アジアの国際金融センターとして有名なシンガポールは、世界中の富裕層が集まることでも知られています。英コンサルティング会社「ECAインターナショナル」が実施する「世界で最も住みやすい都市ランキング」でも16年連続で1位に選ばれるなど、その魅力は世界中の投資マネーを呼び込み、不動産相場は上昇を続けてきました。
今回はシンガポールでコンドミニアムを購入する際のポイントやリスク、そして注意点などの情報をご紹介していきます。
目次
- シンガポールの不動産状況
1-1.シンガポールの不動産相場は政府によって抑えられている
1-2.シンガポールのコンドミニアムの特徴
1-3.シンガポールでコンドミニアムを購入する方法 - シンガポールでコンドミニアムを購入するポイント
2-1.プレビルド物件を完成前に売却する
2-2.コンドミニアム完成後の賃貸運用の収益性を試算する - シンガポールのコンドミニアム購入における注意点
- シンガポールのコンドミニアムに関するリスク
4-1.シンガポールのコンドミニアムは世界経済の影響に注意する
4-2.シンガポールのコンドミニアムの品質に注意する
4-3.シンガポール政府の不動産に対する規制に注意する
4-4.コンドミニアムの購入タイミングに注意する
1 シンガポールの不動産状況
シンガポールのコンドミニアムは、価格が高いことで有名です。都市部では一人暮らし用のスタジオタイプ(広めのワンルーム)でも億単位の物件が珍しくありません。
国土面積は東京23区よりも少し広い程度になるため土地の価値が高く、中古物件であっても価格があまり落ちないのが特徴です。
1-1 シンガポールの不動産相場は政府によって抑えられている
世界一の水準にあると言われるシンガポールのバイリンガル教育を目当てに、インド、中国、その近隣諸国から多くの富裕層が移住しています。
また、シンガポール政府は2030年までに人口を30%増加させて650万人にするとの目標を掲げていることもあり、それを見込んで海外投資家からマネーが流入し、富裕層による高級物件の購入が相次いだことで、不動産相場を押し上げてきました。
しかし上昇を続けたシンガポールの不動産相場は2013年をピークに下落に向かいます。背景には、上昇を続ける不動産相場の過熱感を抑えるため、シンガポール政府が購入時における印紙税を導入し、さらに2013年に税率を引き上げたという経緯があります。外国人がシンガポールのコンドミニアムを購入する場合には、最大4%の印紙税と20%の追加印紙税がかかり、合わせて24%ものコストが必要になりました。
しかし、2017年には再び上昇に転じ、政府が売り出した土地の落札価格も大きく上昇しています。建設コストとマージンから計算すると、数年後にはコンドミニアムの販売価格は平米あたり27,000シンガポールドル(約217万円※)近くに上昇すると予測されています。
※2018年8月時点のレート、1シンガポールドル80円で計算
1-2 シンガポールのコンドミニアムの特徴
シンガポールの土地はほとんどが国有地であるため、コンドミニアムもほとんどが定期借地権(99年から999年)となっています。中には永久所有権となる物件もあり、外国人もそのようなフリーホールド(自由土地保有権付き)の物件を購入できます。もちろん短期で転売するのであれば、借地権でも問題ありません。
また中古物件の価格下落率が低いのも特徴のひとつです。シンガポールの中古コンドミニアムは高層タイプと低層タイプに分けられますが、利便性の高い駅周辺や有名大学周辺などの人気エリアは極端に価格が下がりません。99年の借地権物件であってもリノベーションにより新たな付加価値をつけようと大手開発業者が常に目を光らせています。
ただし、シンガポールは高温多湿な気候なため劣化が早く、転売する前の室内改装が必須な点がデメリットと言えます。
1-3 シンガポールでコンドミニアムを購入する方法
シンガポールのコンドミニアムの購入方法を「完成物件」「プレビルド物件」「中古物件」に分けて見ていきましょう。
近年、新築のコンドミニアムは増え続けています。まず目当ての完成物件を見つけたら仮契約として手付金5%を支払い、本契約までの約2週間の間に融資手続きを行い、弁護士を探します。なお、ローン申請は購入を決める前に現地銀行でどれだけ組めるか確認しておくと良いでしょう。
また、シンガポールでコンドミニアムを購入する際には弁護士を通して契約する必要がありますが、弁護士はデベロッパーやエージェントが紹介してくれるため、自分で探す必要はありません。そして本契約を済ませた後は残金を支払って登記を行います。
プレビルド物件の場合は、物件価格の15%ほどを支払って契約し、残りは建設の段階に応じて分割で支払うことになります。そして建物が完成したら残金を支払い、登記をします。
中古物件の場合は手付金として1%を支払い、本契約締結後2ヶ月以内に残金を支払って登記という流れになります。
なお、外国人がコンドミニアムを購入する場合、2週間以内に印紙税を支払う必要があります。印紙税は、購入価格(もしくは市場価格の高い方)に対して次のようなスケジュールで支払います。
最初の180,000シンガポールドル | 1% |
次の180,000シンガポールドル | 2% |
次の640,000シンガポールドル | 3% |
残り | 0.04 |
(シンガポール政府発表より)
また外国人の場合、印紙税に加えて15%の追加印紙税を支払わなければなりませんが、2018年7月6日に20%へと引き上げられました。
2011年12月8日〜2013年1月11日 | 10% |
2013年1月12日〜2018年7月5日 | 15% |
2018年7月6日以降 | 20% |
(シンガポール政府発表より)
2 シンガポールでコンドミニアムを購入するポイント
シンガポールのコンドミニアムはすでに高騰し、賃貸の利回りは2~3%程度となります。フルローンでの購入は難しいため、ある程度のまとまったお金は必要でしょう。また不動産相場の上昇は政府によって抑えられる傾向にあるため、購入後、どのように利益を出すのかを慎重に検討することが大切です。
2-1 プレビルド物件を完成前に売却する
完成物件と異なり、プレビルド物件は完成前に転売することができるという特徴があります。
シンガポールの場合、2017年のコンドミニアム販売戸数は前年同期比で6割増加しました(シンガポール都市開発庁より)。それを受けて同年7~9月期の民間新築住宅の価格指数は前期比で0.5%上昇し、4年ぶりのプラスに転じました。
2018年の不動産価格は四半期(3月31日まで)で3.1%も上昇しています。中国・香港・韓国・台湾などの投資家がシンガポール最中心部での購入を進めたためと見られています。
したがって、シンガポールの不動産市場はいまだ上昇余力があり、政府の政策により抑えられるとしてもコンドミニアムの値上がりは期待できる状況にあると言えます。この流れに乗って、完成前に転売して利益を出すような購入を検討してみても良いでしょう。
2-2 コンドミニアム完成後の賃貸運用の収益性を試算する
基本的にシンガポールでは、減価償却は資本的支出と考えているため、損金としての経費計上を認めていません。一部地域の特定産業建物以外は、建物付属設備を3年かけて償却することのみが認められています。
もちろん日本で確定申告をすれば減価償却できるため、節税効果が得られます。そこでシンガポールのコンドミニアムで賃貸運用をする場合には、現地での所得税をどの程度日本で控除できるかを試算しておくと良いでしょう。その上で節税効果が十分に得られるのかを確認してから購入計画を立てる必要があります。
3 シンガポールのコンドミニアム購入における注意点
シンガポールは世界中の投資家が注目していることから、不動産市場にも多くの投資マネーが流入し価格上昇が期待できますが、前述した通り、今後は政府による各種規制がリスクといえます。実際、これまで15%だった外国人の購入に対する追加印紙税は、今年7月に20%まで引き上げられました。
さらに登記してから4年以内に売却すると最大16%もの印紙税がかかります。これだけのコストを回収できるだけのキャピタルゲインが得られるのかどうかが、大きな課題と言えます。
また現地で住宅ローンを組むことは可能ですが、融資限度額も少なくなっています。非居住者に対しては購入金額の60%までと定められているので、残りは現金を用意しなければなりません。
また日本の金融機関も融資に関しては消極的です。例えばオリックス銀行は不動産を担保にすることを条件としており、プレビルド物件には融資していません。日本政策金融公庫は条件が厳しいことで知られていますが、家賃収入が返済金額を上回ることを条件としています。スルガ銀行の場合はシェアハウス不正融資事件以降、海外不動産融資に関しては不透明です。2018年8月14日に金融庁がスルガ銀行の不動産融資業務の一部停止を検討していると報じられ、海外不動産も影響を受ける可能性があるからです。
4 シンガポールのコンドミニアムに関するリスク
価格上昇が期待できるシンガポールのコンドミニアムですが、リスクの把握も大切です。利益の出し方については綿密な計画を立て、物件自体に関するシンガポール独特のリスクにも注意しなければなりません。
4-1 シンガポールのコンドミニアムは世界経済の影響に注意する
シンガポールの不動産市場の活況が、中古相場を押し下げる要因にもなると見られています。
シンガポールのコンドミニアムは多数の所有者の同意を得たうえで一括売却されるケースが多く、それを買い取った開発業者が、新たなコンドミニアムを建設するという流れがあります。
今後は再開発を目当てに中古コンドミニアムの1棟売りが大量に出る可能性もあるために、中古相場を押し下げるのではないかといった予測がされています。世界経済の動向によっては、シンガポールへの投資マネーが引き上げられることで不動産相場の下落も考えられます。
IMF(国際通貨基金)はアメリカ財政赤字が拡大することで、成長率の低下とともに2020年以降は景気が減速するとのレポートを出しています。アメリカ経済の減速は世界に影響を与えるため、シンガポールのコンドミニアム市場も影響を受ける可能性が懸念されています。
4-2 シンガポールのコンドミニアムの品質に注意する
シンガポールのコンドミニアムは品質に度々問題を抱えていることがあります。外観は高級感あふれるコンドミニアムであっても、下記のような不具合がないかをチェックする必要があります。
例えば室内の建具が安価な材質のものを使っている場合、戸境の壁やドアが薄く、音漏れが問題となる物件は少なくありません。さらに窓ガラスも薄く、外の建設工事の音が気になるケースもあります。シンガポールでは工事や騒音に関する規制が日本とは異なるため、日曜・祝日関わらず朝早くから工事の音が気になるというケースがあります。都心部の物件を選ぶ場合にはこのような点に注意して、賃貸付けになるべく影響が少ないものを探す必要があります。
またシンガポールは230ボルトと電圧が高く、照明器具などの故障も多くなります。故障や不具合が多い物件となると、そのメンテナンス費用が高額になることもあります。さらに高温多湿なシンガポールの気候と海からの塩害が建物の劣化を早めます。中古物件はもちろんのこと、新築完成物件を購入する場合にはそのようなメンテナンス費用も資金計画に盛り込んでおく必要があります。
4-3 シンガポール政府の不動産に対する規制に注意する
2018年7月5日、不動産価格の急激な値上がりを懸念したシンガポールの財務省と国家開発省などは、外国人が不動産を購入する際の追加印紙税を15%から20%に引き上げるとの声明を出しました。
ただ、政府はむやみに不動産市場を押さえつけようとしているわけではなく、経済の失速を懸念して、不動産相場の急激な上昇を警戒した結果と考えられます。不動産価格が上昇すると実需の購入が難しくなり、シンガポールへの移住が減少することにもつながりかねないため、価格調整を行いながらうまく誘導したいとの考えです。バブル崩壊によるシンガポール経済の成長の鈍化を回避する政策といえます。
そのため今後も不動産市場の動向によっては規制を強める可能性があります。今回の印紙税率の引き上げ発表も施行の前日に突然発表されたため、資金計画を入念に準備した投資家たちも計画の見直しを迫られるでしょう。シンガポールではこのようなリスクを踏まえたうえでコンドミニアムの購入と運用を計画する必要があります。
4-4 コンドミニアム購入のタイミングに注意する
2013年からの不動産相場下落は、海外投資家にとってはチャンスでもありました。高騰を続けたシンガポールのコンドミニアムを安く購入できるからです。しかし今回の印紙税率引き上げでコンドミニアム価格は再び一時的な調整局面に入る可能性があります。
ただ、シンガポールの不動産市場は地合いが強く、2018年現在は上昇傾向にあります。シンガポールドルも円に対して少しずつ上昇しており、この流れが続くようであればコンドミニアムの短期売却で為替差益も期待できるでしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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