テレビ会議システムなどのITを活用した重要事項説明が、2021年から不動産売買でも行われるようになっています。自宅にいながら不動産取引ができるため、売主・買主の双方にとってメリットがある一方、まだ新しい取引形態であるため、注意点もあります。
そこで今回のコラムでは、IT重説で不動産売買を行う際の注意点を紹介します。また事前の準備や手順についても解説していきます。
目次
- 不動産売買のIT重説とは
1-1.重要事項説明とは
1-2.IT重説の特徴 - IT重説で不動産売買を行う手順
2-1.IT重説を開始する前の準備
2-2.IT重説の代表的な流れ - IT重説で不動産売買を行う際の注意点
3-1.IT重説に対応できない物件もある
3-2.IT重説に対応しづらいIT環境の場合もある
3-3.録画や録音をするときは双方で行う
3-4.余裕を持って時間の調整をする
3-5.中断した場合はそのまま進行しない
3-6.IT重説で得た個人情報への対応は慎重に行う - まとめ
1 不動産売買のIT重説とは
IT重説とは、不動産を取引する際に必要な重要事項説明を、ITを活用して行うことです。賃貸における賃貸借契約、売買における売買契約のどちらの契約にも用いられています。詳しく見てみましょう。
1-1 重要事項説明とは
IT重説とは、ITを活用して重要事項説明を行うことです。不動産業界では、重要事項説明を略して「重説」と言い、「IT重説」と呼ばれています。従来は対面で行われるものでしたが、オンラインなどの技術が発達したことで2017年に賃貸借契約でスタートし、2021年3月30日からは不動産売買取引でも導入されるようになっています。
この重要事項説明とは、不動産取引における重要事項が記載された重要事項説明書の読み合わせを、仲介を担当する不動産会社(宅地建物取引士)と買主(賃貸借契約の場合は借主)の間で行うことです。
不動産取引における内容は複雑で多岐にわたることから、口頭ではなく、書面を交付して説明することが「宅地建物取引業法」第35条で規定されています。
重要事項説明書には、取引の対象となる物件の権利関係や属性などが記されているため、読み合わせをすることで契約内容の確認をすることができます。具体的には、下記のような事項が記載されています。
宅地建物に関する事項 | 取引条件に関する事項 |
---|---|
・登記されている権利 ・法令による制限の概要 ・私道負担 ・飲用水、排水、電気、ガスに関する事項 ・宅地造成または建築工事の完了前の宅地建物については完了時における形状、構造等 ・区分所有物については建物の敷地の権利や共用部分に関する事項 |
・売買代金や賃料以外に授受される手付金、敷金の額、その目的、など ・契約解除に関する概要 ・損害賠償の予定又は違約金 ・手付金保全措置を講ずべき場合における保全措置の概要 ・支払金・預り金の保全措置の概要 ・ローンのあっせん内容とローンが成立しないときの措置、など |
1-2 IT重説の特徴
国土交通省の資料「ITを活用した重要事項説明実施マニュアル」では、IT重説について下記のように記されています。
IT重説とは、テレビ会議等のITを活用して行う重要事項説明を言います。IT重説では、パソコンやテレビ、タブレット等の端末の画像を利用して、対面と同様に説明を受け、あるいは質問を行える環境が必要となります。
また、不動産会社(宅建士)がIT重説を導入した場合のメリットとして、下記の4つを挙げています。
- 遠隔地に所在する顧客の移動や費用等の負担が減少する
- 重要事項説明実施の日程調整の幅が広がる
- 顧客がリラックスした環境で重要事項説明を受けられる
- 来店が難しい場合でも契約者本人に対して説明ができる
そのほか買主にしてみると、急な要件が発生した場合でも柔軟な対応をしてもらえたり、IT重説を録画するなどで内容の確認が後からできる、といった特徴があると考えられます。
2 IT重説で不動産売買を行う手順
IT重説の特徴を把握したところで、IT重説を行う手順について、事前の準備と当日の流れに分けて解説していきます。
2-1 IT重説を開始する前の準備
まずはIT重説を行う前の準備について、「IT環境」「重要事項説明書」「宅地建物取引士証の確認」の3つのポイントを解説していきます。
IT環境
IT重説はテレビ電話などを用いて行うため、まずはIT環境の整備が不可欠です。不動産取引を仲介する不動産会社(宅建士)によってはソフトウェアやアプリを指定する場合があるため、当日までにある程度操作できるようにしておくことも忘れないようにしましょう。
重要事項説明書
IT重説は、オンライン上で重要事項説明書の読み合わせを行うため、手元に重要事項説明書がなければできません。通常は、不動産会社(宅建士)から、当日までに書類が送付されてきます。IT重説が始まる際には、手元に置いておくようにしましょう。
重要事項書類がたくさんあり、内容が複雑なため、事前に一度目を通しておくと当日に戸惑うことは少なくなります。不明点や不審点などをまとめておくのもいいでしょう。
また、読み合わせを行う重要事項説明書への宅地建物取引士の記名が「宅地建物取引業法」第35条で義務付けられています。重要事項説明書に記名があるかも確認しておくことが重要です。
宅地建物取引士証の確認
「宅地建物取引業法」第35条では、重要事項説明書の読み合わせは宅地建物取引士の有資格者が行うことが義務付けられています。また、買主本人に宅地建物取引士証(宅建士証)を提示した上で重要事項説明を行うことも定められています。
そのため、IT重説は宅建士が宅地建物取引士証を買主に見せて、それを買主が確認した段階で始める流れになります。宅建士がその段取りを忘れてしまった場合などは、買主から宅建士に宅地建物取引士証を見せてもらうように伝えましょう。
2-2 IT重説の代表的な流れ
前述したIT重説の準備を踏まえて、IT重説を行う当日の流れを追っていきましょう。通常は下記のように進めます。
- 開始時間になったらテレビ会議システムを立ち上げる
- 仲介を担当する不動産会社(宅地建物取引士)と接続されたことを確認する
- 画面越しに宅建士の本人確認を行う(重説書類に記名押印している宅建士と名前が一致しているか、重説の説明者と顔が一致しているかを、顔写真付きの宅建士証で確認する)
- 買主が契約当事者本人であることを確認する(運転免許証、マイナンバーカードなどの顔写真付きの公的身分証明書などで宅建士に確認してもらう)
- お互いの確認が終わったら、重説書類などを画面共有して説明を受ける
重要事項説明を受けた後、契約内容に納得できればそのまま物件を購入する流れになります。その場合は、各書類に記名押印をして書類を返送することになりますので、IT重説を担当する宅建士にその後の流れを聞くことも忘れないようにしましょう。
3 IT重説で不動産売買を行う際の注意点
IT重説には前述したようなメリットがありますが、注意すべき点もあります。デメリットやリスクにもなるため、注意点を理解してから望むようにしましょう。
3-1 IT重説に対応できない物件もある
IT重説には、対応物件と非対応物件があります。その理由は必要事項を満たしていないケースがあるからです。具体的には下記の2つの条件を満たしている必要があります。
- IT重説に必要な設備があり、事前に準備ができる
- 売主・買主からIT重説実施の同意がある
つまり不動産会社(宅建士)が、IT重説に必要な環境を整えていないなどで対応していないケースや、売主がIT重説に同意していないケースなどではIT重説は行われないのです。重要説明事項は個人情報が含まれるため、関わる全員から同意を得る必要があることも覚えておきましょう。
例えば、IT重説に対応している不動産会社の一つには、東京・横浜の投資用マンションの販売を手掛ける東証プライム上場企業の「プロパティエージェント」があります。
プロパティエージェントは、国土交通省が2019年10月1日から実施した「個人を含む売買取引におけるITを活用した重要事項説明に係る社会実験」に参加しており、2020年11月30日までの投資用マンションブランド「クレイシア」の売買取引において、累計327件の「IT重説」の実施実績があります。
【関連記事】プロパティエージェントの評判は?良い口コミ・悪い口コミや注意点も
3-2 IT重説に対応しづらいIT環境の場合もある
国土交通省によるガイドラインでは、IT重説に関わる環境に関しては具体的な規定はありません。しかし、画面のサイズや解像度などで間取り図などの図面や細かな文字が読みづらいケースがあります。このような状況では、画面上で図面を表示して適切な説明することは難しい、つまり適切なIT重説は行えないとも考えられます。
そのため画面のサイズや解像度などに不安があり、買主が鮮明な映像が見られない状況でIT重説を受ける場合は、事前に不動産会社(宅建士)に事情を伝えておきましょう。必要な図面などを事前に送付してくれるなどの対応をしてくれます。
3-3 録画や録音をするときは双方で行う
トラブルを防止するために、IT重説を録画したり、録音することは有効と考えられています。これは国土交通省の「ITを活用した重要事項説明実施マニュアル」にも記載されています。
しかし録画データの改ざんが行われることも考えられ、トラブルに発展する可能性もあります。そのため録画・録音したい場合は単独で行うのではなく、その旨を不動産会社(宅建士)に伝えて参加者全員で行うようにしましょう。
3-4 余裕を持って時間の調整をする
前述したように、重要事項説明で説明を行う事項は多岐にわたっています。特に不動産売買の場合、双方の認識にずれがあると、後々トラブルに発展してしまうため丁寧に進めていく必要があります。
そのためIT重説の時間は、通常1時間程度ですが、説明する事項が多い場合は2時間程度になることもあります。余裕を持って時間の調整をしておくようにしましょう。
3-5 中断した場合はそのまま進行しない
「ITを活用した重要事項説明実施マニュアル」によると、国土交通省が行ったIT重説の社会実験では、機器トラブルが生じた割合は10.3%となっています。すぐに回復できたものも多いようですが、「一時的に声が聞こえなかった」「一時的に画面が見えなくなった」といったように、IT重説に支障をきたすトラブルも少なくありません。
このようにIT重説中に何らかのトラブルがあった場合は、トラブルの前に立ち返り、改めて説明をしてもらうことが重要です。その際、機器の状態を確認して、問題がなくなってから再開することが重要です。電波状況が悪い場合は、一旦中断するなどの判断が望ましいと言えます。
3-6 IT重説で得た個人情報への対応は慎重に行う
IT重説を実施するに当たって、個人情報の取り扱いは適切に行う必要があります。特に録画や録音をした場合は、売主の個人情報や不動産会社の室内などの映像が手元に残ってしまうケースもあります。このような情報は扱い方によって、プライバシー権の侵害にあたる可能性もありますので、適切に対処および管理するようにしましょう。
テレビ会議システムによっては、サービスを提供する事業者が、プライバシーポリシーなどを定めている場合があります。これらを事前に確認しておくことも重要です。
まとめ
不動産の取引において重要な手順の一つが重要事項説明です。トラブルを未然に防ぐためにも、重要事項説明にはどのような役割があるのか、など理解を深めておきましょう。
今回のコラムでは、IT重説の手順や注意点などについて解説しました。新型コロナウィルスの感染症拡大によって、IT重説で不動産売買を行いたいというニーズも増えていると推測されます。
自宅にいながら不動産取引ができるメリットがある一方、まだ新しい取引形態であるため、不動産会社側も慣れていない可能性があります。通信環境を整えたり、重説の内容をあらかじめ確認しておくなど、事前に準備を進めておくことも検討しておきましょう。
倉岡 明広
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