REITは、一つ一つの投資に必要な最低投資金額が、現物投資と比較して小さい傾向にあるのが特徴の一つです。そのため、不動産投資の中では分散投資しやすい投資先といえます。この特性をうまく利用して、リスク分散を心がけましょう。
4 まとめ
日本においては、個人投資家が投資するREITのほとんどが証券取引所に上場しています。そのため、株式と同様に一定の基準を充足できないと上場廃止になる恐れがあることを忘れてはいけません。
まずは、自分が入手できる情報をもとに上場廃止リスクの小さい銘柄を選ぶのが有効です。また、将来を正確に予測することは不可能であるため、ポートフォリオの一部銘柄が上場廃止に陥っても致命的な損失を受けずに済む状態を構築することも意識しましょう。
不動産投資の一種でありながら、上場する金融商品としての側面も持つREITの特性やリスクを踏まえたうえで、適切なポートフォリオを形成していきましょう。
伊藤 圭佑
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