外国に保有している物件を売却する時は、現地で発生する税金や日本円と外国通貨の為替について熟知することがとても大切です。海外不動産投資はキャピタルゲインの確保が成否を分けるため、コストとして発生する税金の知識を得ておくこと、さらに売却を優位にするためのエージェントの選び方などを事前に理解しておく必要があります。
今回は海外不動産の売却で注意すべきポイントをわかりやすくまとめましたので、ぜひご参考ください。
目次
- 海外物件の売却で発生する税金について
1-1.日本で発生する税金
1-2.海外で発生する税金
1-3.所有期間に注意 - 外国税額控除の仕組みを理解する
2-1.外国税額控除とは
2-2.控除金額には上限がある
2-3.控除しきれない分は最大3年間繰り越せる - 売却物件について熟知する
- 交渉力のあるエージェントを探す
- 為替動向のチェック
- プレビルド物件売却の注意点
- 売却時期を見極める方法
1 海外物件の売却で発生する税金について
国内不動産を売却する際は譲渡所得税をはじめとして様々な税金がかかります。一方、海外不動産を売却する場合には、国によって「課税されるもの」と「されないもの」に分かれます。海外での売却は想定以上に税金の負担が大きくなり収益性が落ちることもあるため、事前に理解しておくことが大切です。
1-1 日本で発生する税金
日本では所有期間が5年以下であるか、あるいは5年を超えるかによって課税譲渡所得に対する税率が変わります。課税譲渡所得とは、譲渡収入金額(売却金額)から取得費と譲渡費用を差し引いて算出するものになります。
日本に住む日本人の投資家が海外不動産を売却する場合は、日本国内の不動産を売却する時と同様に譲渡所得税の納税が必要です。
賃貸収入を得ると確定申告する必要がありますが、このとき経費として計上した減価償却費の合計金額を取得費から引くことになるため、減価償却費が大きいほど取得費が少なくなり、課税譲渡所得も増えます。
譲渡所得税は課税譲渡所得に税率をかけることで、税額を算出します。税率は所有期間によって異なり、譲渡した日の年の1月1日時点で決まりますが、5年以下の場合、税率は39.63%(所得税・復興税の30.63%と住民税9%を加えた数字)になります。一方、所有期間が5年を超えると税率は20.315%(所得税・復興税15.315%と住民税5%)になり、税額は少なくなります。
なお、個人投資家による海外不動産の減価償却費の計上が可能でしたが、2020年に税制が改正され、2023年時点では海外不動産に関わる減価償却費は確定申告で経費計上できません。
このため、課税対象となる譲渡所得は、海外不動産の売却額から取得額とかかった諸経費をそれぞれ差し引いた金額となります。
このほか売却時にかかる税金は、契約書に貼る印紙税やローンを組んだ時の抵当権を抹消するための登録免許税などがあります。
1-2 海外で発生する税金
海外で不動産を売却した時に、現地で税金が課せられることがあります。海外不動産投資では国によって税制が異なり、例えばマレーシアでは所有期間が5年以内まではキャピタルゲイン(売却時に得た利益)税の税率は30%になりますが、6年目からは10%まで下がります(2023年4月時点)。
一方、シンガポールにはキャピタルゲイン税がありません。さらに家賃収入に対するインカムゲイン税もありませんが、その代わりに外国人による住宅取得時は印紙税が30%かかるなど、取得時に支払う税金が高くなっています。(※2023年4月時点)不動産投資家にとっては値上がり分が大きいほどお得になる国といえます。
このほか、2023年4月時点ではカンボジアもキャピタルゲイン税がありません。しかし、2024年1月以降は導入される可能性が高くなっています。予定されている税率は20%です。海外不動産の売却にかかる税金の内容は、国外の会計事情に詳しい専門家へ相談するなどして、購入する前にきちんと把握しておきましょう。
1-3 所有期間に注意
海外不動産投資は家賃収入であるインカムゲインよりも、値上がりなどによる売却益であるキャピタルゲインのほうがメインになります。物件は長く所有しているほうが譲渡所得税は安くなりますが、物件の値上がり具合や為替変動などを総合的に判断して、売り時を見極めることが重要です。
譲渡所得税が安くなっても為替差損でメリットがなくなる場合もあります。売却を検討する際は現地の不動産価格の推移などをチェックしながら、タイミングを探すようにしましょう。
2 外国税額控除の仕組みを理解する
海外不動産を売却する時の税金を把握したら、次は外国税額控除について確認しておきましょう。外国税額控除とは、現地で納めた税金を日本の確定申告の時に還付してもらえる制度です。
2-1 外国税額控除とは
外国税額控除は海外でキャピタルゲイン税を支払い、日本でも譲渡課税所得を納めた場合、二重課税となることを防ぐための制度となります。租税条約を結んでいる国同士で適用され、欧米や東南アジアなど国交のある国(約50カ国)を中心に外国税額控除を利用できます(※締結国は財務省「我が国の租税条約等の一覧」で確認可能)。
なお国交を結んでいない台湾とは租税条約を締結していませんが、日台租税協定を結んでいるため、実質的に二重課税を回避することができます。
また、「1-2.海外で発生する税金で触れたカンボジアについては、2023年4月時点で租税条約を締結していません。カンボジアの不動産を売却する場合は特に、現地の税制や租税条約の有無などについて事前確認しておくことが必要です。
2-2 控除金額には上限がある
なお海外で支払った税金を必ずしも全て取り戻すことができるわけではないことに注意が必要です。控除金額には上限があるため、例えば日本での課税所得税を上回った税金を海外で支払っていても日本の所得税をゼロにはできません。
所得税の控除限度額=その年分の所得税額×(その年分の国外所得金額/その年分の所得総額)
つまり、日本での所得総額に対して海外不動産を売却した時に得る所得金額の割合が少ないほど、控除できる税額は少なくなります。キャピタルゲイン税が高い国の不動産を短期間の所有で売却するような場合には注意しましょう。
2-3.外国税額控除を受けるためには確定申告が必要
ここまで解説した外国税額控除を受けるためには、日本と海外現地で確定申告をする必要があります。日本での確定申告において必要な書類(2023年4月時点)は以下の通りです。
- 外国税額控除に関する明細書
- 外国で課税されたことを証明する書類
- 海外不動産投資によって得た所得の明細書
※国税庁「居住者に係る外国税額控除」
必要書類は金額を証明する書類が中心です。海外不動産の運用・売却にあたっては現地エージェントから書類が出てくるまでに時間がかかることもあります。余裕のあるスケジュールを組んでおくと安全です。
また、税額控除による還付金が入ってくるのは確定申告が終わった後になります。海外不動産の売却によってローンを一括返済する場合などは、還付金を返済に組み込もうとすると返済計画が狂うことも考えられるので要注意です。
2-4 控除しきれない分は最大3年間繰り越せる
現地で納めた税金が控除限度額を超えていると、確定申告で全てを還付してもらうことができません。しかし控除しきれなかった分の税金は、住民税から控除することができます。道府県民税からは12%まで、市町村民税からは18%まで控除することが可能です。さらに住民税でも控除しきれない場合、翌年以降3年間は繰越控除をすることができます。
3 売却物件について熟知する
海外不動産を売却する時には、値上がりによるキャピタルゲインを期待することができます。しかし購入希望者はできる限り安く購入しようとするため、購入希望者との値下げ交渉に応じる必要が出てきます。
値下げ交渉で大切なことは、売却する物件について熟知しておくことです。交渉自体は売主に代わってエージェントが行いますが、購入希望者からシロアリや水漏れなどの欠陥を指摘されれば値下げ要求に対して強気に応じることも難しくなります。そのため事前に不具合や修繕が必要な箇所を把握して修繕しておくなど、あらかじめ準備をしておくことが大切です。
4 交渉力のあるエージェントを探す
海外不動産の売却は現地のエージェントに任せるのが一般的ですが、エージェントは会社組織であったり、個人で活動している場合もあったりするなど様々です。いずれにしても実績のあるエージェントを選ぶことが重要です。
特に東南アジアのように中古物件の売買市場が十分に整備されていない土地では、「買い手探し」においてエージェントの力が不可欠です。多くの購入希望者は少しでも安く買おうとするため、希望価格よりも高い金額で売却を決めてもらうには、エージェントに相応のリサーチ力が必要になります。
周辺相場の動きと今後の不動産相場の動向などの情報を常に仕入れることができ、そのうえで売り出す物件にどれだけの価値があるのかを、購入希望者に説明できる能力が求められます。売却実績が豊富で交渉能力の高いエージェントを見つけることが売却を成功させるか否かの分かれ目となるわけです。
エージェントは、知人や投資仲間から実績のある者を紹介してもらえれば良いですが、そのようなコネがない場合は不動産情報サイトでも探すことができます。あるいは日本で活動しているエージェントから探してみるのも良いでしょう。
東南アジアの物件の場合、東南アジア全体で1,600社、10,000名以上のローカル不動産エージェントのネットワークを利用して売却を仲介できる「ビヨンドボーダーズ」のような会社もあります。(※数値は2018年1月時点)売却の際は1社だけでなく、複数社のセミナーなどに参加して、各社の現地ネットワークや実績、リサーチ力、情報力などをチェックしてみると良いでしょう。
また、中古不動産の値下がり幅が小さく、建物の価格比率が高いため減価償却による節税効果が高いことから、アメリカ不動産の売買も人気となっています。アメリカ不動産投資であれば、東証プライム上場企業の『オープンハウス』が国内トップクラスの実績を有しています。また、定期的にセミナーも開催しており、アメリカ不動産に関する様々な情報を得ることもできます。
エージェント選びでは、こまめに連絡が取れるかどうかも重要です。国により異なりますが海外のエージェントとのやり取りは日本との時差が障壁になることがあります。現地のエージェントと連絡を取る場合、メールが主となることもあるため、レスポンスの早いエージェントを選ぶと何か問題が発生してもスムーズに解決しやすくなります。
5 為替動向のチェック
海外の不動産の売却では為替差損益にも注意が必要です。海外不動産を売却すると、現地のお金で代金を受け取るため日本円に換金することになります。その際、購入時よりも円高に進んでいると為替差損が生じます。為替差損とは、日本円を外貨に換えて再び日本円に戻した時に、為替変動により最初の金額よりも得られる日本円が少なくなることです。
例えば1,000万円を米ドルに交換する際にレートが1米ドル100円であった場合、1,000万円は10万米ドルになります(ここでは手数料は考慮しません)。しかし10万米ドルを日本円に戻したときに1米ドル90円と円高へ振れていた場合、受け取れる日本円は900万円になり、100万円の為替差損が生じることになります。
不動産の売買は金額が非常に大きいため、為替が購入時より少しでも円高に振れていると、大きな損失を被ることになります。逆に円安に振れていればその分為替差益が生じ、多くの日本円を受け取ることができます。
2023年4月時点では、アメリカを中心として海外各国で利上げの傾向が強くなっている一方、日本では低金利政策の維持が見込まれる状況です。為替は1米ドル130円以上を維持する期間が長期化しています。
円安のタイミングで物件を売却できれば、キャピタルゲインに加えて為替変動による利益も見込めるでしょう。ただし、円安の状況下では日本で課税される譲渡所得税も高くなるため、物件売却に当たっては事前のシミュレーションが必要です。
コロナ以降の経済立て直しは国によって方向性がさまざまであり、2023年時点では不確定要素も強まっています。海外不動産を購入して売却による出口戦略を立てる際は、為替の動向にも十分に注意することが大切です。
為替相場はアメリカ経済が好調であることと日本の政策金利が低く維持されていることから、ドル高円安傾向が続いています。しかし、アメリカが景気の減速を観測して利上げを終了させ、逆に日本が低金利政策を終了させて利上げに向かった場合、円高に進む可能性も十分にあります。
ドルが弱くなればほかの国の通貨にも影響を与えるため、海外不動産を購入して売却による出口戦略を立てる際は、為替の動向にも十分に注意することが大切です。
6 プレビルド物件売却の注意点
プレビルド物件とはコンドミニアムを建設段階で安く購入できる物件のことを指します。完成後に高く売ることで売却益を得られるのがプレビルド投資の大きな魅力となっていますが、デベロッパーによってはプレビルドの販売代金を工事費用に充てることがあるため、売れ行きにより物件が完成しないリスクも伴います。
プレビルド物件の売却で注意したいポイントは、完成後に引き渡しを受けてから権利書が手元に届くまで時間がかかるケースがあることです。場合によっては手続きに時間を要し、完成後から権利書をもらうのに1年以上かかるケースもあります。権利書がなければ転売できないため、特に新興国では権利書がいつ頃もらえるのかを事前に確認することが大切です。
また、デベロッパーが完成物件を売り出す際に、当初予定していた価格よりも引き下げることがある点にも要注意です。プレビルド物件を購入した場合でも予定していた売却金額を下げざるを得なくなるため、事前にデベロッパーに確認しておきましょう。
7 売却時期を見極める方法
海外不動産の売却は税金が安くなる期間だけ保有して行うのがおすすめですが、不動産市場の動向によっては早く手放したほうが良い場合もあります。あるいは他国で条件の良い物件があるため買い替えたいという場合も同じです。そこで不動産の売却時期の見極めが重要になります。
例えば海外物件を保有するものの賃借人がつかなかったり、家賃が思うほど高く設定できずにインカムゲインの収益性が低くなったりするケースは少なくありません。ローンを組んでいれば金利負担も大きくなります。
値上がりが期待できるのであればそのまま保有しつづけても良いですが、ローンの金利負担と物件価格の上昇率とを天秤にかけ、キャピタルゲインよりも金利負担分の持ち出しが大きいようであれば、早期に売却することを検討してみても良いでしょう。
一方、節税効果が高く税金還付を考えると利益を生み出せると判断するのであれば、そのまま保有するという選択肢もあります。不動産投資を含め、投資マネーは常に収益性の高い金融商品に投じるのが基本です。ほかの国で大きなキャピタルゲインが期待できるようであれば、買い替えるというのも効果的な方法です。
もちろん為替変動もチェックする必要があります。2018年は新興国の通貨が下落しましたが、再び上昇に転じるようであれば為替差益も期待できます。「保有する国の不動産市場の動向」「物件の収益性」「世界経済の流れによる為替相場の動向」などをトータルで検証し、売却時期を判断するようにしましょう。
8.売却完了までの期間に注意
日本国内の不動産売却では、不動産の売却完了までに必要な期間は3ヶ月~6ヶ月程度が目安です。投資用不動産の場合は、優良物件であれば売出してからすぐに売れてしまうことも少なくありません。
しかし、海外不動産を売却する場合は、日本国内で不動産を売却する場合と事情が異なります。物件を売り出してから売却完了までに1年以上の期間がかかることもめずらしくないのです。
中古不動産売却に関する情報インフラが整っていない東南アジアでは特に要注意です。海外では首都の一等地に豪華なコンドミニアムが建設されることも多くなっています。首都のコンドミニアムは、国内の富裕層または海外投資家向けに販売されることが大半です。
新興国では現地の平均所得から勘案して価格的に購入できない物件も多いため、このような海外不動産投資では、物件を売却しようとするとまず投資家向けの売却を模索することになります。
一方で、海外現地の不動産エージェントと周辺諸国も含めた不動産エージェントが広範につながっている事例はあまり多くないのが実態です。また、日本国内でも海外不動産に投資している投資家は、国内不動産に投資している投資家と比較して少なくなっています。
そのほか、2023年時点では多くの国が新型コロナウイルスによる経済の混乱から立ち直ろうとしている途中であるほか、ロシアとウクライナの紛争などを原因として海外投資に慎重姿勢を示す投資家も増えている状況です。
海外不動産を売却する場合は、売却期間が長引いても問題ないように準備してから売り出すことが必要になります。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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