少子高齢化で注目される「ヘルスケア不動産」への投資方法は?主な投資対象や課題も

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REITやクラウドファンディングなどの普及を背景に、以前よりもさまざまなタイプの物件に、個人投資家でも投資ができる時代になってきています。近年活発化しつつある不動産投資の領域の一つに「ヘルスケア不動産」があります。

ヘルスケア不動産とは医療機関や介護施設など、人々の健康に関する施設に投資するもので、少子高齢化が進む日本において今後さらなる市場発展が期待できる分野です。今回はヘルスケア不動産の見通しや投資方法、課題についてまとめました。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※特記ない限り、この記事は2022年10月29日時点の情報を基に作成しております。

目次

  1. ヘルスケア不動産投資の現状と見通し
    1-1.ヘルスケア不動産の種類
    1-2.コロナ後はさらに注目度が高まり、今後の成長が期待できる分野
    1-3.政府もヘルスケア不動産への投資を後押し
  2. ヘルスケア不動産への投資方法①REIT投資
    2-1.ヘルスケアREITの現状
    2-2.ヘルスケア&メディカル投資法人がヘルスケア不動産を主な投資対象に
  3. ヘルスケア不動産への投資方法②クラウドファンディング投資
    3-1.クラウドファンディングによるヘルスケア不動産投資の現状
    3-2.CREALがヘルスケア不動産ファンドの発行実績あり
  4. ヘルスケア不動産投資の課題
    4-1.ファンドを通じた資金調達に慎重なヘルスケア施設運営者も
    4-2.投資ファンドの選択肢が限られている
    4-3.個人投資家にとって「現物投資」は難しい
  5. まとめ

1 ヘルスケア不動産投資の現状と見通し

ヘルスケア不動産は介護施設や医療機関などの総称で、少子高齢化が進む中でESGの観点から投資が活発化しています。コロナにおける影響が相対的に小さかったことからもわかるように、他の不動産投資と比較すると、経済や社会の変化の影響を受けにくい点も特徴で、今後さらなる成長が期待される分野となっています。

1-1 ヘルスケア不動産の種類

ヘルスケア不動産とは主に次のようなタイプの不動産を指し、これらの物件を直接開発したり、ファンドを通じて出資したりするのが「ヘルスケア不動産投資」となります。

高齢者向け施設

タイプ 概要
有料老人ホーム 老人福祉法に規定された住宅で、食事・介護・生活支援や健康管理といったサービスを提供
サービス付き高齢者向け住宅 高齢者住まい法に基づき、高齢者向けの設備・仕様となっている賃貸住宅。安否確認や生活相談サービスが付帯
認知症高齢者グループホーム 介護保険法に定める「認知症対応型共同生活介護」を提供するためのもので、認知症進行緩和を主目的とした少人数単位の共同生活を営むための施設
その他高齢者向け施設・住宅 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など

医療関連施設

病院や診療所、薬局などの施設や、これらが集積している医療モールなど。また、先進医療サービスを提供する施設も含みます。

その他デイサービスやフィットネスクラブなどの健康増進施設もヘルスケア不動産に含まれ、投資対象とされることがあります。

1-2 コロナ後はさらに注目度が高まり、今後の成長が期待できる分野

ヘルスケア不動産のセクターはコロナの影響が相対的に小さかったセクターです。2020年上半期には新型コロナの感染拡大の影響で株式やREITの多くが深刻なダメージを受けました。

一方で、ヘルスケアセクターは高齢者などが居住もしくはサービスを利用することによる賃料や利用料が利益の源泉になります。新型コロナの感染拡大があったとしても、高齢者が転居が進むことはないため、影響は限定的でした。

例えば、ヘルスケア不動産をメインの投資先とする「ヘルスケア&メディカル投資法人」を例にすると、新型コロナの影響が最も深刻だった2020年7月期の決算においても稼働率100%、入居率92.6%を維持していました。

当時の同法人の決算資料には「ヘルスケア施設の投資環境に大きな変化なし」との記載がみられ、新型コロナの影響が限定的であったことが伺えます。(参考:CREAL「ヘルスケア&メディカル投資法人決算説明資料2020年7月期(第11期)」)

また、ヘルスケアセクターはコロナ禍を経て、さらに注目度が高まっているとの見方もあります。新型コロナのような感染症などが蔓延するリスクから高齢者を守るためには、質の高いヘルスケア関連施設の開発が必要であることから、ヘルスケア不動産への投資が積極化すると期待されるためです。

少子高齢化を背景に、高齢者の健康や生活を守るために、近年ヘルスケア開発は積極的に行われてきましたが、コロナ禍によりさらに加速する可能性があります。

1-3 政府もヘルスケア不動産への投資を後押し

リートを通じたヘルスケア不動産への投資の枠組みは、近年日本政府によって整備されたものです。日本政府は2014年から2015年にかけて「高齢者向け住宅等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン」「病院不動産を対象とするリートに係るガイドライン」を相次いで設定し、ヘルスケア不動産へ投資・運用する場合のルールづけを行いました。

これは、高齢化社会の中で、ヘルスケア施設の不足に課題意識を持っていた政府が、リートを通じた不動産投資を活性化することによる、ヘルスケア不動産の開発促進を狙ったものです。

また、2016年には「高齢者が自立して暮らすことのできる住生活の実現」という目標のもと、高齢者人口に対して整備すべき住宅の割合を、2014年時点の2.1%から2025年に4.0%を達成するという指標も設定されました。

少子高齢化という社会状況に加えて、政府も投資促進を後押ししているとあって、今後の不動産における投資先としてのヘルスケア不動産の注目度は高まっています。

2 ヘルスケア不動産への投資方法①REIT投資

ヘルスケア不動産投資のルールが整備されたのは足元10年以内のことですが、個人投資家でもヘルスケア不動産に投資する方法は複数存在します。まずはそのうちの一つ「REIT(不動産投資信託)」を通じた投資について見ていきましょう。

2-1 ヘルスケアREITの現状

REITの中には特定のタイプの物件に集中的に投資する銘柄があります。その中には、高齢者施設や医療機関などヘルスケア関連の不動産を中心に投資する銘柄もあり、海外では日本よりも早くからこうしたREITが設立・上場されていました。

例えば「東京海上・グローバルヘルスケアREITオープン」などはグローバルのヘルスケアREITに投資を行う投資信託です。同ファンドを購入すれば、個人投資家でも、REITを通じて世界中のヘルスケア施設に対して実質的に分散投資が可能です。同ファンドは野村證券、SMBC日興証券や楽天証券のほか、多数の中堅証券で購入できます。

東証でリアルタイムに売買できるJ-REITにおけるヘルスケアREIT投資の選択肢はまだ多くありませんが、2015年に「ヘルスケア&メディカル投資法人」というREITが上場し、上場J-REITを通じて投資家がヘルスケアREITを直接売買することができるようになりました。

2-2 ヘルスケア&メディカル投資法人がヘルスケア不動産を主な投資対象に

ヘルスケア&メディカル投資法人は2015年上場と比較的新しいREITで、政府がヘルスケア施設の開発促進を推進する中で上場しました。2022年10月28日時点では投資先のほとんどが高齢者向けのヘルスケア施設で、一部含まれる医療機関もリハビリを主領域とする施設となっています。高齢化社会の中で需要の拡大が期待できるセクターへ投資をおこなっているファンドです。

地域別で見ると3大都市圏だけでなく地方の政令指定都市にも投資し、需要が見込める地域を選別しつつも、リスク分散が図られているのが特徴です。直近5期(1期の期間は半年なので2.5年分)の決算情報を見ると営業利益が10億円台前半、分配金は1口あたり3000円台で推移しています。なお、直近2022年7月期は営業利益12.65億円、分配金は3,367円です。(※参照:ヘルスケア&メディカル投資法人「IRライブラリー」)

REITの価格も2022年10月時点では上昇傾向で、10月28日時点では1口あたり200,300円となっています。

ヘルスケア&メディカル投資法人の価格推移

※公開情報を基に筆者作成
期間:2017年8月末~2022年10月28日

3 ヘルスケア不動産への投資方法②クラウドファンディング投資

REIT以外でヘルスケア不動産投資を行う方法として、クラウドファンディングによる投資があります。2022年10月時点ではCREALというクラウドファンディングサービスがヘルスケア不動産向けのファンドを販売した実績があります。

3-1 クラウドファンディングによるヘルスケア不動産投資の現状

クラウドファンディングとは、特定の事業や企業などに対する出資や融資を専門業者が小口化して、一般投資家から資金調達を行うスキームおよび投資商品のことです。不動産に投資するタイプのクラウドファンディングでは、賃料収入などを原資として、投資家に分配金が支払われます。

不動産に投資するクラウドファンディングはアパートやマンションなど居住施設に投資するものが多いものの、最近では高齢者施設や医療機関などのヘルスケア施設に投資するファンドも出てきています。

クラウドファンディングは1口1万円程度から投資できるものもあり、REITと比較すると少額から投資を検討可能です。また投資不動産の賃料支払いが滞らない限りは、契約上定められた満期日に投資元本が償還されるため、REITと比較して価格変動リスクが低いという特徴もあります。

ヘルスケア不動産へ投資するクラウドファンディングを購入すれば、REITと比較して少額で、価格変動リスクを抑えながらヘルスケア不動産への投資にチャレンジすることができます。

3-2 CREALがヘルスケア不動産ファンドの発行実績あり

ESG不動産投資クラウドファンディング「CREAL」

ヘルスケア不動産へ投資するクラウドファンディングは、過去にさまざまな不動産クラウドファンディングを運営している「CREAL」が複数回募集しており、いずれもすでにクローズ済です。

「ヘルスケア関連不動産向けのファンド」というファンド名で第一号~第三号案件まで立ち上げています。例えば、一号案件や二号案件では、それぞれ次のようなサービス付き高齢者向け住宅や介護付き有料老人ホームに投資しています。

ヘルスケア関連不動産向けのファンド第一号案件の投資先

物件名称 用途
アルファ・レジデンス学園前 サービス付き高齢者向け住宅
イリーゼ小平 介護付き有料老人ホーム
チャーム奈良三郷 介護付き有料老人ホーム

出所:CREAL「シンガポールメディア最大手Singapore Press Holdings Ltdとの 日本向けのヘルスケア関連不動産ファンド 第一号案件をクローズ

ヘルスケア関連不動産向けのファンド第二号案件の投資先

物件名称 用途
かがやき平和通り サービス付き高齢者向け住宅
リーフィール西岡 サービス付き高齢者向け住宅

出所:CREAL「シンガポールメディア最大手Singapore Press Holdings Ltdとの日本向けのヘルスケア関連不動産ファンド第二号案件をクローズ

同社はESGの特に「S(社会)」に対する貢献として、ヘルスケア不動産の投資を実施しています。2022年10月28日時点ではCREALでは新規投資できるヘルスケア不動産のクラウドファンディングは募集されていませんが、今度もCREALをはじめ不動産クラウドファンディング業者が新たなファンドを立ち上げる可能性があります。

なお、クラウドファンディングで投資をする際は、サービスごとに投資家登録を行う必要があります。人気が高いファンドの場合、数十秒~数分で受付終了となることもあるため、事前に登録しておくなどの準備をしておくと良いでしょう。

4 ヘルスケア不動産投資の課題

投資先として注目が高まるヘルスケア不動産ですが、まだいくつか課題が存在します。これらの課題が今後解消されて更に投資環境が整えば、個人投資家がより積極的にヘルスケア不動産に投資できるようになるでしょう。

4-1 ファンドを通じた資金調達に慎重なヘルスケア施設運営者も

ヘルスケア関連施設にREITなどの投資ファンドの資金が活発に流入するようになったのは、足元数年の話です。そのため、依然として投資ファンドの資金を活用することに慎重なスタンスの施設運営業者も少なくありません。

また、J-REITにせよクラウドファンディングにせよ、情報の透明性の観点から投資先の情報について開示を行わなければなりません。そのため、ファンド出資を受けている施設の運営業者は、収益状況や入居率など経営に関する情報をファンド運営者に開示する必要があります。

中にはこうした情報開示を通じて、自社の競争力を維持するうえで重要な情報を明け渡してしまうのではないか、と不安に感じているヘルスケア事業者の方もいらっしゃるでしょう。

一方、REITやクラウドファンディングを通じた投資事例は着実に増えてきており、ファンド運営者の多くは、ヘルスケア不動産投資を通じた社会貢献を進めようとしています。こうした誠実なスタンスに対する理解が広がり、ファンドを通じたヘルスケア不動産への投資は更に拡大していくことが期待されています。

4-2 投資ファンドの選択肢が限られている

ヘルスケア不動産投資は、日本の個人投資家にとってはまだまだ発展途上の領域です。REITにしてもクラウドファンディングにしても、投資商品が出てきてはいるものの、不動産投資ファンド全体で見ればまだヘルスケア不動産投資の選択肢は少ないといえるでしょう。

特に、クラウドファンディングについては、ファンドの募集期間にしか投資することができないため、募集頻度が少ない現状においては、投資機会が限られているという点が一つの大きな課題となっています。

高齢化が進む日本においては、特に高齢者向けのヘルスケア不動産に対する需要は中長期的に見て期待も大きく、市場拡大が見込まれます。その中で、個人投資家によるヘルスケア不動産投資を促進するうえではREITやクラウドファンディングなどの投資商品の拡充がポイントとなってくると言えるでしょう。

4-3 個人投資家にとって「現物投資」は難しい

個人投資家のヘルスケア不動産投資のハードルが高いもう一つの理由として「現物投資」が困難な点があります。

居住用のマンションやアパートと異なり、高齢者向けの施設は介護や食事提供、簡易的な医療サービスの提供など様々な機能が必要となります。そのため、概して施設は単なる集合住宅よりも大型化するため、個人の投資家が物件一棟を購入するのは困難です。

また、仮に資金的なハードルを達成できたとしても、医療関係施設や高齢者向け施設などの資産価値の見極めには、賃貸住宅による不動産投資とは異なる専門性や知見が必要になります。そのため、個人投資家が適正価格の分析や魅力的な投資先の発掘をおこなうのも容易ではないでしょう。

「現物投資」という選択肢が事実上取れないことも、個人によるヘルスケア不動産投資を難しくしている要因の一つといえるでしょう。個人がヘルスケア不動産の領域へ積極的に投資を行っていくためには、REITや投資信託、クラウドファンディングなどの投資商品の更なる普及が不可欠となります。

【関連記事】土地活用、サービス付き高齢者向け住宅のメリット・デメリットは?

5 まとめ

ヘルスケア不動産は近年高齢化が進む日本で注目されている新しい不動産投資の領域です。新型コロナショックにより事業用不動産の収益低下が起きる中でも、ヘルスケア不動産への影響が限定的であったことや、今後の成長性を背景にファンド投資が活発化し、ヘルスケア不動産の開発が進むと期待されています。

2022年10月時点ではまだ、投資できるファンドの本数は多くありませんが、政府もファンドを通じたヘルスケア不動産投資を後押しする中で、今後さらに投資が活発化し、高齢者にとって暮らしやすい社会が形成されていくことも予想されます。

不動産投資を通じた社会貢献を行いたいと考えている投資家の方にとって、ヘルスケア不動産への投資も有効な選択肢の一つとして検討されてみると良いでしょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。