自分が所有しているアパートの欠陥が原因で事故が発生すれば、アパート経営のオーナーとしての責任を負う可能性があります。
一方で、住宅品質確保促進法や、契約不適合責任により、新築・中古とも状況次第では売主(仲介会社など)や施工業者の責任となるケースもあります。大家だからといって安易に自己責任で片づけず、責任の所在が悩ましい時は速やかに専門家に相談することも大切なポイントです。
この記事では新築・中古それぞれにアパートにおける欠陥事故の責任についてまとめました。また、それに関連した法制度である住宅品質確保促進法や契約不適合責任についても解説します。
目次
- アパートで欠陥事故が起きた際の責任は誰が負う?
- 新築アパートにおける事故で責任を負う人の考え方
2-1.新築アパートでは住宅品質確保促進法がポイントに
2-2.住宅品質確保促進法とは? - 中古アパートにおける事故で責任を負う人の考え方
3-1.中古アパートでは契約不適合責任がポイントに
3-2.契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違いも - まとめ
1 アパートで欠陥事故が起きた際の責任は誰が負う?
アパート経営において、物件の欠陥が原因で発生した事故の責任を誰が負うかはケースバイケースです。大家の責任となる場合もありますが、新築の場合は住宅品質確保促進法により施工業者や売主が負担するケースが考えられます。
また、中古アパートの場合は、2020年に制定された契約不適合責任により、仲介業者など物件の売主の責任になる場合があります。
実際に大家の責任か、売主や施工業者など他者の責任となるのかは微妙なケースも少なくありません。少なくとも、「100%大家の責任になるわけではない」ことをおさえておきましょう。判断に悩むケースでは安易に自分だけで対処しようとせず、弁護士や取引をおこなった仲介業者などと相談してください。
ここからは、住宅品質確保促進法と契約不適合責任にも触れながら、新築・中古それぞれの事故の責任主体について、さらに詳しく解説します。
2 新築アパートにおける事故で責任を負う人の考え方
住宅におけるトラブルの予防や早期解決を目的とした住宅品質確保促進法という法律があります。この法律のもと、新築住宅における売主や施工業者は、住宅の品質の情報開示と基本構造の10年保証が義務付けられています。
また、住宅に関する紛争解決機関についても同法にて枠組みが整備されています。もしトラブルに巻き込まれた時には、積極的に活用するようにしてください。
※出典:国土交通省「住宅の品質確保の促進等に関する法律」
2-1 新築アパートでは住宅品質確保促進法がポイントに
新築アパートにおける事故の責任を判断するうえでは、平成11年に制定された住宅品質確保促進法、通称「品確法」が鍵になります。この法律では新築物件の「住宅性能表示」と「基本構造部分の10年保証」が義務付けられており、状況次第では買主(アパートの大家)ではなく、施工業者もしくは売主(販売会社)に事故の責任が発生する可能性があるのです。
一つは「基本構造部分の10年保証」が義務付けられているため、築10年以内で「基本構造部分」にあたる箇所における欠陥が事故の原因であった場合には、施工業者・売主が責任を負うことになります。
なお、「10年」というのは、法律で義務付けられている最低限の保証期間です。個別の契約で10年より長い保証が付されていた場合には、その契約内容に従い、10年以上経過した物件の欠陥でも、施工業者や売主が実質的に事故の責任を負う可能性があります。
もう一つは、住宅性能表示について施工業者や売主が住宅性能表示の必須項目を怠ったり、虚偽の表示をしたりして販売した場合です。この場合、買主は誤った情報をもとに不正に物件を買わされたと判断され、施工業者や売主が責任を負う可能性が高くなります。
いずれにも該当しない場合には、大家の責任となる可能性があります。ただし例外として、引き渡し物件が契約内容に対して品質が明らかに劣っていた場合には、中古アパートにも適用される「契約不適合責任」により、やはり売主の責任となるケースは考えられます。
契約不適合責任については後半の「中古アパートにおける事故で責任を負う人の考え方」で詳しく紹介しますので、まずは新築において特に意識すべき住宅品質確保促進法についてみていきましょう。
2-2 住宅品質確保促進法とは?
住宅品質確保促進法は、住宅に関するトラブルを予防し、またトラブルが起きた時に素早く対処できるようにするためのルールや仕組みを定めた法律です。具体的には次の3点が定められています。
- 住宅性能表示制度の整備
- 基本構造部分の10年保証
- 住宅専門の紛争処理機関の整備
住宅性能表示制度は、住宅の性能や品質を正確に評価できるようにするために、情報開示を促す制度で、次の10項目の開示についてまとめています。
- 構造の安定に関すること(必須)
- 火災時の安全に関すること
- 劣化の軽減に関すること(必須)
- 維持管理・更新への配慮に関すること(必須)
- 温熱環境・エネルギー消費量に関すること(必須)
- 空気環境に関すること
- 光・視環境に関すること
- 音環境に関すること
- 高齢者等への配慮に関すること
- 防犯に関すること
※出所:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「住宅性能表示制度」
住宅の品質や居住性において特に重要な4項目については必須項目となっており、残りは評価を受けるかどうかを選択できる仕組みです。
必須項目の開示を怠っていたり、評価内容に偽りがあったりした場合には、その項目に関する部分で事故が発生した時に売主や施工業者が責任を負う可能性が高くなります。
次に、基本構造部分の10年保証についてです。具体的には、以下の部分については契約書の記載有無に関わらず、施工業者もしくは売主が10年間品質を保証をしなければなりません。
- 基礎
- 基礎杭
- 土台
- 壁
- 柱
- 斜材
- 横架材
- 床板
- 小屋組
- 屋根瓦
住宅のすべての部分を10年保証しなければならないわけではない点に注意しましょう。新築から10年以内に事故が発生した場合には、上記の欠陥に由来するものかどうかを判断して対処することが大切です。
最後に、住宅品質確保促進法では紛争処理体制についても整備されています。住宅に関するトラブルが起きた時には、国土交通省が定めた基準を満たす弁護士事務所である「指定住宅紛争処理機関」が対処します。
指定住宅紛争処理機関には、公益財団法人の「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」がサポートすることで、公平かつ迅速な紛争解決を目指しています。アパートの欠陥事故の所在について自分で判断ができない時には、このような紛争解決機関を活用しましょう。
3 中古アパートにおける事故で責任を負う人の考え方
中古アパートでは、売主が住宅の基本構造の保証をする必要はありません。しかし、契約不適合責任のルールのもと、中古アパートであっても販売した仲介会社の責任を問える場合があります。
3-1 中古アパートでは契約不適合責任が焦点に
中古アパートの事故においても売主、すなわち物件を販売した仲介会社などの責任となる場合があります。その根拠は「契約不適合責任」というもので、契約に対して適合しない物件を販売したときに、契約解除や賠償請求、代金の減額などを要求することができるものです。
アパートで起きた欠陥事故の原因が、大家の過失ではなく元々存在したもので、かつ売買代金がその欠陥を充分に加味したものとなっていない場合には、契約不適合責任が成立して、実質的に売主が事故の責任を負うことになります。
3-2 契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違いも
契約不適合責任は2020年4月に定められたもので、元々存在した瑕疵担保責任に対して、売主の責任範囲が拡大したものです。二つの要件を比較してみましょう。
瑕疵担保責任
- 適用対象:隠れた瑕疵
- 適用範囲:契約締結時までに発生した瑕疵
- 買主が請求できる権利:契約解除・損害賠償請求
- 損害賠償の範囲:信頼利益
- 期間制限:瑕疵を知ってから1年以内に契約解除/損害賠償請求
契約不適合責任
- 適用対象:契約内容に適合していない部分
- 適用範囲:契約履行時までに発生した契約不適合部分
- 買主が請求できる権利:契約解除・損害賠償請求・追完請求・代金減額請求
- 損害賠償の範囲:信頼利益・履行利益
- 期間制限:契約不適合を知ってから1年以内に売主に通知
【関連記事】契約不適合責任をわかりやすく解説!売主が注意したい3つのポイントも
総じて瑕疵担保責任よりも契約不適合責任は責任を負うべき範囲が拡大し、かつ明確化したとみることができます。難解な表現が多いので、重要な変化について簡単に紹介します。
まず、適用対象ですが、元々は「隠れた瑕疵」すなわち売主が過失や悪意がないにも拘らず発見できなかった瑕疵に限られていました。それが契約不適合責任では、契約書に記載された内容と適合しないすべての箇所が対象となります。過失・悪意があった場合もこの法律でカバーされるので、損害の請求がしやすくなりました。
従来の瑕疵担保責任において「隠れた瑕疵」であったかは微妙で判断しづらいものでしたが、契約不適合責任に代わったことで売主の責任範囲がより明確になったといえます。
また、買主が請求できる権利が広がっています。従来は契約解除か賠償請求のみだったのですが、追加で修繕などをおこなって契約に適合する状態にしてもらう「追完請求」、適正価格まで減額してもらう「代金減額請求」ができるようになりました。
そのほか損害賠償の範囲が信頼利益に加えて履行利益が加わっています。信頼利益とは、契約が不成立となった場合に、それが有効であると信じたことによって生じた損害です。物件購入でいえば、登記費用などの初期費用が信頼利益となります。
一方で、履行利益とは、契約が履行されていたら得られたであろう利益です。例えば、アパート経営を目論んで物件を購入した場合、欠陥が見つかったことによって逸失した家賃収入は履行利益に当たる可能性があります。信頼利益と履行利益が共に賠償範囲となったことで、売主の責任は大きく拡大したと言えるでしょう。
最後に、期間制限ですが、瑕疵担保責任は瑕疵を知ってから1年以内の「契約解除/損害賠償請求」が条件でした。必ず契約解除もしくは賠償請求をしなければならなかったのです。
対して、契約不適合責任では契約不適合を知ってから1年以内に売主に「通知」するだけで適用されるようになりました。従来より速やかに適用させられるようになり、代金の減額や追完請求など、契約解除や賠償以外でのトラブル解決の余地も広がったと言えるでしょう。
以上のように、契約不適合責任のルールにより、以前より売主の責任範囲が拡大し、かつわかりやすくなったといえます。
中古アパートにおける欠陥事故においては、その欠陥の原因が契約書に記載されていたか、欠陥について売買価格に加味されていたかが争点となりますが、契約に対して物件が不適合かどうかはしばしば微妙な判断となります。安易に自己判断せずに、弁護士などの専門家に判断をあおぐと良いでしょう。
契約不適合責任の免責について
契約不適合責任の期間は「買主が契約不適合を知ってから1年以内」となっており、買主側のメリットが大きい法律となっています。売主側も契約時点で全ての欠陥について正確に把握できているケースは少なく、契約不適合責任をそのまま適用してしまうと、長期間にわたって売主側にリスクがあるという状態になります。
そのため、個人間の中古不動産売買では双方の納得のいく契約不適合責任の適用期間(おおよそ3~6ヶ月など)を特約で定めるなど、個別の取引に応じた契約内容に変更しているケースが多くあります。この場合は特約の期間が争点となるため、元々の契約不適合責任の範囲である、「買主が契約不適合を知ってから1年以内」という条件は適用されないことになります。
ただし、特約で契約不適合責任を免責とできるのは、「売主が契約不適合であることを知らなかった」という状況に限られます。(改正民法572条)アパートで事故が起きてしまい、売主への契約不適合責任が追及される場合には、売主側で把握できる欠陥であったかどうかが争点となり得るでしょう。
※出典:独立行政法人「瑕疵担保責任の廃止と契約不適合責任」
4 まとめ
アパートにおける欠陥事故は必ずしも大家の責任となるわけではありません。特に新築アパートについては、住宅品質確保促進法のもと、最初の10年間において基本構造の保証が義務付けられているなど、売主や施工業者の責任となる可能性も充分にあります。
また中古アパートでは、契約不適合責任に該当する時には、売主の責任として売買代金の減額や賠償請求などが可能です。新築・中古いずれにおける欠陥事故も、全てを大家の責任と考えることなく、必要に応じて紛争解決機関や弁護士などの専門家に相談しながら、責任の所在を明らかにしていきましょう。
伊藤 圭佑
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