債券投資のリスクと対策方法は?金融ストラテジストが初心者向けに解説

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債券投資には様々なリスクが伴います。債券には国債と社債がありますが、ここでは社債に投資する際のリスク、一般債のリスクと対策方法について解説します。

債券投資の場合、マーケットに大きな変化があった時にはヘッジすることがありますが、個人投資家が債券リスクを回避する方法は限られています。個人投資家が債券投資する場合は「守りに徹する」ことで、ある程度のリスクを回避することができます。一例として、格付けの低い債券は購入しない、超長期債は購入しないなど投資基準を決めて銘柄を選ぶことが挙げられます。

まずは、債券の格付けについて知っておくことが必要です。その点に触れた上で、債券投資のリスクと、個人が取れる対策について解説します。

目次

  1. 債券の格付けとは?
  2. 債券投資のリスクと対策方法
    2-1.信用リスクの対策:格付けを利用
    2-2.価格変動リスクの対策:超長期債を避ける
    2-3.流動性リスクの対策:買ったら償還まで保有する
    2-4.為替リスクの対策:高インフレ国の通貨を避ける
    2-5.インフレリスクの対策:超長期債を避ける
  3. まとめ

1.債券の格付けとは?

格付けとは、企業が発行する債券について、元本および利息の支払いが償還まで発行時の約束通りなされる可能性と確実性を示した情報をいいます。一般的に、民間の格付機関が評価する「格付け」が利用され、信用度の高いものからAAA(トリプルA)、BBB(トリプルB)、などの記号で表わされます。

主な格付け会社は米国のMDY(ムーディーズ)とS&P、日本のR&I(格付投資情報センター)とJCR(日本格付研究所)の4社です。例えばR&Iの格付けはAAAからDまで。AA格からCCC格については、上位格に近いものにプラス、下位格に近いものにマイナスの表示をします。

格付けの定義(一部抜粋)は以下の通りです。

AAA 信用力が最も高く、多くの優れた要素がある。
BBB 信用力が十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。
BB 信用力に当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。

BBB以上の格付けを投資適格債(リスクの少ない債券)といい、BB以下をジャンク債(クーポン(利率)は高いもののリスクが高い債券)といいます。投資する場合はBBB以上の銘柄を選ぶのが無難です。

2.債券投資のリスクと対策方法

債券のリスクは大きくわけて5つあります。リスクに応じてとるべき対策が違います。5つのリスクと、それぞれの対策についてみていきましょう。

2-1.信用リスクの対策:格付けを利用

信用リスクとは、発行企業から債券の利息や元本が支払われなくなるリスクのことです。債券の一番のリスクは企業の倒産です。企業が倒産すると社債の元本は全額保証されません。信用リスクは債券投資の最大のリスクと言えます。

例えば、2001年9月にマイカルが倒産しました。個人向けの社債の弁済率(戻ってきたお金の割合)は30%、2012年に倒産したエルピーダメモリの弁済率は17.4%でした。額面100万円をそれぞれの社債に投資していた場合に戻って来た金額は、マイカルで30万円、エルピーダでは17.4万円と、いずれも元本金額を大きく下回りました。

このような信用リスクへの対策としては、格付けを利用し銘柄を選ぶことが有効です。具体的には、格付けがBBB格以上(投資適格債)の銘柄を選ぶことです。また、担保付の電力債を購入することもリスク回避策となります。

格付けが高いほど倒産リスクは低いのですが、クーポンが低くなるという難点もあります。格付けの高さとクーポンは反比例するため、初心者は、倒産リスクが低く適度なクーポンが設定されるBBB格を目安に銘柄選定を行うのが良いでしょう。

ただし、格付けは企業業績やファンダメンタルズの変化で常に見直されます。投資時点の格付けが維持される保証はありません。格付け見直しの頻度は高くありませんが、月に一度は格付けを確認しましょう。

格付けは「格付投資情報センター」「日本格付研究所」などのサイトで確認できます。

2-2.価格変動リスクの対策:超長期債を避ける

2つめのリスクは価格変動リスクです。債券の残存年数(償還までの期間)が長いほど、クーポン(利率)が低ければ低いほど、金利の変化に対しての価格の変動が大きくなります。

下表は、クーポン(利率)0%の期間1年、5年、10年、30年の債券利回りがそれぞれ1%から2%に上昇した場合、価格がどれだけ下がるかを計算したものです。

期間/利回り 1% 2% 変化
1年 ¥99.01 ¥98.04 ¥-0.97
5年 ¥95.15 ¥90.57 ¥-4.57
10年 ¥90.53 ¥82.03 ¥-8.49
30年 ¥74.19 ¥55.21 ¥-18.99

1年債の利回りが1%の時、社債価格は99.01円です。金利が2%に上昇すると、価格が0.97円下落し98.04円になります。期間が長い債券ほど価格が大きく下落していることがわかります。

2020年9月18日時点で、日本銀行(日銀)はマイナス金利政策を導入しています。そして国債の利回りは、10年国債で0%程度。それより短い国債はマイナス金利です。これ以上金利の低下は見込みにくいため、金利上昇に備えることが必要です。

リスクを抑える方法は、10年を超すような債券は購入しないことです。金融ストラテジストの筆者としては、3年以下、長くても5年までの銘柄を選ぶことをお勧めします。クーポンが高くても10年を超す超長期債などは購入を見合わせましょう。金利上昇時にはより高いクーポンの社債が出てきます。

2-3.流動性リスクの対策:買ったら償還まで保有する

3つめのリスクは流動性リスクです。希望した価格で売却できないかもしれないリスクのことです。

上場株式の場合は取引所で売買されるため取引価格が明確ですが、社債は店頭取引といって証券会社との相対取引になります。社債は購入した証券会社に売ることが基本原則のため、売値は証券会社の言い値となります。

基本価格は証券業協会で確認できますが、この価格で売却することは基本的にできません。よほどのことがない限り、社債を売却して利益を上げることはできません(CB(転換社債型新株予約権付社債。あらかじめ決められた条件で株式に転換できる権利の付いた社債のこと)を除く)。

社債は、企業が不祥事を起こし倒産リスクが高まった時などを除き、償還まで保有することが望ましいと言えます。

2-4.為替リスクの対策:高インフレ国の通貨を避ける

外貨建債券の場合は、為替リスクが債券価格の変動リスクになります。為替リスクを避けるためには、高インフレ国の債券を購入しないようにしましょう。

高インフレの通貨建て債券のクーポンは高く設定されます。例えばトルコのインフレ率は年12 %程度(参照:IMF「World Economic Outlook Database」2020年予測値)と高水準です。これはモノの値段が1年で12%上昇するということです。インフレ率より高いクーポンでなければ貨幣価値が下がってしまい、円換算でマイナスの影響が生じます。

2-5.インフレリスクの対策:超長期債を避ける

債券は償還時に元本が一括返済されるため、株式よりもリスクが小さい一方で、インフレに弱いという性質があります。債券償還時のインフレ率を予想することは不可能ですが、10年後に円が急落してインフレが起きているかもしれません。

現在1万円の商品が10年後に1.2万円に上昇していると仮定した場合、現在の額面1万円の価値は83.3%に下がったことになります。当初10万円で投資した社債が10万円で償還されたとしても、実際の貨幣価値は8.33万円ということになります。

インフレリスクを抑えるためには、なるべく償還期間の短い社債に投資することです。

まとめ

5つの債券投資リスクのうち、もっとも警戒しないといけないのは信用リスクです。債券は企業が倒産すると元本が大きく棄損してしまいます。この点において、電力債は担保が設定されているため投資しやすい銘柄と言えます。

また、長期、超長期債を避け、なるべく短い銘柄を選択するのもリスク回避策のひとつです。クーポンが多少高いからと言って償還までの期間が10年を超えるような銘柄は避けましょう。償還までの期間が3年、長くても5年の銘柄に投資することでリスクを抑えることができます。投資判断のご参考としてください。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。