孤独・孤立の問題が深刻化している。政府が2022年4月8日に公表した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」では、不安や悩みの相談相手として「家族・親族」を挙げた人が93.0%、「友人・知人」が63.2%だった。また、社会活動への参加状況では、「特に参加していない」と回答した人が53.2%と半数を超え、社会とのつながりが希薄化していることも伺える。単身世帯の割合や生涯未婚率は上昇を続けており、この問題は今後さらに進む可能性が高い。
こうした孤立・孤独問題や居場所問題に長年取り組んでいるNPOがある。それが、認定NPO法人抱樸(ほうぼく)だ。抱樸は1988年に「北九州越冬実行委員会」として活動開始、北九州を拠点に生活困窮者や社会からの孤立状態にある人々の生活再建を支援する認定NPO法人で、32年間の活動の中でホームレス状態から自立した人数は3,400人を超える。
しかし、生活が自立できたとしても、社会とのつながりがなければ孤立・孤独の問題は解消されない。「ハウス(家)」があっても、「ホーム(社会とのつながり・居場所)」が無ければ、それは寝起きする場所が路上から屋内へと変わっただけで本質的な問題は解決されていない。ハウスレス(経済的困窮)が解消したとしても、ホームレス(社会的孤立)の状況は解消されないという点に、この問題の根深さがある。
この問題を包括的に解消するべく抱樸では、2020年から北九州市にある「特定危険指定暴力団」の活動地であった地を、子どもや若者を含む全世代が地域で共に生きていくための拠点として再生させる事業を「希望のまちプロジェクト」と名付け、取り組みを進めている。
希望のまちプロジェクトでは、「わたしがいる あなたがいる なんとかなる」をキャッチフレーズとして、格差が広がる日本において「ひとりも取り残されないまち」をつくることに挑む。「家族ありき」で進められてきたこれまでの社会に対し、希望のまちプロジェクトでは家族機能を社会化することで、長年にわたり家族が引き受けていた様々なことを地域全体で行っていく。
たとえば、抱樸が伴走支援を行ってきた人の中には、親にご飯を作ってもらうという体験や洗濯してもらうといったことを経験できなかった人もいるという。そうすると、自分の子供に対しても何をすればいいのかがわからず、結果としてネグレクト(育児放棄)の状況に至ってしまうケースもある。また、看取りや葬式も、これまで家族が中心に行ってきたことだ。孤立した人は、葬式をあげてもらうこともできない。
こうした問題に対して、抱樸では家族機能が必要と思われる人には「日常生活支援付き(家族機能付き)住宅」を提供したり、地域互助会を組織することで互助会葬などを行ってきた。今回の希望のまちプロジェクトにおいては、①地域生活サポートセンター、②救護施設、③子どもの居場所と家族支援、④避難所、⑤よろず相談窓口、⑥地域活動スペース、⑦障がいのある方の居場所、の7つの役割を担うことで、まち全体で家族機能を提供していくことを目指す。
希望のまちは、2024年1月に建築開始、2024年10月にまちびらきを予定しているが、それを実現するための建設資金は不足している。総工費10億円のうち7億円は制度事業として補助金などでまかなう予定だが、非制度事業となる3億円については寄付で募る予定だ。
今回のプロジェクトにあたり、抱樸の理事長・奥田知志氏は「『希望のまち』は『助けて』と言えるまちです。誰かが『助けて』を聴いてくれたなら、自分は大切にされていると感じることができます。誰かに『助けて』と言われたなら、自分は必要とされていることを知ります。希望のまちは、『助けて』が飛び交う『人のまち』です」「こうした希望のまちをつくろうとしている人達がいる、ということ自体が日本社会にとって希望となれば」と想いを語った。
また、「寄付は社会参加の原点のひとつです。みんなで『あるべき日本の社会』を一緒に考え、一緒に新しいまちをつくりましょう。寄付だけでなく、ぜひ希望のまちにも足を運んでください。みんなで希望のまちをつくり、希望のまち2号・3号を全国へと広げていければと考えています」とプロジェクトへの参加や寄付を呼び掛けた。
SDGsは「誰一人取り残さない」ことを目標としていたが、ロシア・ウクライナ間で戦争が起こったことで、「誰一人」どころか世界から「国2つ」が丸ごと取り残されている。しかも、世界全体がリスクを恐れて資源・エネルギーの確保など、さらなる分断・孤立へと向かい始めている。
世界から「つながり」が急速に失われている今だからこそ、希望のまちプロジェクトが掲げる「誰もひとりにしない、誰も拒絶しないまち」を私たちでつくりあげていくことが必要なのではないだろうか。
【関連サイト】認定NPO法人抱樸「希望のまちプロジェクト」
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