いつ物件を売却するかは投資の成否を左右する重要な問題です。特に築年数が経った古い物件の場合は、消費者心理的に買い手がつきにくく、売却できるかどうかを心配する方もいるでしょう。しかし、首都圏では築30年以上の中古マンション取引は増加傾向にあるなど、今後も一定の需要が見込める状況です。
この記事では、築年の古い投資用物件の売却で注意したいポイントについてご紹介します。築古物件を所有している方は、出口戦略の参考にしてみてください。
目次
- 築古物件の特徴
1-1.何年から築古と言われる?
1-2.築古物件の需要は厳しい? - 築古売却の5つの注意点
2-1.売却するタイミング
2-2.更地で売却する目安
2-3.投資用物件売却にかかる税金
2-4.リフォームは最小限にとどめる
2-5.築古売却が得意な不動産会社に任せる - まとめ
1 築古物件の特徴
築古物件を売却するためには、築古物件の特徴や需要について正確に理解した上で売却戦略を考えることが大切です。
1-1 何年から築古と言われる?
「築古」に関する明確な定義は存在しませんが、マンションの場合、築20年程度で資産価値が下げ止まる傾向のため、一般的に築古と呼ばれるようになります。築20年経つと、資産価値として新築時の約30%程度にまで下がり、場合によっては管理負担も重くなってくることがあります。
また、建物は経年劣化するため、基本的に購入時と同じ価格では売れません。そのため、建物の種類ごとに法定耐用年数という「使用できる期間」が定められており、税務上の耐用年数はコンクリート造の建物で「47年」、木造住宅で「22年」となります。コンクリート造のマンションだとしても、30年を超えるとおおよそ築古と判断されます。
1-2 築古物件の需要は厳しい?
築古物件は需要が少なく、売却が難しいと言われることもありますが、首都圏を中心に中古物件を取得する割合は伸びています。レインズ(東日本不動産流通機構)によれば、2018年の中古マンションの取引成約件数では築31年以上が全体の25.0%と、10年前(13.6%)と比べて10ポイント以上増加しました。
築26〜30年の8.4%を加えれば、全体の3割以上を占めることになります。高価な新築物件の流通量が減少する中、安価な築古物件を求める動きが強まっていると見ることができます。
ただ、築古物件の売却は難しい一面もあります。たとえば、最新の耐震基準などに適していない物件や、断熱性や遮音性なども基準を満たさない物件などもあり、安全志向の強い購入層には売りづらくなります。
また、築古物件では住宅ローンの組みにくさも挙げられます。住宅ローンでは抵当権を設定し、貸し倒れを防ぐ仕組みになっていますが、資産価値の低い築古物件の場合は回収するのが難しいため、ローンそのものが利用できないケースもあります。
ただし、築古物件の多くは建物こそ古くなっているものの、立地が優れているなどの特徴を備えていることがあります。良い土地は先着順で取得されるため、先に手を付けている好立地の築古物件は、建物さえ見直せば新たな価値をつけて蘇らせることも可能です。建て直しやリフォームによって生まれ変わった築古物件は少なくありません。
このように築古売却で成功したケースでは、築古物件ならではの長所を活かした戦略的な方法が取られています。
2 築古売却の5つの注意点
築古物件の売却では、長所と短所を生かすことが大切です。売却のタイミングや税金などポイントを押さえて売却戦略を組み立てるようにします。
2-1 売却するタイミング
築古物件はできるだけ早期に売却したほうが良いと言われています。資産価値が減少することでキャピタルゲインも減り、また建物や設備の老朽化が進むことによって管理費や修繕費の負担が重くなります。
加えて、住宅や建物に関する法律や基準が厳しくなってくると、それだけ物件の価値が下がる可能性があるため、法改正などの動きによっては早めに売却に動いたほうが良いでしょう。中古需要が増えてきたとはいえ、欧米と比べて新築や築浅を好む日本のマーケットでは基本的に不利だという認識は持っておきましょう。
ただし、どのような場合でも早めの売却が良いとは限りません。30年を過ぎた築古物件は、資産価値が下がり切ったと考えることもできるため、売却による収益よりも投資での家賃収入が期待できる場合には所有を続けたほうが良い場合もあります。
数年の期間を設けて考えたときに、売却益と不動産投資の収入、どちらが良いのかをよく検討しましょう。特に立地に強みがある物件や、再開発が予定される地域では建物の需要が高まる可能性もありますので、売却価格と家賃の増額幅を鑑みて決めることが可能です。
また、建築技術の向上により、建物の品質が高まって平均寿命も伸びつつあるため、住宅の耐用年数や評価方法も見直しが行われる可能性があります。政府方針で住宅取得などを促すために税率や公的金利が変わる場合もあります。
こうした社会変化のタイミングには物件価値が大きく変わる可能性もあるため、不安な方は不動産会社や専門家に相談してみると良いでしょう。
2-2 更地で売却する目安
築古アパートの売却で買い手が付かない場合は、物件を取り壊し、更地にして売却することも検討します。しかし、更地で売却することが必ずしも良い結果になるとは限りません。
更地で売却をする場合は、売却価格が建物の取り壊しに要した費用を上回ることが理想です。建物の解体費用は木造住宅で3万円/坪、鉄骨住宅で4~5万円/坪、コンクリート造なら5~6万円/坪程度が相場で、マンションなどの集合住宅では費用がさらにかかることもあります。加えて、解体するだけでなく中の設備の回収や処分についても考える必要があります。
一方、更地にすると建物を建てる以外にも駐車場として使うこともできるなど土地利用の選択肢が増えるため、問い合わせが増えることもあります。また、すでに建物が建っていたということで地盤に大きな問題がないことも推定できるため、地盤改良工事に多額の費用がかかる可能性が低いのも買い手にとってはメリットです。
立地面で「駅から遠い」「近隣環境が良くない」といった悪条件の場合は、築古の既存建物付きで土地を売却するのが難しい場合もあるため、更地にしたほうが売却しやすくなる可能性があります。
ただし、築年数が20年未満であれば耐用年数も残っており、有利に売却できる可能性は残っています。築古であることが相当不利になる場合を除いては、更地にするのは一旦建物付きでの売却を検討してからでも良いでしょう。
ただ実際にはケース・バイ・ケースになるため、物件の状況や自身の経済状況などを考え、不動産会社などと相談しながら判断することが大切です。
2-3 投資用物件売却にかかる税金
投資用物件の売却ではさまざまな税金や費用を考慮する必要があります。
建物や土地の売却で譲渡所得(売却益)が出た時には、所得税や住民税がかかります。つまり「物件取得にかかった費用と、売却のためにかかった広告費などの諸費用」を合わせた金額よりも、売却によって得た収入が大きいような場合です。
税金計算時の取得費用は購入代金などから減価償却費相当額を差し引いて計算されるため、築古物件になるほど譲渡所得は発生しやすくなります。
また所得税の計算では、マンションを取得してから5年以内で売却するかどうかで税率が大きく変化します。5年以内の場合は短期譲渡所得として39.63%の税率が課され、5年超になる場合は長期譲渡所得として20.315%の税率が課されます。同じ物件でも売却タイミングによって税率が倍ほど違うため、注意が必要です。
さらに取得年数の計算をする場合、「売却をする年の1月1日」が基準となるため、実際には所有から5年経過しているとしても、1月1日時点で計算すると5年に満たない場合には、長期譲渡所得扱いを受けることができないことにも注意します。
土地や建物の売却で得られる譲渡所得は分離課税の対象となり、給与などその他の所得の状況とは関係なく個別に課税されます。そのため、他の事業やさまざまな税金の状況を考える必要は基本的にはありません。
譲渡所得がマイナスになる(譲渡損失が発生する)場合は、確定申告で損益通算や繰越控除を行うことで所得税や住民税の節税ができる場合があります。そのため、利益の有無に関係なく確定申告を行うことを意識しましょう。
また、マイホームの売却では3,000万円までの特別控除が認められる特例がありますが、そのためには3年以上その物件に住み続ける必要があるため、投資用物件の売却時の節税対策としては利用できません。
2-4 リフォームは最小限にとどめる
近年ではリフォームやリノベーションが注目されていますが、築古物件では必要最小限にとどめておいたほうが無難です。
築古物件の購入者は、建物そのものよりも立地にメリットを感じていることがあり、そのような人は同エリアの新築物件を購入するのが経済的に難しいため、安価な築古物件を選択すると考えられます。そのためリフォームによって物件の価値が高まり販売額が高くなると、築古にも関わらず手の出しにくい物件だと敬遠されることがあります。
そこでクリーニングや最低限の修繕を行うにとどめ、販売価格を低くして広告したほうが買い手の付きやすい物件になる可能性があります。特に立地面で有利な条件がある場合は、リフォームは買い手に任せ、購入しやすい状況を作ってあげるほうが効果的です。
また、現在は住宅の状態を確認するための住宅診断(ホームインスペクション)を行う例が増えてきています。設備や備品を綺麗に見せるだけでなく、住む上での安心感を与えるリフォームという観点も重要視されます。
売主には瑕疵担保責任があり、買主が建物に事前に説明されていない問題点を発見した場合には修繕や損害賠償、解約を求められることになります。2020年4月1日からは民法改正により「契約不適合」という名称に改められ、売主に対する責任が広がるため、売主としてはより一層の注意が必要になります。
2-5 築古売却が得意な不動産会社に任せる
不動産会社には取り扱う物件の種類によって得意不得意があるため、築古物件の売却に強い不動産会社を探すことが大切です。
投資用の築古不動産売却が得意で実績豊富な会社は、築古の目利きができ、市場での需要の有無についての判断などノウハウを持っているため、投資を続けるか売却を行うべきかのタイミングの判断や、オーナーに有利な売却方法の提案などもしてくれます。
例えば築古物件を更地にして売却する場合は、税法上の経費の扱いや、入居者への立ち退き依頼、近隣への説明、業者の手配など個人では対応が難しい部分が出てきます。築古売却が強い不動産会社では、このような専門知識が問われる対応についても、より低コストでスムーズに手続きが進むように協力してくれます。
一般的な不動産会社の多くは築古物件も取り扱っていますが、中には広告掲載をするのみで積極的に取り組んでくれない会社もあります。実際、新築などと比べれば「築古物件は売れにくい」という傾向があるため、それを言い訳にされることも少なくありません。
一方、築古物件の販売実績が豊富な会社は、それだけ販売のために積極的に動いてくれることが期待できます。築古物件の売却に強いかどうかを見極めるには、販売実績や、取り扱っている物件の種類で判断します。
その上で、実際に売却案件を相談しながらその提案を聞いてみるのが良いでしょう。物件への販売意欲が高く興味を持ってくれる会社では、実際に物件を見てみたいと言ってくれることもあります。
ただし、最初がどんなに良い印象だったとしても、なるべく一括査定サービスなどを活用して複数の会社に相談し、比較検討して最も信頼できそうな不動産会社を選ぶことが重要です。
3 まとめ
築年数の古くなった不動産は、投資収益も売却額も先細りしていくため、早めの売却を考える必要があります。ただし、有利な条件で売却するなら、税金や売却方法などのポイントをしっかり押さえた上で、築古物件に強い不動産会社に相談することが大切です。
一人で悩んで答えを出すよりも売却を成功させる有益な情報を得られることもあります。焦って売り急ぐことがないように注意しましょう。
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