不動産投資の融資を日本政策金融公庫で受ける方法は?メリット・デメリットも

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不動産投資に対してはさまざまな金融機関が融資をおこなっていますが、融資条件や審査の厳しさは金融機関によって大きく異なります。

不動産への融資を行っている金融機関の一つに、日本政策金融公庫があります。銀行のアパートローンなどと比較して相対的に金利が低い傾向があり、かつ保証人・団信なしでも融資を受けられるメリットがあります。

今回は日本政策金融公庫の融資の特徴や、メリット及びデメリット、そして融資を受けるうえでのポイントを紹介します。

目次

  1. 日本政策金融公庫の融資とは?
    1-1.国民生活事業の枠組みが不動産投資に活用できる
    1-2.投資ではなく「事業」として融資審査を受ける必要がある
    1-3.日本政策金融公庫の融資条件の概要
  2. 日本政策金融公庫で融資を受けるメリット・デメリット
    2-1.日本政策金融公庫で融資を受けるメリット
    2-2.日本政策金融公庫で融資を受けるデメリット
  3. 日本政策金融公庫で融資を受けるためのポイント
    3-1.日本政策金融公庫での融資に適した物件を見つける
    3-2.自己資金の比率を高める
    3-3.事業経営者として長期的な事業計画を立てる
  4. まとめ

1 日本政策金融公庫の融資とは?

日本政策金融公庫では、中小企業や個人事業者向けの融資をおこなっています。不動産投資を「個人事業」として営む場合には、国民生活事業の枠組みの中で融資を受ける余地があります。まずは不動産投資において活用できる日本政策金融公庫の融資の概要をみておきましょう。

1-1 国民生活事業の枠組みが不動産投資に活用できる

日本政策公庫には、大きく分けて次の3つの融資制度があります。

  • 国民生活事業:個人企業・小規模事業者向け
  • 中小企業事業:中小企業向け
  • 農林水産事業:農林漁業者等

個人で不動産投資を営んでいる場合、国民生活事業の融資を利用可能です。国民生活事業の融資のうち一般貸付と、特定の条件を満たす場合は特別貸付の枠組みで融資を受けられます。

一般貸付と特別貸付

貸付タイプ 条件*
一般貸付 事業を営むほとんどの方
特別貸付 新たに事業を始める方・事業開始後概ね7年以内の方
海外展開を図る方
事業拡大・生産性向上等を図る方

*特別貸付の適用条件は多岐にわたるため、不動産投資に関連しうるものを抜粋
引用:日本政策金融公庫「令和4年度版 融資のご案内

一般貸付については、不動産投資が事業として認められさえすれば条件に当てはまります。一方で新規事業もしくは事業開始後7年以内であれば特別融資の枠組みも適用可能です。事業規模に達する不動産投資をこれから行う場合や、事業規模に達して開業届を出してから7年以内であれば、特別貸付に該当する可能性が高いでしょう。

また、7年を経過していたとしても、不動産の新規取得であれば、事業拡大目的として特別貸付の枠組みで融資を受けられる可能性があります。その他、やや上級者向けの選択肢ではあるものの、海外不動産への投資を行う場合には海外展開としての特別貸付の適用も考えられるでしょう。

特別貸付の枠組みの方が返済期間が延びたり、金利などの優遇を受けられる場合があります。初めから一般貸付を前提とせず、積極的に日本政策金融公庫に交渉・相談されてみるのも良いでしょう。

1-2 投資ではなく「事業」として融資審査を受ける必要がある

日本政策金融公庫の融資を受けるうえで重要なのは、「不動産投資」ではなく「賃貸事業」を個人事業主として営むための事業資金を調達する目的で融資を申し込むことです。法人化していれば、なお望ましいといえます。この辺りは民営の金融機関で提供されているアパートローンとは異なる特徴なので注意しましょう。

日本政策金融公庫はあくまで個人もしくは中小企業の事業発展をサポートする目的で融資を行う機関なので、投資目的となっていると融資審査を通過するのが困難です。

融資申し込みの書類をまとめるときや、融資担当者と面談をおこなうときは「投資」という言葉は使わずに、あくまで個人事業の資金調達として準備・交渉を進めてください。

その他、事業として成立していると納得してもらうためには、次のような点にも留意が必要です。

  • 投資が事業規模以上である
  • 個人事業主として開業しているか、法人化している
  • 不動産投資単体で長期安定経営が見通せる

事業規模とは概ね5棟もしくは10室以上の規模であることを指します。すでにその規模に達しているか、あるいは今回の融資を原資に投資することでこの規模に達することが望まれます。また、開業届を出して、青色確定申告をおこなう計画があることも明示してください。

最後に、不動産経営が事業として成立していなければなりません。不動産による賃料収入を原資に、長期にわたって黒字経営を維持できるスキームであることを、これまでの収支実績や今後の経営計画でもって示す必要があります。

1-3 日本政策金融公庫の融資条件の概要

初めて日本政策金融公庫の融資を受ける場合に適用が想定される、新規事業もしくは事業開始後7年以内の方向けの「新規開業資金」の条件は次の通りです。

なお、具体的な限度額や条件については、優遇条件の適用度合いによっても変わってきますので、あくまで参考として、詳細は日本政策金融公庫への融資相談を通じて確認してください。

新規開業資金の融資条件

  • 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
  • 返済期間:運転資金7年、設備資金20年
  • 基準金利:(担保なし)1.98%~2.95%、(担保あり)1.03~2.60%
  • 保証人:無しでも相談可能

*いずれも2022年12月1日時点
引用:日本政策金融公庫「国民生活事業(主要利率一覧表)
引用:日本政策金融公庫「新規開業資金

2 日本政策金融公庫で融資を受けるメリット・デメリット

日本政策金融公庫の融資は、全国で融資を受けられる金融機関としては個人利用のハードルが低めで、かつ利率も低いことなどがメリットに挙げられます。

一方で融資期間が短い、限度額が低く、審査は厳しい傾向にある点がデメリットです。日本政策金融公庫のメリット・デメリットを整理しておきましょう。

2-1 日本政策金融公庫で融資を受けるメリット

日本政策金融公庫で不動産投資の融資を受けるメリットは次の通りです。

  • 全国対応していて個人事業主でも融資を受けられる
  • 適用利率が低め
  • 女性や35歳未満・55歳以上の男性が優遇を受けられる
  • 団信・保証人不要

日本政策金融公庫は全国に支店を構えているため、概ね全国の物件に対する融資を受けられます。ほかの全国区の金融機関と言えば、メガバンクやオリックスなどのノンバンクが考えられますが、メガバンクは大手企業がメインターゲットで、個人事業で融資を受けるのは困難なため全国対応している金融機関の選択肢は限られています。

それでいて、適用利率が低めなのも特徴です。日本政策金融公庫は中小企業や個人事業の発展をサポートするための金融機関で、株式会社ではあるものの政府が100%株式を保有している政府系機関です。公共性や社会的意義の達成を重視しているため、審査を経て問題ないと判断される事業に対しては、民間の金融機関よりも低い利率を提供する傾向にあります。

また、女性や35歳未満・55歳以上の男性であれば金利優遇が受けられるため、該当する性別・年齢層の人は更に魅力的な条件で融資を受けられます。

団信が不要なため、団信の保険料がローン金利に上乗せされることはありません。例えば、健康上の理由で団信加入がかなわなくとも融資を受けられます。また、保証人なしでの融資も相談可能なため、保証人を探したり、保証会社へ追加の保証料を支払ったりする必要もありません。

2-2 日本政策金融公庫で融資を受けるデメリット

日本政策金融公庫出融資を受けるデメリットは次の通りです。

  • 融資期間が短め
  • 融資限度額が低い
  • 審査において事業性が重視される

融資期間は運転資金部分が7年、設備投資部分が20年というのが最長です。他の金融機関の不動産投資ローンは、2022年現在では最長で住宅ローン並みの35年ローンを出すケースもみられているため、20年というのは不動産投資のローンで見れば短いといえます。

返済期間が短いと借入額に比して月々のローン返済額が大きくなるため、キャッシュフローベースでの健全な事業計画を策定する難易度が高くなります。

また、融資限度額が7,200万円と低い点にも留意が必要です。不動産の中には億円単位の価格のものも多数あり、金融機関によっては物件の条件や借り手のステータス次第で1億円を超える融資にも対応できることがあります。融資限度額の低さは、物件の選択肢を狭めるおそれがあります。

最後に、審査においては事業性が重視される傾向にあります。これがデメリットになるかどうかは物件の特性やスキームにもよりますが、審査通過が「厳しい」と感じる人も少なからず存在します。

日本政策金融公庫では不動産事業単体で収支が維持されることを重視します。例えば「借り手本人の年収や資産状況が良好なので、不動産投資自体の収益見込みが甘くても融資がおりる」といった審査判断が日本政策金融公庫では行われにくいといえます。こうした判断は「いざとなれば不動産事業で赤字が出ても借り手本人の手出しで返済が継続できる」という期待値のもと成り立つためです。

そのため、不動産事業単体で黒字を出しつづけ、将来の空室や災害などのリスクマネジメントをしつつ、修繕コストなども賄っていける計画を立てなければなりません。返済期間が短く、月々の返済額が多くなりがちなために、修繕費用なども含めた将来の収支計画を立てるのが困難な物件も多くみられます。そのため、日本政策金融公庫の審査を通すのが難しいと感じる人も多いのです。

3 日本政策金融公庫で融資を受けるためのポイント

メリットとデメリットの両面をふまえて、日本政策金融公庫で融資を受けたいと考えている人は、物件選択や自己資金の割合の工夫、そして事業として信頼されることが重要になります。

3-1 日本政策金融公庫での融資に適した物件を見つける

日本政策金融公庫では長期的な収益性の高さが重視され、また融資限度額が低めに設定されています。この二点をふまえると同行の融資を利用するうえで適した物件の条件は次の通りです。

  • 物件価格が低い物件
  • 利回りが高い物件
  • 築年数が比較的古い中古物件
  • かつ、収支が成り立つレベルで賃料収入が期待できる物件

ややリスクが高いとみなされる物件の方が、日本政策金融公庫の融資を受ける上では適しているケースが少なからずあります。都心部などの相対的にリスクの低い物件は貴滝できる家賃収入に対して価格も高くなりがちなため、限度額が足りなかったり、月々の賃料収入に対するローン返済額が高すぎて敬遠されたりする可能性があるためです。

低価格であれば融資限度額に引っかからず、なおかつ高利回りであれば収益性も期待できます。また、築年数が古い物件は、他の金融機関でも返済期間が短くなる傾向にあるため、日本政策金融公庫の返済期間の短さが他行と比較したときのデメリットにならなくなります。

ここまでの条件を満たしたうえで、空室を抑えて充分な収入を得られることが前提になります。過度に高リスクな物件で審査を受けると、今度は収益性に疑念をもたれる可能性もあります。ややハイリスクでありながら、それでも収益性が見込める物件を見つけ出すことが重要です。

3-2 自己資金の比率を高める

不動産投資を事業と考えるなら、投資家自身の自己資金はいわば企業の自己資本/純資産の役割を果たします。経営の考え方を用いれば、自己資金の比率が高ければレバレッジが下がり、その事業の倒産リスクは下がります。

個人事業として融資をおこなう日本政策金融公庫では、事業の継続性もチェックしているため、自己資金の比率も審査において重視します。少なくとも2022年時点ではフルローンでの融資は非常に困難であり、20~30%の自己資金が必要となるケースが多いです。

必要な自己資金額は既存の不動産投資の収支状況や購入物件の収益性によって大きく変わってくるため、日本政策金融公庫に相談・交渉してみましょう。

3-3 事業経営者として長期的な事業計画を立てる

日本政策金融公庫での融資を受けるなら、投資家ではなく、事業経営者として対応しなければなりません。すでに一定規模の不動産投資を手がけている、もしくはこれから手がける予定である、開業届を出すなど、個人事業主としての体裁を整える必要があるでしょう。

また、将来にわたる長期的な収支計画の策定を、一般の不動産ローン以上に精緻に作成する必要があります。毎月の収支や、年一で発生する税金などのコスト、大規模修繕などの発生タイミングと費用の捻出計画などを明確にして、長期にわたって収益が期待できると信用されるような計画を立てなければなりません。

日本政策金融公庫のローン審査を申請するときには創業計画書(もしくは事業計画書)の作成が必要ですが、この中には売上高や費用の内訳と根拠を明示する必要があります。この資料だけで審査担当者の理解を得るのは困難なので、物件の特徴や収支の見通しを分析した資料を合わせて持参し、長期計画に対する信頼を取り付ける必要があります。

特に高収入の人は「万が一赤字が出たときには自己資金からローンを返済する余裕があるから大丈夫」と考えてしまう人も少なくありませんが、日本政策金融公庫ではあくまで不動産事業の中で経営が成り立つことが前提となるため、事業単体での精緻な計画策定が欠かせません。

4 まとめ

日本政策金融公庫は新規事業を立ち上げようとする人をサポートする金融機関です。不動産投資に活用する余地は充分にありますが、不動産経営を事業規模で行う人に適した金融機関といえるでしょう。

低金利での資金調達が期待できる一方で、融資期間の短さや限度額の低さがネックとなる金融機関です。また、不動産事業としての収益性や将来性を厳しくみられるという特徴もあります。長期の収益計画を立てて、不動産事業として融資担当者の信頼を得ることが大切です。

充分な自己資金があり、また低価格ながら収益性が期待できる物件候補がある人は、日本政策金融公庫の融資審査にトライしてみてください。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。