不動産投資の収益性を考えるときには利回り、ROI、CCR、キャッシュフローとさまざまな単語が出てきます。不動産投資に慣れていないと、結局どれを参照して収益性を考えていけばよいのかわからないという人も少なくありません。
今回はこれらの不動産投資の運用成績の指標となるデータの意味合いや計算方法について紹介します。この記事を参考に、各数値を基に正しく不動産投資の収益性を分析してみましょう。
目次
- 不動産投資の利回り
1-1.利回りは投資元本に対する収益率
1-2.不動産投資における3つの利回り
1-3.高い利回りの物件=魅力的とは限らないことに注意 - ROI(投資利益率)はより実態に近い収益率
2-1.ROIは投資額に対する利益率を算出する指標
2-2.不動産投資におけるROIとキャッシュフロー
2-3.ROIにおける注意点 - CCR(自己資本収益率)は不動産投資ならではの指標
3-1.CCRは自己資金に対する収益率
3-2.ローン比率を高くしてレバレッジを高めればCCRは向上
3-3.高すぎるレバレッジは将来の赤字リスクを高める - まとめ
1 不動産投資の利回り
利回りは他の投資手法でも用いられる収益率の指標です。不動産以外も含めた、さまざまな投資手法との比較にも活用できるため、しばしば参照されます。
1-1 利回りは投資元本に対する収益率
利回りとは投資元本に対する収益の比率を意味します。例えば、100万円で株式を購入して、1年のうちに5万円の配当を得た場合は、利回りは5%となります。なお、株式の配当で得た利回りは「配当利回り」と呼びます。(簡単化のため株価変動は無視しています)
不動産の場合は、物件価格に対する年間収入が利回りとなります。例えば、価格5,000万円で購入した物件が年間250万円の賃料をもたらす場合、利回りは5%となります。すなわち、利回りが高ければ高いほど、物件価格に対して得られる賃料収入が大きいことを意味するのです。
1-2 不動産投資における3つの利回り
不動産投資において利回りというと、さらに3種類に分けられます。
- 想定利回り
- 表面利回り
- 実質利回り
まず想定利回りとは、1年間にアパート・マンション全体が満室だった時に得られる賃料総額を基に計算される利回りです。3つの利回りの中で最も高い水準となります。計算式は以下の通りです。
想定利回り=(満室時の年間賃料収入)÷(物件価格)
また、表面利回りは、空室状況をふまえて計算される利回りです。この時には空室状況を何で把握するかも注意が必要です。例えば、直近1年間の空室率などを基に算出するのが一つの手法となるでしょう。
表面利回り=(満室時の年間賃料収入)×(1-年間の空室率)÷(物件価格)
*空室状況として空室率を使用したものと仮定(以下も同様)
次に、実質利回りは賃料から不動産管理にかかる経費を差し引いた残りを収入とみなして計算する手法です。具体的には管理費、修繕費、固定資産税・都市計画税など、毎月もしくは毎年発生する費用を差し引いて計算します。
実質利回り={(満室時の年間賃料収入)×(1-年間の空室率)-諸経費}÷(物件価格)
上の式の通り空室を考慮した賃料水準で計算する方がより適切ですが、ネット上で広告される物件情報の時点では満室想定の収入を前提として計算されるケースもあります。どちらを前提とした賃料収入なのか、注意を払う必要があります。
次の例を基に3つの利回りを算出してみましょう。
- 物件価格:2億円
- 住戸数:16室
- 直近の年間空室率:10%
- 満室時年間収入:1,400万円
- 諸経費:月20万円
利回りの水準と計算式
利回り | 計算式 | 結果 |
---|---|---|
想定利回り | 1,400万円÷2億円 | 7% |
表面利回り | 1,400万円×(1-10%)÷2億円 | 6.3% |
実質利回り | {1,400万円×(1-10%)-240万円}÷2億円 | 5.1% |
この例では最も高い想定利回りは7%、最も低い実質利回りは5.1%となり、両者には大きな差が生じます。実際の格差は諸費用、空室率の状況により変わりますが、このように利回りのタイプによって水準に差が生じることは珍しくありません。
また、不動産検索サイトなどで物件を検討するときには「利回り」が参考情報として載っていますが、物件の比較をする際はそれぞれどの利回りを意味しているのか間違えないよう注意が必要です。
1-3 高い利回りの物件=魅力的とは限らないことに注意
利回りという数字だけ見れば、高いほど物件価格の割に多くの賃料収入が得られることを意味するため、一見魅力的に見えますが、実際にはそうとは限りません。
利回りが高いということは期待できる賃料収入に対して、割安な価格で売買されている物件ということになります。つまり、価格の安い物件は何らかの要因があって物件価格を低くしないと売却が困難である「リスクが高い」物件の傾向があります。
例えば、駅から離れている、地域として発展が見込みづらい、極端な築古物件であるなどの要因によって、入居者を確保するのが難しかったり、今後大きな修繕が必要になる可能性が高かったりするケースがあります。これらのネガティブ要素が織り込まれて価格が下がり、利回りが上昇している可能性があるのです。
不動産投資に慣れている人であれば、あえてリスクの高い物件への投資にチャレンジして、高収益を狙うというのも一つの方法ですが、高利回りの物件=魅力的と考えて安易に手を出すことのないよう注意しましょう。
2 ROI(投資利益率)はより実態に近い収益率
不動産投資における利回りは広く利用される収益性の指標ですが、利回り計算だけでは支出を事前に織り込むことが難しく、実際の収益率よりも高めに見積もってしまうことがあります。不動産投資における支出には下記のようなものがあります。
- 年間ローン支払い額
- 大規模修繕のような数年に一度発生する大きな支出
不動産投資においてはこれらの支出が大きいため、投資の成否をみるうえではしっかり考慮しておかなければいけません。こうした要素を加味して収益性を図る時にはROIを使用するのが有効です。
2-1 ROIは投資額に対する利益率を算出する指標
ROIは日本語で「投資利益率」と呼び、投資額に対して発生した利益の比率を意味します。利回りが投資の世界でしばしば用いられるのに対して、ROIは事業投資や経営の世界で用いられるケースが多い指標です。
不動産投資に限らず一般化した算出式は次のようになります。
ROI=(利益)÷(投資金額)
この指標の分子は「利益」なので、収入から支出を差し引いた手残りの金額を使用します。続いては不動産投資におけるROIの考え方を紹介します。
2-2 不動産投資におけるROIとキャッシュフロー
不動産投資においては、ROIの分母と分子はそれぞれ次の数値を使用します。
- 分子:キャッシュフロー
- 分母:物件価格
キャッシュフローとは実際に手に入る家賃から、諸経費、ローン支払い額や修繕積立金を差し引いた手残りの金額を意味し、実際に手元に入る現預金に最も近い金額です。計算式は下記になります。
キャッシュフロー=満室時年間収入×(1-空室率)-(諸経費+修繕積立金)×12か月-ローン支払い額
先ほどの例に、ローン支払い額と修繕積立金を追加したケースで考えてみましょう。
- 物件価格:2億円
- 住戸数:16室
- 直近の年間空室率:10%
- 満室時年間収入:1,400万円
- 諸経費:月20万円
- 修繕積立金:月16万円
- ローン支払い額:年間600万円
この時年間のキャッシュフローは以下の通りです。
1,400万円×(1-10%)-(20万円+16万円)×12か月-600万円
=228万円
すなわち、ROIは228万円÷2億円で1.14%になります。ローンや修繕積立金を考慮することで利回りより低い数値となりましたが、利回りと比較して実際に手に入る収益を反映した指標となっています。
2-3 ROIにおける注意点
ROIでは、概ね不動産投資の収益性評価で考慮すべき要素を網羅していますが、利用するときには次のような注意点を抑えておきましょう。
- 契約内容によっては修繕積立金がない場合もある
- 将来変動する数値もある
先ほどの例では、将来の修繕に向けて積立金が発生していることを前提としていました。区分マンションなどを中心に、管理会社が予め修繕積立金をプールしてくれる契約になっていることは少なくありません。
一方で、アパート・マンション一棟投資の場合は、修繕積立金がない契約もあります。この場合は自分で将来の大規模修繕に向けた資金を積み立てておかなければなりません。ROIを算出する際には、自分で積み立てている修繕費用を差し引いて計算したほうが、より現実的な収益性が評価できるでしょう。
また、ROIが将来変化する可能性がある点には注意が必要です。空室率が上がったり、賃料が下がったりすれば、キャッシュフローが悪化し、ROIは下がります。逆に繰り上げ返済によりローン支払いが減ったり、修繕が想定より低コストで済んだりすれば支出が減ってROIが改善するケースもゼロではありません。
3 CCR(自己資本収益率)は不動産投資ならではの投資効率の指標
CCRは「自己資金」に対する収益率を計算するもので、ローンによる借り入れを利用する不動産投資特有の指標です。CCRの計算方法とCCRを見る理由を抑えておきましょう。
3-1 CCRは自己資金に対する収益率
CCRは日本語で言うと自己資本収益率といいます。この指標に限っては物件価格ではなく「自己資金」を基準に収益率を計算するのがポイントです。また、不動産投資でCCRを使用する際には収益額としてはキャッシュフローを使用します。
CCRの計算式は次の通りです。
CCR=キャッシュフロー÷自己資金
例えば、物件価格2億円のマンションを5,000万円の自己資金で購入し、残りをローンで借り入れたとします。キャッシュフローを先ほどの例同様に年間228万円だったとすると、CCRは228万円÷5,000万円=4.6%となります。
3-2 ローン比率を高くしてレバレッジを高めればCCRは向上
自己資金を減らしてローンを多く借り入れれば、黒字を維持できる限りにおいてはCCRは向上します。例えば、1億円で諸費用や修繕積立金を控除した後の年間収入が600万円の物件に対する、自己資金額ごとのCCRは次の通りです。
自己資金額と借入額、CCRの関係性
自己資金額 | 借入額 | 収入 | ローン支払い | CCR |
---|---|---|---|---|
10,000万円 | 0円 | 600万円 | 0円 | 6.0% |
9,000万円 | 1,000万円 | 600万円 | 50.6万円 | 6.1% |
8,000万円 | 2,000万円 | 600万円 | 101.2万円 | 6.2% |
5,000万円 | 5,000万円 | 600万円 | 252.9万円 | 6.9% |
*自己資金と物件価格の差額は全てローンで調達。元利均等払い、3%固定金利、ボーナス追加なしの30年で借りたものとする。また、登記費用など購入にかかる諸費用は考慮せず、すべて年額。
3-3 高すぎるレバレッジは将来の赤字リスクを高める
賃料収入と物件価格など他の条件が同じであれば、自己資金を抑えてレバレッジを高めると、黒字化を維持できる限りにおいてはCCRが上昇していきます。CCRが高いということは自己資金に対する投資効率が高いことを意味するので、将来の賃料変動や空室リスクを加味しない場合は高ければ高いほどよいといえるでしょう。
しかしながら、レバレッジを高めると、家賃収入に対するローン支払いの割合が高くなっていきます。すると、少々の空室発生や賃料の下落が、家賃収入とローンの差額を減らし、慢性的な赤字になることもあります。
自己資金を抑えるのは投資効率を高める一手段ではあるものの、ハイリスクな運用方法になります。将来の空室や賃料下落の見通しを立てて、少々の環境悪化があっても黒字を維持できるようローン支払いを適切な規模に抑えることも大切です。
4 まとめ
不動産投資では賃料収入がそのまま全額手元に入ってくることはなく、諸経費やローン支払いなど、様々な支出が発生します。
利回りやROI、CCRといった不動産投資の収益性の指標は、それぞれ加味する支出の範囲や分母の数値が物件価格か自己資金かで異なります。それぞれの計算式を理解して、収益性や投資の効率性を適切に分析できるようにしておきましょう。
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伊藤 圭佑
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