個人投資家を中心に不動産クラウドファンディングでの不動産投資を検討する人は少なくありません。ファンド投資を活用することで、現物での不動産投資よりも少額の資金で投資にチャレンジできます。1口当たりの投資額が少なく済むため、分散投資がしやすいというのも特徴です。
不動産クラウドファンディングには主に3つの種類がありますが、そのうち最も実際の不動産投資に近いのが「任意組合型」となります。この記事では不動産投資クラウドファンディングの中の、任意組合型のリスクやメリットについて紹介します。
目次
- 不動産クラウドファンディングの3つのタイプ
1-1.不動産型ソーシャルレンディング
1-2.匿名組合型の共同出資
1-3.任意組合型の共同出資 - 任意組合型の不動産クラウドファンディングのリスク
2-1.無限責任によるリスク
2-2.投資期間が長いことによるリスク
2-3.投資金額が大きいことによるリスク
2-4.不動産投資に関する意思決定が制限される - 任意組合型の不動産クラウドファンディングのメリット
3-1.現物所有が難しい不動産に投資しやすい
3-2.現物投資よりは少額で投資でき、分散投資もしやすい
3-3.相続時には現物不動産と同じ評価基準
3-4.不動産管理が楽になる - まとめ
1 不動産クラウドファンディングの3つのタイプ
2023年時点、不動産クラウドファンディングには3つのタイプが存在します。
- 不動産型ソーシャルレンディング
- 匿名組合型の共同出資
- 任意組合型の共同出資
まずそれぞれの仕組みについて簡単におさえておきましょう。
なお、こちらの記事でもクラウドファンディングをはじめとした不動産小口化商品の違いについて紹介しているので、合わせて参考にしてください。
1-1 不動産型ソーシャルレンディング
ソーシャルレンディングとは、企業に対する融資を小口化した商品です。その中には不動産投資をおこなう企業に融資するファンドがあり「不動産クラウドファンディング」の一種としてしばしば扱われます。
ソーシャルレンディングの特徴
項目 | 特徴 |
---|---|
最低出資額 | 1万円程度〜 |
投資期間 | 数か月~数年程度 |
収益の源泉 | 事業者が支払う利息 |
リスク | 事業者の貸倒れ |
最大損失額 | 投資元本の全損 |
売却損益 | なし |
不動産の登記 | 貸付先の不動産事業者 |
所得区分 | 雑所得 |
不動産型ソーシャルレンディングでは、ソーシャルレンディング業者が特定の不動産事業に融資を行うためにファンドを組成して投資家から資金を集めます。集めた資金は不動産事業に貸し付けられます。(※厳密には不動産事業をおこなう企業に貸し付けられるが、資金使途はファンドと紐づく不動産の事業に限定される)
同スキームは融資の小口化であり、融資を通じて貸付先企業から定期的に利息を受け取れます。その利息収入は、ソーシャルレンディング業者の報酬や手数料を差し引いたうえでファンドの投資家に還元され、これが主要な投資収益となります。
融資の満期が到来すれば資金は投資家に返済されます。そのため、貸付先が倒産などによって元利金の返済ができなくならない限りは、投資元本がそのまま満期時に償還されます。
ファンド利回りは貸付先が支払う利息から計算されているため、貸倒れが生じない限りは、当初想定していた利回りが得られる可能性が相対的に高いといえます。なお、融資の場合は最大損失額は投資元本全額で、それ以上の損失は発生しません。
ソーシャルレンディングはあくまで不動産運営をおこなうのは貸付先の企業となるため、登記も貸付先の企業がおこないます。そのため、不動産の所有権なども発生しません。また、得られる収益は雑所得に区分され、通常の不動産投資の所得区分である不動産所得とは異なるので注意しましょう。
1-2 匿名組合型の共同出資
残りの二つは不動産事業へ「出資」する仕組みのクラウドファンディングです。不動産特定共同事業法という法制度の下、不動産に直接出資する仕組みの一つとなります。そのうち匿名組合型は不動産の所有権がファンド投資家に発生しない分、有限責任の仕組みが取られるスキームです。
匿名組合型の共同出資の特徴
項目 | 特徴 |
---|---|
最低出資額 | 1万円程度〜 |
投資期間 | 数か月~数年程度 |
収益の源泉 | 賃料収入+不動産の売却益 |
リスク | 空室による賃料減少 不動産の売却損など |
最大損失額 | 投資元本の全損 |
売却損益 | あり |
不動産の登記 | 不動産事業者 |
所得区分 | 雑所得 |
匿名組合型で投資した資金は、不動産事業の純資産を形成します。そのため、不動産事業に伴う損益の影響を出資比率に応じて受けることになります。投資金額は1万円程度~少額で投資可能な商品も見られますが、中には10万円~など、よりまとまった金額を最低金額とするファンドも存在します。
賃料収入が順調に得られ、ファンド償還時の不動産売却も好調であれば収益が拡大し、その逆の時には収益減少や損失発生のリスクがあります。投資開始時点で表示されるファンドの利回りは「目安」でしかなく、不動産事業の成績によって変化します。
ただし、匿名組合型では「有限責任」の仕組みとなっているため、出資額以上の損失を負うことはありません。また、「優先劣後構造」によってファンド投資家の損失リスクが軽減されているスキームが多く見られます。優先劣後構造とは、不動産所有者となる事業者が劣後出資を行い、優先的に損失を受ける仕組みを指します。
不動産の所有権が発生しないため、あくまで所得区分は雑所得となります。現物の不動産投資では可能な「損益通算」や「相続税の圧縮効果」などは期待できないという点に注意が必要です。
1-3 任意組合型の共同出資
不動産物件の小口化のもう一つの形態として任意組合型が存在します。こちらも匿名出資型と同じく、資本の部分を小口化して不動産を共同所有するものです。
不動産事業者が任意組合の理事長などとなって不動産事業を主導する仕組みはありますが、優先劣後構造はなく、ファンドの投資比率に応じて不動産の所有権が発生します。
任意組合型の共同出資の特徴
項目 | 特徴 |
---|---|
最低出資額 | 100万円程度〜 |
投資期間 | 数年程度~10年程度 |
収益の源泉 | 賃料収入+不動産の売却益 |
リスク | 空室による賃料減少 不動産の売却損など |
最大損失額 | 上限なし |
売却損益 | あり |
不動産の登記 | 業務執行組合員たる理事長名義 |
所得区分 | 不動産所得 |
任意組合型の最低投資額は、100万円~1,000万円など、他のスキームより大きめに設定されているケースが多く見られます。これは、ファンドを極端に小口化すると、任意組合の組合員が多くなりすぎて管理が煩雑化することなどが背景にあると考えられます。
任意組合型でも投資先の不動産の賃料収入と売却益が出資比率に応じて投資収益として獲得できます。優先劣後構造はなくまた無限責任であるため、出資額以上の損失が発生するリスクに注意が必要です。無限責任であるため投資元本が全損するにとどまらず、追加の費用負担が発生する可能性もあります。
任意組合型ではファンド投資家+事業者で形成される組合の理事長名義で登記され、ファンドの投資家それぞれが不動産の所有者となります。
不動産の相続税評価額が適応されるため、相続税の圧縮効果も期待できます。最も現物の不動産投資に近いスキームといえるでしょう。
2 任意組合型の不動産クラウドファンディングのリスク
任意組合型には次のようなリスクが存在します。不動産クラウドファンディングのなかでは相対的にリスク・期待リターンとも高めのスキームといえるでしょう。
任意組合型のリスク
- 無限責任によるリスク
- 投資期間が長いことによるリスク
- 投資金額が大きいことによるリスク
- 不動産投資に関する意思決定が制限される
それぞれのリスクについて、詳しく紹介します。
2-1 無限責任によるリスク
ファンドの投資先の不動産経営において損失が発生した場合には、出資者の誰かが負担しなければなりません。無限責任である匿名組合型では投資先の損失をファンド出資比率に応じてそのまま受けることになります。
優先劣後構造のある匿名組合の場合は、そもそも劣後出資を行なっている事業者が優先的に損失を負担します。その上、有限責任であれば出資額以上の損失を受けることはありません。
一方、任意組合型の場合は大幅な空室の発生や災害などに伴い物件が全壊した場合などには、無限責任であることにより大幅な損失を被るリスクがあります。
損失額が出資額を上回る場合には後々になって追加出資を求められる可能性もあります。損失リスクに対して充分に備えるとともに、リスクの少ないファンドスキームを厳選して投資することが大切です。
2-2 投資期間が長いことによるリスク
任意組合のファンドは、他のクラウドファンディングと比べて投資期間が長い傾向にあります。中には10年以上の投資期間に及ぶファンドも見られます。
投資型クラウドファンディングは、途中のファンド売却を通じた換金が難しいスキームとなっている場合が多くなっています。そのため、一度出資してしまうと、たとえ期間中に現金が必要になったとしても、ファンドを換金して使用するのが困難となる場合もあるでしょう。
投資開始時点では資金に余裕があっても、投資期間の間に家計や収入の状況が変わって現金が必要となる可能性もあります。従って、長期間換金しにくいのは投資においてリスクとなります。状況の変化があっても現金が不足しないよう、余裕を持って投資を行うことが大切です。
2-3 投資金額が大きいことによるリスク
任意組合型のスキームは1口当たりの投資金額が大きいファンドが多いです。中には1口1,000万円など、個人投資家としては高額な出資を求められる案件も見られます。
規模の大きい投資を行うということは、それだけ損益の実額も大きくなる可能性があります。例えば1万円の出資であれば、10%の損失が発生しても損失額は1,000円ですみますが、1,000万円で損失率が10%では100万円の損失額となります。
投資元本が大きいと、損失率では小さくても、損失額でみると大きくなる場合もあります。任意組合型は1万円程度の小口投資を行うスキームが少ないため、金額ベースで見ると大きな損失リスクがあることを理解しておきましょう。
2-4 不動産投資に関する意思決定が制限される
最後は現物の不動産投資と比べた時のリスクです。他のファンドスキームと比べると責任の大きい任意組合型ですが、不動産投資における意思決定はしにくいのが実情です。
出資者全員で不動産の投資組合を形成しているので、スキームとしては組合員同士で合議や決議の上管理を進めていく仕組みなのですが、多数いる組合員それぞれの意思を聞いて不動産管理を行なっていくのは現実的ではありません。
そのため、実情としては組合の理事長を務める不動産事業者が、管理や不動産経営に伴う意思決定を主導する、という形式になります。
任意組合型の多くの商品は、所有権を有していても自分の思い通りに不動産経営を進めていくことはできません。意に反した不動産経営が、意図しない形で不動産の収益逸失や損失発生につながるリスクもあります。
3 任意組合型の不動産クラウドファンディングのメリット
任意組合型を選ぶがゆえのメリットも存在します。メリットとリスクをともに理解した上で、投資を検討してください。
任意組合型のメリット
- 現物所有が難しい不動産に投資する機会が豊富
- 現物投資よりは少額で投資でき、分散投資もしやすい
- 現物不動産同様の節税効果がえらえる
- 不動産管理が楽になる
それぞれのメリットについても見ていきましょう。
3-1 現物所有が難しい不動産に投資しやすい
任意組合型スキームを活用すると、個人では現物所有が難しいオフィスビル、ホテルといった物件への投資がしやすくなります。
匿名組合型でも近いメリットはあるものの、事業者が劣後出資で高いリスクを負う必要がない分、任意組合型の方が、ややリスクの高い物件も含めてさまざまな物件でファンド組成をしやすいと考えられます。
リスクが高いことに対する裏返しではありますが、任意組合型を選択肢に入れた方が、より幅広いタイプの不動産への投資機会が得られます。
3-2 現物投資よりは少額で投資でき、分散投資もしやすい
ファンド投資としては相対的に高額ですが、それでも100万円程度で投資が可能であるため、現物投資と比較すると少額の投資で、かつきちんと賃料収入の獲得が期待できます。
現物投資では100万円程度の出資額では投資物件やスキームが限定され、区分マンション投資などで月々の収支がマイナスとなるスキームも散見されます。出資額を抑えて、かつ賃料収入をしっかりと獲得していきたいなら、任意組合型の方が適しています。
また、出資においては、投資家自身がローンなどの借り入れを行うわけではありません。そのため、投資金額が残っていれば好きなだけ複数のファンドに分散投資することも可能です。
通常の不動産投資では、借入が膨らむと、自己資金を一定額用意できても、ローン借入ができずに複数物件の所有が難しくなるケースも少なくありません。任意組合型の不動産投資の方が分散投資もしやすいといえるでしょう。
3-3 相続時には現物不動産と同じ評価基準
任意組合型ファンドの相続時には現金で相続するよりも評価上の価値が下がり、相続税の圧縮につながる可能性もあります。不動産の相続時の資産価値は「路線価」や「固定資産税評価額」をもとに計算されますが、これらが不動産時価よりも低い傾向にあるため、税評価額を引き下げられるのです。
ただし、税法は毎年ごとに法改正が行われており、投資時点で適法だったものが新たに課税対象となる可能性があるという点に注意が必要です。
不動産小口化商品の中には現時点での税控除に焦点を当てたものも多く見られます。しかし、税務調査によって事業性が低いと判断されてしまう可能性があったり、投資実行のタイミングと相続が発生する時点で税法の解釈が異なる可能性もあります。
税制面でのメリットがあるという点は不動産小口化商品の特徴の一つですが、上記のリスクがあることに注意し、税負担の軽減のみを主な目的として投資を検討してしまわないよう慎重に検討することが大切です。
3-4 不動産管理が楽になる
任意組合型では実際の不動産管理は、ほぼ事業者に一任することになります。これは、不動産経営における物件管理を煩わしいと感じる方や、不動産管理に知見がない方などにとってはむしろメリットともなります。
任意組合型のファンド事業者の多くは、不動産投資に精通したプロフェッショナルであるため、高いノウハウを有していると期待できます。不動産投資の初心者でも比較的容易に不動産投資にチャレンジできるでしょう。
4 まとめ
不動産クラウドファンディングのうち、任意組合型は無限責任で損失が大きくなるリスクもあるため、相対的にリスクの高い投資手法といえます。一方で、オフィスやホテルなど個人では現物所有が難しい投資先に対しても、実際の不動産経営に近い形で投資ができるのはメリットといえます。
小口の投資元本でチャレンジができ、かつ借入を行わないため分散投資がしやすいのも特徴です。投資元本を抑えつつ、不動産投資に近い形でのファンド投資にチャレンジしたい方は任意組合型のファンド投資を検討してみてください。
伊藤 圭佑
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