不動産投資が一定の規模になって来て、法人化を検討している、という投資家の方もいらっしゃるでしょう。
不動産投資を法人化しておこなうには、メリット・デメリットの両面があるので、慎重に検討したいといえます。法人の形態にも、株式会社と合同会社の選択肢が検討対象となります。
本記事では、不動産投資を法人化するメリット・デメリット、株式会社と合同会社の比較について解説していきます。
※本記事は2022年12月時点の情報をもとに執筆しています。最新情報はご自身でもご確認の上、ご判断下さい。
目次
- 不動産投資で建物部分を法人名義にするメリット
1-1.税率差メリットを受けやすくなる
1-2.所得分散による税額の軽減を受けやすくなる
1-3.経費計上による税額軽減メリットを受けやすくなる
1-4.個人に相続財産が累積するのを防ぐことができる - 不動産投資で法人化するデメリット
2-1.オーナー個人の可処分所得が減少する
2-2.法人運営に手間やコストがかかる
2-3.不動産売却時の税額が高くなることがある
2-4.個人向けの不動産相続の特例が利用できない - 株式会社と合同会社の比較
3-1.所有と経営との関係
3-2.設立費用・ランニング費用
3-3.利益配分と定款自治 - まとめ
1.不動産投資で建物部分を法人名義にするメリット
法人名義で不動産投資をおこなう形態は、不動産を法人で所有する所有型、管理のみを法人でおこなう管理型、一括転貸をおこなうサブリース型などのパターンがあります。
不動産を法人で所有する所有型では、その所有する不動産から生じる賃貸料などの収入は、原則としてすべて法人に帰属することになります。
一方、管理型の法人では、オーナーが支払う管理料が法人の所得となり、サブリース型の法人では、借り上げ料と賃貸料収入との差額が法人の所得となります。このように、不動産を法人で所有する所有型では、管理型やサブリース型の法人に比べ、法人の所得が多くなるといえます。
不動産投資で法人化するパターンを踏まえた上で、まずは、不動産投資で法人化するメリットについてみていきましょう。
1-1.税率差メリットを受けやすくなる
不動産投資で法人化することのメリットの一つに、個人と法人の税率差があります。
所得税は所得が上がるにつれて税率も上がる仕組みになっており、最大45%(住民税10%)まで税率が上がってしまいます。一方、法人税の実効税率29.74%(法人住民税を含む)です。
所得規模が大きくなるほど、個人よりも法人の税率が低くなり、税率差メリットを受けやすくなります。不動産投資を法人化することによって賃貸料収入などが法人の所得になり、個人と法人の税率差メリットを受けやすい、ということが言えるでしょう。
1-2.所得分散による税額の軽減を受けやすくなる
法人を設立すると、法人から役員に適正な役員報酬を支払うことによって、賃貸料などの収入の所得分散を図ることが可能です。役員報酬は、給与所得控除の適用を受けることができます。給与所得控除は、給与所得に対する概算経費であり、賃貸料などの収入において実質的な非課税枠を確保することができます。
不動産投資を法人化することによって賃貸料収入などが法人の所得になり、役員報酬を支払うことで所得分散を図ることができ、税額軽減効果を受けやすくなるといえます。
1-3.経費計上による税額軽減メリットを受けやすくなる
法人の場合は、事業に必要な支出であれば、損金計上が認められることが多いですが、個人では、家事費及び家事関連費を必要経費から除外することとなっていることから、個人よりも、法人では経費として認められる範囲が広いといえます。
また、法人の場合、減価償却費を限度額の枠内で任意に計上額を調整することが可能であり、経費計上による税額軽減効果を発揮しやすい制度になっています。不動産投資を法人化することによって賃貸料収入などが法人の所得になり、経費計上による税額軽減メリットをより受けやすくなるといえるでしょう。
1-4.個人に相続財産が累積するのを防ぐことができる
不動産投資を法人化することによって賃貸料収入などが法人の所得になり、不動産投資の収入は、基本的に法人に累積していきます。不動産投資の収入による金融資産がオーナー個人に蓄積しにくくなり、相続財産が増加するのを防ぐことができます。
2.不動産投資で法人化するデメリット
不動産投資で法人化するデメリットには、次のようなものがあります。
- オーナー個人の可処分所得が減少する
- 法人運営に手間やコストがかかる
- 不動産売却時の税額が高くなることがある
- 相続税対策で不利になることがある
以下で、それぞれの内容を詳しくみていきましょう。
2-1.オーナー個人の可処分所得が減少する
前述したように、不動産投資を法人化することによって賃貸料収入などが法人の所得になり、不動産投資の収入は、基本的に法人に累積します。そのため、賃貸料収入などの収入がオーナー個人に帰属しにくくなります。
たとえば、所有型の法人の場合、オーナーの所得は、法人からの役員報酬や利益配当のみとなり、オーナー個人の可処分所得は減ることになります。
2-2.法人運営に手間やコストがかかる
法人を設立すると、いったん法人に入った賃貸料収入などの収入を、各関係者に分散させる計算や手続きが日常的に必要になります。たとえば、法人の役員に対して、毎月役員報酬の計算をおこない、実際に定期的に支払う必要があります。報酬にかかる源泉所得税や社会保険料の計算・納付も必要となります。
さらに、法人の会計帳簿を作成し、決算・確定申告をおこなう作業も必要になります。これらの作業をオーナー自身がおこなうことが難しい場合、税理士などの専門家に依頼するコストもかかることになります。このように、法人化すると運営の手間やコストがかかるといえるでしょう。
2-3.不動産売却時の税額が高くなることがある
不動産投資を法人化した場合、投資用不動産も法人名義となることが多く、売却した場合、売却益に対して、実効税率29.74%(法人住民税を含む)の法人税が課されることになります。
しかし、個人で不動産を長期(5年超)所有していて売却した場合、売却益にかかる譲渡所得税の税率は、20.315%(住民税、復興所得税を含む)となり、法人税との逆転現象が起きます。
所得税の場合、不動産所得など総合課税の税率は、法人税よりも高くなることが多く、通常は法人の方が個人よりも税額は低くなることが多いといえますが、売却時の税額については、法人の方が高くなるので注意したいといえます。
2-4.個人向けの不動産相続の特例が利用できない
不動産投資を法人化した場合、投資用不動産も法人名義となることが多く、相続税の財産評価における不動産の評価減の特例が適用できなくなってしまいます。相続時のオーナーが所有する法人株式の財産評価は、取引相場のない株式として、法人財務諸表の純資産価額方式によっておこなわれるためです。
また、純資産価額方式では、築3年以内の建物評価額は、新築時の価額が原則とされており、短期間の相続では相続税の財産評価においてデメリットとなります。
3.株式会社と合同会社の比較
不動産投資で法人化する場合、会社の形態を株式会社にするのと合同会社にするのとではどのような違いがあるのでしょうか。以下の3点に絞ってみていきましょう。
- 所有と経営との関係
- 設立費用・ランニング費用
- 利益配分と定款自治
3-1.所有と経営との関係
株式会社では、経営と所有の分離がおこなわれています。会社の所有者は出資者である株主であるが、会社の実質的な経営は、株主総会で選出される取締役がおこないます。
これに対して、合名会社では経営と所有が一体化しており、会社の所有者である出資者が経営に携わることが多いと言えるでしょう。
3-2.設立費用・ランニング費用
費用面について、株式会社と合同会社では、合同会社の方が費用がかからないといえます。
株式会社の設立には、定款の認証費用および登録免許税が必須であり、20万円以上の費用がかかります。これに対して、合同会社の設立には、定款の認証は不要であり、必ず支払うことになる登録免許税は6万円となっています。
ランニング費用についても、合同会社は、株式会社では必要となる決算公告が不要である分、費用を抑えることができます。
3-3.利益配分と定款自治
利益配分についても、株式会社と合同会社では取扱いが異なります。株式会社では、原則として株主が保有する株式数に応じて利益が配当されます。これに対し、合同会社では、定款で定めることで、出資比率と異なる割合で利益配分することが可能です。
合同会社は、利益配分に代表されるように、株式会社と比較すると、社内内部関係については定款で自由に規定する範囲が広いのが特徴といえます。
まとめ
不動産投資を法人化しておこなうと、賃貸料収入などが法人の所得になるため、個人の場合と比較して税率差メリットや所得分散・経費計上による税額軽減メリットがあるといえます。長期的には相続税対策にもなるでしょう。
しかし、その反面、個人の可処分所得が少なくなり、運営に手間やコストがかかるデメリットがあります。不動産売却時や相続の場合など、必ずしも税額が軽減されないケースもあります。
また、法人化の形態として、株式会社と合同会社を比較すると、所有と経営との関係、費用面、利益配分などの観点から違いがあります。法人化した場合のメリット・デメリットを理解した上で、法人の形態にも配慮し、それぞれの事情に適した選択を検討してみましょう。
佐藤 永一郎
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