米国、バイデン大統領の指導の下、最近、グリーンビジネスに向けた注目が高まっています。
実際、大統領選挙の勝利宣言直後、バイデン大統領は4つの主要政策課題を発表しました。その中には「気候変動対策」も含まれ、国全体で積極的な取り組みが進行中です。
また、カナダでも温室効果ガスの排出削減を目指す多くの政策が展開され、北米全体でグリーン市場が盛り上がりを見せています。
このため、今回は北米グリーン市場に焦点を当て、その概要や現在の動向について詳しく解説していきます。
目次
- グリーン市場とは
1-1.グリーン市場の概要
1-2.グリーン市場が注目される理由 - 脱炭素に関する米国政府の動向
2-1.「パリ協定」への復帰
2-2.インフラ投資雇用法(IIJA)
2-3.クリーンエネルギー実証局(OCED)
2-4.インフレ削減法(IRA)
2-5.国家クリーン水素戦略とロードマップ - 分野別に見た北米グリーン市場の動向
3-1.米国南東部の電気自動車(EV)市場
3-2.ニューヨーク州のクリーンエネルギー電力投資 - .まとめ
1.グリーン市場とは
1-1.グリーン市場の概要
世界各地で、カーボンニュートラルへの取り組みが進む中、環境に配慮した製品やサービスを提供し、収益を上げるビジネスモデルである「グリーンビジネス」がますます脚光を浴びています。
グリーンビジネスには、資源の効率的な利用、廃棄物の削減、再利用とリサイクル、エネルギー効率の向上などが含まれています。
特に、北米では「電気自動車(EV)」の普及が急速に進んでおり、再生可能エネルギーの採用が進む州も増えています。さらに、クリーンテック分野の成長を促進するエコシステムの形成も進行中です。これにより、伝統的なエネルギー産業にとらわれず、新たな「グリーン市場」が広がっています。
具体的に、米国のバイデン政権は、2021年以降、EVの普及と国内生産の強化を目指して、幅広い支援策を導入しています。その支援額は、1,300億ドル近くにも達しており、民間投資も呼び込まれていると報じられています。
北米では、EVを中心にした脱炭素への取り組みが急速に進展しており、これが二酸化炭素削減目標の達成に向けた鍵となっているため、その動向に注目が集まっています。
1-2.グリーン市場が注目される理由
近年、世界中で持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定などの背後に、カーボンニュートラルの実現を目指す取り組みが拡大しています。
さらに、”Environment(環境)”、”Social(社会)”、”Governance(ガバナンス・企業統治)”の3つの英単語の頭文字を組み合わせた「ESG」の概念が広まり、これらの要素に配慮した経営を実践する企業への「ESG投資」も増加しています。
この状況から、消費者の間でもエコフレンドリーな製品への需要が高まっており、今や企業が優先的に取り組むべき重要な事柄となっています。持続可能性への注目が、ビジネスと社会全体に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもありません。
2.脱炭素に関する米国政府の動向
2-1.「パリ協定」への復帰
米国のジョー・バイデン大統領は、2020年の大統領選挙から「2050年までのカーボンニュートラル実現」を公約の1つとして掲げており、大統領選挙の勝利宣言直後に発表された4つの優先政策課題の中に、気候変動対策も含めました。
さらに、バイデン大統領は2021年の大統領就任後、以前離脱していた「パリ協定」への復帰を果たし、これにより大きな注目を浴びました。
パリ協定については、トランプ政権下で米国が離脱を宣言していた背景には、米国に不利益をもたらすとの理由がありました。しかし、バイデン大統領は2021年1月20日にパリ協定への正式な復帰を宣言し、その後、日本、中国、EUなどの主要国が参加する気候変動サミットの主催も担当し、カーボンニュートラルへの積極的な活動を展開しています。
2-2.インフラ投資雇用法(IIJA)
2021年11月15日にバイデン大統領の署名によって成立した「インフラ投資雇用法(IIJA)」は、バイデン大統領によって「一世一代」の投資法案と賞賛され、総額約1兆ドルの投資を通じて、クリーンエネルギーの未来に向けた開発と整備に着手する重要な法案です。
この法案は、以下の分野において大規模な投資を行います:
輸送・交通
- 道路、橋、高速道路に約1,210億ドル
- 鉄道に約660億ドル
- 公共輸送に約470億ドル
- 空港に約250億ドル
- 港湾と水路に約170億ドル
クリーンテクノロジー・クリーンエネルギー
- 電力インフラとクリーンエネルギーに約730億ドル
- 電気自動車充電ステーションに約75億ドル以上
- 低排出バスとフェリーに約75億ドル以上
水インフラ・環境再生
- 配水、水資源の確保、貯水に約630億ドル
- 環境再生に約210億ドル
デジタルインフラ・インフラ強靭化
- ブロードバンドに約650億ドル
- サイバーセキュリティと強靭化に約500億ドル
この投資額からも、米国が脱炭素への取り組みに力を入れていることが明確に示されています。
2-3.クリーンエネルギー実証局(OCED)
2021年12月21日、クリーンエネルギーの展開をよりスピードアップすることを目的として、「エネルギー省(DOE)」は新たに「クリーンエネルギー実証局」を創設することを発表しました。
クリーンエネルギー実証局では、米国の家庭や労働者のために新しい高収入の雇用を創出し、恵まれないコミュニティに恩恵をもたらしながら、同時に環境汚染を解消することを目指すとしています。
具体的には、200億ドル以上の予算を用いて、クリーン水素、炭素回収、電力網規模のエネルギー貯蔵、小型モジュール原子炉などの分野におけるクリーンエネルギーの技術実証プロジェクトを支援するということです。
またさらに、これらの実証プロジェクトを実施することによって、実際の環境下における革新的技術の有効性を証明し、さまざまなシーンへの活用へとつなげていきたいとしています。
2-4.インフレ削減法(IRA)
「インフレ削減法(IRA)」とは、2022年8月16日に成立した、過度なインフレ(物価の上昇)を抑制すると同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策をスピーディに進めることを目的とした法律です。
本法律では、気候変動に対して歳出全体のおよそ8割に当たる約3,910億ドルが充てられており、これによって、国際公約として示した「2030年までに温室効果ガスの排出量を2005年比で50〜52%削減し、2050年にカーボンニュートラルを実現する」という目標の達成を目指すものとなっています。
また、米国エネルギー省は、このインフレ削減法と前述したインフラ投資雇用法に盛り込まれた気候変動対策によって、2030年までに温室効果ガスの排出量を40%削減できると試算しています。
なお、本法律では、クリーンエネルギー導入に伴って一定の税額控除が認められており、その詳細は下記の通りとなっています。
- クリーン生産設備
- 二酸化炭素回収・貯留(CCS)、直接空気回収(DAC)、石油増産回収(EOR)など
- 家庭での太陽光発電設備の設置に対する税額控除の延長
- 省エネ機器の購入
- 原子力発電、サスティナブルな航空燃料(SAF)、クリーン水素などの燃料エネルギー製造
- 電気自動車(EV)の購入に伴う税額控除
2-5.国家クリーン水素戦略とロードマップ
「国家クリーン水素戦略とロードマップ」とは、2023年6月5日に発表された、クリーン水素の生産から利用までを加速するための包括的な枠組みのことを指します。
実際、商業規模の水素普及の実現は、バイデン大統領の「アメリカへの投資」アジェンダにおける重要な構成要素となっており、クリーンエネルギー経済の構築に不可欠であると考えられています。
また、水素経済は2030年までにおよそ10万人規模の直接的および間接的な雇用を生み出す可能性があるとされており、複合的な経済セクターにまたがるエネルギー経路を開発することによってエネルギー自立をより一層強化し、これまでにすでに80万人以上の雇用を創出してきた「製造業ブーム」をさらに加速させると期待されています。
さらに、クリーン水素はエネルギー集約セクターでの排出削減に重要な役割を果たすと考えられているだけでなく、長期的なエネルギー貯蔵によって、従来の変動しやすい再生可能エネルギーの利用拡大を後押しし、再生可能エネルギーや先進原子力、またその他の革新的技術を含むクリーン発電に柔軟性と収益源をもたらすと言われています。
そして、こうした背景から、国家クリーン水素戦略とロードマップでは、水素の生産から利用までの現況と将来の脱炭素化目標に向けてのビジョンを明確にし、2030年までに年間1,000万トン、2040年までに年間2,000万トン、2050年までに年間5,000万トンのクリーン水素を国内生産するためのシナリオを検証しています。
3.分野別に見た北米グリーン市場の動向
3-1.米国南東部の電気自動車(EV)市場
前述の通り、北米で電気自動車(EV)の需要が急速に広がっており、特に米国南東部は、ミシガン州からジョージア州にかけて、15以上の新しいリチウムイオン電池のギガファクトリーや工場拡張が発表されている「バッテリーベルト」として知られ、EV関連製造工場への大規模な投資が注目されています。
2022年には、米国全体でEVの販売台数が前年比57.2%増の74万3,998台と、過去最高を記録しました。州別では、カリフォルニア州がトップで、その他にも南東部のフロリダ州、テキサス州がEV市場で注目されています。
特に南東部6州(フロリダ、ジョージア、ノースカロライナ、テネシー、サウスカロライナ、アラバマ)では、2022年のEV販売台数が前年比54.8%増の10万1,718台に達し、全米の成長をけん引しています。全米全体では、2022年のEV登録台数が前年比67.9%増の244万2,270台に達しました。
州別では、カリフォルニア州、フロリダ州、テキサス州がEV登録数の上位を占め、特にカリフォルニア州は1,000人当たりの登録台数が非常に高いことが注目されています。
各州は環境に配慮した自動車の普及を推進しており、ノースカロライナ州では州政府が2030年までに125万台のゼロエミッション車(ZEV)の登録と販売を促進する目標を掲げています。この目標を実現するために、「N.C. クリーン・トランスポーテーション計画(NCCTP)」が策定され、インフラ整備や資金調達、コミュニケーション、ガバナンスなどの分野で具体的な戦略と行動計画が進行中です。
さらに、スクールバスにEVを導入する試験的なプログラムも2023年7月から始まり、南東部を中心に積極的な取り組みが行われています。このように、南東部地域はEV市場の成長において重要な役割を果たし、持続可能な交通システムの発展に貢献しています。
3-2.ニューヨーク州のクリーンエネルギー電力投資
ニューヨーク州では、2019年7月に成立した「気候リーダーシップおよびコミュニティー保護法(CLCPA法)」において、電力部門に関して下記のような目標を掲げています。
- 2030年に電力の70%を再生可能エネルギー電源由来にするとともに、州の温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減
- 2040年までに電力部門の100%ゼロエミッション化を実現
- 2050年に温室効果ガス排出量を1990年比で85%削減するとともに、経済活動でのカーボンニュートラルを達成
そして、この目標を達成するため、ニューヨーク州は2022年10月に「カーボンニュートラルな建物に向けたロードマップ」を打ち出しており、「カーボンニュートラルな建物」を「エネルギー効率の高い建物」と定義し、冷暖房システムや屋根・断熱材の現代化など、その設計、建設、運用で温室効果ガスを極力排出しない建物作りを目指しています。
また、州独自の「ニューヨーク・サン・プログラム」と呼ばれる太陽光設備設置に対する支援制度も実施しており、最大25%(最大5,000ドルまで)の税額控除が可能となっているなど、州全体でクリーンエネルギーへの転換を図っています。
2020年12月、カナダ政府は2050年までに温室効果ガス排出量をネットゼロにする目標と、35万人の雇用を創出するための水素の製造と利用を促進する「カナダのための水素戦略(Hydrogen strategy for Canada)」を発表しました。
カナダは年間で推定300万トンの水素を製造し、世界でもトップ10の水素製造国の一つです。この戦略は、連邦政府だけでなく、州や準州、地域レベルでも採用され、水素に関する戦略やロードマップが進行中です。
戦略の「2050年に向けたビジョン」では、水素の活用が拡大すれば、2030年までに最大6%、2050年には30%という割合でカナダの最終エネルギー消費に貢献し、それによって温室効果ガスの排出を2030年までに4,500万トン、2050年までに最大1億9,000万トン削減できる可能性が示されています。
国内供給量に関しても、2030年までに年間2,000万トンに拡大し、クリーン水素製造国のトップ3に入ることを目指しています。
価格についても、2050年までに1キログラムあたり1.5~3.5カナダ・ドル(約150~350円)となる供給価格を確立し、水素燃料供給ネットワークの構築によって、2050年には500万台の燃料電池車(FCEV)が走行することを目標としています。
さらに、「気候変動対策強化計画」では、低炭素・ゼロエミッション燃料基金への15億カナダ・ドルの投資など、積極的な取り組みが示されており、カナダは水素を活用して持続可能な未来に向けた大きなステップを踏み出しています。
4.まとめ
バイデン大統領が繰り広げているさまざまな気候変動対策をはじめとして、北米では近年、グリーンビジネスへの関心がますます高まっています。
今回紹介したように、北米のグリーン市場はEVや水素戦略などを中心としてその規模を急速に拡大しており、それぞれが掲げる温室効果ガスの削減目標に向けて邁進しています。
現在、世界中で脱炭素への需要が拡大している中、こうしたグリーンビジネスは今後もさらに増えていくと見られているため、興味のある方はこの機会に一度、北米のグリーン市場への理解を深め、日本国内だけでなく、世界における最新の動向を把握しておくことをおすすめします。
中島 翔
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