海外不動産投資による所得に対しては現地と日本の両国で課税されるため、原則として確定申告をする必要があります。税金は家賃収入や物件売却による利益に対して発生し、所得額によっては大きな負担となるため、節税対策などを含めて事前に知識を知っておくことが大切です。
そこで、この記事では、海外不動産投資で発生する税金の種類や節税方法、確定申告の手順について詳しくご説明します。海外不動産の購入を検討中の方やすでにお持ちの方は参考にしてみてください。
※本記事内の情報は2019年11月時点のものとなります。最新情報は国税庁のHPなどでご確認ください。
目次
- 海外不動産投資にかかる税金とは
1-1.総所得に対する「所得税」「住民税」
1-2.海外不動産投資で「収入」「経費」になるものとは
1-3.物件売却に対する「譲渡所得税」
1-4.二重課税を回避する「外国税額控除制度」 - 海外不動産投資で節税する方法
2-1.海外不動産投資が節税になる仕組み
2-2.海外不動産投資の節税効果が高い理由 - 確定申告する手順とポイント
3-1.収支内訳書を作る
3-2.外国税額控除に関する明細書を作る
3-3.確定申告書を作成する
3-4.為替換算するときのポイント - まとめ
1 海外不動産投資にかかる税金とは
海外不動産投資にかかる税金には大きく2種類あります。総所得にかかる「所得税・住民税」と、物件を売却することでかかる「譲渡所得税」(実質的には所得税・住民税)です。
1-1 総所得に対する「所得税」「住民税」
海外不動産投資では、基本的に日本国内の不動産投資の場合と同じ税金がかかります。まず不動産で得た所得と給料などその他の所得と合算した総所得に対して、所得税と住民税を支払うことになります。
所得はその種類によって課税方法が異なり、不動産による所得は「不動産所得」として申告します。サラリーマンの方なら毎年2月中旬〜3月中旬にかけて自己申告する「確定申告」において、会社から支払われる給与所得と合算(=損益通算)して計算することになります。
損益通算とは、異なる所得を合算して損失が生じたものをほかの所得から控除することです。損益通算の対象となる所得には、次の4種類があります。
- 不動産所得
- 事業所得
- 譲渡所得
- 山林所得
不動産所得は家賃収入などの収入から様々な経費を差し引いて算出します。サラリーマンの方のように給与所得がある場合、不動産所得が赤字なら給与所得と合算して天引きされた税金の還付を受けられる場合もあります(詳細は後述)。
所得税は確定申告後に支払いますが、住民税は確定申告によって5月頃に税額が決定し、その後に支払います。
1-2 海外不動産投資で「収入」「経費」になるものとは
不動産収入として計上するものは家賃収入と礼金や共益費などです。敷金や保証金は賃借人が退去する時に返還するものなので、収入には加算しません。しかし賃借人の債務不履行などが理由で返還しないことになれば、それが確定した時点で収入として計上します。
次に経費として計上できる費用には、以下のものが挙げられます。
- 税金(不動産取得税や固定資産税、収入印紙税など。所得税と住民税は除く)
- 各種保険料
- 管理会社などへの業務委託料
- 修繕費
- ローンの金利
- 減価償却費
経費として大きな割合を占めるのが減価償却費です。減価償却費とは、時間が経つごとに減少していく資産の価値について、その資産の取得費を残存耐用年数で按分して計上できる経費です。
これにより、海外不動産投資も国内不動産投資と同じように、あるいはそれ以上の節税効果を生み出すことがあります(詳細は「2 海外不動産投資で節税する方法」を参照)。
1-3 物件売却に対する「譲渡所得税」
海外不動産投資では主に物件の値上がり益(キャピタルゲイン)を目的とするケースが多くなります。特に経済成長が著しい東南アジアのコンドミニアムでは、短期間でのキャピタルゲインが狙えます。
海外不動産の売却で利益が得られた場合、その譲渡所得(売却益)に対して税金が発生します。譲渡所得税には、確定申告後に支払う所得税と、その後に確定する住民税があり、物件の保有期間によって税率が変わります。保有期間が5年以下であれば所得税と住民税あわせて39.63%が課され、5年を超えると20.315%が課されることになります。
なお、不動産の譲渡所得は不動産所得とは別にして税金を計算する必要があるため、譲渡所得は給与所得とは損益通算できない点に注意しましょう。
譲渡所得は売却金額から取得価格や譲渡費用などを差し引いて算出し、場合によってはマイナスになることもあります(=譲渡損失)。このときのマイナス分は他の譲渡所得としか損益通算できない点にも注意が必要です。
1-4 二重課税を回避する「外国税額控除制度」
海外不動産投資による収入がある方は、日本で確定申告をして税金を支払います。また現地でも家賃収入に対する税金や売却時の税金を支払います。その仕組みや税率は国によって違いますが、現地でも日本国内でも税金を支払うとなれば二重に支払うことになります。
そこで、二重課税を回避するため、外国で支払った税金は国内の確定申告時に控除できる「外国税額控除」という制度があります。条件を満たしていれば日本で支払うべき税金から外国で支払った税金を一定の範囲で控除することができます。
日本と租税条約を結んでいる国に適用される制度ですが、日本はほとんどの国と租税条約を結んでいるので、東南アジアやアメリカなど海外不動産投資で人気のある国なら外国税額控除の適用を受けることも可能です。
なお、外国で支払った税金が必ずしもすべて控除できるというわけではなく、控除できる限度額は、所得税額×(国内所得金額÷所得総額)で算出します。所得税から控除しきれなかった分は住民税から控除し、それでもまだ残っていれば翌年以降3年間、一定額を繰り越すことができます。
2 海外不動産投資で節税する方法
不動産投資では経費を計上することで不動産所得を引き下げることができ、経費の金額が収入を上回れば、税金計算上の赤字として申告することができます。赤字分は給与所得などと合算(損益通算)でき、総所得を引き下げるので節税効果が期待できます。
2-1 海外不動産投資が節税になる仕組み
前述した通り、海外不動産投資によって得られる収入は、給与所得と合算されます。不動産所得がプラスであれば、給与所得が増えるために所得税と住民税は本来の税額よりも多くなります。
一方、海外不動産投資で家賃収入を得るために要した費用は経費として家賃収入から差し引くことができます。そしてこの経費の中でも、不動産の建物部分に対して計上できる減価償却費というものが大きな割合を占めるため、場合によっては収入よりも経費のほうが大きくなることがあります。この場合、不動産所得はマイナスとなるので、給与所得から差し引かれて税金が安くなります。
なお、減価償却は建物の種類によって減価償却できる期間(=償却期間)が決まっています。コンクリートは、日本では耐用年数が47年と定められているので、新築であれば47年かけて償却されます。中古物件の場合には、築年数に応じて償却期間が短くなります。
例えば中古物件を購入して残存耐用年数が20年であれば、減価償却率は0.05となります(定額法の場合)。仮に購入したコンドミニアムの建物部分の取得価格が2,000万円であれば、毎年の減価償却費は、2,000×0.05=100(万円)となります。
2-2 海外不動産投資の節税効果が高い理由
日本の不動産は築年数の経過によってその価値は大きく低下しますが、欧米の中古物件は価値が下がりにくいため、償却期間が短いと減価償却費を大きく計上できるのが特徴です。また、ほとんどの東南アジアのコンドミニアムには土地の所有権がないので、資産価値のすべてを減価償却できます。
経費として計上できる減価償却費が大きくなれば、その分だけ不動産所得は少なくなります。場合によっては家賃収入を上回ることでマイナス所得となり、給与所得を引き下げることになります。
特にアメリカ不動産は資産に占める建物の比率が高く、木造住宅の中古は減価償却期間が短いため、短期間で経費を大きく計上でき、節税効果が期待できます。
ただし、この減価償却費の計上が譲渡所得税の増加につながることもあります。不動産の譲渡所得を求める際には、購入金額から毎年の確定申告で経費として計上している減価償却費を差し引き、その金額と売却価格の差額によって税額が計算されます。そのため、経費計上してきた減価償却費が大きいほど、購入価格が引き下げられて譲渡所得が大きくなり、譲渡所得税も大きくなります。
なお、海外不動産を利用した節税スキームに関しては、独立行政機関の1つである会計検査院が海外不動産の減価償却の大きさを指摘して、節税効果の高さを規制する必要がある旨の指摘をしているので、今後の動向には注意を払っておくと良いでしょう。
3 確定申告をする手順とポイント
海外不動産投資で得た所得を税務署に申告する方法をご紹介します。
3-1 収支内訳書を作る
海外不動産投資に限らず不動産投資による収入を得た場合、まずは確定申告に添付する「収支内訳書」という書類を作成する必要があります。
収支内訳書には、「一般用」「不動産所得用」「農業所得用」の3種類があり、海外不動産投資の場合には「不動産所得用」を使用します。
収支内訳書には収入や経費の金額、そして裏面には減価償却費を記入し、不動産所得金額を算出します。また、売却した際の譲渡所得は、分離課税用の「申告書第三表」という書類で計算します。
3-2 外国税額控除に関する明細書を作る
収支内訳書を作成したら、現地で支払った税金を控除するための「外国税額控除に関する明細書」を作成します。国名や所得の種類、外国所得税額などを記入していき、過去3年以内に繰越金額があれば、記入する欄があるので忘れずに書き込むようにします。
3-3 確定申告書を作成する
収支内訳書と外国税額控除に関する明細書を作成したら、最後に確定申告書を作成します。記入する場所は指示されているので、そのとおりに転記します。あとは給与所得に関する欄や、医療費控除などがあれば一緒に記入します。ほかに雑所得や事業所得などがあれば記入していきます。
確定申告書は第一表と第二表があるので、忘れずに記入するようにしましょう。わからないことがあれば、税務署で相談することも可能です。
3-4 為替換算するときのポイント
確定申告では海外不動産の運用による家賃収入を日本円に換算する必要があり、原則としてTTM(テレグラフィック・トランスファー・セリング・レート)で換算します。
為替レートの換算方法には、円を外貨に替える「売相場(TTS)」、外貨を円に替える「買相場(TTB)」、売相場と買相場の「公表仲値(TTM)」の3つがあります。
円換算する時は仲値で計算するのが基本ですが、継続して毎年確定申告をする場合には、収入は買相場、経費は売相場で計算することも可能です。為替レートは買相場のほうが売相場よりも低いので、収入金額は少なく換算して経費は多く換算するなど、納税者に有利な方法をとることが認められています。
4 まとめ
給与所得がある方で海外不動産投資による所得が20万円以下の場合は、確定申告をする義務自体はありません。しかし、赤字申告により給与所得と損益通算することで総所得を引き下げられるなら、節税対策のためにも申告しておきましょう。
なお、20万円を超える所得があるにもかかわらず、無申告でいると加算税などのペナルティを受けることとなるため、十分注意してください。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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