アパートの生前贈与と相続には、それぞれのメリット、デメリットがあります。アパートの譲り渡しを検討する際は、メリット、デメリットを踏まえた上で、それぞれの事情に合った適切な判断をしたいところです。
本記事では、アパートの生前贈与と相続のメリットとデメリットを比較して解説し、選択の判断基準についても考えていきます。
※記事内の税金・税率などは2022年4月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- アパートを生前贈与するメリットとデメリット
1-1.アパートを生前贈与するメリット
1-2.アパートを生前贈与するデメリット - アパートを相続するメリットとデメリット
2-1.アパートを相続するメリット
2-2.アパートを相続するデメリット - 生前贈与と相続の選択は、税負担と目的を考慮して判断する
- まとめ
1.アパートを生前贈与するメリットとデメリット
生前贈与では、贈与者が受贈者に対して直接にアパートを譲り渡すことで、受贈者はアパートを確実に取得することができます。受贈者がアパートの賃料収入を受け取ることができ、アパート経営を引き継ぐことができるメリットがあります。
一方、生前贈与では、相続に比べて税制面で不利な点が多く、税負担が重くなる可能性が高いことがデメリットといえるでしょう。
1-1.アパートを生前贈与するメリット
アパートを生前贈与するメリットとして、次のような点が挙げられます。
- 受贈者が賃料収入を受け取ることができる
- アパート経営を承継することができる
- 相続時精算課税制度を利用することができる
受贈者が賃料収入を受け取ることができる
アパートを生前贈与することで、受贈者が賃料収入を受け取ることができます。
将来相続人となる受贈者に賃料収入によるキャッシュが積み上がることで、相続が発生した場合の相続税の支払いに備えることが可能です。また、生前贈与の分、相続財産が減ることになり、相続税を抑えることにつながります。
アパート経営を承継することができる
アパートを生前贈与することで、受贈者に確実にアパートを譲り渡すことができます。アパート経営に関する管理会社などの取引業者も引き継ぐことができ、経営に必要なノウハウなども継承することが可能です。
相続時精算課税制度を利用することができる
生前贈与にかかる贈与税では、相続時精算課税という制度があります。これは、60歳以上の祖父母または父母から20歳以上の子・孫への財産の移転につき、生前贈与と相続を通算して課税する制度です。(※参照:国税庁「相続時精算課税の選択」)
相続時精算課税を選択した場合、その者から贈与される財産額から2,500万円までを控除し、超過した額に20%の贈与税額が課されます。2,500万円の控除枠を使い切るまで何回贈与しても利用できますが、相続時精算課税を選択した贈与者については、以降、贈与税の暦年課税は選択できません。
相続時精算課税を選択した贈与者が亡くなったときは、その贈与された財産を相続財産に加算して相続税額を計算し、既に納めた贈与税がある場合は精算されます。
1-2.アパートを生前贈与するデメリット
アパートを生前贈与するデメリットとして、次のような点が挙げられます。
- 相続税よりも贈与税が高くなるおそれがある
- 他の相続人との間でトラブルを招きやすくなる
相続税よりも贈与税が高くなるおそれがある
贈与税は相続税と比較して税率が非常に高く、贈与あるいは遺贈した価格帯によっては、贈与では相続に比べて1.5倍~4倍の税金がかかることになります。(※参照:国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」)
また、 課税財産の額から差し引くことのできる基礎控除額についても、贈与税と相続税では大きな差があります。贈与税は受贈者一人につき暦年一年間で110万円 であるのに対し、相続税は被相続人一人につき3,000万円に加えて法定相続人一人につき600万円加算するものとされています。
さらに、相続税では、様々な税額軽減制度が用意されています。被相続人の配偶者については、遺贈された正味財産額が1億6千万円と法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかからない税額軽減制度があります。(※参照:国税庁「配偶者の税額の軽減」)
一定の条件を満たす小規模宅地等を特定の相続人が相続する場合、相続税の財産評価額を減額する特例の適用を受けられることがあります。居住用または事業用・貸付用に供されていた小規模の宅地等のうち、特定の親族が相続した分について、相続税の財産評価額が最大80%減額されます。 (※参照:国税庁「小規模宅地等の特例」)
このように、相続をした場合に利用できる基礎控除や優遇税制が、生前贈与することによって利用できなくなる可能性があり、結果として贈与税の方が相続税よりも負担が重くなることが考えられます。
他の相続人との間でトラブルを招きやすくなる
アパートの受贈者以外の相続人がいる場合、生前贈与をすることで他の相続人との間でトラブルが生じるおそれもあります。
不動産は分割して相続することが難しいため、複数の相続人のうち、一人の相続人が引き継ぐ場合には、他の相続人に代償金等が支払われます。しかし、不動産の公正な価格の算定は難しく、他の相続人との間で不公平感を生み、トラブルになることがあります。
アパートの場合は、収益性の予測判断も含まれ、公正な評価額を算定することが比較的難しいといえます。さらに、生前贈与した場合、賃料収益を受贈者が受け取ることになり、他の相続人との間で不公平感が生じやすい傾向があるといえるでしょう。
【関連記事】不動産相続でトラブルになる主な原因は?トラブル回避の8つの注意点も
2.アパートを相続するメリットとデメリット
相続では、税負担が少ない傾向があることが大きなメリットといえます。一方、相続人がアパート経営を承継できない可能性もあることがデメリットといえるでしょう。
相続のメリットとデメリットは、生前贈与のデメリット、メリットの裏返しといえます。それぞれ詳しくみて行きましょう。
2-1.アパートを相続するメリット
アパートを相続によって取得するメリットとして、次のような点が挙げられます。
- 贈与税よりも相続税の方が負担が少ない傾向がある
- 他の相続人とのトラブルを避けることができる
贈与税よりも相続税の方が負担が少ない傾向がある
相続税は、贈与税よりも税率が低く、基礎控除額が大きいため、税負担が少なくなる傾向があるといえます。また、配偶者の税額軽減制度が適用できるケースや、小規模宅地等の特例によって財産評価額を軽減できる場合は、相続する場合の方が、贈与する場合よりも税額をかなり抑えることができるといえます。
他の相続人とのトラブルを避けることができる
アパートを生前贈与するよりも、相続時の遺産分割協議によって相続する方が、他の相続人とのトラブルを避けることができるといえます。
生前贈与は、贈与者と受贈者との当事者間の合意のみで可能であり、必ずしも他の相続人の合意を得る必要はありません。
これに対し、相続手続きは、遺産分割協議において相続人全員の合意を得ておこなわれます。そのため、アパートを相続するということは、相続人全員の合意を得たということになります。
2-2.アパートを相続するデメリット
アパートを相続によって取得するデメリットとして、次のような点が挙げられます。
- 相続人が相続税の納税資金に困ることがある
- アパート経営を承継できない可能性もある
相続人が相続税の納税資金に困ることがある
生前贈与であれば、アパートの受贈者に賃料収入が貯まっていくため、それを相続税の納税資金に充当することができます。
これに対して、アパートを相続によって取得した場合、相続人に資金がなければ相続税を支払うことができない事態もあり得ます。最悪の場合、アパートを手放すことになる可能性もあるでしょう。
アパート経営を承継できない可能性もある
生前贈与であれば、アパートを譲り受けてから贈与者が亡くなるまでの間、アパート経営に関するノウハウを教えてもらい、無理なく承継できる可能性が高いといえます。
しかし、相続の場合、相続人はアパート経営のノウハウがない状態でアパートを取得することになり、アパート経営をうまく承継できない可能性もあります。
3.生前贈与と相続の選択は、税負担と目的を考慮して判断する
ここまで、アパートの相続と生前贈与のメリット・デメリットを比較してみてきました。
これまでの比較からすると、大きな判断ポイントは、相続では生前贈与に比較して税負担が軽い点と、生前贈与では確実・無理なく受贈者にアパート経営を承継できる点にあるといえるでしょう。
アパートを譲り渡す最大の目的が、受贈者にアパート経営を承継させることにあるのであれば、生前贈与を選択することを検討できます。
一方、アパートを譲り渡すことによる税負担も抑えたいという場合には、相続によって譲り渡すことを検討してみましょう。その際、小規模宅地等の特例の適用はあるかどうかなど、相続税と贈与税の税負担の差が大きくなるポイントを判断基準にしてみましょう。
まとめ
アパートの生前贈与と相続、いずれにするかを判断する際には、税負担と目的を考慮するようにしてみましょう。
税負担では相続の方が様々な特例を活用できるメリットがありますが、アパート経営の承継を目的とするのであれば、生前贈与を行うことの方が、確実性が高いといえます。
税負担やアパートの承継は、それぞれの相続事情によっても異なります。税負担、目的に重点を置いて、それぞれの事情に合った判断をするようにしてみましょう。
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佐藤 永一郎
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