日本の脱炭素と地域創生、日本の環境政策と地域社会への影響

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日本では、2020年10月に政府が新たな環境目標として「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。これにより、温室効果ガスを2050年までに実質ゼロにすることが国の大きな課題となり、地方創生の動きと融合することで、大きな注目を集めています。

本記事では、「脱炭素×地域創生」という取り組みの動向に焦点を当てて、その概要や現状、具体的な事例を解説します。

目次

  1. 「脱炭素×地域創生」とは
    1-1.「脱炭素×地域創生」の概要
    1-2.「脱炭素×地域創生」が注目される背景
  2. 「脱炭素×地域創生」関連の政策
    2-1.地域脱炭素ロードマップ
    2-2.脱炭素先行地域
    2-3.ゼロカーボンシティ
    2-4.脱炭素化支援機構(JICN)
  3. 「脱炭素×地域創生」の現状
    3-1.二酸化炭素排出量
    3-2.都道府県別の二酸化炭素排出量
  4. 「脱炭素×地域創生」関連の取り組み事例
    4-1.小田原市「”脱炭素型”EVカーシェアリング」
    4-2.名古屋市「脱炭素コンパクトシティモデル」
  5. まとめ

1.「脱炭素×地域創生」とは

1-1.「脱炭素×地域創生」の概要

「脱炭素×地域創生」とは、脱炭素に向けた対策を講じる中で地域課題を解決し、地方創生と脱炭素を同時に実現する取り組みのことを指します。

まず、「地域創生」とは、地方の活性化への取り組みや事業を指します。これは、少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少を食い止め、東京圏への人口の過度な集中を緩和し、それぞれの地域で住みやすい環境を確保し、将来にわたって日本社会を活力あるものとして維持することを目指すものです。

近年、脱炭素に関連する取り組みを地域の成長の機会と捉える考え方が広まっています。自治体、地域企業、市民など地域の関係者が主役となり、現存するテクノロジーを活用して、再生可能エネルギーなどの地域資源を最大限に活かす動きが進んでいます。

この取り組みによって、経済を循環させ、防災や生活の品質向上など、地域の課題を同時に解決し、地方創生に貢献しようという流れが生まれました。

つまり、脱炭素は現在、「地域の成長戦略」の一部となっており、日本各地で多様な取り組みが進行中です。

1-2.「脱炭素×地域創生」が注目される背景

2020年10月、日本政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする大きな目標が確認されました。その後、2021年4月には、2050年カーボンニュートラルに合致し、より野心的な目標として、2030年度までに温室効果ガスの排出を2013年度と比較して46%削減し、その後も50%削減に向けて努力することが表明されました。

そして、こうした目標を達成するためには、国と地方の協働および共創による取り組みが必要不可欠であるという考えから、内閣官房長官を議長とする「国・地方脱炭素実現会議」が設置され、地域が主役となる、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する「脱炭素×地域創生」の実現を目指して、さまざまな政策が進められているというわけです。

実際、全国の各地域では、少子高齢化に対応し、独自の強みや潜在力を生かした自律的且つ持続的な社会を目指す地方創生の取り組みが積極的に行われており、今後も、産業、暮らし、交通、公共などといったあらゆる分野において、地域の強みを生かして地方創生に寄与するように進めることが重要であると考えられています。

さらに、そのためには、特に地域における再生可能エネルギーの導入拡大がキーポイントとなると言われており、2018年時点でおよそ9割の市町村のエネルギー収支が赤字となっている現状を受け、地域の企業や地方公共団体が中心になって地域の雇用や資本を活用しつつ、地域資源である豊富な再生可能エネルギーのポテンシャルを有効利用することで、地域の経済収支の改善につながると期待されています。

2.「脱炭素×地域創生」関連の政策

ここ数年、「脱炭素×地域創生」の動きがますます盛り上がっていることを受け、それに関連する政策もいくつか策定されています。

そこで、本項では主な「脱炭素×地域創生」関連の政策について、詳しく解説していきます。

2-1.地域脱炭素ロードマップ

「地域脱炭素ロードマップ」とは、2020年12月から2021年6月にかけて開催された「国・地方脱炭素実現会議」において取りまとめられた、地方からはじまる、次の時代への移行戦略のことを指します。

具体的には、地域課題を解決し、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する脱炭素に国全体で取り組み、さらに世界へと広げるために、特に2030年までに集中して行う取り組みや施策を中心として、地域の成長戦略ともなる地域脱炭素の行程と具体策を示すものであるとされています。

また、全国各地域の関係者が、社会経済上の課題を解決するためにより良い地域づくりに努力している中で、脱炭素の要素も加えた地域の未来像を描き、協力して行動することによって、地域が主役となって強靱な活力ある地域社会への移行を目指すということです。

さらに、国および地方の双方の行政府においても、こうした地域脱炭素の取り組みに関連するあらゆる政策分野において、脱炭素を主要課題の一つとして位置づけ、必要な施策の実行に全力で取り組むと説明しています。

なお、地域脱炭素ロードマップでは、地域脱炭素を実現するための取り組みとして下記二つが挙げられています。

  • 脱炭素先行地域づくり
  • 脱炭素の基盤となる重点対策の全国実施(各地の創意工夫を横展開)

2-2.脱炭素先行地域

「脱炭素先行地域」とは、2050年カーボンニュートラルに向けて、民生部門(家庭や第三次産業の事業所など)の電力消費に伴う二酸化炭素の排出量を実質ゼロにし、あわせて運輸部門や熱利用などその他の温室効果ガスについても、日本の「温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比で46%削減する」という「2030年度目標」と整合させる形で、地域特性に応じて実現する地域のことを言います。

脱炭素先行地域の拡大は、企業にとって絶好のビジネスチャンスであると考えられており、脱炭素や地方創生に事業チャンスを見出す企業は、脱炭素先行地域への公募に、自治体と共同で参加することができます。

また、これらの企業は脱炭素先行地域において、資源や環境に配慮したテクノロジー、またはサービスを指す「グリーンテック」や、ICT(情報通信技術)などの先進情報テクノロジーを活用したサスティナブルな都市を指す「スマートシティ」、さらには「モビリティ」などといった知見や技術を提供し、投資を行う金融機関や自治体と連携してビジネスの創出に取り組んでいます。

このほか、脱炭素先行地域での取り組みは先進的且つ他の地域においても展開できるものが多いため、そこでどのような取り組みが行われているのかを確認することで、地域で脱炭素ビジネスを挑戦する企業への有益なヒントを得ることもできると言われています。

2-3.ゼロカーボンシティ

「ゼロカーボンシティ」とは、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自ら、または地方自治体として公表した地方自治体のことを指します。

2022年3月31日時点ですでに、679自治体(41都道府県、402市、20特別区、181町、35村)がゼロカーボンシティを宣言していることが報告されており、2019年9月時点で4自治体だったことを考えると、その数はかなりのスピードで増加しています。

なお、環境省によってゼロカーボンシティであると認められるためには、下記のいずれかの方法でその旨を表明する必要があると定められています。

  • 定例記者会見やイベント等において、「2050年二酸化炭素実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明
  • 議会で「2050年二酸化炭素実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明
  • 報道機関へのプレスリリースで「2050年二酸化炭素実質排出ゼロ」を目指すことを首長が表明
  • 各地方自治体ホームページにおいて、「2050年二酸化炭素実質排出ゼロ」を目指すことを表明

また、ゼロカーボンシティを宣言すると、環境省から支援を受けられるほか、地域活性化や地域貢献ができるなど、自治体にとってさまざまなメリットがあるとされています。

このように、現在日本では国と地域が一丸となって、カーボンニュートラルに向けた取り組みを推進しています。

2-4.脱炭素化支援機構(JICN)

「脱炭素化支援機構(JICN)」とは、2022年10月28日に設立された株式会社で、「改正地球温暖化対策推進法」に基づいて国の財政投融資からの出資と民間からの出資を原資にファンド事業を行っています。

脱炭素化支援機構では、2050年カーボンニュートラルの実現を目指して脱炭素に資するさまざまな事業に対して投融資(リスクマネー供給)を行い、脱炭素に必要な資金の流れを太く、且つ速くすることによって、経済社会の発展や地方創生、知見の集積や人材育成などといった新たな価値の創造に貢献するとしています。

具体的には、国から出資される200億円を呼び水として、1,000億円程度の規模の脱炭素事業を実現することを想定していると説明しており、資源循環や森林保全、炭素固定など、非エネルギー起源の温室効果ガス排出抑制事業にも適用できる仕組みを採用することによって、地域での幅広い活用が期待されています。

3.「脱炭素×地域創生」の現状

ここでは「脱炭素×地域創生」に関する現状を、さまざまなデータを参考にして探っていきたいと思います。

3-1.二酸化炭素排出量

環境省と国立環境研究所によると、2021年度における日本の温室効果ガス排出量および吸収量は11億2,200万トン(二酸化炭素換算)で、前年度比2.0%(2,150万トン)の増加となり、2013年度比では20.3%(2億8,530万トン)の減少となったということです。

また、排出量そのものは11億7,000万トンで、2020年度比で2.0%の増加、2019年度比で3.3%の減少となりました。

2020年度比で増加したことについては、新型コロナウイルス感染症に起因する経済停滞からの回復により、エネルギー消費量が増加したことなどが主な要因として考えられています。

このほか、吸収量そのものについては、4,760万トンと報告されており、4年ぶりに増加に転じることとなりました。

なお、吸収量の増加については、森林整備の着実な実施や木材利用の推進などが主な要因として考えられています。

3-2.都道府県別の二酸化炭素排出量

環境省のデータによると、2020年度の都道府県別の二酸化炭素排出量ランキング(単位:1,000t-CO2)は以下の通りです。

  1. 東京都:60,991
  2. 愛知県:60,637
  3. 千葉県:59,600
  4. 神奈川県:55,050
  5. 北海道:45,773

このランキングを見ると、やはり人口が多く、産業が盛んな地域ほど二酸化炭素排出量が多いことが分かります。

実際、千葉県や愛知県は重化学工業が盛んな地域として知られており、有名メーカーの製造拠点があることなどから、人やモノの流れも比較的多くなっています。

また、東京よりも公共交通機関が発達していないことから、マイカーを利用するシーンが多いことも一つの特徴と言えるでしょう。

二酸化炭素排出の原因

環境省によれば、日本国内における二酸化炭素排出の主な原因は以下のように挙げられます。

  1. 発電所や製油所などでのエネルギー転換
  2. 工場などの産業活動
  3. 自動車や鉄道などの運輸事業
  4. 商業、サービス、事業所などの業務
  5. 家庭における各種活動
  6. 工業プロセスおよび製品の使用
  7. 廃棄物の焼却など

特に、日本において最も顕著なのはエネルギー転換部門での排出です。

電気は現代生活に不可欠であり、再生可能エネルギーの利用が増えつつありますが、依然として大規模な火力発電などの化石燃料利用からの転換は難しい現実です。

工場における製品の製造や運輸事業なども二酸化炭素の排出源であり、これらの産業活動によっても多くの排出が発生しています。

また、日常生活においても、ガスや電気の使用、移動手段としての自動車の利用、廃棄物の焼却などが、二酸化炭素排出につながります。

我々の日常の行動が、二酸化炭素排出に影響を与えていることを理解し、これらの要因に対処することが、排出削減の第一歩となります。再生可能エネルギーへの移行や省エネルギーの取り組みなど、持続可能な社会を築くための努力が重要です。

4.「脱炭素×地域創生」関連の取り組み事例

4-1.小田原市「”脱炭素型”EVカーシェアリング」

神奈川県小田原市は、カーシェアリング事業を手がける「株式会社REXEV」と、地域新電力の「湘南電力株式会社」と連携し、EV(電気自動車)に特化したカーシェアリングサービス「eemo(イーモ)」を2020年よりスタートしています。

「EVを活用した地域エネルギーマネジメントモデル事業」として位置付けられている本プロジェクトは、小田原市のエネルギーマネジメント事業およびシェアリング事業の公用利用に当たるものとなっており、EVを動く蓄電池として地域におけるエネルギーの効率化を図り、脱炭素型地域交通モデルの構築を目指すとしています。

また、本プロジェクトは、環境省「令和2年度脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業のうち脱炭素型地域交通モデル構築事業」および「令和4年度地域脱炭素移行・再エネ推進交付金のうち重点対策加速化事業」の採択を受けて実施しているということで、小田原市は引き続き再生可能エネルギーの導入促進、エネルギーマネジメント、地域防災機能の向上に取り組んでいくことを表明しています。

4-2.名古屋市「脱炭素コンパクトシティモデル」

名古屋市では、同市と「東邦ガス株式会社」の共同提案「再開発地区で実現する脱炭素コンパクトシティモデル」が、環境省において第1回の「脱炭素先行地域」として選定されました。

この提案は、先行地域内の電力消費量を、水素を活用した最新の省エネルギー機器などの導入によって約45%削減し、残る約55%については、地域内外から調達する再生可能エネルギー電気を使うことで、電力消費に伴う二酸化炭素の実質ゼロを達成するという計画になっています。

また、このほかにも、脱炭素の取り組みに併せて魅力あるまちづくりを行い、さらに地域課題の解決として、まちの強靭化、運輸部門の二酸化炭素排出量の低減、ごみの減量・資源循環などに取り組むとしています。

5.まとめ

近年、世界中でカーボンニュートラルの達成に向けた動きが活発化しており、日本においても「2050年カーボンニュートラル」が政府によって宣言されるなど、本格的な対策が求められています。

そんな中、こうした目標の達成には、国だけでなく、それぞれの地域や自治体が協力して取り組むことが不可欠であるという考えから、「脱炭素×地域創生」の取り組みに注目が集まっています。

今回紹介したように、近年は国としてさまざまな関連政策が策定されているほか、実際に多くの自治体が脱炭素を地方創生のチャンスと捉え、ユニークなプロジェクトを展開しています。

このように、「脱炭素×地域創生」は今後もさらに盛り上がっていくテーマだと言えるため、現在、自身の属する自治体ではどのような取り組みが行われているのか、一度調べてみてもいいかもしれません。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12