最近よく聞く「賃料の値上げ」なぜ?不動産投資の賃料動向や値上げ交渉の注意点も【プロ投資家への取材有】

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2024年に入り、不動産オーナーが家賃を値上げするケースが増えています。物価や不動産価格の上昇を背景に、賃料相場が上昇傾向にあるため、値上げをしやすい環境にあるのです。ただし、相場に見合わないむやみな値上げは入居者の反発を招き、空室が増加するリスクもあります。

今回の記事では賃料の値上げが進む背景や値上げ交渉の注意点をまとめました。後半では依田泰典(よだやすのり)氏に伺った、賃料の値上げに関するインタビューも掲載します。今後賃料の値上げを検討したい考えのオーナーの方は、ぜひ参考にしてください。

目次

  1. 東京・大阪の賃料動向
  2. 賃料値上げの背景
    2-1.物価および不動産価格の高騰
    2-2.建築費の高騰
    2-3.人件費の高騰
  3. 家賃の値上げ交渉の注意点やコツ
    3-1.値上げが妥当な要因をまとめて説明できる準備をする
    3-2.早めに通知する
    3-3.かならず内容証明郵便で書面を送る
    3-4.時には譲歩も必要に
    3-5.裁判・調停になる事態は避ける
  4. 家賃の値上げ交渉のコツや成功事例をプロの不動産投資家にインタビュー
    4-1.賃料の値上げが起きている背景として、どのような原因が考えられるのでしょうか?
    4-2.家賃の値上げ交渉のコツや注意点、家賃アップの事例について教えてください
    4-3.家賃の値上げによって空室が埋まらなくなるリスクへの対策はありますか?
  5. まとめ

1 東京・大阪の賃料動向

アットホームが集計しているマンション賃料インデックスに基づくと、東京・大阪の賃料動向の推移は次のとおりです。

東京23区・大阪市の単身者向けマンション賃料インデックス

(2009年第一四半期の値=100として指数化したデータ)

※出所:at home「マンション賃料インデックス

このデータに基づくと、コロナの感染拡大が進んだ2020年~2021年には賃料が横這いもしくはわずかな下落となりましたが、その後は上昇傾向が続いています。たとえば2023年の一年間では、東京が+3.2%、大阪が+2.6%上昇しました。

最近の賃料水準を「全国賃貸管理ビジネス協会」が集計するデータを見ると、東京都は2024年3月がワンルームで平均70,490円、2023年12月が68,345円なので、この3か月だけでの+3.1%上昇している計算です。

大阪府は2024年3月が54,000円、2023年12月が55,255円なので-2.3%となっています。ただし、大阪圏はさきに紹介した賃料指数のデータにおいても、東京と比べると上下を伴って推移しています。この3か月の動きだけでは、下落トレンドにうつったとは判断できないでしょう。
※出所:全国賃貸管理ビジネス協会「全国家賃動向

2 賃料値上げの背景

近年賃料の値上げが進む背景には、物価高騰を背景とした不動産価格の高騰、そしてその背景にある建築費の高騰などがあります。賃料値上げに影響を与えていると考えられる要因についてまとめました。

2-1 物価および不動産価格の高騰

ひとつめは、物価高騰とそれに伴う不動産価格の高騰です。コロナ禍が一巡した後は、以下のとおり物価上昇が続いており、年率で2~3%程度のペースで物価上昇がみられます。

全国の消費者物価指数の前年比上昇率の推移


※出所:e-stat「消費者物価指数

不動産は実物資産なので、基本的に物価が上昇すれば不動産価格にも上昇圧力がかかります。

全国の住宅不動産の価格指数の推移(2019年末の水準を100として指数化)


※出所:国土交通省「不動産価格指数(住宅)

こうした物価や不動産価格の上昇は、基本的に賃料相場の上昇要因となります。高額な不動産価格をカバーするためには、高い賃料を設定して賃料収入を上げる必要があるためです。

2-2 建築費の高騰

近年みられる建築費の高騰は、不動産価格の上昇を加速させる要因となります。次のデータのように、2018年以降でみると日本の建築費は着実に高騰しています。

日本の建設資材物価指数(建設総合・全国平均)


2018年~2023年
※出所:一般財団法人 建設物価調査会「建設資材物価指数(2015年基準)

建築費が高騰すれば、新築の物件価格やリフォーム・リノベーション後の物件価格が上昇する要因となります。不動産価格をさらに上昇させる一因となるのです。

2-3 人件費の高騰

人件費の高騰は、建築費及び管理コストの高騰を通じて賃料の上昇要因となります。近年の年間給与水準の平均をみると、次のとおり緩やかな上昇傾向で、かつ2021年以降上昇ペースが加速しています。

年間平均給与の推移


※出所:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「2022年の年間給与の対前年増加率は、2015年以降で最高―国税庁の2022年分「民間給与実態統計調査」結果報告

建築費の中には、施工作業にあたる方々の人件費も含まれているため、人件費の高騰は建築費にも影響を与えます。さらに、運用中の物件においても、管理会社の人件費高騰が管理コストの増大につながる可能性があります。

3 家賃の値上げ交渉の注意点やコツ

家賃の値上げは入居者にとって負担増の要因となるため、しばしばトラブルの原因となります。また、賃料に不満を抱いて退去者が増えれば、かえって収支が悪化する要因になるでしょう。スムーズな値上げ交渉のためのコツや注意点をまとめました。

3-1 値上げが妥当な要因をまとめて説明できる準備をする

値上げ交渉の下準備として、賃料の引き上げが妥当な材料を集めましょう。有効な材料のひとつは、現行の賃料と賃料相場の差です。賃料相場に比べて自身の物件の賃料が低ければ、相場に近づけるために引き上げる材料となるでしょう。

そのほか、周辺の競合物件と比べて優れた要素がある、新しい設備を導入予定であるなど、入居者にメリットがあるポイントがあれば、合わせて交渉材料に含めるのも一案です。

3-2 早めに通知する

家賃の引き上げと通知のタイミングには特段の制約がありませんが、半年前など早めに通知するのが有効です。急な引き上げは入居者にとっても迷惑がかかり、交渉がこじれるリスクが高まります。

また、家賃引き上げに反発する住民の退去により、急な空室増加につながる可能性もあります。引き上げまでに時間を取れば交渉を丁寧に行えるほか、残念ながら退去する住民が出ても、次の入居者を集めるための準備を進められるでしょう。

3-3 かならず内容証明郵便で書面を送る

賃料の値上げは、内容証明郵便で入居者に書面の形で情報をお送りしましょう。両者が合意しさえすれば、賃料値上げの交渉や説明は口頭でも可能です。

しかし、証跡がなければ後になって説明があったかどうかでトラブルになるリスクも否定できません。内容証明付きの郵便であれば、値上げに関する情報を送付した事実が残るので安心です。

3-4 時には譲歩も必要に

一方的に値上げの承諾を要求するのではなく、状況に応じて譲歩することも必要です。よほど客付けに自信がある場合を除いて、賃料交渉に失敗して空室が発生するのは避けたいでしょう。

次の入居者が見つかるまで時間がかかってしまうと、家賃を得られない期間が伸びて値上げの効果がなくなってしまう恐れもあります。たとえば、次のようなポイントでの譲歩も検討してみましょう。

  • 値上げ幅の縮小
  • 値上げ時期の延期
  • 更新料など家賃以外の費用の減額

3-5 裁判・調停になる事態は避ける

家賃交渉がどうしてもうまくいかなければ、最終的には裁判や調停で決着をつけることになりますが、基本的にはその段階まで至らないようにしましょう。裁判や調停の場合、弁護士や資料準備などで金銭的にも作業的にも大きな負担が発生します。

かえってコストがかかってしまうため、値上げの意味があまりなくなってしまうおそれもあります。裁判・調停になるくらいなら、一旦値上げは延期して次回の更新まで待つのも一つの方法です。

更新時の値上げは退去の原因となる恐れがあるものの、次の入居者には値上げ後の賃料で募集ができます。裁判対応をするよりはトータルでみて負担を軽減できる可能性があります。

4.家賃の値上げ交渉のコツや成功事例をプロの不動産投資家にインタビュー

今回は、賃料の値上げが起きている背景や家賃交渉のコツ、注意点について、不動産投資家の依田泰典(よだやすのり)氏へインタビューを行いました。

話し手プロフィール:依田泰典(よだやすのり)氏

    不動産投資家。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。公認不動産コンサルティングマスター。宅地建物取引士(宅建マイスター)。ソニーにて、ITソリューション関連の法人営業や企画・マーケティングに従事(MVP受賞)。株式(信用取引)等幅広く金融商品を運用。リーマン・ショックを経験後、不動産投資を徹底研究。日本銀行のマイナス金利政策を勝機とし数億円の融資を獲得。分譲マンション(1Kから3LDK)を20戸以上購入。ソニー退職後、不動産会社(ベンチャー企業・東証上場企業)にて、収益用不動産(1棟物件)の売買、事業開発、広報・広告宣伝に従事。現在は、ベンチャー企業を創業。東証上場グループ企業等の社外取締役、顧問、アドバイザーとして活動。不動産テック等スタートアップ30社に出資。

賃料の値上げが起きている背景として、どのような原因が考えられるのでしょうか?

「賃料の値上げが起きている背景としては、投資用の新築マンションの設定賃料が上がり、その余波が中古マンションの賃料にも影響を与えていると考えています。

特に、新築マンションの販売価格は、金融機関が当該物件の賃料をベースに主導しているケースが多くあります。昨今のインフレを反映して、新築デベロッパーは、かなり強気な賃料設定をしていますが、材料費や人件費を回収するには、少しばかり強気の賃料を設定しなければ物件を販売しても利益が出ない状況にあるのだと思います。

また、新築デベロッパーは物件販売の効率化のため、不動産ファンドに一棟丸ごと卸すケースも多くなっています。エリアによっては一時的に物件供給が急増することがありますが、入居付けも問題なく行えていることから、こちらも賃料の値上げにつながっていると考えられます。

私の実感としても、物件価格自体が高騰しており、以前と比較すると手頃に物件を購入するという選択にならないケースが増えていると思います。例えば、給与も思うより上がらないため物件購入自体をあきらめ、様子見として当面の間は賃貸に流れるといったケースです。

このような複数の要因から、賃貸需要がさらに押し上げられ、募集家賃の上昇に拍車がかかっている状況だと考えています。」

家賃の値上げ交渉のコツや注意点、家賃アップの事例について教えてください

「家賃を値上げするには、オーナー側も正当な理由が必要です。まずは前提として、日頃から入居者の方との信頼関係の構築・維持が必要となるでしょう。

そもそも、物件を維持管理していくには管理費や修繕積立金、固定資産税がかかってきますが、昨今のインフレに伴いどの物件も維持コストが上がっています。テレビや新聞等の報道により、昨今の経済市況に伴って、食料品等をはじめとしたインフレ傾向にあることは認知されてきていると思います。

値上げ交渉を行う際は、管理会社に依頼をして、家賃を上げる事情や状況を丁寧に入居者に通知することが必要です。その際、互いの認識のずれを防ぐため、口頭よりは書面による通知が望ましいでしょう。また、単に賃料相場が上がっていると伝えるよりは、周辺賃料の状況等具体的な数値を示すことも、入居者の方に理解していただくために有効な方法です。

なお、数年間など長期的に家賃保証契約をしている物件は、賃料交渉しやすいかもしれません。私自身の家賃交渉の事例として、ワンルームの賃料2,000円程度のアップは受け入れてもらえています。サブリース物件などで、管理会社が入居者から受け取っている家賃が上がっている可能性が高ければ、周辺物件をリサーチして交渉してみるのも良いでしょう。

家賃の値上げによって空室が埋まらなくなるリスクへの対策はありますか?

「最寄り駅からの距離が少し遠くとも、近隣に商業施設や日用品の購入に便利な店舗が多ければ賃料を上げる交渉をしてみることは可能です。

ただし、例えば築古アパートなどの物件で、洗濯機が屋外にあったり、専有面積が狭小な物件で賃料の交渉をしてしまうと、逆効果になり退去につながるリスクもあるでしょう。オーナーの独断で判断をせず、信頼できる管理会社と十分に協議をしたうえで意思決定することが大切です。

管理会社と定期的に連絡を取り合い、契約更新時でなくとも、保有物件の棚卸をするという意味でも、同等スペックの物件の賃料動向は押さえておくと良いでしょう。

自分の物件で退去が発生した時、管理会社が入居者募集時に使用するマイソク(募集図面)も出来れば確認しておきたいです。業務多忙な管理会社だと、オーナーが打ち出したい物件のスペックを必ずしも認識しておらず、図面から物件の魅力が十分に伝わらないケースも多くあるためです。

例えば、同じ物件内でも大通りに面しているかどうかで、騒音の程度がかなり違うことがあり、このような場合は賃料にも反映され得ると思います。入居者募集時のマイソクを確認することで、物件の魅力が十分に伝わっているかどうか、オーナー側でもチェックしておくと良いでしょう。」

まとめ

不動産価格や建築費・人件費の高騰の影響を受け、家賃の上昇傾向が続いています。アットホームが集計しているマンション賃料インデックスに基づくと、2023年の一年間では東京が+3.2%、大阪が+2.6%、家賃が上昇しており、賃料の値上げ交渉も活発に行われているような状況です。

一方で、家賃の値上げは入居者にとって負担増の要因となるため、慎重に交渉を進める必要があります。今回のインタビューでは、「日頃から入居者の方との信頼関係の構築・維持」「家賃を上げる事情や状況を丁寧に入居者に通知する」など、入居者の方に理解してもらうことが重要であるとお話いただきました。

不動産投資において、適切な賃料設定を行うことは収益性と入居率のバランスを取るために重要なポイントとなります。すでに不動産を所有している方は賃料の見直しを行ったり、管理会社に問い合わせてみるのも良いでしょう。また、これから不動産投資を始める方は、家賃が上昇している市況感であることを踏まえ、物件選び・管理会社選びを進めていきましょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。