遺贈寄付とは自身の相続財産を寄付する事です。遺贈寄付の方法は、主に遺言書・生命保険・生命保険信託・信託財産・相続財産・香典返しなどがありますが、どのような違いがあるのでしょうか?
遺贈寄付としてよく知られているものとしては、遺言書に相続財産を寄付したい旨や団体名、寄付金額などを書き遺族に実行してもらう方法ですが、生命保険金を寄付する、信託銀行・会社等に財産を託すなどの方法も存在します。
家族との関係や相続財産の価額、自身の意向などによって方法を決める事になります。本記事では、遺贈寄付とは何か、遺贈寄付の方法6つと手順、注意点を解説していきます。
目次
- 遺贈寄付とは
- 遺贈寄付の方法6つと手順
2-1.遺言書
2-2.生命保険
2-3.生命保険信託
2-4.遺言信託・遺言代用信託
2-5.相続人による寄付
2-6.香典返し寄付 - 遺贈寄付を行う際の注意点
- まとめ
1.遺贈寄付とは
「遺贈」とは自身の相続財産を譲ることを指し、「遺贈寄付」は相続財産を支援したい団体へ無償で提供することを言います。
公益財団法人日本財団遺贈寄付サポートセンターの「2017年の遺贈に関する意識調査」によると、60才以上の男女の5人に1人が「遺贈する予定」「言葉は知らなかったが、社会貢献のために何らかの形で寄付したい」と遺贈寄付の意向がある事が分かっています。
遺言書、生命保険、生命保険信託、信託財産、相続財産、香典返しの6つの方法と手順を見ていきましょう。
2.遺贈寄付の方法6つと手順
主な遺贈寄付の方法は以下の6つがあります。6つの方法を手順と共にお伝えしていきます。
- 遺言書
- 生命保険
- 生命保険信託
- 信託財産
- 相続財産
- 香典返し
2-1.遺言書
遺言書に寄付先の団体や金額を指定し、遺族に寄付を実行してもらう方法です。遺言書の内容をそのまま遺族が実行した場合、自身の望みどおりに遺贈寄付が出来ます。
ただし民法第907条において、「共同相続人は、次条の規定により被相続人(亡くなられた方)が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」という規定があります。
遺産分割協議は最終的に相続人全員が合意することで成立します。つまり遺言書で遺産分割協議が禁止されていない場合には、「遺産分割協議で全員が合意した際には、必ずしも遺言書の内容通りに分割されなくても良い」という結論になり、遺贈寄付が実行されない可能性が生じます。
遺贈の希望が強い方は、相続となる予定の方と話し合い、場合によっては遺言書に遺産分割協議の禁止を記しておきましょう。
遺言書の種類と方法
遺言書には自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言は全文を自筆で記入し、署名・押印・遺言書を書いた日付を記す事で法的に有効となりますが、財産目録はPC・ワープロ作成でも構いません。
自筆証書遺言は、自宅といった身近な場所に保管する方もいますが、法務局で保管してもらう事もできます。
秘密証書遺言は、遺言内容を他人に知られたくない際に作成します。自身でPC・ワープロなどで作成又は弁護士といった第三者に作成を依頼する事が可能で、署名のみ自筆で書くことになります。
証人2人(未成年者や推定相続人、配偶者・親族などを除く)と共に公証役場に行き、内容を公証人に口述し、封印、自身で保管します。
最後の公正証書遺言は遺言者の話を聞き公証人が作成する遺言で、遺言書の中で唯一公的な文書となります。証人2人と公証役場で作成された遺言の内容を口頭で聞き、署名押印を行い、公証役場に保管されます。
3種類の遺言書は、いずれも所定の手続きを行うことで変更や取り消しが可能です。寄付先によっては現金以外(不動産・株式・骨董品など)の寄付は受け付けていない所がありますので、事前に確認してから遺言書を作成しましょう。
2-2.生命保険
生命保険の受取人を寄付したい団体名にすることで、自身にもしものことがあった場合、寄付先が生命保険金を受け取る事ができます。
生命保険会社によっては契約者の配偶者(同性パートナーや事実婚を含む可能性がある)もしくは二親等以内の親族のみという規定がありますので、まずは保険会社に問い合わせてみましょう。
同時に寄付先の団体が、保険金による寄付を受け付けているのかを確認しておきましょう。なお保険金を受け取る際は、保険会社からの保険金給付の通知がなく、寄付先である受取人が保険金請求の手続きをしなくてはならない可能性があります。
寄付先が手続きを行う場合には、書類をそろえるために遺族の協力が必要になりますので、事前に家族に伝えておくことが重要となります。
2-3.生命保険信託
生命保険信託とは、保険契約を主に信託銀行に信託・運用してもらい、特定の団体・個人のために保険金を役立てる仕組みです。
契約者と信託銀行はあらかじめ契約の内容を相談、万が一の時に死亡保険金を受け取り、決められた団体に保険金を支払います。
なお、信託銀行・会社などが管理する財産の契約変更といった「指図」を行う「指図権者」をあらかじめ決めておくことができます。指図権者は契約者の親権者や後見人等を指名することが可能です。信託銀行・会社等と契約を行う事で、生命保険信託が出来ます。
2-4.遺言信託・遺言代用信託
「信託」は、「財産を信頼できる人に託し目的に沿って運用・管理してもらう」制度です。預金や有価証券、土地・建物など、金銭的価値のあるものは信託銀行・会社等に信託が可能で、「遺言信託・遺言代用信託」によって寄付が可能です。
遺言信託は、信託銀行・会社等が遺言書作成の相談・保管・執行などの相続に関する手続きをサポートするサービスで、契約者が亡くなった後には信託銀行等が遺言の内容を実行する遺言執行人となります。
遺言代用信託は、契約者が財産を信託銀行等に信託、生存中は本人のために財産を管理・運用します。亡くなった後は、契約者が生前に定めた受取人に財産の分配を行います。
信託財産による寄付は、手数料がかかる点に注意しましょう。信託銀行・会社等を利用して手続きを行います。
2-5.相続人による寄付
遺産を受け取る方(相続人)が相続した財産を寄付する方法です。手紙やエンディングノート、生前に口頭で意思を伝える事によって相続人が寄付をする可能性があります。
あらかじめ相続人に伝えておくことが重要となりますが、詳細を明記しなかった場合相続人がどこの団体にどの位の財産を寄付するか戸惑ってしまうことがあります。
また必ずしも相続人が遺贈寄付を行うとは限らないため、確実に寄付をしたい場合には遺言書を作成しておいた方が無難です。
2-6.香典返し
遺族がお葬式の際に参列者から貰った香典を「香典返し」として寄付する「香典返し寄付」です。
「香典返し」は香典の半分から3分の1を返すことが慣例となりますが、明確な決まりはありません。香典返し寄付を行う場合、案内状にあらかじめ記載しておく、寄付をした後に香典を頂いた方にお礼状を出すといったマナーに配慮しておくと良いでしょう。
相続人に伝えておく、遺言書に記入する事で香典返し寄付が可能となります。
3.遺贈寄付を行う際の注意点
民法では遺族の生活を保障するために「遺留分」を定めています。遺留分は相続人が相続によって得られる財産であり、「最低限の取り分」と言えます。
遺留分を侵害された相続人は、一定期間内であれば裁判所に「遺留分侵害額の請求調停」を行い、請求できる権利があります。遺留分は法定相続分の1/2となり、以下の通りに定められています。
相続人の構成 | 配偶者 | 子供 | 父母 |
---|---|---|---|
配偶者と子供 | 1/4 | 1/4 | |
配偶者と父母 | 1/3 | 1/6 | |
配偶者のみ | 1/2 | ||
子供のみ | 1/2 | ||
父母のみ | 1/3 |
※参照:国税庁「相続人の範囲と法定相続分」
相続財産を寄付する際には、上記の「遺留分」の割合以下に収まるように注意しましょう。
まとめ
遺言書、生命保険、信託財産、香典返しなど様々な方法がありますが、自身が現在所有する財産や家族に引き継ぎたい財産、寄付したい財産を明確に区別しておくことで後のトラブルを回避できる可能性が高くなります。
この記事を参考に遺贈寄付の方法と注意点を確認し、後のトラブルにならないよう慎重に進めてみましょう。
田中 あさみ
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