責任投資とは?社会的責任を考慮した投資の基本を解説

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近年、世界は気候変動や人権問題などの重要な課題に注目しています。この注目の中で、投資活動においても、投資先が環境や社会に対してどのようなアプローチを取るかがますます重要視されています。

このような背景から、「責任投資」という概念が浮上してきました。責任投資は、投資先が「社会的責任」を果たしているかどうかを判断材料の一つとして考慮し、投資先の選択に取り入れる方法です。そして、このアプローチは今後、ますます普及していくと予測されています。

今回は、「責任投資」について、その概要、特徴、そして実際の実践方法について詳しく説明していきます。

目次

  1. 「責任投資」とは
    1-1.「責任投資」の概要
    1-2.責任投資の歴史
  2. 「責任投資」を選ぶ理由
    2-1.財務上の重要性
    2-2.クライアントの要求
    2-3.受託者責任
    2-4.政策と規制
    2-5.サステナビリティ・アウトカム
  3. 「PRI(責任投資原則)」とは
    3-1.「PRI(責任投資原則)」の概要
    3-2.「PRI(責任投資原則)」の6つの原則
    3-3.「PRI(責任投資原則)」に署名済みの日本企業
  4. 「責任投資」の実践方法
    4-1.ESGの組み入れ
    4-2.スチュワードシップ
  5. まとめ

1.「責任投資」とは

1-1.「責任投資」の概要

「責任投資」とは、企業が社会的および倫理的な観点から「社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)」を果たしているかどうかを考慮に入れ、投資先を選択するアプローチです。

最近では、投資判断や企業への影響を行使する際に、環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する課題を考慮し、これにより従来の財務分析に補完を加える投資手法として責任投資が注目されています。要するに、ESGの観点を取り入れることで、社会的に持続可能な企業に投資することを指します。責任投資家の目的は多様で、投資リターンだけを追求するアプローチから、人と環境に良い影響をもたらす企業を支持し、悪影響を排除するアプローチまでさまざまです。

また、責任投資の対象となるESG課題には、環境、社会、ガバナンスの側面があります。

環境

  • 気候変動
  • サーキュラー・エコノミー(循環経済)
  • これまでの「Reduce(リデュース)」、「Reuse(リユース)」、「Recycle(リサイクル)」という「3R」の取り組みに加えて、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化などを通して付加価値を生み出す経済活動のこと。また、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止などを目指すもの。

  • 生物多様性
  • 森林減少

社会

  • 人権
  • ディーセント・ワーク
  • 働きがいのある人間らしい仕事、より具体的には、 自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、 全ての人のための生産的な仕事のこと。

  • 多様性、公平性、インクルージョン
  • インクルージョンとは、企業内で多様な人々がお互いに個性や価値観、考え方を認め合い、一体感を持って働いている状態、あるいは平等に機会が与えられた状態のこと。

ガバナンス

  • 取締役会の構成
  • 役員報酬
  • 税の公平性
  • 責任ある政策エンゲージメント

1-2.責任投資の歴史

責任投資は、1920年代にさかのぼります。この時期、アメリカのキリスト教の教会が資産運用を行う際、倫理的な観点から武器、ギャンブル、タバコ、アルコールなどに関連する企業への投資を避ける方針を採用したことが始まりと言われています。その後、この考え方は欧米を中心に広がり、1971年にはアメリカで初めて社会的責任を負うミューチュアルファンドである「パックス・ワールド・ファンド」が登場し、責任投資の基盤が築かれました。

1990年代に入ると、環境問題への関心が高まり、社会的に責任を負う企業を評価する指標である「Domini 400 Social Index」が登場し、環境に焦点を当てた責任投資が急速に広まりました。さらに、1990年代後半には「環境」、「経済」、「社会」という3つの側面を考慮した「トリプルボトムライン」の経営評価が普及し、この視点に配慮する企業を選んで投資する流れがスタートしました。2006年には、国連事務総長コフィー・アナン氏が金融業界に向けて「責任投資原則ガイドライン(PRI: Principles for Responsible Investment)」を発表し、ESGに配慮した投資を奨励しました。これが「ESG投資」として知られています。

日本では、1999年に日興證券が「日興エコファンド」として環境問題に焦点を当てた金融商品を発売し、責任投資の初のファンドとされています。

その後、2008年には世界銀行が初の「グリーンボンド(環境債)」を発行し、2015年には国際連合が「SDGs」を策定するなど、世界中で環境問題と社会問題への取り組みがますます活発化し、それに伴い責任投資に再び注目が集まっています。

2.「責任投資」を選ぶ理由

2-1.財務上の重要性

サステナビリティをめぐる課題は、市場やポートフォリオのリターンに大きな影響を与えると言われており、一企業の枠を超えて、セクターや地域全体にわたるリスクを引き起こすこともあると懸念されています。

そんな中、ESGに関する課題と財務パフォーマンスの相互関連性は非常に重要なものとなっており、ESG課題に対する企業への取り組みを通して、適切なESGリスク管理やサスティナブルな商慣行を促進することによって、投資家と企業の双方が価値を創出できると考えられています。実際、2020年にはドイツの決済サービス企業である「ワイヤーカード」が、企業ガバナンスの欠如を原因とする不正会計に対する告発を受けて破産を申請した事例もあるなど、ESGの財務における重要性は非常に高いと考えられています。

2-2.クライアントの要求

近年、受益者およびクライアントの間で、出資した資金の投資先や投資方法についての透明性強化への要求がますます高まっています。これは、ESG要因が企業価値やリターン、評判に影響するという認識の高まりや、投資先企業の環境や社会への影響が注視されるようになったことが背景にあります。

そんな中、特定のセクター、企業または商慣行を除外するネガティブスクリーニングは、価値観をポートフォリオまたはファンドに組み込むために最も一般的に利用される方法となっており、こうした状況からも、責任投資への注目が高まっています。

2-3.受託者責任

受託者責任とは、他者の資金を管理・運用する者が、適切な注意・スキル・忠誠をもってクライアントや受益者の利益のために行動するよう保証することを指します。

投資家は、受託者責任に基づいて投資リターンに関連するあらゆる要因(ESG課題を含む)を考慮に入れ、こうした課題を踏まえて正しく行動しなければならないとされています。一部の国では、財務目標の達成に役立つ限り、持続可能性の追求について検討することが法的に義務付けられています。

2-4.政策と規制

近年、企業や投資家に対して、ESG課題への取り組みや情報開示を義務付ける規制および政策がますます増加しています。このトレンドは、気候変動や現代奴隷制、租税回避などといったグローバル規模の課題解決において、金融セクターが果たす役割の重要性を反映したものとなっており、責任投資の必要性を高める原因の一つとなっています。

2-5.サステナビリティ・アウトカム

すべての投資活動によってもたらされる「サステナビリティ・アウトカム」は、人と地球にとって、良い影響にも悪い影響にもなり得ます。そして、受益者、クライアント、従業員、政府、規制当局、その他ステークホルダーが投資家に対して、こうしたアウトカムをしっかりとコントロールし、SDGsやパリ協定などグローバル規模の枠組みと投資活動と連動させるよう求める声がさらに高まっています。

こうした現状から、人と地球にポジティブなアウトカムをもたらす責任投資に関心が集まっているというわけです。

3.「PRI(責任投資原則)」とは

3-1.「PRI(責任投資原則)」の概要

引用:PRI


「PRI(責任投資原則)」とは、投資業界において責任投資の導入を奨励および支援するグローバルな組織のことを指します。2006年にPRIが設立されて以来、責任投資に対する関心はますます高まっており、2022年にはPRI署名機関の数は5,000を超えているなど、世界中に広がっています。

PRIでは、次の項で説明する「6つの原則」を公表しているだけでなく、多くの投資機関がその内容に賛同し、正しく遵守することも求めています。そのため、賛同して参加する機関に対しては、関連する取り組みを所定の形式で年次報告する義務が課せられており、報告は項目ごとに1つ星~5つ星の五段階で格付けされる仕組みとなっています。規定通りに報告を提出しないなど、取り組みが不十分であると判断された場合は、PRIへの参加が取り消されることとなり、公式サイトにおいて「旧署名団体」として除名理由と団体名も公開されるため注意が必要です。

3-2.「PRI(責任投資原則)」の6つの原則

PRIの署名機関は、組織全体で下記に挙げる6つの責任投資原則を実行することにコミットしています。

  1. 投資分析と意思決定のプロセスにESGの視点を組み入れる
    ESG要因を考慮したうえで、投資の施策や方針を決定する など
  2. 株式の所有方針と所有監修にESGの視点を組み入れる
    長期的なESGへの取り組みに対する決議を提出する など
  3. 投資対象に対し、ESGに関する情報の開示を求める
    ESGの開示を求める株主の決議を支援する など
  4. 資産運用業界において本原則が広まるよう、働きかけを行う
    ESG問題に対して、期待を満たしていない投資サービスとの関係を見直す など
  5. 本原則の実施効果を高めるために協働する
    新たに発生したESG課題に対して、協力し解決を目指す など
  6. 本原則に関する活動状況や進捗状況を報告する
    ESG 問題や本原則に関して、受益者と意見を交換する など

3-3.「PRI(責任投資原則)」に署名済みの日本企業

前述した通り、PRIの署名機関の数はますます増加していますが、ここでは実際に、すでにP署名を済ませている日本企業を何社か紹介していきます。

三菱UFJ信託銀行

「三菱UFJ信託銀行」ではグループ全体で約100兆円の運用資産を預かっており、これは日本のGDPや株式時価総額の2割近くを占めるということです。これだけの規模があれば、どこに資金を配分するのか、投資先にどのように働きかけるかによって、社会を少しずつ良い方向に前進させられるはずだと語っています。

そんな中、三菱UFJ信託銀行は「安心・豊かな社会」の実現をパーパスとして掲げており、事業を通じてより良い社会の構築に寄与することを目指しているほか、受託者としてクライアントや社会からの期待と信頼に応える「フィデューシャリー・デューティー」のDNAがあるとしており、これらの思いを形にする手段こそ、責任投資であると語っています。

こうした背景から、三菱UFJ信託銀行は2006年のPRIの発足と同時にいち早く署名を完了するなど、さまざまな行動を起こしてきたということで、これからも日本における責任投資のパイオニアとして、責任投資市場を牽引する存在でありたいと説明しています。

SOMPOアセットマネジメント

SOMPOアセットマネジメントは2012年1月にPRIへの署名を完了しています。公式ウェブサイトにおいては、2019年の年次報告の結果が公開されていますが、ほとんどの項目において「A+」を獲得するなど、好成績をおさめています。

また、同じく公式ウェブサイトにおいて、ESG投資について詳しく説明されている動画を掲載しており、ESG投資の概要から、なぜこうした活動に取り組むべきなのか、責任投資原則ではどのような内容が規定されているのかなどがまとめられています。

4.「責任投資」の実践方法

責任投資には多くの方法があるとされていますが、ここでは代表的なものを簡単に説明します。

4-1.ESGの組み入れ

ESGの組み入れを行う際には、既存の投資手法の中から、「インテグレーション」や「スクリーニング」、「テーマ投資」など、さまざまなアプローチを組み合わせ、ESG課題に関する評価・レビュー・検討を行います。

  1. スクリーニング
    証券、発行体、セクター、その他の金融商品に対するフィルタリングを行ない、投資対象とするか否かを決定します。
  2. ESGインテグレーション
    ESG課題を考慮して投資分析と意思決定を行うことによって、リスク管理を強化し、投資リターンを拡大します。
  3. テーマ投資
    長期的な ESG トレンドから生じる機会を追求し、テーマに応じた金融商品を選択します。

4-2.スチュワードシップ

スチュワードシップとは、投資家がその影響力を行使することによって、クライアントと受益者のリターンと利益を左右する長期的な価値(一般的な経済・社会・環境資産など)を高める取り組みのことを指します。

エンゲージメントは投資家がスチュワードシップに関する義務を果たす手段のひとつとされており、具体的には、投資家やそのサービス・プロバイダー、既存または見込み投資先やその他のステークホルダー間の関係構築や対話を通じて、ESG要因に関わる業務の改善、サステナビリティ・アウトカムの拡大、情報開示の強化などを行うことを言います。

5.まとめ

環境問題や社会問題への関心が高まっている中、投資活動においても、投資先がこうした課題に対してどのようなアプローチを行っているのかを考慮して投資先を選択する「責任投資」がますます広がっています。また、責任投資の導入を奨励および支援する「PRI(責任投資原則)」についても年々署名機関数が増加しており、日本国内でもすでにさまざまな企業が参加しています。

SDGsやパリ協定などの影響もあり、こうした責任投資は今後さらに拡大していくと見られているため、興味のある方はPRIへの参加企業を参考に、責任投資に対する理解を深めてみてはいかがでしょうか。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12