サラリーマンが不動産投資をおこなうことで、所得税の還付金を受け取ることができる場合があります。
このような税法上の仕組みは不動産投資のメリットの一つに挙げられることもありますが、実際にはどのような仕組みで還付されるのか、詳しいところは分からないという方も多いのではないでしょうか。
また、不動産投資で所得税の還付を受ける場合には注意が必要な点もあります。誤った申告をしてしまうことで追徴課税を受けてしまったり、売却時の税負担を考慮せず思わぬ出費に繋がったりなどの可能性もあるため、慎重に判断することが大切です。
この記事では、不動産投資でサラリーマンが所得税の還付金を受けられる仕組みと、その計算方法、注意点について解説していきます。
※記事内の税金・税率などは2022年6月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 不動産投資でサラリーマンが所得税還付を受けられる仕組み
1-1.所得税の不動産所得計算の仕組み
1-2.所得税の損益通算制度の仕組み
1-3.還付を受けられる所得税額の計算方法 - 不動産投資でサラリーマンが所得税還付を受ける際の注意点
2-1.不動産所得の赤字が損益通算できないケースに注意する
2-2.耐用年数経過後の不動産所得の増加を考慮する
2-3.売却時の譲渡所得税について考慮する - まとめ
1.不動産投資でサラリーマンが所得税還付を受けられる仕組み
不動産投資でサラリーマンが所得税の還付金を受けられる仕組みは、不動産所得の会計上の赤字をサラリーマンの給与所得と損益通算することができることによります。
不動産所得が会計上で赤字になる仕組みと、損益通算制度の仕組みに分けてみていきましょう。仕組みを概説した後で、実際に還付される所得税額の計算方法についても解説していきます。
1-1.所得税の不動産所得計算の仕組み
不動産所得は、所得税法上、不動産等の貸付け(賃料収入)による所得であるとされています。そして、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額として計算されます。(※参照:国税庁「所得税法(基礎編)令和4年度版」)
この必要経費とされるものは、その不動産に係る租税公課や損害保険料、修繕費、減価償却費、支払地代、給料等です。
不動産所得は、総収入金額を必要経費が上回ると赤字になります。通常、不動産投資はキャッシュフローが赤字にならないように計画を立てておこないますが、毎月のキャッシュフローが黒字であっても、不動産所得が黒字になるとは限りません。
それは、減価償却費が実際に現金支出を伴わない経費であるため、キャッシュフローと会計上の損益が一致しないからです。
「減価償却費」とは、建物などの減価償却資産の取得価格のうち、価値が減少した部分です。税法上では、建物は使用または経年によって劣化し、価値が減少していくと考え、その使用できる年数にわたって取得価格を費用化していきます。税金の計算では、税法の法令で定められた耐用年数の期間内で費用化することになります。
1-2.所得税の損益通算制度
所得税法の法令では、総合課税所得のグループ内で損益通算ができることになっています。総合課税所得である不動産所得は、同じ総合課税所得である給与所得や事業所得、雑所得などと損益通算が可能です。
給与所得は、所得税が源泉徴収され、いわば前払いする形式になっています。確定申告をして、不動産所得の赤字と損益通算することで、総合課税所得グループの課税所得が減少し、過大に前払いした所得税が還付されることになります。
また、所得税の総合課税の所得は累進税率になっています。損益通算によって、軽税率適用段階まで所得を減らすことができれば、税率差分も還付を受けることができ、還付額は大きくなります。
1-3.還付を受けられる所得税額の計算方法
簡単な事例を設定して、不動産投資をおこなうサラリーマンが不動産所得の赤字を給与所得と損益通算することで還付される所得税額の計算方法を見てみましょう。
サラリーマンが不動産投資で還付される所得税額の計算事例
- 給与所得:500万(給与所得控除後)
- 社会保険料控除:90万
- 基礎控除:48万
- 源泉所得税額:296,500円
- 不動産所得:200万円の赤字が発生
上記のような条件である場合、まず、総合課税グループの所得合計は次のように計算できます。
500万-200万円=300万円
さらに、各種所得控除を差し引くことで課税所得金額が計算されます。
300万円-(90万円+48万円)=162万円
所得税の速算表(※国税庁「所得税の税率」)を用いて、課税所得金額から税額を求めます。この場合は1,000円から1,949,000円の枠に当てはまりますので、次のように所得税額を計算できます。
所得金額=1,620,000円×5%=81,000円
還付される税額は、既に徴収されている源泉所得税額296,500円との差額になります。
還付所得税額=296,500円-81,000円=215,500円
この設例では、不動産所得の赤字を損益通算することで累進税率が20%から5%まで下がることになります。
2.不動産投資でサラリーマンが所得税還付を受ける際の注意点
不動産投資で、サラリーマンが所得税還付を受ける際、次のような点に注意しましょう。
- 不動産所得の赤字が損益通算できないケースに注意する
- 耐用年数経過後の不動産所得の増加を考慮する
- 売却時の譲渡所得税について考慮する
以下で、それぞれの内容について詳しく説明していきます。
2-1.不動産所得の赤字が損益通算できないケースに注意する
不動産所得の赤字は、原則、総合課税グループの他の所得と損益通算をすることができます。ただし、一定の不動産所得の赤字については、所得税法上、損益通算できないこととされています。(※参照:国税庁「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」)
収益物件を購入する際、土地と建物を一括してローンを組むことがあります。そのようなケースで、土地部分に対応するローン利子から生じた不動産所得の赤字は、他の所得との損益通算はできません。
また、不動産所得の赤字が、主として保養の目的で所有する別荘の貸付けから生じたものである場合、他の所得との損益通算はできません。これは、生活に通常必要でない資産のうち、所得税法69条2項に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額はないものとみなされることによります。
同項に規定する損失の金額のうちに第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産に係る所得の金額(以下この項において「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額」という。)の計算上生じた損失の金額があるときは、当該損失の金額のうち政令で定めるものは政令で定めるところにより他の生活に通常必要でない資産に係る所得の金額から控除するものとし、当該政令で定めるもの以外のもの及び当該控除をしてもなお控除しきれないものは生じなかつたものとみなす。
※引用:所得税法69条2項(損益通算)
さらに、国外の中古不動産から生じる不動産所得の赤字部分のうち、中古建物の減価償却費相当分については、他の所得および国内の不動産所得と損益通算ができないこととされています。(※参照:令和2年度税制改正の大綱〔令和元年12月20日閣議決定〕 3 租税特別措置等(国税)〔新設〕(16ページ))
中古不動産は、日本の法令では、簡便法による耐用年数計算(経過年数×20%+残存耐用年数)が認められており、国外の中古建物の減価償却費を、日本の法令の簡便法によって計算すると、国外の中古建物の実際の耐用年数や市場価値と乖離してしまうことが背景にあります。
2-2.耐用年数経過後の不動産所得の増加を考慮する
所得税還付を受けている原因が、減価償却費の計上による不動産所得の赤字にある場合、建物の耐用年数が経過すると、所得税負担が増えることに注意が必要です。
減価償却費は、建物部分の支出額を耐用年数の各期間にわたって分割計上する制度です。法定の耐用年数が経過した後には、減価償却費はなくなり、その分不動産所得が増えることになります。
不動産所得が増えると、それにかかる所得税や住民税が増えることになるため、納めなければならない税金の額が増えます。特に、所得税は超過累進税率を採用しているため、高税率の段階まで所得が増えると、急激に税負担が大きくなるので注意しましょう。
2-3.売却時の譲渡所得税について考慮する
収益物件を売却する時の譲渡所得は、次の算式によって計算されます。(※参照:国税庁「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」)
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)
この算式のうちの取得費は、次のように、建物部分の減価償却費を控除して計算されます。
取得費=取得価格+取得の際要した費用+取得後の改良費-減価償却費(建物の場合のみ)
すなわち、減価償却によって建物の取得費が減る分、譲渡所得は増えることになります。減価償却によって不動産所得が圧縮されることと、売却時の譲渡所得が増加することは対応関係にあることに注意しましょう。
なお、不動産所得にかかる所得税率は、所得に応じた超過累進税率ですが、譲渡所得税は分離課税であり、保有期間の長短に応じて一定税率です。減価償却費による赤字を損益通算する際は、売却した場合の譲渡所得税の負担がどれぐらい増加するかについても念頭に置いておくようにしましょう。
まとめ
不動産投資でサラリーマンが所得税の還付を受けられるのは、不動産の減価償却費が大きい場合、不動産所得が赤字になり、それを給与所得と損益通算できることによります。
確定申告で給与所得と不動産所得を損益通算することで、課税所得金額が少なくなり、過大に徴収されていた給与所得の源泉所得税額が還付されることになります。ただし、不動産所得の赤字には損益通算できないケースもあるので、注意が必要です。
また、減価償却費による不動産所得の赤字を損益通算する際は、耐用年数経過後の不動産所得の増加と、その物件を売却する場合の譲渡所得税に注意するようにしましょう。減価償却費の計上によって税金が軽減される分に応じて、将来の不動産売却でかかる税金が増えることを念頭に置いておくことが大切です。
佐藤 永一郎
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