相続した不動産が共有名義になっていて、売却したいがどのような方法があるのか分からずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
共有名義の不動産全体を売却するには、すべての共有者の同意が必要であるため、売却して現金化するハードルは高いといえます。しかし、他の共有者が反対していたとしても、売却する方法はいくつかあります。
本記事では、共有名義で相続した不動産を売却する方法について、特に、他の共有者が反対している場合の対処法に重点を置いて解説します。
目次
- 共有名義の不動産の権利
1-1.相続と共有の関係
1-2.共有持分権者の権利 - 共有名義の不動産を売却する方法
2-1.不動産全体を共有者全員で売却する
2-2.自分の持分を第三者に売却する
2-3.自分の持分を他の共有者に売却する
2-4.他の共有者の持分を買い取って単独で売却する
2-5.土地を分筆する
2-6.共有物分割請求訴訟 - まとめ
1.共有名義の不動産の権利
1-1.相続と共有の関係
不動産の所有者である被相続人が亡くなって相続が始まると、相続人が複数いる場合は遺産分割が完了するまでその不動産は相続人の共有状態となるものとされています。
また、被相続人の不動産を相続する際、相続人の共有名義で相続することがあります。この場合、共有者である各相続人はそれぞれの持分割合の範囲で所有権を有することになります。
1-2.共有持分権者の権利
民法では、共有者は共有物の全部について、持分に応じた使用をすることができる、と規定しています。共有者は、持分割合に応じた権能を持つとされており、その中には処分権を含まれますが、他の共有者との調整が必要になります。
具体的には、共有者は、共有名義の不動産について、保存行為、管理行為、変更行為をおこなうことが認められています。このうち、現状維持行為である保存行為は、すべての共有者が1人でおこなうことができます。
しかし、管理行為や変更行為は、共有者の持分権の価格に応じて、他の共有者の同意が必要になることがあります。管理行為は、変更を伴わない利用や改良などの行為のことであり、共有者の持分権の過半数の同意が必要となります。
変更行為は、性質や形状などを変更する行為のことであり、処分もこれに当たります。変更行為をおこなうには、共有者全員の同意が必要となります。
2.共有名義の不動産を売却する方法
ここまでみてきた共有名義の不動産の共有持分権者の権利を前提に、共有名義の相続不動産を売却する方法をみていきましょう。
なお、「2-2.自分の持分を第三者に売却する」以降の方法は、他の共有者が反対している際に、売却に向けて対処する方法になります。
- 不動産全体を共有者全員で売却する
- 自分の持分を第三者に売却する
- 自分の持分を他の共有者に売却する
- 他の共有者の持分を買い取って単独で売却する
- 土地を分筆する
- 共有物分割請求訴訟を起こす
以下、詳しくみていきましょう。
2-1.不動産全体を共有者全員で売却する
前述したように、共有名義の不動産全体を売却する行為は、変更行為に当たるため、原則として共有者全員の同意を得ることが必要になります。
共有者の1人でも反対している場合、売却できないことになりますが、共有者全員に持分割合に応じた売却代金を分割することができるため、共有者間で不公平感が生じにくい方法といえるでしょう。
また、売却の意向について共有者へ相談する際は、具体的な不動産の査定価格を添えて伝えると話が進みやすくなることがあります。例えば、大手不動産会社6社に査定依頼ができる「すまいValue」や、リクルートグループが運営する大手不動産ポータルサイトの「SUUMO不動産売却」など、複数社の査定結果を得ることができる不動産一括査定サイトを利用すると効率的に不動産査定を進めることが可能です。
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2-2.自分の持分を第三者に売却する
他の共有者が反対をしていて不動産全体を売却できない場合、自分の持分権を第三者に売却するという方法があります。
共有持分の権利も、その範囲内で処分することが可能です。持分権の売買市場があれば、法的には第三者に売却することができます。
ただし、共有持ち分の売却は次の買主にとって利用価値が低く、通常の売却で得られる売却価格から非常に低くなることが予想されます。
不動産業者や不動産投資家の中には、持分権を買って賃料収入を得たり、持分権を買い集めてから売却したりするなどの方法で利益を上げている業者もあります。自分の持分のみを第三者に売却する場合、売却先はこのような業者や投資家になるでしょう。
2-3.自分の持分を他の共有者に売却する
他の共有者の意志次第になりますが、不動産全体を売却することには反対だが、持分を買い取ってもよいという考えの共有者がいれば、他の共有者に自分の持分権を売却するという方法も考えられます。
ただし、時価に比べて著しく低い金額での売却となった場合、贈与とみなされて贈与税の課税対象となることがあるので注意しましょう。
2-4.他の共有者の持分を買い取って単独で売却する
他の共有者に自分の持分を売ることの裏返しとして、他の共有者の持分を買い取るという方法もあります。ただし、他の共有者の持分権価格に相当する対価を支払う必要があります。
また、持分権の市場価値は低くなりがちですが、不動産に思い入れのある人は市場価値よりも高い対価を要求する可能性もあるので注意しましょう。
2-5.土地を分筆する
共有名義となっている不動産が土地である場合、土地を分筆することで、他の共有者が反対していても、1つの独立した土地として売却することが可能です。
分筆する際には、測量などをおこなう費用がかかりますが、市場価値が低くなりがちな持分権のまま売却するよりも、高く売却できる可能性が高いでしょう。
2-6.共有物分割請求訴訟
民法では、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができる、と規定しています。(民法256条1項)
そこで、他の共有者に対し、共有物の分割請求訴訟を起こすことも共有名義の不動産を売却する方法の一つといえます。
分割方法の原則は、現物分割ですが、裁判所は、共有不動産の性質や形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望やその合理性などの事情を総合的に勘案して、他の分割方法を決めることがあります。
現物分割以外の分割方法として、競売による売却代金の分配や、金銭の支払いによって精算する価格賠償があります。
ただし、これらの方法は裁判所を介して民事訴訟を起こす必要があり、親族間で感情的なもつれを引き起こしてしまう可能性もあります。まずは話し合いを進め、話し合いでの解決が難しい場合や自身の権利を大きく阻害されてしまう時の対策として検討されてみると良いでしょう。
※出典:公益社団法人全日本不動産協会「共有物分割請求」
まとめ
共有名義の相続不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要であるのが原則です。ただし、他の共有者が売却に反対であっても、対処法はあります。
手間や費用がかからない方法としては、自分の持分のみを第三者に売却するという方法があります。相続不動産が土地であれば、多少費用がかかりますが、持分に沿って分筆してから売却する方法も有効でしょう。
他の共有者と意思疎通が図れる状態であれば、交渉によって、他の共有者に自分の持分を売却したり、逆に、他の共有者の持分を買い取ってから第三者に売却したりする方法もあります。まずは他の共有者との話し合いを進めながら、それぞれにとって良い結果となるよう売却方法を検討していきましょう。
佐藤 永一郎
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