コストを抑えて自分好みの部屋に住みたい、というニーズが高まってきています。平成28年4月、国土交通省は「DIY型賃貸借のすすめ」というガイドブックと契約書式例を公表しました。
築古の家を賃貸に出したいが、高額のリフォーム費用をなかなか捻出できないという悩みを抱えるオーナーも検討したい方法です。
この記事では、DIY型賃貸とはどのような賃貸の方法なのか、通常の賃貸借との違いと、メリット・デメリットを解説します。
目次
- DIY型賃貸とは? 通常の契約との違いを解説
1-1.DIY型賃貸借契約と通常の賃貸借契約との違い
1-2.契約・DIYの流れ - DIY型賃貸のメリットとデメリット
2-1.DIY型賃貸の主なメリット
2-2.DIY型賃貸の主なデメリット - DIY型賃貸での注意点と対処法
- まとめ
1.DIY型賃貸とは? 通常の契約との違いを解説
賃貸住宅は、入居者が良好な状態で居住できるように、設備、内装について貸主側が一般的なリフォームを施して、維持管理についても義務を負うのが通常です。
しかし、DIY型賃貸では、入居者側の自由なリフォームがしたい、というニーズを反映して、一定の条件の下、入居者がリフォームを行えるようになっています。
それでは、具体的に通常の賃貸借契約とどのような点が異なるのでしょうか?異なる主要なポイントと契約・DIYの流れについて解説します。
1-1.DIY型賃貸借契約と通常の賃貸借契約との違い
DIY型賃貸借契約では、国土交通省のDIY型賃貸借の契約書式例などに基づいて、通常の賃貸借契約にDIYを認める旨の特約を付け特約部分については別途契約書で取り決めをします。
DIYの特約については、「増改築等の申請書兼承諾書」、「合意書」を用意することが一般的です。
「増改築等の申請書兼承諾書」では、増改築内容を一覧表にして、それぞれについて、所有権の帰属、明け渡し時に撤去するか残置するか、原状回復義務の有無、明け渡し時の費用精算の有無について取り決めを行います。
棚の設置や壁紙の張替えなどの小規模なリフォームであれば、借主が費用負担をする代わりに、原状回復義務を負わず、かつ、借主は退去時に所有権を放棄するという形式が多いでしょう。
また大規模なリフォームの場合は費用精算の有無が問題になることがあります。貸主がサブリース業者などにいったん費用を拠出してもらい、後から借主負担分のみを精算するというケースもあるようです。
「合意書」では、原則的な所有権の帰属と、契約期間中の管理義務について規定することが推奨されています。
DIY部分については、契約期間中は借主に所有権があり、その管理義務は借主が行いながらも「退去時には所有権を放棄して貸主に譲渡する」というものが最も多いケースです。
1-2.契約・DIYの流れ
DIY賃貸の契約とDIYの流れは下記の5つの手順で進行します。
- 契約前に、借主側はある程度のDIY工事の概要を貸主側に伝える
- 借主、貸主の合意が成立したら、DIY賃貸借契約を締結する。DIY工事の申請書兼承諾書も同時に作成する
- 借主がDIY工事を行う。貸主も立ち会って、申請書に沿っているかどうかをチェックする
- 入居中のDIY部分について、借主が管理修繕を行う
- 退去時に借主は原状回復せず、必要に応じて貸主はDIY工事部分の精算を行う
DIY工事は、実際には業者に発注することが多いでしょうから、大規模になればなるほど、どれぐらいの費用をかけてどのような業者に発注するかが重要になります。
工事中のトラブルや、工事の費用精算を考えて、貸主側も借主がどのようなDIY工事をするのか、具体的な内容を事前に把握し、工事中の立会いでチェックすることが必要でしょう。
退去時の原状回復は不要としたとしても、本来の機能が失われるほど破損している場合、補修を求めるのか、また、精算するとしたとき、残存価値をどのように算定するのか、などについても決めておく必要があります。
2.DIY型賃貸のメリットとデメリット
DIY型賃貸では、貸主側、借主側にどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
まだ認知度もそれほど高いとは言えないため、思いもかけないメリットが出てきたり、あるいは予測していなかったトラブルに巻き込まれたりすることもあるかも知れません。
国土交通省のガイドブックや契約の流れを参考に、メリット・デメリットを整理してみます。
2-1.DIY型賃貸の主なメリット
DIY型賃貸借の貸主側の主なメリットとしては、次のようなものが考えられます。
- 古い家の空室対策になる
- 募集時にリフォーム費用があまりかからない
- 借主の好みに合わせたリフォームが可能なため、長期の入居が見込める
- 借主負担のリフォームが基本なので、退去後付加価値が見込める
- SNSなどで入居者を募れば広告費を抑えられる
総じて、貸主のメリットは初期の投資費用を抑えられるというところにあると言えます。特に、築古で貸し出すには初期投資コストがかなりかかりそうな物件では、検討すべき方法と言えるでしょう。
借主側のメリットとしては、次のような点が挙げられます。
- 自分好みにDIYができるため、コストを抑えて持ち家のような感覚で住める
- DIY費用を負担することで、家賃を低く抑えられる
持ち家を購入するほどの資金はないが、自分好みの部屋に住みたい、というニーズに応えることができるのが、借主側の最大のメリットと言えます。
2-2.DIY型賃貸の主なデメリット
- 所有権の帰属、費用精算の有無、原状回復の範囲など、契約手続きが面倒
- 契約後も予期しないトラブルが起こる可能性がある
- 借主側の物件の選択肢が少なく、貸主側もニーズを狭くしてしまうおそれがある
DIY型賃貸は借主側にある程度自由なリフォームを認める賃貸の形であるため、リフォームをどの程度認めるか、費用精算など、借主側と貸主側とで合意すべき事項が多いのが特徴です。
双方で手続きが面倒であり、確認すべき事柄も多いですから、その分、トラブルにつながりやすいと言えます。認知度が高くないため、事前に合意すべき内容についてお互いが理解していない可能性もあります。
また、DIY型賃貸物件の供給は少ない状況です。借主側も内装は好みにできるとは言え、立地条件などで選択肢が少ないという問題があります。
貸主側も、ある程度設備や内装の整った標準的な部屋に標準的な家賃で住みたい、というニーズの方が多いため、DIY型賃貸として内装や設備をリフォームせずに古いままにしておくと、その分間口を狭くしてしまうことが考えられます。
退去後も、借主のこだわりが強いユニークな内装などにされてしまうと、再募集の入居ニーズを狭めてしまうおそれがあります。
3.DIY型賃貸での注意点と対処法
DIY型賃貸はまだ広く認知をされていない状況であるため、業者によっては知識の少ない場合もあります。
次のような点に注意して、場合によっては、貸主であるオーナーが主導して適切な対処をしていくことが重要です。
- DIY賃貸物件の募集では、専門の業者に依頼するなどして貸し出し方を工夫する
- 契約前に、DIY工事をしていけない範囲などについても決めておき、契約書は第三者にも確認をしてもらう
- DIY工事に際しては、発注業者や資金の借り入れの相談にもできるだけ協力する
- 退去時のDIY工事部分の精算は、借主の費用償還請求権に配慮する
DIY賃貸物件は、ニーズが限定的であるため、募集方法を工夫する必要性が考えられます。DIY賃貸専門の募集サイトを運営する業者に相談したり、DIY期間のフリーレントを設定したりするなど、貸し出し方を工夫しましょう。
建物の構造上の耐久性に関わる部分などは、DIY賃貸物件でもDIYをしてはいけない部分と言えます。DIYをしてはいけない部分についても、契約書に明記し、借主の合意を得る必要があるでしょう。借主をSNSなどで自ら探した場合であっても、契約書は専門業者に確認をしてもらいましょう。
DIY工事に際しては、借主にDIY知識が不十分な場合なども考慮し、発注業者の選定や資金の借り入れなどの相談にもできる限り協力しましょう。後でトラブルになるよりは、貸主が事前に関与し、リスク回避に努めることが大切です。
小規模のDIY工事では、退去時に借主から貸主への無償譲渡を条件とすることもありますが、民法608条2項では、賃借人から賃貸人への費用償還請求権を認めています。
賃貸用建物であっても、賃借人が価値の増加するような改良を加えた場合、その費用を賃貸人に請求できるのが原則です。退去時に、DIY工事の価値がどれぐらい残っているのか、減価償却の算定方法についても決めたうえで、残存価値に配慮した費用精算をするようにしましょう。
まとめ
DIY型賃貸は、通常の賃貸借契約に、借主がDIYをすることについての条件を特約として別途定めることで、借主の自分好みの部屋に住みたい、というニーズに応える新しい賃貸方法です。
DIY工事の部分につき、所有権の帰属、費用の精算、退去時の原状回復の有無などを個別に定める必要があります。
借主側は、コストを抑えて住みたい部屋に住めるというメリットがあり、貸主側も、古くて投資コストのかかる家などを初期費用の投資を抑えて貸し出すことができ、長く入居してもらえる可能性が高いというメリットがあります。
ただし、DIY賃貸の契約手続きについては、一般的に浸透しているとは言えないため、トラブルが発生することも考えられます。貸主側としては、募集の間口が狭くなってしまうというデメリットもあるので、慎重に検討したいところです。
佐藤 永一郎
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