不動産投資の賃貸管理の方法として、特定賃貸借契約(マスターリース契約)があります。家賃保証などの不動産管理サービスとセットで提案されることも多く、不動産管理や収益をプロに委託し、オーナーの手間を大きく省けるメリットから選ばれることも多い契約方法です。
しかし、マスターリース・サブリース契約は過去にトラブルになってしまった事案も多くあり、このようなトラブルに巻き込まれると大きな損失に繋がることもあります。最近でも、2023年3月には特定転貸事業者である株式会社big ones(ビッグワンズ)がサブリース新法への法改正後初の行政処分(業務停止命令)を受けており、契約のスキーム自体に更なるネガティブな印象を持つ方も少なくありません。
不動産投資でマスターリース・サブリース契約を選択肢に入れる際は、全て任せてしまえるという安心感で契約を進めてしまうのではなく、契約する際は事業者の信頼性や実績、また細かな契約内容についても確認することが重要になります。
今回は、なぜサブリース業者ではこのような問題が起きてしまうのか、不動産投資でサブリース契約をする際は具体的にどのような点に注意するべきか、ベテラン不動産投資家の意見・コメントを参考にしながら解説していきます。
※マスターリース・サブリースは異なる契約を指していますが、この記事では「サブリース業者」を、「マスターリース・サブリース契約を行う不動産会社」という意味合いで記述しています。
目次
- 不動産投資における特定賃貸借契約(マスターリース契約)の仕組み
- 不動産投資におけるサブリース契約のメリット・デメリット
2-1.不動産投資におけるサブリース契約のメリット
2-2.不動産投資におけるサブリース契約のデメリット - 特定転貸事業者(サブリース業者)のトラブル事例・問題点
3-1.株式会社big ones(ビッグワンズ)がサブリース新法への法改正後初の監督処分
3-2.「サブリース新法」における抵触箇所 - 4.サブリース新法初の行政処分の事例から、ベテラン不動産投資家にサブリース業者の問題点をインタビュー
4-1.サブリース契約を締結する投資家のメリットは何だと思われますか?
4-2.サブリース契約を締結するうえで気を付けるべきことは何でしょうか?
4-3.サブリース契約ではなぜ問題が起きやすいのでしょうか?
4-4.信頼できるサブリース業者を見分けるポイントはありますか? - まとめ
1.不動産投資における特定賃貸借契約(マスターリース契約)の仕組み
特定賃貸借契約(マスターリース契約)は、不動産管理会社などの事業者が物件を借り上げる賃貸契約のことです。事業者は実際に入居する入居者との間に賃貸契約(サブリース契約)を締結し、借り上げた物件を転貸することで賃料の差額を得る仕組みになっています。
マスターリース契約をした不動産オーナーのメリットは、事業者へ管理業務を委託しつつ、賃料を得ることができるという点です。契約期間中は一定の賃料を得られる家賃保証付きの契約内容で提案されることも多く、管理の手間が少ない、一定の収益を見込みやすいなどの面から、選ばれることも多い契約方法です。
このうちマスターリースと混同されることも多いサブリース契約は、事業者と実際の入居者の間で交わされる賃貸契約になります。オーナーが自身の名前で締結する契約は事業者とのマスターリース契約であり、入居者と直接の賃貸契約を結ばないという特徴があります。
オーナーがマスターリース契約によって事業者から受け取る賃料は、転貸によって収益を得るというスキームの性質上、サブリース契約で事業者が入居者から得る賃料よりも低く設定されることになります。契約内容にもよりますが、おおよそ10〜20%程度は賃料相場より低くなるでしょう。
2.不動産投資におけるサブリース契約のメリット・デメリット
不動産投資におけるサブリース契約のメリット・デメリットについて解説します。なお、前述したようにサブリース契約は厳密にはオーナーと事業者間で結ばれる契約ではありませんが、以降マスターリースとサブリースの両方を指して「サブリース契約」と記載しています。
2-1.不動産投資におけるサブリース契約のメリット
不動産投資でサブリース契約を締結する大きなメリットは、不動産のプロである事業者へ管理・運営を一任し、空室リスクを抑えた運用が期待できるという点です。
このような点は、不動産投資をこれから始めたい初心者の方でも投資検討しやすいというメリットになります。不動産投資の管理方法や運営の知識が乏しくても、事業者に借り上げてもらえるため、収益の予想も立てやすくなります。
また、家賃保証付きの契約であれば、資金回収の確度の高さから金融機関からの融資審査でも高く評価されることがあります。ただし、この点は事業者の実績や信用によって評価に影響が無いケースもあるため、参考程度に押さえておきましょう。
2-2.不動産投資におけるサブリース契約のデメリット
前述したマスターリース契約の仕組みで解説したように、マスターリースを締結する事業者は転貸(サブリース契約)によって収益を得るというスキームになっています。そのため、本来は入居者から得られる家賃よりも10〜20%減額された収益となり、直接入居者と賃貸契約をする場合と比較して大きく収益性を低下させることになり得ます。
また、家賃保証付きの契約内容であれば空室になっても賃料を得ることが可能ですが、転貸によって収益を上げるという仕組み上、事業者も空室リスクが大きいと予想される物件にはそもそも家賃保証を行わないという事情もあるでしょう。
その他、契約時よりも空室率が高まった場合には、事業者側から支払われる賃料の減額交渉ができる契約内容になっていることも多く、この場合は家賃保証付きであっても、空室リスクを完全に排除することはできないということを意味します。
3.特定転貸事業者(サブリース業者)のトラブル事例・問題点
サブリース契約は、上記のデメリットやリスクを十分に説明せずにオーナーへ有利誤認させる営業方法が原因となって、過去にもいくつかのトラブルが発生した経緯があります。このような背景があったことで、通称「サブリース新法」という形で2020年12月15日に法改正・法施行されました。
サブリース新法によって事業者の営業・広告の手段には規制がかけられています。従来との主な相違点は下記です。
サブリース新法で規制された主な内容
- 誇大広告の禁止
- 不当な勧誘の禁止
- 重要事項の説明
【関連記事】サブリース新法と従来のサブリース契約との違いは?注意点や今後の影響も
2023年3月には特定転貸事業者である株式会社big ones(ビッグワンズ)がサブリース新法への法改正後初の行政処分(業務停止命令)を受けました。どのような点が問題とされたのか、詳しくみていきましょう。
3-1.株式会社big ones(ビッグワンズ)がサブリース新法への法改正後初の監督処分
株式会社big onesは、東京都渋谷区にある不動産会社です。同社は不動産事業以外にもアパレルやアートなどさまざまな事業を手がけていますが、業務停止命令を受けたのは不動産事業についてのみとなっています。
賃貸住宅管理事業者(管理会社)と特定転貸事業者(サブリース業者)としての2つの面で行政処分を受けています。それぞれに分けて、処分理由を見てみましょう。
※出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者及び特定転貸事業者に対する処分について」
賃貸住宅管理事業者(賃貸管理会社)としての処分内容
- 処分理由1:法施行(令和3年6月15日)以降、本件事業者が管理受託契約を締結したオーナーとの契約8件において、法第13条の規定に違反して、同条の書面を交付しなかった。(業務停止命令に該当する行為)
- 処分理由2:法施行(令和3年6月15日)以降、本件事業者が管理受託契約を締結したオーナーとの契約7件において交付した法第14条の書面に、同条第1項各号及び同法施行規則第35条第2項各号に掲げる事項の一部を記載しなかった。(業務改善命令に該当する行為)
- 処分理由3:法施行(令和3年6月15日)以降、本件事業者は、法第16条の規定に違反して、自己の固有財産及び他の管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃、敷金、共益費その他の金銭と分別して管理するための必要な措置を講じなかった。(業務改善命令に該当する行為)
- 処分理由4:法施行(令和3年6月15日)以降、本件事業者が管理受託契約(特定賃 貸借契約と併せて、法第2条第2項第一号に規定する維持保全業務を受任している契約を含む。)を締結したオーナーとの契約17件において、法第20条に違反し、管理業務の実施状況等に関する必要な報告を実施しなかった。(業務改善命令に該当する行為)
※引用:同上
賃貸住宅管理事業者としては、管理契約を締結したオーナーとの契約書の交付を怠っていたことや、管理業務で得た・預かった資金をその他の金銭と分別管理が為されていなかったということが処分理由として挙げられています。
特定転貸事業者(サブリース業者)としての処分内容
- 処分理由1:法施行(令和2年12月15日)以降、本事業者が特定賃貸借契約を締結したオーナーとの契約59件において、法第30条の規定に違反して、同条の書面を交付しなかった。(業務停止命令に該当する行為)
- 処分理由2:法施行(令和2年12月15日)以降、本件事業者が特定賃貸借契約を締結したオーナーとの契約59件において交付した法第31条の書面に、同条第1項各号及び同法施行規則第48条各号に掲げる事項の一部を記載しなかった。(指示に該当する行為)
※引用:同上
特定転貸事業者(サブリース業者)としては、オーナーとの契約前に行われるべき重要事項の書面の交付・説明をしていなかった点、必要な事項を記載していなかったことが指摘されています。
前述したサブリース新法においては「誇大広告・不当な勧誘」などの規制が業務停止命令につながったということではありませんが、59件もの数で特定賃貸借契約の書面を交付していなかったことが、「重要事項の説明」が為されていないことを示し、業務停止命令が下された主な事由として取り上げられています。
3-2.「サブリース新法」における抵触箇所
サブリース新法における今回の業務停止命令に至った事由については、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」で定められる「特定賃貸借契約の締結前の書面の交付(第三十条)」に抵触したことが指摘されています。
(特定賃貸借契約の締結前の書面の交付)
第三十条 特定転貸事業者は、特定賃貸借契約を締結しようとするときは、特定賃貸借契約の相手方となろうとする者(特定転貸事業者である者その他の特定賃貸借契約に係る専門的知識及び経験を有すると認められる者として国土交通省令で定めるものを除く。)に対し、当該特定賃貸借契約を締結するまでに、特定賃貸借契約の内容及びその履行に関する事項であって国土交通省令で定めるものについて、書面を交付して説明しなければならない。
特定賃貸借契約(マスターリース契約)を締結する際は、契約前に契約内容を記載した書面を交付して説明しなければならないとされています。これは前述のサブリース新法で施行された「重要事項の説明」にあたり、本来は下記の要件を記載する必要があります。
- マスターリース契約の家賃の額その他賃貸条件
- 契約期間・更新及び解除に関する事項
- サブリース業者が行う賃貸住宅の管理内容・費用分担
株式会社big onesは、サブリース新法で定められたこれらの要項を満たす書面を交付しておらず、これが要因の一つとなって業務停止命令に至りました。
過去のマスターリース・サブリース契約のトラブル事例を関連付けて、今回の業務停止命令が「サブリース業者」全体へのネガティブな印象につながった方も少なくないでしょう。
不動産会社は大きな額の資産を一般消費者向けに販売するという特性上、様々なトラブルが起きやすい事業であると言えます。サブリース契約には投資家の資産保全性を高めるメリットもありますが、しばしば起きるトラブルによって今後も不動産投資家の中で注視されるトピックの一つとなると考えられます。
4.サブリース新法初の行政処分の事例から、ベテラン不動産投資家にサブリース業者の問題点をインタビュー
サブリースという不動産契約のスキーム自体に、何らかの課題や問題点が内在している可能性はあるのでしょうか。ベテラン不動産投資家であり公認不動産コンサルティングマスターの資格を持つ「依田 泰典氏」に株式会社big onesの行政処分の事例からみたサブリース業者の課題・問題点についてインタビューしました。
サブリース契約を締結する投資家のメリットは何だと思われますか?
依田氏「ここでは、主に区分マンションをメインにお話します。空室が発生しても、事前に取り決めた賃料が振り込まれるため、投資家にとって精神衛生上ストレスがないことが最大のメリットです。私自身、保有しているほぼ全ての物件をサブリース契約にしています。
賃貸管理には、入居者募集、契約代行、賃料集金、退去立ち合い、クレーム対応等様々な業務があります。投資家にとって、本業の傍ら、これらの業務を一人で行うのは大変ですが、サブリース契約を締結すれば、このような対応をする必要がありません。
不動産会社によっては、入居者が退去するタイミングを通知しないことも多いです。集金代行契約と違って、設定賃料について打ち合わせをすることもないので、投資家は入れ替えがあったことすらわかりません。もちろん、事前の取り決めによって、入れ替えがあった際に通知をしてもらえることもあります。私は、保有物件数が多いため、入れ替え時に通知をしてもらわないことにしています。
手間をかけずに資産形成をしたい投資家にとって、サブリース契約のメリットは大きいと言えます。普段、仕事で忙しい会社員の方は、基本的に毎月サブリース賃料が振り込まれているか、送金明細を確認したり、通帳の記帳をするくらいしかやることがありません。
意外と忘れがちですが、不動産は時期によってなかなか入居が決まりづらいです。私がサブリース契約をしている理由の一つとして、空室期間が長引いてしまうとサブリース契約の方が集金代行契約よりも最終的に収益率が高くなる可能性がある、というものがあります。
最寄り駅の乗降客数が多かったとしても、最寄り駅から少し距離がある場合や競合する物件が多い場合には、賃貸需要が必ずしも見込めるとは言い切れません。この場合、例えば、相場賃料より3,000円高いと2~3か月間賃貸が付かないこともあり得ます。
知人のケースですが、集金代行契約で早期に賃貸が付いたのですが、ぬか喜びに終わったこともあります。賃貸管理会社の審査が甘い場合、保証会社の審査がとおらなかったり、入居者都合でキャンセルになることもあります。
通常、入居希望者が申し込みを入れると募集は停止しますので、スムーズに入居につながらない場合、投資家にとっては1~2か月間空室期間が追加となることもあり得ます。」
サブリース契約を締結するうえで気を付けるべきことは何でしょうか?
依田氏「賃貸管理業務を委託する場合には、投資家と入居者の間に不動産会社が入ります。サブリース契約の保証率は不動産会社が査定した賃料の80~90%が相場です。集金代行契約の手数料率は、実際に付いた賃料の3~5%が相場です。
新しい物件でロケーションも良い場合、基本、入居付けに困りません。仮に、サブリース契約をした場合には、取り決めた賃料を受け取れる代わりに、集金代行契約と比較して、収益率は大幅に下がる可能性が高いことを事前に認識する必要があります。
また、築10年以内の物件の場合には、入居者が退去した後の清掃はルームクリーニング料金の範囲内で実施できることが多いです。傷んでいる箇所も少なく、設備の故障も少ないため、投資家の費用負担がほとんどないケースがあります。費用負担がないと、サブリース契約の場合、不動産会社から投資家に連絡はありません。
ここで気を付けなければいけないのは、新築や築浅物件の賃料下落の可能性です。不動産会社から入居者の入れ替えの通知が来ない場合、知らないうちに賃料が大幅に下がっていることも多いです。仮に、サブリース契約を更新せず、集金代行契約に移行した場合には、毎月の収支が狂ってしまうことがあります。
(一例:実際の賃料100,000円 サブリース賃料90,000円であった物件が、実際の賃料が94,000円になってしまった。サブリース契約を集金代行契約に移行して、集金代行手数料5%(4,700円)を控除された場合、手取り賃料は89,300円になってしまうことも。この場合は、サブリース契約を集金代行契約に移行しない方が良かったケース)
また、集金代行契約の場合には、入居者が入れ替わる際、当初の賃料を維持するのか、上げるのか下げるのかは投資家が決めます。一方、サブリース契約の場合には基本、規定の賃料が支払われることが前提で、そもそも通知が来ないため、投資家は賃料に対する価格感応度が低くなってしまいます。
不動産投資をするうえで最も重要な要素である賃料への関心が低いと物件価格を適正に評価することができず、売却時にも苦労することになります。私はときどき、REINSを参照する等して、保有物件の賃料相場を確認するようにしています。」
サブリース契約ではなぜ問題が起きやすいのでしょうか?
依田氏「不動産会社は、投資家に物件を販売できればいったん取引は完結します。不動産業界は、景気動向に左右されやすい業種です。そのため、不動産会社は規模の大小にかかわらず、安定収益を得るために販売後の賃貸管理業務を受託したい意向が高いです。
都心部の好立地物件の賃貸管理は、アパート等の一棟物件と比較すると相対的に手間がほとんどかかりません。不動産会社にとっては管理受託契約を積み上げていけば安定収益になり得ます。一例ですが、管理戸数が700~800戸程度あれば、不動産会社は賃貸管理事業だけで単月黒字になっていると想定できます。
投資家が保有物件を売却したいと考えた際、問題となることがあります。それは、賃貸管理の契約形態が「集金代行契約」と「サブリース契約」のどちらなのか、ということです。
収益物件の売却価格は、実際に付いている賃料をベースに収益還元評価(将来的に産み出される賃料収益を元に不動産価格を求める評価方法)で導き出されます。区分マンションの融資でも、業界2大巨頭であるジャックスやオリックス銀行を中心に、金融機関は物件の融資を出す際、収益還元法を採用しています。
集金代行契約の場合には、物件売却時に契約は解約となり、別の不動産会社が新たに契約を引き継ぎます。しかし、サブリース契約を締結している不動産会社は投資家(物件所有者)が変わってもサブリース契約を解約しない限り、賃貸管理業務(仕事)がなくなることはありません。このような背景もあり、不動産会社はサブリース契約物件(虎の子)に関しては、あの手この手で解約をさせないことがあります。
例えば、サブリース契約を締結している場合、実際に付いている賃料が10万円でも、サブリース賃料は9万円であることがあります(保証率90%)。収益還元評価によれば、手取りが1万円変わってくると、売却価格が300万円違ってくることがあるのです(一例:賃料1万円×12か月÷還元利回り4%=300万円)。
物件が全く同じでも、得られる賃料によって金融機関の評価が変わってくるため、サブリース契約を解約できれば高く売却できる可能性があります。しかし、不動産会社が解約に応じなかったり、事前に十分な説明が不足しているため、社会的にも問題になっているのです。」
信頼できるサブリース業者を見分けるポイントはありますか?
依田氏「実際に物件を購入したり、保有中の物件をサブリースしてもらうにあたり、事前に不動産会社に問い合わせをして、将来サブリース契約を解約できるかどうかを確認することが重要です。
そして、サブリース契約を解約するにあたり、違約金等の解約条件が現実的かどうかは信頼できる不動産会社を見極めるポイントになります。
初めて物件を購入する際は、重要事項説明書の確認、不動産会社との売買契約や金融機関との金銭消費貸借契約を締結することで精一杯であり、賃貸管理の契約内容の確認まで気が回らないことがあります。
何を隠そう、私自身もそうでした…。いったん締結した契約内容を後日変更してもらうのはかなり骨が折れます。わざわざ自社に不利な契約条件に修正し直すインセンティブもありません。不動産業界は特に書面を重んじる傾向が強く、締結後はなかなか要望を聞き入れてもらえないため、慎重に確認する必要があります。
サブリース新法では、契約締結前に重要事項説明が義務化されていますが、これは、サブリースによるメリットを強調して、賃料下落リスク等を十分に説明しない不動産会社が多かったためです。
不動産会社にとっては、サブリース契約の解約が続くと安定収益に大きな影響を与えてしまうため、解約には抵抗があるかと考えます。一方、投資家にとっては契約の縛りが強ければ強いほど機動的な対応ができなくなってしまいます。
保有している物件がサブリース契約を締結済みの物件である場合には、3か月前の告知で解約してくれる契約内容であればかなり良心的と言えるでしょう。解約には応じるものの賃料の6か月分の違約金を要求されるケースも多いです。6か月前に申し入れ、かつ、6か月分の違約金が要求されるケースもあります。
中には解約にあたり1年分の賃料を要求する不動産会社もあります。これでは実質的に解約を認めないと言っているに等しいでしょう。つまり、賃料が10万円である場合、解約違約金120万円が必要とされるのです。ちなみに、サブリース契約から集金代行契約に変更する意向を示しても取り合ってくれません。
さらに、違約金のほかに立退料を上乗せして支払うことが規定されていることもありますので、契約締結前に十分に確認することが肝要です。
契約時には、物件の重要事項説明や売買契約に割く時間の方が多く、時間の制約がある場合、賃貸管理の契約は説明を省略されることもあります。私も実際に経験をしましたが、基本、契約条項の文字は小さく見落としがちです。バタバタしていると気も回らないため、ほとんど確認をしないで締結してしまうことになりますので注意が必要です。」
まとめ
不動産投資のサブリース契約は、物件の賃貸管理の手間を大きく省き、一定の収益を見込みやすくなる賃貸契約の方法です。しかし、サブリース契約に関連したトラブル事例は相次いでおり、契約時にはデメリットやリスクについて慎重に検証する必要があります。
今回は、サブリース新法で初の監督処分を受けた株式会社big onesのトラブル事例の解説に加え、ベテラン投資家の依田 泰典氏からサブリースのメリットと注意点について解説頂きました。
サブリース新法の制定によって、サブリース契約の締結前に重要事項説明を行うことが義務付けされています。サブリース契約を締結する際は、収益性が低下するデメリットについて認識し、将来サブリース契約を解約できるかどうか、また解約条件についても詳しく確認するなどして、リスク対策を行っていくことがポイントとなるでしょう。
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