離婚時に土地や家といった不動産を売却せず、持ち続けたい方もいらっしゃることでしょう。「子供の学校や生活環境を変えたくない」「職場が近い」など、事情は様々ですが、家や土地を持ち続ける場合には気を付けたいリスクや注意点があります。
今回は離婚時の財産分与の対象となる家や土地、持ち続ける際の注意点をご紹介します。家や土地の名義人と住宅ローンの契約者・返済・税金等に気を付け、トラブルを回避していきましょう。
目次
- 財産分与の対象となる家や土地
- 家や土地を分与する前に確認すべき事
2-1.住宅ローンの残高
2-2.土地や家の評価額
2-3.家や土地の名義人、住宅ローンの契約者は誰になっているか
2-4.家や土地の評価額とローンの残高を計算、どちらが居住するかを決める - 離婚後に土地や家を持ち続ける場合の注意点
3-1.家や土地の名義人・ローンの契約者が居住する場合
3-2.家や土地の名義人・ローンの契約者と居住者が違う場合
3-3.家・土地の名義が共同でローンも連帯債務である場合
3-4.税金が課税される可能性がある - 離婚協議書を公正証書で作成しておく
- まとめ
1.財産分与の対象となる家や土地
財産分与の対象となる不動産は夫婦が結婚期間中に購入した家・土地などです。「結婚期間中に夫婦が協力して築き上げた財産」が分与の対象となりますので、結婚前に購入した不動産、相続・贈与で得た不動産、賃貸住宅は対象外となります。
また、親から相続した土地に夫婦で家を購入した場合、土地を除いた建物が財産分与の対象となります。
2.家や土地を分与する前に確認すべき事
家や土地を財産として分与する前に、以下の4点を確認しておきましょう。
- 住宅ローンの残高
- 土地や家の査定額
- 家や土地の名義人、住宅ローンの契約者は誰になっているか
- 家や土地の評価額とローンの残高を計算、どちらが居住するかを決める
2-1.住宅ローンの残高
住宅ローンの返済が完了していない場合は、ローンがどのくらい残っているかを確認しておきましょう。
ローンを組んだ後に金融機関から郵送される返済予定表や、毎年10月頃に届く残高証明書で残高が分かります。見当たらない場合は金融機関に電話で問い合わせましょう。
2-2.土地や家の査定額
次に財産分与の対象となる土地や家の査定額を把握しておきましょう。不動産会社による査定は多くの場合無料ですが、会社によって幅がありますので複数社の査定を受けられる不動産一括査定サイトを利用すると良いでしょう。
下記の表は主な不動産一括査定サイトの一覧です。
主な不動産一括査定サイト
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また、査定方法は机上で計算する簡易査定と、実際に不動産会社が家や土地に訪問する訪問査定の2種類があります。まずは簡易査定で依頼する不動産会社を探し、訪問査定でより正確な査定額を調査するなど、それぞれ使い分けてみましょう。
一方、国家資格を持つ不動産鑑定士による査定は公正な立場で客観的な査定額が分かります。ただし、不動産鑑定士による査定では依頼費用が発生してしまう点に注意しましょう。
2-3.家や土地の名義人、住宅ローンの契約者は誰になっているか
家や土地の名義人(所有権)が誰になっているのかを確認しましょう。夫・妻どちらかの名義または共同の名義になっている場合は、後のトラブルを避けるために家や土地を所有する側に名義を変更したほうが良いでしょう。
ローンを完済している場合は、法務局で「所有権の移転」の申請を行い、名義変更することで手続きは完了します。
一方、住宅ローンが残っている場合は金融機関での手続きが必要となり、ローンの借り換えが発生するケースもあります。
例えば家の所有者(名義)と住宅ローンの契約者が夫で妻が家に住み続ける場合、住環境を変えずに済むと言ったメリットも存在しますが、様々なリスクの発生要因にもなります。
またローンを組んだ際の保証人も確認しておきましょう。夫婦で連帯保証人になっている場合、どちらかが保証人を抜けることで後のトラブル回避に繋がります。
ただし、連帯保証人の解除や変更には金融機関の承認が必要です。金融機関に連帯保証人の変更が可能かどうか問い合わせてみましょう。
2-4.家や土地の評価額とローン残高を計算、どちらが居住するか決める
家や土地を分与する場合には「家や土地の査定額とローンの残高を比較した結果」が重要となります。
家や土地の査定額とローンの残高を比べた際、以下のどちらの状況になっているか確認してみましょう。
- 住宅ローンの残高>家や土地の評価額=オーバーローン
- 住宅ローンの残高<家や土地の評価額=アンダーローン
オーバーローンとアンダーローンで分与の手順が異なります。
アンダーローンの場合、家や土地を譲り受ける側が「家や土地の評価額から住宅ローンの残高を差し引いた額の半分」を相手に支払う必要があります。
オーバーローンの場合は、家や土地の価値がマイナスですので財産分与の対象となりません。処分方法やローン残高の支払いの負担割合を決めておきましょう。
その後どちらが居住するかを話し合いで決定します。
3.離婚後に土地や家を持ち続ける場合の注意点
離婚後にどちらかが土地や家を所有し続ける際には、結婚期間中に発生してこなかったリスクや注意点が出てきます。
どちらかが住み続ける場合、主に下記の点に注意しましょう。
- 家や土地の名義人・ローンの契約者が居住する場合
- 家や土地の名義人・ローンの契約者と居住者が違う場合
- 家・土地の名義が共同でローンも連帯債務である場合
- 税金が課税される可能性がある
それぞれ詳しく解説します。
3-1.家や土地の名義人・ローンの契約者が居住する場合
ローンが残っている家や土地を保有し続ける際、家や土地の名義人・ローンの契約者と住む者が同じである場合は連帯保証人について注意しておきましょう。
連帯保証人が夫婦である場合、例えば夫が家・土地を保有しておりローンの返済が滞った時は妻が代わりに返済義務を負うこととなります。
このケースでは、妻は連帯保証人を抜けた方が良い、ということになりますが、連帯保証人を抜けるには代理の保証人を立てたり、金融機関の承認が必要となります。まずは金融機関に確認し、連帯保証人を抜けることが可能かどうか問い合わせてみましょう。
3-2.家や土地の名義人・ローンの契約者と居住者が違う場合
家・土地の名義人・ローンの契約者と居住者が違う場合、トラブルが起こりやすくなります。
例えば家・土地の名義人・ローンの契約者が夫で妻が家に住み続ける場合で起こりうるトラブルを想定してみましょう。
ローンを妻が返済する場合、返済できなくなった際に金融機関から契約者である夫に督促状・催告状が届き、返済義務を負います。また、固定資産税・都市計画税の支払いも家・土地の名義人である夫が義務を負うことになります。
妻が家賃を夫に支払い、夫がローンの返済を代わりに行うと取り決めた場合、夫が貰った家賃をローンの返済に充てないという事態も起こり得ます。最終的に家が競売にかけられてしまった場合、妻は家を立ち退かなくてはいけません。
夫婦間で賃貸借契約または使用貸借契約を結んでおくか、金融機関にローンの名義変更を相談してみましょう。
金融機関によっては名義変更が出来ない場合もあります。名義変更が可能でも妻の返済能力による再審査で承認が下りない可能性があり、別の金融機関への借換えを検討しなくてはいけないケースもあります。
こちらのケースでもまずは金融機関に相談し、名義変更の可否について問い合わせてみるのが良いでしょう。
3-3.家・土地の名義が共同でローンも連帯債務である場合
上記と同様ローン返済の滞りリスクが発生します。家・土地を譲る側が名義人となり、ローンの契約者である場合は双方の権利の移転を検討しましょう。ローンの連帯保証を抜けておく事も重要です。
離婚後のトラブルを避けるためには、不動産の名義人とローンの契約者共に住む側に移転しておくと良いでしょう。
しかし、離婚後ローンを共同で返済していくケースや妻の経済的事情により名義変更が難しいこともあるでしょう。その場合は離婚協議書を公正証書で作成し、返済の条件や所有権について取り決めておきましょう。
3-4.税金が課税される可能性がある
土地や建物を財産分与した場合、双方に税金が課される可能性があります。発生する税金についてそれぞれ見て行きましょう。
土地や家を譲った方
家や土地の評価額が購入金額を上回る場合は、資産を譲渡したことで発生する「譲渡所得税」が課されます。離婚の財産分与の場合、収入金額は時価で判断されますので、購入時の金額より時価が高い場合に譲渡所得税が発生します。(*国税庁「離婚して土地建物などを渡したとき」を参照)
時価が購入金額を上回る不動産を譲渡した側に譲渡所得税が課されますが、家が居住用財産(マイホーム)である場合は「居住用財産の譲渡に関する特例措置」が適用される可能性があります。
特例が適用された場合、時価から購入金額を引いた差額(譲渡利益)が3,000万円まで控除されます。
土地や家を譲り受けた方
財産分与は夫婦の共有財産の清算という性質上、贈与税が課される事はありません。ただ分与された財産の額が多すぎる場合や相続・贈与税を免れるために離婚したと判断される時は贈与税がかかります。(*国税庁「離婚して財産をもらったとき」を参照)
不動産取得税に関しては都道府県の管轄で、課税される自治体と非課税の自治体がありますので、管轄の自治体の役所に問い合わせてみましょう。
また家や土地を持ち続けるにあたって、固定資産税・都市計画税も課税されます。
4.離婚協議書を公正証書で作成しておく
離婚協議書とは離婚時に夫婦で話し合い合意した内容を記載しておく書面で、公正証書で作成する事で法的な拘束力を持ちます。
公証役場の公証人が公証人法・民法をもとに公的に作成した文書で、財産分与だけでなく清算条項、子供の養育費や面会交流等を取り決める事ができます。
強制執行認諾の条項で「ローンの返済が滞った際に給料や貯金を差し押さえる」文言を入れておけば、裁判をすることなく相手の資産を差し押さえる事ができます。
公正証書の作成には手数料が発生し、作成の手間や時間がかかるというデメリットがありますが、後のトラブルを回避するためにあらかじめ取り決めておく方が良いでしょう。
まとめ
離婚後も土地や家を所有する際の注意点は、不動産の名義やローンの契約者・返済、税金です。
ローンの返済はアンダーローンとオーバーローン、夫婦間の返済の負担割合等によって対処法が異なりますのでご注意下さい。
家や土地の分与は労力がかかり難しいですが、離婚協議書を公正証書で作成しておく事で後のトラブルを防ぐことが出来ます。
田中 あさみ
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