収益不動産を売却する際は、不動産会社に査定を依頼することになります。不動産会社が物件の価格を査定する際、物件の立地や築年数などはもちろん、管理の状況、リフォームの有無、過去の取引事例や現在の価格相場などいくつものチェックポイントがあります。
今回は大手の不動産会社で15年にわたり、投資用不動産の査定業務を行ってこられた仲川光弘さん(仮名)に「不動産の査定額を引き上げるための5つの極意」について解説していただきます。
目次
- 不動産の査定方法
1-1.簡易査定の方法
1-2.訪問査定の方法 - インスペクションとレントロールは価格を引き上げる材料になる
2-1.インスペクションで損壊箇所がないことを証明できる
2-2.レントロールで収益の証明ができる - 不動産価格の試算方法
3-1.原価法
3-2.取引事例法
3-3.収益還元法 - 不動産の査定額を引き上げるための5つの極意
4-1.日頃から管理状態を良くしておくこと
4-2.適正価格を知ること
4-3.運用中は常に収益を意識しておくこと
4-4.リフォームをするかどうかは不動産会社と相談して決める
4-5.物件を売りに出すタイミングを見る[PR] - まとめ
1.不動産の査定方法
不動産を売りに出す前の査定には簡易査定と訪問査定があります。それぞれの査定方法について確認しましょう。
1-1.簡易査定の方法
簡易査定は物件概要や地図などの資料から査定するものです。簡易査定は、まだ本格的に価格を決定する段階ではなく、これくらいの価格になりそうだ、という意味の査定になります。机上で行いますので机上査定とも呼ばれています。この価格を見て、売主が「話をすすめても良い」と判断した場合に、不動産会社の人が現地に行き、実際に物件を見て査定します。
1-2.訪問査定の方法
訪問査定は簡易査定を行ったうえで、話がすすみそうな場合に不動産会社の人が物件のある現地に行き、物件などを見て査定をします。物件だけではなく、駅から物件までの実際の距離や周辺の環境など、書類だけではわからない点をチェックします。
2.インスペクションとレントロールは価格を引き上げる材料になる
不動産を売却したり購入したりする際にインスペクションとレントロールは査定する上で重要な情報となります。それぞれについて解説します。
2-1.インスペクション で損壊箇所がないことを証明できる
インスペクションとは住宅診断士が物件の細かな個所に損壊がないかなどをチェックすることを言います。診断結果は売買の際に売主と買主双方に報告されます。診断士はどちらか一方に偏った発言が禁止されていますので、物件の真の状況を把握することができます。インスペクションは2018年4月から売買の際に行われたかどうかの確認と、行われたのであれば結果を報告するよう義務付けられました。こちらは国土交通省が指定しているチェックシートの一部をコピーしたものです。
*国土交通省資料から引用
診断の際にはタイルのひび割れや、排水管の漏水など、かなり細かな点までチェックするようになっています。インスペクションの結果があることで不動産会社が査定する際に不明点が解消されますので、損壊部分がないことを証明できる点でメリットがあります。万が一損壊が見つかった場合はその時点で修理をすることで、値下げの防止や、値上げの材料になります。
2-2.レントロールで収益の証明ができる
インスペクションは物件の状態を記載したものですが、レントロールは賃貸の情報が記載されている書類になります。レントロールは主に一棟物件の売買の際に使われますが、区分マンションでもレントロールの取り寄せが可能です。レントロールには家賃や入居者の情報など賃貸経営に必要な情報が記載されています。
収益物件の査定の場合は、収益還元法という、収益をもとに価格査定する方法が主に使われます。レントロールを提示することで、収入を証明することができますので、価格査定には有利に働きます。
3.不動産価格の試算方法
3-1.原価法
原価法とは主に金融機関が物件の評価を行う際に使う試算方法として知られています。土地と建物を別々に試算する方法です。土地は公示地価から、物件は同じ物件を立て直すとしたらいくらかかるか、という再調達価格をもとに試算します。
3-2.取引事例法
主には住居用の不動産価格を試算する際に使われます。同じエリアで同じような物件がいくらで売買されたか、という成約事例をもとに価格を試算する方法です。投資用不動産の試算にも使われることがあります。
3-3.収益還元法
主に投資用不動産の試算をする際に使います。家賃収入と利回りから物件の価格を試算する方法です。収益還元法には直接還元法と、DCF法の2種類の計算方法があることを知っておきましょう。
4.不動産の査定額を引き上げるための5つの極意
4-1.日頃から管理状態を良くしておくこと
インスペクションを品質保証に役立てることは先に触れました。ただ、普段から修繕を先延ばしにしていると、損壊が大きくなり修繕費用が大きくなる可能性もあります。そこで日頃から管理状態を良くしておくことが大切です。
特に水回りの状態には注意が必要です。購入してすぐ排水管の修理をする羽目になった、という買主の話はよくあるものです。原因の一つには水回りは見た目にはわかりにくいという点があります。排水管が床や壁の裏にあったり、少量の漏水はわかりにくかったりするからです。
また、水回りは気にする人が多いというのも修理が多い原因の一つでもあります。水は飲んだり、体に触れたりする機会が多いため、少しでも損壊しているととても気になるものです。水回りはそのように人が敏感になる箇所ですので、特に注意して管理することが大切です。
4-2.適正価格を知ること
不動産会社の人と話す場合、こちらが考えている価格と不動産会社の査定価格があまりにもかけ離れていると、仮に不動産会社の査定が相場より低くかったとしても、そのことに気が付かないまま売りに出すことになります。
また売主の主観で強気の価格で売りに出すこともできますが、実際の相場の価格とあまりにも乖離した価格だと、ずっと売れ残るケースも考えられます。募集広告がずっと多くの人の前にさらされることで、売れない理由があるのではないかと詮索される可能性も出てきます。こういった状況を避けるためには本来はなるべく早く売れる方が望ましいと言えます。そのためには相場の価格は知って査定を依頼しましょう。その場合は不動産一括サイトを使って、数社の不動産会社の査定価格を入手しておくと便利です。
4-3.運用中は常に収益を意識しておくこと
投資用不動産の査定には収益還元法という試算方法を主に使うことには触れました。収益還元法の計算では家賃収入が多いほど、物件価格が高くなります。そのため運用している時の家賃収入は多いに越したことはありません。
運用中に空室が発生した場合、少しでも早く入居者を決めたいという理由で家賃を下げることがありますが、安易な値下げには注意が必要です。家賃が安いほど入居者が付きやすくなりますが、相場より下げすぎた場合、利回りが悪くなるからです。多少の空室リスクは想定してシミュレーションするはずですので、利回りを見ながら運用することが大切です。
4-4.リフォームをするかどうかは不動産会社と相談して決める
住居用の不動産を購入する人は、リフォーム前提に購入するケースが多いですが、投資用不動産の場合は、初期費用を抑えるためにリフォームに費用をかけずに賃貸経営できる物件の方が好まれます。また、リフォームをしたことで価格がアップすることもあり査定価格を上げる一つの手段になります。
ただ、リフォームした費用以上に査定価格がアップするかどうかはわかりません。過度なリフォームは査定価格によっては赤字になるケースもあります。そのためリフォームする際は自分で判断するのではなく、どの程度リフォームしたら良いか、あるいはリフォームすることで査定価格が上がるか、などを不動産会社と相談して決めるようにしましょう。
4-5.物件を売りに出すタイミングを見る
1年の中で不動産が売れやすいタイミングがあります。賃貸契約が引っ越しの多い3月や4月に多いように、ライフイベントの切り替えの多い時期は不動産の購入も多くなります。以下のグラフを確認しましょう。このグラフは公益財団法人東日本不動産流通機構の2017年4月の月例レポートに記載された「首都圏中古マンション件数の推移」です。このグラフでは首都圏の中古マンションの在庫件数や、不動産会社が見るレインズという情報ネットワークに登録された件数、成約件数がわかります。
*公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏中古マンション件数の推移」から引用
このグラフから2015年4月から2017年4月までの中古マンションの毎月の成約件数がわかります。毎年1月、4月、7月、10月前後に成約件数が多くなっていることがわかります。居住用のマンションの件数も含まれていますので、投資用不動産だけの件数ではありませんが、不動産会社の社員はこの時期に売れることを知っていますので、他の時期よりは強気の価格を付ける可能性があります。売主もこの時期を見計らって準備をすることで価格の引き上げもしやすいのではないでしょうか。
5.まとめ
査定は売り出す価格を決める段階ですので、その価格で売却できるかどうかはわかりません。しかし、広告に載せる価格が低ければ、そこから引き上げるのはもっと難しくなります。まずはできるだけ高く査定してもらうことが必要になります。
高く査定してもらうには物件の見栄えやデザインだけではなく、見えない箇所の状態も影響することがわかりました。修繕などは売却前にあわててやっても間に合わなかったり、費用が高額になったりすることもあります。売却の際に慌てないように、物件は日頃からしっかり管理しておきましょう。
西宮光夏
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