フィリピンは東南アジアの新興国の中でも人口増加が著しく、不動産投資によるキャピタルゲイン(売却益)が見込める投資対象国のひとつです。しかし、一方では、「住宅供給数の増加に伴って将来的に価格が下落するのではないか」という懸念があります。
データを検証すると、人口推移と住宅供給数の推移とを比較すると、人口増加数が住宅供給数をかなり上回っており、供給過多が原因でフィリピン不動産がすぐに値崩れする可能性は低いと考えられます。
ただし、地域ごとや価格帯ごとで需給バランスが大きく異なるので、キャピタルゲインを狙うならば、各エリアの状況をよく確認することが重要です。
この記事では、フィリピン全体と首都圏とにおける、人口推移と住宅の需給バランスについて解説します。
目次
- フィリピン全体の人口推移と住宅需給バランス
1-1.フィリピン全体の人口推移
1-2.フィリピン全体の住宅供給数推移
1-3.フィリピン全体の住宅需給バランス - フィリピン首都圏の人口推移と住宅需給バランス
2-1.フィリピン首都圏の人口増加数
2-2.フィリピン首都圏の住宅供給数推移
2-3.フィリピン首都圏の住宅需給バランス - 今後の見通し
- まとめ
1.フィリピン全体の人口推移と住宅需給バランス
まず、フィリピン全体の人口推移および住宅の需給バランスについて解説します。
フィリピンでは、人口増加率は鈍化しながらも、まだ長期間にわたって人口増加が続く見通しです。一方、人口増加と住宅供給のバランスを見ると、供給不足の実態が浮かび上がりますが、需給バランスは住宅価格によって異なります。
1-1.フィリピン全体の人口推移
フィリピン全体では、2001年から2015年までの人口推移が以下グラフのようになっています。
※世界銀行「Population, total – Philippines」を参照し筆者作成
右肩上がりで順調に人口増加を続けている状態です。フィリピン全体では2001年に約8,137万人だった人口が、2014年から1億人を超えており、2015年には約1億211万人に達しています。
また、フィリピン政府は2000年から2040年の間に6500万人以上の人口が増え、2040年には人口が1億4170万人に達すると予測しています。(※フィリピン政府「Philippine Population Would Reach Over 140 Million by the Year 2040」を参照)
つづいて、フィリピン全体の人口増加数および人口増加率については、以下グラフのように推移しています。
※世界銀行「Population, total – Philippines」を参照し筆者作成
2000年代前半には2%を超えていた人口増加率は、2005年以降1%台に下がっています。しかし、人口増加数自体は2008年を除き毎年150万人以上を保っている状態です。
なお、2019年の人口増加率は1.37%で、2015年の1.59%と比較すると下がっています。人口増加率は長期的に少しずつ鈍化していますが、今後も数年は1%台で推移していく可能性が高いことが分かります。
1-2.フィリピン全体の住宅供給数推移
つづいてフィリピン全体の住宅供給数推移について解説します。2001年から2015年までの価格帯別住宅供給総数は以下のグラフのようになっています。
※参照:フィリピン政府「Board of Investments」「Securing The Future of Philippine Industries」
フィリピン全体における2001年から2015年の住宅供給総数は274万8,426戸でした。供給数が最も多いのはPHP40万1〜PHP125万(88万円〜275万円)の価格帯で、フィリピン全体の住宅供給のうち、約3割を占めています。
また、〜PHP40万(〜88万円)とPHP40万1〜PHP125万(88万円〜275万円)の価格帯合計で供給数の約半数を占めており、フィリピンの住宅供給は低所得者向けのものが多いことが分かります。(PHP1=2.2円で換算)
なお、2001年〜2015年の年平均住宅供給数は183,228戸である一方、同期間の平均人口増加数は160万8,097人です。新規住宅供給数は人口増加数の約11%にとどまっており、フィリピンの住宅供給は人口増加に追いついていないと言えます。
1-3.フィリピン全体の住宅需給バランス
つづいて、住宅供給数と住宅需要について比較してみましょう。以下の表は2001年〜2015年の住宅供給数と住宅需要の推計値とを比較したグラフです。
※参照:フィリピン政府「Board of Investments」「Securing The Future of Philippine Industries」
PHP300万までについては、需要が供給の約3倍〜5倍となっており、供給が不足している様子が伺えます。一方、PHP300万以上については需給バランスが逆転しており、特にPHP600万以上の住宅供給数は需要推計の約8.5倍となっています。
低価格帯の住宅と比較して高価格帯の住宅については供給過剰が起きており、フィリピン国内では買い手が限られていると言えるでしょう。
2.フィリピン首都圏の人口推移と住宅需給バランス
フィリピン首都圏に限定して人口推移と住宅の需給バランスを確認して見ると、首都圏でも人口は堅調に増加していますが、住宅供給が追いついていない状況です。また、首都圏でも高価格帯の住宅は供給のほうが多くなっています。
2-1.フィリピン首都圏の人口増加数
フィリピン首都圏の人口増加数および人口増加率については、以下グラフのように推移しています。
※参照:フィリピン政府「Population Projection Statistics」
フィリピン全体と比較すると増加率が落ちていますが、首都圏も未だ高い数値で人口増加の傾向があることが分かります。
これを見ると、2002年から2010年の人口増加率は1.3%〜1.6%です。フィリピン政府は、2015年の国勢調査結果に基づき、2010年〜2015年の人口増加率は年平均1.58%と推計しています。
2-2.フィリピン首都圏の住宅供給数推移
つづいてフィリピン首都圏の住宅供給数推移について解説します。2001年から2015年までの住宅供給数は以下の表のようになっています。
※参照:フィリピン政府「Board of Investments」「Securing The Future of Philippine Industries」
フィリピン首都圏では、フィリピン全体と異なり高価格帯の住宅供給割合が多くなっています。PHP300万1以上の住宅供給数は、フィリピン全体では約30%ですが、首都圏では約50%です。
また、首都圏の住宅供給状況とフィリピン全体との住宅供給状況とを比較すると、PHP125万〜の価格帯では40%以上の住宅が首都圏で供給されていることがわかります。反対に〜PHP125万の価格帯では、首都圏での供給割合はフィリピン全体の約9%に止まっています。
※参照:フィリピン政府「Board of Investments」「Securing The Future of Philippine Industries」
首都圏の人口増加数と住宅供給数とを比較すると、2001年〜2015年の年平均住宅供給数は48,003戸である一方、同期間の平均人口増加数は15万7,289人です。
首都圏でも新規住宅供給数が人口増加数の約30%にとどまっており、対人口比では住宅供給が追いついていないと言えるでしょう。
2-3.フィリピン首都圏の住宅需給バランス
つづいて、住宅供給数と住宅需要について比較してみます。以下の表はフィリピン首都圏における2001年〜2015年の住宅供給数と住宅需要の推計値とを比較したグラフです。
※参照:フィリピン政府「Board of Investments」
首都圏に絞ってみると、フィリピン全体と比較して、住宅の供給数が需要推計に近くなります。
しかし、それでも供給が需要に追いついていない状態です。また、低価格帯では需要のほうが多い一方、高価格帯において供給過剰状態である点はフィリピン全体と同じ傾向にあると言えるでしょう。
3.今後の見通し
フィリピン政府は2012年から2030年までの間に、年間平均で約346,000戸の住宅需要を予測しています。
一方で、2001年から2015年までの年間平均住宅供給数は183,228戸です。これまでの住宅供給数は予測住宅需要の約50%にとどまっています。
これらのデータから、フィリピンでは住宅供給数が増加しているものの、人口増加による賃貸需要が多く、人口と供給戸数のバランスを背景にした大きな値崩れは起こりにくいと考えられます。
まとめ
フィリピンでは、住宅供給数と人口増加数とを比較すると人口増加数のほうが多く、住宅供給が人口増加に追いついていない状態です。また、需要推計と供給数とを比較しても需要推計の方が多くなっています。
ただし、価格帯別に需要推計と供給数とを比較すると、低価格帯の住宅は供給が追いついていないものの、高価格帯の住宅については供給過剰の状態であると言えるでしょう。フィリピン政府も、低価格帯住宅の供給不足を課題と捉えています。
こうした状況から、低価格帯の住宅については、値崩れの心配が少ないと言えるでしょう。しかし、高価格帯の住宅へ投資するならば、立地や周辺の住宅需要などをあらかじめ入念に調査しておくことが必要です。
また、今後もフィリピン全体の人口増加は続く見通しですが、特に首都圏では人口増加数が年々下がっています。現状では首都圏でも住宅需要が供給を上回る一方で、フィリピン全体と比較すると、需給の差は大きくありません。
長期的な目線で見ると、首都圏ではフィリピン全体よりも早い段階で需給バランスが一致してくると考えられます。首都圏で投資するならば、需給バランスを注意深く確認する必要があるでしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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