経済成長が著しい新興国や資産価値の高い欧米での不動産投資は魅力的です。値上がりが期待できるプレミビルド物件を完成後に転売すれば、多くのキャピタルゲインが見込めます。
しかし、海外不動投資は為替リスクやデベロッパーリスクなど、国内投資にはない様々なリスクが存在します。今回は海外物件を購入する前に知っておきたいポイントを解説していきます。
目次
- 為替変動リスク
- 経済情勢リスク
2-1.世界経済リスク
2-2.不動産バブル崩壊リスク - カントリーリスク
- 物件購入リスク
4-1.プレビルド物件が完成しない
4-2.品質に問題がある
4-3.高値掴みをする - ローンリスク
- 物件管理リスク
6-1.管理会社が見つからない
6-2.物件のメンテナンスが不十分
6-3.空室リスク - 売却リスク
1 為替変動リスク
海外不動産の売買は外貨で行うため日本円との交換における為替レートの変動に注意が必要です。海外不動産が購入時よりも売却時に円高となっていると日本円に換金した場合、不利になるからです。
例えばマレーシアの首都クアラルンプールのコンドミニアムを100万リンギット(約2,500万円)で取得したとします(2020年12月のレート:1リンギット=約25円)。
仮に2年後に110万リンギットで売却できたとしても、為替レートが1リンギット=22円(円高・リンギット安)になった場合、2,420万円にしかなりません。つまり物件自体は値上がりしても、為替差損(為替相場の変動による損失)により収益はマイナスとなります。
逆に円安・リンギット高となっていれば、物件自体が値下がりしていても、キャピタルゲインを得る可能性があります。
新興国は基本的にインフレ対策と経済成長を背景に利上げを続けていることから、通貨が買われやすくなります。しかし利上げを続けた場合、利払いの負担も上昇するため永遠に継続するわけでもありません。いずれ限界点に達して利下げに転換すれば、通貨は売られて円が上昇することになります。
例えばアルゼンチンは2018年以降通貨安に転じたことで、政策金利が5月時点で40%に達しました。アルゼンチン中央銀行が引き上げた結果ですが、このような高い金利水準は借入金の金利負担も大きくなるうえ国内経済に悪影響を及ぼします。
さらに財政赤字を膨らませる事態にもなれば、国内の投資マネーはますます海外に流出し、不動産市場の下落につながりかねません。
なお、2020年12月時点、アルゼンチンの政策金利は38%と高い水準を保っています。海外不動産投資を始める際は、現地通貨の推移や今後の経済状況をできる限りチェックして予測を立てておきましょう。
2 経済情勢リスク
海外不動産相場は経済情勢によっても変動する可能性があります。世界経済の動向をマクロ的に観察し、さらに投資対象国の経済動向にも注意が必要です。
2-1 世界経済リスク
新興国の不動産相場は、海外からの投資マネーに支えられている側面があります。外国人が購入できるコンドミニアム価格の上昇率が国内不動産の需給状況とリンクせず、海外投資家からの需要と供給のみを反映しているためです。
つまり新興国の経済成長とは関係なく、海外の投資マネーの流れによって不動産相場が変動する可能性があります。また新興国の経済自体も海外マネーに支えられている点から、国内の投資マネーが流出すると経済にも影響を及ぼします。
2020年10月のIMF(国際通貨基金:国連経済社会理事会)が発表した「世界経済の見通し」によると、世界全体の経済成長はマイナス4.4%と予測されています。
これは新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため各都市でロックダウン(都市封鎖)を行ったことによる経済活動の停滞が原因です。先進国のロックダウンが緩和された後、予想よりも早く経済活動が回復しはじめたことから、IMFでは2021年の全体の成長率を5.2%と見込んでいます。
しかし、各国により新型コロナウイルスへの感染対策・経済対策の内容は異なり、経済の回復のスピードも異なります。現在は世界全体で政策金利の引き下げ傾向にありますが、この状況がいつまで続くのか、注視する必要があります。
新型コロナウイルスの影響に限らず、不動産市場を取り巻く経済情勢は常に変動するリスクがあるため、不動産投資をする国の経済状況は随時チェックしたほうが良いでしょう。
2-2 不動産バブル崩壊リスク
新興国にはすでに多額の海外投資マネーが流入しており、コンドミニアムの建設も急ピッチで進んでいます。その結果、首都などの中心部では物件が飽和状態となっている国もあり、不動産バブルの崩壊が懸念されています。
例えば中国は2015年の株式バブル崩壊後、ダブついた投資マネーが不動産に向かったことで急激な不動産価格上昇につながりました。以降はバブル崩壊を懸念する声が絶えず、中国政府もバブル崩壊を回避するために外国人の不動産取得に関する規制を強化しています。
新興国の中には政府や中央銀行が不動産市場に関与しない国もありますが、コンドミニアム価格の長引く上昇には注意も必要です。これ以上のキャピタルゲインが望めないと判断されれば、投資家から投資マネーが引き上げられることにもなり、建設を続けるコンドミニアムは買い手がつかずに下落する可能性もあります。
日本も不動産バブルの崩壊を経験した国の一つです。海外不動産投資では不動産価格の情勢をみながらどの国の物件を購入するべきかをよく検討しましょう。
3 カントリーリスク
カントリーリスクとは、政治や経済的な要因によって投資資金の収益確保が難しくなることを意味します。
外貨が欲しい新興国は、海外投資家に土地を買い占められ自国民の住環境が悪化することがないよう規制しています。土地の価格が高くなると、自国民の住宅取得が難しくなるうえ、家賃も上昇するからです。
経済状況によっては、物件購入後に不動産投資をする外国人に何かしらの規制をする可能性があります。例えばシンガポールは不動産取得時の税率を上げることで、不動産市場への外資流入をコントロールしています。投資家にとっては税金が増えると不動産投資の収益性が低下するため、投資行動が消極的になります。
また、政権交代によって税制が変わったり、不動産投資をする外国人に対する規制が強化されたりする可能性もあります。政権交代の可能性については、その国の政治情勢を見ていればある程度見極めることもできますが、予測が難しい税制改革などによる不動産投資の環境変化には注意が必要です。
4 物件購入リスク
国内の物件を購入する場合と異なり、海外不動産の購入には様々なリスクが伴います。
4-1 プレビルド物件が完成しない
新興国の不動産投資は、多くの場合、土地の購入ができないため、完成前のコンドミニアム(プレビルド物件)を購入するのが一般的です。プレビルドは安く購入できるため、完成後に転売することでキャピタルゲイン(売却益)を得ることができます。
ただし海外のプレビルド物件は、売買契約を結び、購入金額を分割で返済すると決めた後でも、物件が完成しない例が多々あります。
背景にはコンドミニアムの建設費用をプレビルドによる購入金額でまかなっているという事情があります。コンドミニアムを建設するデベロッパー(開発事業者)の中には、プレビルド販売によって得られるお金を運転資金にしている会社もあります。この場合、物件の売れ行きが悪いと建設費用を捻出することができなくなります。
建設が滞るリスクを回避するためには、信頼できるデベロッパーかどうかの調査が必要です。これまでの建設実績に加えて、会社の資本力をチェックすることで未完成となるリスクを軽減できます。
4-2 品質に問題がある
新興国にはそもそも不動産投資のためのコンドミニアム建設の歴史が浅いところもあります。デベロッパーによって品質にバラつきがあるため、雨漏りや水漏れなどのトラブルを抱えることも少なくありません。
一方、欧米の住宅は品質がよく、築年数の経過とともに価値が高まる物件が多くあります。
また最近は日本企業が新興国でのコンドミニアム建設に参画しており、デベロッパーを選ぶ際は品質面で信頼できる会社を選ぶことができます。
4-3 高値掴みする
経済成長が著しい新興国の不動産投資は多くの投資家が殺到することになります。実際、海外投資家の需要を受けてコンドミニアム建設が増えている都市では、すでに価格がかなり上昇しています。
マレーシアの場合、住宅価格の指数を2010年の時点で100とすると、2017年には190にまで増加しました(Global Property Guideより)。ただ増加率をみると、2012年に10%を超えたのをピークに減少に転じ、2017年には5%程度にまで低下しています。
今後も天井をつけて下落に向かうのか、あるいはさらなる上昇となるのかは、予測が困難です。しかしコンドミニアムの建設が続けば、価格上昇の余地は多くはないでしょう。もちろんエリアによっては上昇が期待できるところもありますが、高掴みをしないよう注意する必要があります。
5 ローンリスク
海外の不動産を購入する場合、国内の金融機関ではローンを組むのは難しいのが現状です。そこで現地銀行から融資を引き出せるかが、重要なポイントになります。
特にプレビルドのコンドミニアム購入では、完成前に転売(正確には契約名義人の変更)して収益を確保する必要があるため、仮に買い手がつかない場合、支払いを滞りなく行えるかどうかを事前に検討することが大事です。
現地の銀行からローンを借りる場合、購入時にデベロッパーから融資に関しては問題ないと説明を受けていても、実際には担保価値が確保できずに融資が下りないケースがあります。
通常、購入金額の残金は頭金を分割で支払ったあとに一括で支払うことになりますが、残金を支払うだけの現金がなければ、それまで支払ったお金が無駄になります。ローンが組めなかった場合に備えて現金を十分に用意しておく必要があります。
6 物件管理リスク
新興国の東南アジアなどでは日本のように管理会社が普及していないところもあります。例えばフィリピンは、賃貸付けから物件管理まですべてを任せられる管理会社はほとんどありません。
6-1 管理会社が見つからない
不動産投資で収益を生み出すためには、管理会社の協力が不可欠です。特に日本に居ながら海外不動産を運用する場合、信頼できる管理会社が必要になります。これは賃借人をつけて家賃を得たり、物件のメンテナンスを任せて資産価値が落ちないようにするためです。
しかし不動産投資の歴史が浅い新興国の場合、物件管理をする会社は少なくなります。また遠く離れた日本からのメールなどでの問い合わせにも、すぐに返事がこない場合もあります。
ただ最近は日系の管理会社が新興国で投資用物件の管理業務を行うケースも増えてきています。メンテナンスなど高品質で対応してくれる管理会社もあるため、現地の管理サービスに任せないことでリスク回避が可能になります。
6-2 物件のメンテナンスが不十分
メンテナンスを一任できる管理会社が少ないうえに、物件から遠く離れた日本に暮らしていると細かな点でチェックできなくなります。外国人が購入できるコンドミニアムは、見た目は豪華な物件も多いといえますが、修繕などのメンテナンスをしっかりと行わなければ、資産価値も落ちます。
海外不動産投資は売却で収益をいかに得るかがポイントです。しかし物件の手入れが不十分だと劣化も早まります。特に給排水管の劣化と塩害には注意が必要です。海が近い物件は潮風の影響を受けて、躯体の傷みも早まります。
売却時の利益を確保するために、設備の修繕や細かなメンテナンスを行う管理会社を探しましょう。
6-3 空室リスク
海外不動産投資で賃貸運用する場合、管理会社選びのほかにも懸念材料があります。基本的に外国人が購入できるコンドミニアムは、現地の人にとっては高級物件であり、家賃金額も現地人が住むには高めです。
入居者候補となるのは同じ外国人である駐在員などです。しかしコンドミニアムの供給量と比較して、駐在員は急激に増えているわけではありません。かといって観光客相手に貸し出すとなると、安定した収入が難しくなります。
フィリピンの場合、コンドミニアムが完成してから登記の手続きが完了するまで1年ほどかかるケースがあります。所有権が移転しなければ、転売もできません。その間は必然的に賃貸に出して家賃収入を得なければ、ローンを組んでいる場合には金利負担が重くのしかかります。
空室リスクを回避するためには、駐在員に好まれ、利便性の高いエリアの物件を選ぶなどして、入居者を確実に確保できるような計画を立てましょう。
7 売却リスク
税金対策として海外不動産を購入する方もいますが、多くは売却して利益を得るキャピタルゲイン目的です。しかし購入当初に計画したように売却できないこともあります。
プレビルドのコンドミニアムは、建設前に安く購入できるのがメリットです。さらに完成後に数%上乗せした金額で転売できれば、大きな売却益を得ることができます。
しかし売却価格を決めるのは、多くの場合、コンドミニアムを建設したデベロッパーです。いわば希望価格のようなもので、需給関係を考慮して値付けしているわけではありません。
一般的に不動産売買は需要と供給のバランスによって価格が変動します。買い手が多ければ高値で売却でき、逆に少なければ価格を下げる必要があります。
海外コンドミニアムの売却ではデベロッパーが相場よりも価格を引き下げて販売することがあります。売れ行きが悪いため当初予定していた販売価格を下げて処分するのが目的ですが、転売する場合にはその影響を受けます。
コンドミニアムはいつ転売するかが重要なポイントになります。デベロッパーの販売状況もチェックして、適切な時期に売り出す必要があります。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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